次回との兼ね合いでちょっと短いです
ーーー征服歴1500年12月 王都カルネアス TBM技研ーーー
アレクを殿に残し、本館に退避したエリカ達の後ろから銃声が響く。
護衛兵や官僚達が怯えて後ろを気にする中、エリカはサーベルを抜いて本館の中を警戒する。
護衛兵が二人、エリカ達の盾になるように先行する。
「…そこの角を右、貴人向けの部屋なら扉も厚いし窓ガラスは弾丸に耐えられる特別製」
「ねえダニエル兄様、イシェラ様を信用して良いの?」
「…どうなんだろう、ドーラス?」
安全な場所に案内すると申し出たイシェラの指示に従い進む事に、エリカは不安を覚えるが、ダニエルに確認されたドーラスは苦々しく頷く。
「問題無い…あいつはカイトの妻だが、謀略で頭と時間を使うくらいなら実験と研究をしたがる奴だ。どうせ今も、迷惑事をさっさと乗り切って研究室に戻りたいと思ってやがるぜ」
「それはそう。お馬鹿なドーラスと違って私は頭がいいから無駄な事はしない。それに今から行くところなら食べ物もあるから早く食べたい」
「…だそうだ」
抑揚のない話し方で、非常時なのに呑気な事をほざくイシェラに、付き合いの長いドーラスは溜息をつく。
建物の外で悲鳴と銃声が響く中、曲がり角にさしかかったところで先攻する護衛兵とエリカが立ち止まり剣を構える。
「
「エリカ、ここは僕や護衛達に任せ…」
「
「あれ、もしかして僕足手まとい…?」
振り向きすらしないエリカに戦力外通告されたダニエルは、せめて盾になるために剣を構えてアリウスの前に立つ。
「エリオット、後の警戒を頼むよ」
「お任せを、殿下」
アリウスの指示を受けたアレクに自身の剣を貸し出した護衛兵達の隊長は、部下から予備のサーベルを受け取り、後方を警戒する。
「リガール中尉、我々が先行します」
「気をつけて」
「ハッ」
先頭の兵士が、角の先を確認する為に身を乗り出し━━
「覚悟ぉぉ!!」
「ぐうっ」
「貴様!!」
もう一人の兵が即座に反応して斬りかかるが、簡単に躱され逆に喉を斬られる。
「厄介ね…そっちは平気?」
「大丈夫です!」
エリオットと呼ばれていた護衛兵の隊長が、奇襲してきた暗殺者を斬り捨てながら叫ぶ。
「どけ小娘。怪我したくなければな」
「どかせてみなさい?」
血の滴る小剣を逆手に構えた黒装束の男が脅迫するが、エリカは不敵な笑みと共に剣を構える。
暗殺者は一瞬視線を険しくするが、すぐに無表情に戻す。
そして一歩で間合いを詰め、エリカの首に剣を叩き込む。
「あら、思ったより遅いわね」
「っ舐めるな!」
エリカに余裕をもって剣を受け止められた暗殺者は、即座に剣を引き下段から斬り上げるが、そちらもエリカの身体を傷つける事無く、エリカのサーベルに阻まれる。
剣の下がったエリカに、暗殺者は左手の袖に仕込まれた暗器を投擲するが、エリカは軽く首を傾けるだけで躱す。
「痛ぇっ!?」
後ろでカレウスの悲鳴が聞こえたが、つまり肉盾として役立ったということなのでエリカは気にも留めない。
「このっ」
「…後続は無いわね。もしかして舐められてたのかしら?」
暗殺者の斬撃を片手間に受け流しながら、エリカは曲がり角を注視するが、後続は無く、後ろから聞こえる悲鳴から、逆方向から来た襲撃者も死んだことを察する。
「ガハッ!」
「もういいわ、さっさと終わらせましょ?」
エリカは斬撃が途絶えた瞬間、暗殺者に蹴りを叩き込み後退させる。
そして暗殺者が体勢を整える隙を与えず、暗殺者に斬撃を叩き込み左手以外の手足を落とす。
「や、やめぁああ!?」
「大丈夫、殺しはしないわ」
剣を横に振るって暗殺者の口を切り裂き、舌が噛めないように下顎を分離したエリカは、のたうち回る暗殺者の腹に爪先を叩き込んで気絶させた。
「止血だけしておいて。尋問する間位は生かしてあげなさい」
「は…はい」
青褪めた顔の護衛兵達が、慌てて暗殺者だったものの手当を開始した。
エリカはサーベルに付着した血を拭い、後ろを振り向き微笑む。
「殿下、行きましょう?」
「…そうだね、急ごうか」
同じく青褪めた顔のアリウスが頷き、似たような顔のダニエル達と共に歩み始めた。
途中で追いついたアレクと合流したアリウス達は、イシェラの案内で貴人用の応接室にたどり着き、ホッとした様子でへたり込んだ。
そんなアリウス達を、血塗れのアレクとエリカだけは不思議そうに眺めていたと、後にアリウスは自らの回顧録に記している。
本人の名誉のために書いておくと、暗殺者の人はダニエルやカレウスだと瞬殺される程度には強いです。例に出した二人が弱いのは確かですが…。