残酷な描写があります
ーーー征服歴1500年12月 王都カルネアス郊外 演習場ーーー
沈黙に支配される演習場に、悲鳴が響く。
「う、うあああぁぉぉぁぁ!!!」
「ば、バケモノぉぉ!!!」
気の弱い、実戦経験の無い若い兵士達が、目の前で発生したあり得べからざる現実に恐怖し、情けない叫び声を上げる。
混乱が伝播し、悲鳴と惑乱が全体に広がり━━━
「総員傾聴!!!」
混乱を圧する怒声に、泣き叫んでいた兵士達が全員口をつぐむ。
そして心臓が凍りつきそうな壮絶な殺気に、直立不動の体勢をとった。何人かの股間が湿っていたが、それを笑う余裕は誰にも無い。
その様子を、禍々しい龍の仮面で隠れていない昏い瞳で睥睨したアレクは、底冷えするような低い声でこれから自分の部下となる未熟者共に問いかける。
「
兵士達は怯えて、声どころか呼吸の音すら立てようとしない。
「なんだ、情けない奴らだ。 バグラム曹長、さっき泣き叫んだ馬鹿共を走らせておけ!!」
「ハッ、少佐殿!!」
こちらは平然と、どころか不敵な笑みすら浮かべているバグラムが胸を張って返答する。
「他の兵士達については、今日のところは兵舎に酒が用意してある。 明日以降に備えて英気を養え」
普通ならここで歓声があがってもいいのだが、血と白っぽいナニカが付着した左手を洗おうともしないアレクに怯え切っているため何も口にできない。
そんな兵士達の反応を当然のものと受け入れて、アレクは視線を兵士達から、派手に頭の中身をばら撒いたマスカーだったモノの近くで硬直している、
「さて…ゴーザ中尉、ヌメガー少尉、ザッルシュ少尉」
「わ我々の名を…」
「これから部下になる者達だ、当然だろう。 名前を覚えていなければ
「「「ヒィィ…ッ!!」」」
アレクの昏い瞳に射すくめられた三人の士官は、死人のように青い顔で必死に命乞いをする。
「わ、我々はダルフェード中尉に脅されて…」
「そうです! 中尉は七大貴族の係累で、逆らう事ができず」
「ほう、つまり全てはダルフェード中尉の暴走だということか?」
「は、はい…我々は少佐に何の反感も…っヒィ!?」
全ての責任をマスカーに転嫁しようとした三人は、アレクの放つ殺気に口を噤む。
アレクの昏い瞳に冷笑の色が浮かぶ。
「情けない。曲がりなりにも連合王国軍人が、命惜しさに死人に責任を擦り付けるとは」
「い、いや…それは」
「どうした? 威勢が良かったのは最初だけか?」
アレクに詰られた三人は、冬なのに額に汗を浮かべ、口をパクパクとさせながら言い訳を探すが、恐怖で頭が回らず言葉が出てこない。
そして一番気の弱かったザッルシュ少尉が、恐怖に負けて意識を手放し━━
「寝るな。この程度で楽になろうとするなよ?」
「ゴウェ」
アレクの爪先が鳩尾に突き刺さり、無理矢理意識を覚醒させられる。
「立て」
「オ゙、オブェッ…」
「立て」
「イダァァ!!?」
吐瀉物を吐きのたうち回る男の頭髪を、アレクは血と脳漿で汚れた左手で掴み無理矢理立ち上がらせる。ブチブチと、何本も髪が抜ける痛みと、目の前に転がる頭を握りつぶされた死体への恐怖で、ザッルシュ少尉が泣き叫ぶ。
「い、嫌だ…死にたくない、死にたくないぃ!!」
「お許し、お許し下さいお許し下さいぃ…」
「い痛い、いだいぃぃ」
顔面を涙でぐしゃぐしゃにしながら、先程までマスカーと共にアレクを嘲笑っていた三人は、自分達を唆したマスカーを恨みながら必死に命乞いをする。
その無様で哀れな姿を強制的に鑑賞させられた兵士達は悟る。
これから自分達の上官となる男に逆らえばどうなるのを。
「安心しろ。命を捨てて
穏やかで平坦なアレクの言葉に、三人の士官は安堵する。
そして、次のアレクの言葉で自分達の行いを心底後悔した。
「お前達に仕事を与える。 そこに転がっている
割れた卵のように
「ラドロス少尉、お前はこいつらを監督しろ」
「は、ハイ!」
アレクの後ろで震えていたラドロス少尉は、背筋を伸ばして敬礼しアレクの命令を受諾する。
「兵共の解散後、残りの士官は大隊長室に集まれ」
そして一部を残して青ざめ震えている大隊の士官たちに目を向けたアレクは、呆れと僅かな同情を込めて付け加える。
「
そしてアレクは、エリカからタオルを受け取り、血塗れの手を拭いてからその場を後にした。