ーーー征服歴1502年 王都カルネアスーーー
10月、秋になり過ごしやすい季節。
湯浴みを終えゆったりとした寝間着に着替えたアレクは、自室のソファで蒸留酒を飲みながら、愛する妻との一時を楽しんでいた。
「エヘヘ〜」
「…随分機嫌がいいな」
アレクの妻、エリカは夫の隣に座りしまりのない笑みを浮かべながら彼にしなだれかかっている。薄手のネグリジェにガウンを羽織り、頭をアレクの肩に預け、その引き締まった、それでいて女性らしい柔らかさを十二分に備えた肢体をスリスリとまるで仔ネコがじゃれつくように、愛する夫の鍛え上げられた体に密着させる。輝くような白銀の髪がハラリと揺れる様子に、彼女の色香に慣れたはずのアレクですらドキリとさせられてしまう。
「ちょっとね〜、良いことがあったのよ」
「良いこと?」
「そうよ〜、エヘヘ〜」
何時になく機嫌のいいエリカに若干困惑しつつ、体を密着させてくる彼女の頭を優しく撫でながらアレクは首をかしげる。湯浴みの後に香水をつけ直したのか、彼女の甘酸っぱい体臭に混じって、爽やかなミントの香りがアレクの鼻をくすぐる。
頭を撫でられ更に機嫌の良くなったエリカは、アレクの傷だらけの顔に頬を頬ずりしながら、機嫌の良い理由を語る。
「今日のお茶会でね、匂いの事が話題になったのよ」
「匂い? 香水か?」
連合王国では単なる嗜好品としてだけではなく、虫除け等にも有用な為、女性だけでなく男性も香水を付けることは多い。
アレク自身はあまり興味は無いが、貴族として最低限の嗜みとして香りの弱い香水を付けることもある。最近はエリカや彼女の連れてきた侍女に殆ど任せている為、大抵の場合エリカと同じ香水を使用してはいるが。
「うーん、ちょっと違うわ。香水の匂いじゃなくて、自分自身の匂いよ?」
「…?」
香水ではなく自分の匂いと言われて更に困惑を深めるアレクの様子を楽しそうに眺めたエリカは、更に体を密着させ、スンスンとアレクの耳の裏の匂いを嗅ぐ。
「おい、くすぐったいぞ」
「え〜、いいじゃない。それに私、貴方の匂い好きだもの」
アレクの抗議を無視して、エリカは夫の匂いを堪能する。
満足したエリカは、アレクに甘えるように抱きつきながらネタばらしをする。
「あのね、今日のお茶会でお姉様に教えてもらったのよ」
「姉様…というとユリア様か?」
「ええ、そうよ」
エリカは今日、姉であるユリア・バランタイン(旧姓リガール)の下へお茶会に行っていたが、そこで何かを教えてもらったらしい。
「フフ。相性のいい異性の匂いは、とってもいい匂いに感じるそうなの。逆に相性の悪い人だと、香水とかで誤魔化しても嫌な匂いに感じるそうよ?」
「…ほう」
「それでねアレク。貴方私の匂い好きでしょ?」
「…まあな」
エリカを抱くときにいつも彼女の体臭を堪能していたことがバレていたのかと、今更ながら少しバツが悪くなったアレクは目を逸しながら答える。
「エヘヘ〜、やっぱり♪ 貴方いつも、私の髪とか脇とか…は、恥ずかしいところの匂いを嗅ごうとしてるでしょ?」
「…そうだな」
基本的に感情が表に出ないアレクが露骨に動揺していることに気を良くしたエリカはニヤニヤしながら、アレクに強く抱きつく。そして顔を赤くしながら、アレクに告白する。
「私もね、貴方の匂いが好きよ。貴方の耳の裏とか、胸元とか…あ、あとアソコの匂い…とか」
言っていて恥ずかしくなったのか最後は小声になりながらも、彼女は嬉しそうに今まで秘密にしていた想いを伝える。
それを聞いたアレクも、流石に恥ずかしいのか傷や火傷の無い肌が赤くなっている。
「だからね、今まで貴方に色々嗅がれたり、逆にこっそり貴方の匂いを嗅ぐのが恥ずかしくて、私ちょっと変なのかな〜って思ってたんだけど、お姉様のお陰で納得できたのよ。貴方が私の匂いが好きなのも、私があなたの匂いが好きなのも、私達の相性がとってもいいからなんだって」
「…そうか」
「そうよ!」
エリカが嬉しそうに、宝石のように綺麗な金色の瞳を輝かせながらアレクに抱きつく。
「私は貴方が大好きだけど、ちゃんと心だけじゃなくて体も、お互いに相性がいいってわかったのよ。だから今日はとーっても機嫌がいいの!」
「そうか」
「そうよ!」
エリカを抱きしめ返しながら、アレクは愛する妻の、芳しい香りのする耳元に囁きかける。
「エリカ…俺も、お前が好きだ。お前の心も、それに体の匂いも、な」
「っ…! エヘヘ〜」
エリカはアレクの腕の中で嬉しそうに顔を綻ばせる。
そしてどちらからともなく、愛し合う二人は唇を重ねる。
「アレク…私…」
「ああ、俺も流石に我慢が効きそうにない」
エリカを優しく抱き上げたアレクは、幸せそうに自分の胸元に顔を埋める妻と共に寝室へ向う。
「愛してる、エリカ」
「私もよ、アレク。貴方の心も体も、この世界の誰よりも、愛してる」
そしてその日もまた、深夜までエリカの艷やかな喘ぎ声が屋敷に響き続けた。
本番シーンは今書いてる本編を書き終えたら改めて追加する予定です