※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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104話 七代目“カナンの騎士”

ーーー征服歴1500年12月 王都カルネアス バスカード闘技場ーーー

 

 闘技場の中心で、折れた二振りの剣を目の前に丁寧に並べたアレクが西側を向き跪く。

 

 気絶したカイトは医療班により搬送され、審判役のバーナードはアレクの勝利を告げるとその場を去った。

 

 万を越える観衆達の誰も、アレクの勝利に物言いをつける者はいない。

 発狂するカイトの姿に幻滅した者も多かったが、それ以上に、アレクの実力が本物である事をこの闘技場に集う全ての者達が理解したからだ。

 

 しかして、今この闘技場は沈黙に包まれる。

 この場に集まった者達は、アレクの実力を認め、その勝利に納得した。

 だが、彼らは勝者を素直に称賛する事は出来ない。

 

 極々一部の例外を除いて、この場に集った者達はカイト・ジャッカード(西の英雄)の勝利を確信し、期待し、または盲信していた。

 カイトの敗北(アレクの勝利)などという、一切予想し得なかった状況に、納得は出来ても、賞賛の声を上げることは出来なかった。

 

 

 国王の登場を告げる荘厳な音楽が、重苦しい沈黙を破る。

 

 国王ロジアス以下、第一王子アリウスと七大貴族の当主達が、貴賓席からアレクの跪く闘技場の中心へと再び降り立つ。 

 

 先程と異なるのは、彼らの前にはアレク(勝者)のみが跪いていること。そして国王ロジアスの隣に立つアリウスが、簡素な箱を捧げ持っていること。

 

 アレクの前に立つロジアスが、威厳の籠もった声でアレクの勝利を祝ぐ。

 

「アレクサンダー・ウォーカーよ、改めて見事な闘いであった」

「勿体ないお言葉です、陛下」

 

 ロジアスの言葉を聞いた観衆達が、失意と諦めの溜息を漏らす。ロジアスの言葉はアレクの勝利を、即ちカイトの敗北を決定付けるものだったからだ。

 

「アレクサンダー・ウォーカーよ、そなたは見事、このカナンの地にてその武を示した。この地に集いし我が臣民達がその証人である」

 

 ロジアスは両腕を広げ、闘技場を埋め尽くす観衆を示す。

 

「そこには当然、我が忠臣達も含まれる」

 

 次に貴賓席に座る高位貴族達、そして己が背後に侍る七大貴族達を示す。

 

「故に改めて問おう、アレクサンダー・ウォーカーよ」

 

 ロジアスが視線をアレクへ戻す。

 連合王国を背負う王の威圧を、跪いたアレクは顔色を変えることなく受け止める。

 

「汝、次代の“カナンの騎士”を、この国最強の騎士の座を欲するか?」

 

 ロジアスの言葉に合わせて、アリウスが捧げ持つ箱の蓋を開く。

 

 箱に納められているのは、禍々しい龍を模した仮面。

 それこそは連合王国()()の証、過去6人の大英雄のみが被ることを許されし祝福と呪いの象徴。

 

 顔を上げ、その仮面を目視したアレクは、皮肉げに口元を歪める。

 

 連合王国に生まれた物ならば一度は被ることを夢見て、そして諦め、それでももしかしたらと憧れるその仮面に、己は価値よりも煩わしさしか感じていない事を悟ってしまったから。

 

 アレクは諦念を義務感で覆い隠し、生真面目な所作で定められた文言をロジアスへと返す。

 

「それが陛下のご意思とあらば」

 

 国王ロジアスも、仮面を納めた箱を捧げ持つアリウスも、そして七大貴族の当主達も、アレクが義務感のみで、ロジアスに返答している事を察している。そして彼らはその事を咎めることなく、むしろ満足気に眺めている。

 

 ロジアスは箱から仮面を取り出し、観衆が良く見えるようにその仮面を掲げる。

 

「良かろう、アレクサンダー・ウォーカーよ。第12代国王ロジアス・ヴィーテが名において、そなたを七代目“カナンの騎士”に任命する!」

「謹んで拝命いたします」

 

 アレクは深々と頭を下げる。

 

 

 

 ()()()()()、民衆は“カナンの騎士”を襲名した新たなる英雄を歓喜を以て称賛する。だが、今この時になってもなお、この闘技場を埋め尽くす観衆達は沈黙を貫く。

 

 

 彼らは確かに理解している、アレクが強いことを。その実力を以て、不正など行わずカイトに勝利した事を。

 

 だからこれは、ささやかな意趣返し。

 

 自分達の望むカイトの勝利(ショー)を台無しにした悪役へと、民衆の無責任で身勝手な嫌がらせ。

 

 アレクも、そしてロジアス達もその事に気付いているが故に顔色一つ変えることは無い。

 

 アレクはただ淡々と、定めされた台本をなぞる。

 今更己が誰かから称賛されることなど無いことを、誰よりも理解しているが故に。

 

 だからこそ、アレクは己の耳を疑った。

 

 

パチパチパチパチパチ

 

 

 ()()の観客席で、銀髪と黄金の瞳を有する美女が立ち上がり、力強く堂々と、たった一人で手を叩く。

 

 誰もが押し黙り、沈黙を強制される同調圧力を跳ね除けて、エリカだけはアレク(愛しき伴侶)を喝采する。

 

パチパチパチパチパチ

 

 エリカに釣られるように、彼女に侍る老騎士が、そして小太りの士官が手を叩く。

 そして国王の後ろで荒々しく精悍な偉丈夫と、燃えるような紅い髪の美女が、貴賓席で捻くれた性格が顔に現れている金色の瞳の男と、生真面目そうな顔の貴族が手を叩き始める。

 

 

パチパチパチパチパチ

 

 

 気がつけば、力強い拍手の波が、闘技場全体を覆っていた。今日までアレクの名前すら知らなかった者も、つい先程までアレクを罵倒していた者さえも。

 

 

 期待ところか想定すらしていなかった称賛の中で、アレクは国王ロジアスより龍の仮面を受け取り、その傷だらけの顔に仮面を装着する。

 

 

 立ち上がり、7代目“カナンの騎士”(最新の英雄)は国王と第一王子、そして七大貴族の当主達と並び立つ。

 

「我が臣民たちよ、讃えよ。新たなる“カナンの騎士”の誕生を!!」

 

 ロジアスが威風堂々と、観衆へと宣言する。

 

「新たなる“カナンの騎士”に、偉大なる祖霊達の加護があらんことを!!」

「「「偉大なる祖霊達の加護があらんことを!!!」」」

 

 ロジアスの声に応えて、銀鈴の美声がアレクを、7代目“カナンの騎士”(最新の英雄)を称賛し、観衆たちもまた、エリカの声に合わせてアレクを称賛する。

 

 

「「「「我らが祖国に、新たなる”カナンの騎士“の加護があらんことを!!!」」」」

 

 

 観衆達の歓声が、冬の王都に響き渡った。

 

 

 

 




これにて英雄激闘編は終了し、継承編自体もあと2話で締め括る予定です。


その後は濡れ場を書いたり、駆け足で進んだ影響で書ききれなかった幕間を書いていく予定です。
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