※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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間章⑧ 円卓の間 後編

ーーー征服歴1500年12月 王都カルネアス 王宮 円卓の間ーーー

 

 改めて席に座ったロジアスが、会議の再開を促す。

 

「さて、ではそろそろ()()()()について議論せねばならんな」

「はい陛下」

 

 ロジアスの隣に座る宰相コウヤ・ラーズが、メガネの弦を押し上げ、ロジアスの話を引き継ぐ。

 

「ここからは私が話そう。まず決めねばならんのは”革新派(売国奴)“達の処分についてだ」

 

 コウヤが怜悧な瞳でこの部屋の者達を、特に”革新派“と繋がりの深いガスタルとドーラスを睨めつける。

 

「待ってくれコウヤ、確か前回の会議では”革新派“は取り込む予定だと…」

「それは()()()()()()()()場合だ、ジャッカード公。リスクはあるが、彼ごと”革新派“と帝国の間諜を”王党派“に取り込み、()()()()()()()を強め戦争を終結させる。スペイサイド州への再侵攻も含めて、王国と”王党派“は弱体化するが、国を割らず帝国第四皇子の策謀()を中和出来ただろう。これならば()()()()()()()()()()()

「ならば…!」

「だが、ウォーカー卿が勝利した事で”革新派“は『粛清の権能』を使用出来ない。ならばわざわざ、我が国を食い荒らす寄生虫に容赦する必要は無い」

「か、彼らは国に逆らっているわけでは…」

「この戦争、連中の一部は帝国と繋がりを持つことで犠牲を支払う事なく膨大な利益を挙げて肥え太った。確かに()、彼らは連合王国に協力しているが、我らの権力(ちから)が弱まれば、奴らは宿主を食い殺して新しい主に捧げるぞ?」

「…そうなる前に潰すべきだと?」

「まあ、血祭りに挙げるのは戦後だ。まずは民の血で贖った財を、民の為に吐き出させるとしよう」

 

 痩せ過ぎなコウヤの身に不釣り合いな程の覇気が漲る。生粋の財務官僚として、不当に肥え太りあの手この手で国に金を納めない連中への憎悪が、戦中の予算運用で血反吐を吐きやつれた身体に黒い活力を与えている。

 

「忠告しておきますが、損切りをするなら今のうちですよ?」

「…承知した」

「…あいよ」

 

 カイトを通じて、”革新派“に属する商会の事業に出資しているガスタルとドーラスが頷く。

 

「勿論、ウォーカー卿にも働いてもらうぞ?」

「……やくざ者の借金取り役ですか?」

「似たような物だ。ちょっと脅して、奴らから金を絞ってきてくれ。名目は君へのご祝儀とするから、好きなだけ懐に入れていいぞ」

「お任せください!」

 

 王家の後ろ盾で好きなだけ金を絞ってきて言いと言われたアレクは、普段は無気力な瞳に黄金色の生気を宿し、コウヤに敬礼する。

 

「現金だなぁおい!?」

「お金はいくらあっても困りませんよ?」

「至言じゃのう…」

「そうねぇ」

 

 先程までの面倒臭そうな態度が嘘のようなアレクの豹変にヴォルスが突っ込むが、アレクは気にしない。スペイサイド州では常に金勘定をしながら戦っていただけに、金は稼げる時に溜め込まねばならないと魂に刻み込まれているのである。

 

「ああそれとドーラス、良い機会なのでTMB(テルネシア・ミルノー・ブラントン)技研は民営から官営にする。名目上の責任者はアリウス殿下とウォーカー卿にする方向で上手くやってくれ」

「容赦無いな…」

 

 TMB技研とは、カイト・ジャッカードの知識を現実の製品として落し込み、製造販売するためにカイトとその婦人達が共同して立ち上げた研究所及び商会であり、舅であるブラントン男爵を筆頭とする”革新派“と、連合王国の各種鉱石と武具の生産に大きな影響を有するマーグレム侯爵家が出資し大戦前から膨大な利益を挙げている商会である。

 膨大な資金と独自の技術を有しながら、民間企業として国とは距離を置いているこの商会を、コウヤは今回のカイトのやらかしを奇貨として国の影響下に収めることに決めていた。

 

「そもそも、今回の大戦で最重要戦略物資となった火薬と銃砲の生産をあそこが独占している方がおかしい。いい機会ですから製法を安価にばらまきましょう」

「絶対に反発されるぞ、というかマーグレム家の利益まで侵食されるのは流石に…」

「どうせこれから桁違いの需要があるんですから独占ではなく、職人の裾野を広げろ。特に火薬は軍事だけでなく国土開発にも役に立つだろう?」

「だめだこの人、完全に戦争後の事に目が行っていやがる…」

 

 終戦後に確実にやってくる不景気と財政難を、”革新派“から搾り取った金で公共事業を濫発する事で緩和する構想を練って悦に入っているコウヤにドン引きしながら、これ波に乗り遅れると容赦なく切り捨てられる奴だと察したドーラスは、親友を切り捨てて自分の家を守る算段をつける。

 

「今度は地上げ屋かな…?」

「安心しろウォーカー卿、成功した暁には膨大な不労所得が手に入るぞ」

「粉骨砕身働かせて頂きます」

 

 いち早くアレクの操縦法を理解したコウヤがアレクに発破をかけ、アレクは敬意とやる気に満ち溢れた態度でコウヤに最敬礼する。

 

「完全に宰相に取り込まれてやがるぜぇ…」

「権力と暴力に裏打ちされた徴税官とか取り立てられる側にとっては悪夢じゃのう」

「本人達は楽しそうだからいいんじゃないかしらぁ?」

 

 途中からコウヤの構想をアレクがいかに謀略と暴力で実現するか、二人が活発かつ楽しそうに議論を交わし、それを周囲は呆れと怯えの目で見ることになっていた。

 

「残念ですウォーカー卿、君が部下にいればどれだけ有難かった事か…」

「勿体無いお言葉です。今の私で出来る事なら可能な限り協力させて頂きますよ、宰相閣下」

 

 どちらも本来は文官(デスクワーク)派で通じるものがあったのか、意気投合した二人はいつしか固い握手を交わしていた。

 

 

「あー…そろそろ次の議題に行きたいんだがいいかぁ?」

 

 一区切りついたところで、ヴォルスが恐る恐る確認する。

 コウヤもアレクも満足した顔で頷いたので、ヴォルスが陸軍大臣としてこの大戦の今後について語る。

 

「元々予定されていたスペイサイド州奪還作戦についてだが、予算の確保は出来そうだから裁可でいい…よな?」

「ええ、金も人も”王党派“だけでなく”革新派“からも相応に絞り出させますので、余裕が出来そうです」

 

 コウヤが、生真面目な顔に似合わないドス黒い笑みで答える。

 ヴォルスはコウヤの顔にちょっと引きながら、似たような顔をしている(仮面で分からない)アレクに目を向ける。

 

「ウォーカー卿の”カナンの騎士“襲名に納得してねぇ”革新派“の連中は、スペイサイド州でウォーカー卿の排除とカイトの名誉挽回を図るはずだ」

「つまり、予定以上に”革新派“がヒト・モノ・カネを投入してくれると?」

「それなり以上の発言権と引換にな」

 

 こっちの懐は痛まないからいいやという顔で、ヴォルスがニヤリと笑う。

 

「当然だがウォーカー卿にはまたスペイサイド州に行ってもらう。昇進させて大隊を率いさせてやっから、後で要望を言え。俺の権限と名誉にかけてお前の理想通りの大隊を作らせてやるぜぇ」

「承知しました。金に余裕もできそうですし、好き勝手やらせて貰います」

「…お手柔らかに頼む」

 

 軍人として、好きな編成が出来る大隊長という最も()()()地位を貰ったアレクは、先程のコウヤとのやり取りも含めてやる気に満ちた顔で応え、ヴォルスの方が若干たじろいだ。

 

「まぁいいか…ウォーカー卿、出来るだけお前が好きに暴れられるよう調整はしておく。お前のその仮面が伊達じゃあねぇ事を証明しろ」

「ハッ!」

 

 歴戦の武人としての覇気を込めたヴォルスの発破に、アレクもまたの敬礼で応える。

 

「さて、後は帝国対策か」

「動きますか? 帝国第四皇子は」

「ウォーカー卿を全力で邪魔するか、それとも損切りするか…」

 

 アリウスが、かつて同じ学園で学んだ藍凱馮の動きに言及し、コウヤが合いの手を入れる。

 

「ここまでの帝国密偵の動きからすると、彼はカイトに”カナンの騎士“を襲名して欲しかった筈だ。その思惑が外れたとしたら…」

「ムキになるか、冷静に対処するかということですか」

「そうだね…ウォーカー卿、君の考えはどうだい? ある意味、君は最大の被害者な訳だから、何か感じるところは無いかな?」

 

 話を振られたアレクは、数秒瞑目して考えを纏める。

 

「そうですね…私は直接あった事が無いので的外れかもしれませんが、これまでの動きからすると損切りに動くかと…ただ…」

「ただ…なんだい?」

「印象ですが、切り捨てる連中を徹底的に使い潰すのではないかと。おそらく、こちらが獣国と”革新派“(捨て駒)を潰している間に、自分が()()()()状況を再構築するのでは?」

 

 論拠が乏しいため言及しなかったが、アレクは何となく、帝国第四皇子はカレウスの同類の腹黒外道だと考えていたし、その考察は概ね正しかった。

 

 

━━━━━━━━━━━

 

 ちなみに、青角城の執務室。

 

「へっくし!! ぶぇっくし!!」

「殿下!?」

「うぅぅ…風邪かな? その割にはなぜだか心外な気分になるなあ…」

「気の所為では?」

「だといいけど、なんだか嫌な予感がしてね」

 

 部屋の主の予感は、残念な事に的中しているのたが、彼はまだその事を知らない。

 

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 アレクの考察に、アリウス以外も納得する。

 

「あり得そうだね…凱馮殿は根っこの部分でケチだし」

「使い潰される方はたまったものじゃないでしょうがね…」

 

 本人が聞いたら抗議しそうな感想を言うアリウスに、周囲も頷く。

 

「まあ逆に考えれば、抵抗さえ排除すれば帝国は引く。後は上手いこと、こちらの損害を抑えながら帝国へ損害を与えてくれ、ウォーカー卿」

「相手をグランツ閣下だと思って微力を尽くします」

「君のやる気の出し方それでいいの!?」

 

 締めで物騒な事を言い出したアレクに、アリウスが釈然としない顔でツッコミ、『円卓の間』の会議は終わった。

 

 

 

 この後、ミランダの圧に屈したガスタルとドーラスが居残りさせられる中、他の面々は巻き添えを恐れてそそくさと『円卓の間』から逃走する事になるのだが、それはまた別のお話。 

 

 

 




アレクは割とお金と美味しい物に弱い…
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