※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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112話 防弾対策

ーーー征服歴1500年12月 王都カルネアス TBM技研 応接室ーーー

 

 この部屋で数少ない常識人(自称)として連帯感を持ったアレクとエリオットは、疑念の目を優雅に紅茶を楽しむアリウス(上司)に向ける。

 

「いやぁ…ウォーカー大尉のお陰で資金に余裕が出来たし社会に還元しようかなと」

「殿下、自分はこの手の分野は専門外なのですが…下手に言質を与えたら相当な資金を浪費させられるのでは…?」

「イーガンズ大尉、言葉を濁さなくていい…一目で分かる、こいつは金貨の山をドブに放り込む奴だ」

「ウォーカー大尉、だんだん口が悪くなってないかい?」

 

 必死にオブラートに包もうとするエリオットに対し、実際に金を稼いで(カツアゲして)来たアレクは、かつて率いた中隊とついでに所属する大隊の経理を担当した経験から、一刀両断に処断する。

 

「…酷い言われよう。私は巷の詐欺師と違って本物の天才。お金と時間さえあれば世界を変えてみせる」

「要求する金額が国家予算規模で期限が100年後でなければ考慮するが?」

「………結果は出す」

「「アウトぉ!!」」

 

 アレクの言動にむくれるイシェラだが、アレクに具体的な金額と期間を見抜かれ目を逸らす。

 

「…言質はとった、まさか次期国王が幼気な女の子を騙して気持ちの良い事だけするなんて許されない」

「人聞き悪い言い方しないでくれないかな!? ちゃんとお金は払うから!!」

「どっちも人に聞かせられないなこれ…」

 

 誰が一番役立たずだったか醜い争いをしているカレウス達と、アリウスから研究資金を強請るイシェラ達に挟まれ、常識人達は途方に暮れる。

 

「…私はちゃんとこの応接室に案内したし、私の知ってる”革新派“の機密とこの技研の秘匿している技術の公開にも応じる。だから私に好きな研究を好きなだけさせて欲しい」

「ほ、ほらウォーカー大尉、イシェラもこう言っているし…」

「殿下、お金は有限です。きちんと事前に研究する内容を精査して役に立つと証明された者に投資しなければなりません」

「…目が完全に主計参謀や財務官僚のそれだ」

 

 カイト()の敗北を奇貨に研究者として理想の環境を得ようとしているイシェラと、なんだかんだで王子様なのでお金にルーズなアリウスの要求を、アレクは冷たく却下する。

 そんなアレクに対して、イシェラは自分の持つ武器を最大限活用する。

 具体的には、胸元をはだけ豊満な乳房を強調する。ただし無表情で

 

「…むぅ、仕方ない。じゃあ私の身体を自由にしていい」

「生憎エリカ一筋だ」

「そうよイシェラ様、そんな事しても無駄よ!」

「リガール中尉、いつの間に…?」

 

 イシェラの誘いを素気なく断るアレクに寄り添うように、エリカが自慢の胸をアレクの腕に押し付け、エリカの接近を欠片も察知できなかったエリオットが少し落ち込む。

 

「…手強い。カイトならだいたいこれでなんとかなった」

「生々しいな…」

「女の敵ね…」

「…いいスポンサーだった。でもさっさと切り捨てないと私の研究室(理想郷)が無くなっちゃう」

「容赦ないね…」

「ジャッカード少佐に思うところはありますが、少しだけ同情します」

 

 フリーダムなイシェラの言動に、アレクだけでなく他の面子も若干たじろぐ。

 イシェラはそんな外野の反応を無視して、本当に仕方なさそうで渋々といった風に提案する。

 

 

「…だったら、最初に研究するのは()()()()にする。期限は()()()()()()()()()()()が始まるまで。成果物は全てアリウス殿下経由で貴方に最優先で渡す。それでいい?」

「あの弾丸を鎧で防げるのか?」

「…弾丸を剣で迎撃する頭のおかしい人がいるんだから、弾丸を防げる鎧や服くらい作れる。資金と資材が十分にあれば」

 

 そう言うとイシェラは、ポケットから取り出した鉛筆で、応接室の壁に絵を描き始める。

 

「…カイトと私が開発したマスケット銃と大砲は戦争を変える。より高性能に、より速射性を高めることが出来れば従来の歩兵や騎兵は全て殲滅できる」

「まあ、そうだろうな」

「…でも、()()()ならばまだ装備での防御は可能」

「なるほど」

 

 壁に精巧な銃の模型を描き始めたイシェラの言葉に、実際に銃撃を受けたアレクが頷く。

 

「ウォーカー大尉、君は銃撃でも対処できただろう?」

「いいえ、アリウス殿下。正直なところ、俺は叶うならもう二度と銃撃に身を晒したくはないです。躱すならともかく、剣で弾丸を叩き落とすのは精神的にも、それに武器の損耗としても看過出来ません」

 

 事実、予備として使っていたそれなりの性能のサーベルは折れ、エリオットから借りた業物も二度と使用に耐えられない程度には破損した。

 

「むしろなんで剣が破損するだけで本人は無傷なんだよ…?」

「”カナンの騎士“に飛び道具が効かないって、ふかしじゃなかったのか?」

「うーん…ゴードン兄さんがマスケット銃の演習を観た時に、『射線は弓より読み易い』と言ってはいたけど…」

 

 カレウス達がアレクの所業にドン引きする中、イシェラがアレク達(スポンサー)に解説する。

 

「…弾丸を防ぐには、こうして曲面を多用して弾を()()()()か、内側に砂のような粒体を入れることで衝撃を()()するのが有効と考えられる。大事なのは素材の単純な硬さではなく柔性」

「鎧ではなく盾や壁などで防ぐ場合は?」

「その場合は単なる一枚盾ではなく、中が中空な素材…例えば竹の中に砂を詰めて束ねれば防げる、重いけど。そうしなくても、素材を重ねた上で曲面盾による複合装甲を形成すれば━━」

 

 壁に鉛筆で図を描き説明するイシェラに、アレクが実際に弾丸を受けた経験から疑問点を指摘してゆく。

 エリオットとエリカが”この壁汚して大丈夫なのかな?“とハラハラしているが、他の面子が誰もツッコまないのでスルーされていた。

 

「なるほど…取り敢えず要人用の防弾服を優先してくれ」

「…鎧はいいの?」

「最悪武器を使い潰せば防げる。金はあるしなんとかなるだろ」

「…わかった。代わりにお金とこれ以降の研究内容は私の好きにしていい?」

「要望の物を全て完成させれば好きにしろ。それに継続して金を出すのは殿下だ」

 

 お互いの妥協点を得られたアレクとイシェラが握手をする。

 

「あれ…もしかしてイシェラの面倒は僕が見ないといけないの?」

「当たり前では?」

 

 冷や汗をかくアリウスの疑念に、親友でもあるダニエルが答えたところで、技研の制圧が終わり安全が確保されたと、伝令の兵士が連絡を寄越した。

 

 

 

 翌日、宰相府より『TBM技研の国営化』及び『TBM技研内部に浸透していた帝国間諜の排除』が発表され、TBM技研に出資しその人事にも関わっていた”革新派“の貴族の一部が捕縛され、それ以外の者達も事情聴取及び証拠隠滅の予防目的で家宅捜索を受けることとなった。

 

 

 




次回は多分濡れ場
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