※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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122話 ドラグーン

ーーー征服歴1501年4月 スペイサイド州北西部 イメーム丘陵ーーー

 

 丘に布陣した帝国軍が、たった1人の騎士に蹂躙されている。

 

「いやぁおっかないねえ、うちのボスは…」

「作戦を聞いた時は少佐の正気を疑いましたが、今は自分が正気か自信が無くなりますよ」

 

 騎乗したザテレン少尉と副官の准尉が、彼らの上官にして当代の”カナンの騎士“アレクサンダー・ウォーカー少佐の恐るべき戦闘力を畏怖を込めて眺める。

 

「…さて、あのおっかない少佐に睨まれないように仕事しますかねえ」

「はっ」

 

 ザテレン少尉は、自分よりも一回り以上若い上官の命令に従い部下達に指示を出す。

 

「テメェら、我らが”カナンの騎士“殿の命令は分かってんな!? 今からあの侵略者共のケツに回って()()()をブッ放してやるんだ! 遅れんじゃねぇぞ!?」

 

 ガラの悪い口調で、ザテレン少尉は腰に佩いた武器を叩く。

 それはこの大戦において西方でその威力を示した新兵器、火薬を用いて鉛玉を発射するマスケット銃に()()()()()()

 

 

「行くぞテメェら、俺達にはあのおっかない”カナンの騎士“の加護がある!!」

「「「うおおぉぉ!!!」」」

 

 アレクの凄まじい戦闘を遠目に見ていた騎兵達は歓声を上げながら、ザテレン少尉に従い丘を()()()()

 

「連中、少佐のせいで大混乱ですね」

「あれが味方で良かったぜ…ガキの頃、初代様や三代目様の伝説を聞いた時は憧れたが、軍に入ってからはありえねぇと思ってたんだがなあ…」

 

 丘に回り込む自分達になんら対応しない帝国兵達を横目に、ザテレン少尉率いる索敵騎兵小隊は帝国軍の後をとる。本来なら帝国軍は騎兵を出すなり遠距離からでも弓を放つなりで牽制するはずだが、アレクが暴れ回っているせいでそんな余裕など無いのだろう。

 

 とは言え有能な帝国軍の指揮官は後に回られた際の対策も講じている。

 

「盾兵に長槍を持った装甲兵ですか。それなりに数がいますからそのまま突っ込んだら被害が大きいですね」

「ま、その為の()()()な訳だが、さあて…」

 

 丘の中腹で、いつこちらが突撃してきてもいいように待ち構える帝国軍に対して、ザテレン少尉達は不敵に笑う。

 

 丘の麓まで辿り着いたザテレン少尉達は、腰や鞍に佩いたマスケット銃によく似た武具を構える。

 

 鉄を円筒形に成形した(初期は鍛造だったが、現在は鋳造で生産している)マスケット銃の銃身は1mを越え、騎兵が使うには長い。だがザテレン少尉の腰にあるそれは、銃身が半分程度に切り詰められている。

 

 敵軍までの距離は50メートル程で、小隊の半数が馬を飛び降り即座に膝射の体勢をとる。

 

 ザテレン少尉を含め半数は騎乗のまま、銃身の短いマスケット銃、後に騎兵銃と呼ばれるそれを構える。

 

「訓練通りにやりゃあいい。そーら、()っー!!!」

 

 そして戦場に、落雷の如き轟音が響き渡った。

 火薬の爆発エネルギーを受け取った鉛玉が盾を、鎧を、そして肉体を貫く。盾を構え密集していたのが仇となり、100丁程度の騎兵銃相手に血が爆ぜ骨が砕ける地獄絵図が生まれた。

 

「ハッハァ弓も良いがコイツもいいなあおい!!」

「騎乗し一度下がれ! 距離をとって再装填しろ!!」

 

 ゲラゲラ笑うザテレン少尉を尻目に、副官が指示を飛ばす。

 帝国兵達はまさか騎兵が銃を使うと想定しておらず狼狽え、中には武器を捨てて逃げようとする者も出てくる。

 とは言えそこはきちんと鍛えられた精兵だけあり、大部分は踏みとどまり、後方から弓兵が援護に来るのを待とうとしていた。

 

「良い兵達だなおい」

騎馬民族(我々)と戦い慣れてる指揮官がいますね」

「だがまあ、可哀想だが詰みだな」

 

 ザテレン少尉の小隊が騎兵銃の射程ギリギリで二度目の斉射を放つ。今度は全員騎乗しているため命中率は低いが、ザテレン少尉も副官も気にはしない。

 

「…少佐の予想通り()へ逃げて行きますね」

「だな。あと一斉射、今度は至近距離からやる予定だったんだが必要ねえな」

 

 後方からの銃声で、丘の向こう側でアレク率いる本隊と対峙していた帝国軍の本陣は士気が崩れ、気の弱い者達から()()()を逃げ帰ってゆく。

 1人が逃げれば2人、2人が逃げれば4人と逃亡兵が増えてゆき、士気崩壊を防ごうとする目端の利く指揮官はアレクや元ガラクタ中隊の下士官達に優先して狩られてゆく。

 

 ザテレン少尉達の眼前にいる帝国兵達も味方の潰走に巻き込まれ、まともな殿も決められないまま武器を捨てて逃げてゆく。

 

「さあて、次は追撃戦だな!」

「了解です。総員、弾込めは終わったな!? 一発ぶち込んだら抜刀しろ!」

 

 ザテレン少尉は舌舐めずりし、副官がその意を汲んでテキパキと指示を出す。

 折り重なり、味方を踏みつけながら逃げる帝国軍は今や狩られる羊の群れとして、龍驤大隊の獲物と堕した。

 

 

 後世において、”()()()()()()()()()()()()“と呼ばれる事となるこの日の戦闘は、帝国軍1500はアレク率いる龍驤大隊約800に対して死傷者700(内死者400)以上、千人将以下捕虜150の大損害を受け大敗した。対して龍驤大隊は死者20、負傷60(内戦線復帰可能は50)の完勝であった。

 後にこの戦闘が()()ではなく()()と呼ばれる所以である。

 

 

 またこの戦いは連合王国の戦史上、初めて騎乗銃兵が実戦投入された戦いであった。

 後にその有用性から連合王国陸軍の正式な兵科となった騎乗銃兵は、その発案者にあやかりこう名付けられた───”竜騎兵(ドラグーン)“と。

 

 




書く余地がなかったのでここで解説しますが、カイトが最初に開発したマスケット銃はマッチロック(火縄)式です(というよりカイトは転生知識で作れる銃=火縄銃と考えていました)。
ただし、馬上で火縄を保持するのは取り回しも悪く危険なので今回ザテレン少尉達が使う騎兵銃にはフリントロック(燧発式)です。
彼らはどこかの妖怪首置いてけのようにロックな精神は持ってないので…
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