※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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本編に戻ります





125話 転機

ーーー征服歴1501年4月 スペイサイド州北西部 イメーム丘陵ーーー

 

 

 龍驤大隊が会議用に使っている大天幕で、王都から遥々やってきた()()()()()()()ダニエル・リガール中佐が教科書に載せるに足る綺麗なDOGEZAを大隊長であるアレクに披露している。

 

「お願いだウォーカー少佐…頼むから君の大隊も…いや最悪の場合は君だけでいい。一緒についてきてくれ!!」

「えぇ……」

 

 恥も外聞も何も無いダニエルにアレクも、そして同じ天幕にいるエリカや大隊の幕僚達もドン引きする。

 

 

「…()()()()()()、これ回収してさっさと行って下さいよ」

「んなこと言われてもよお…これをお前と一緒に()()()()()()()()()()()連れてけって、グランツ少将(腹黒先輩)ジルベルト准将(堅物先輩)に厳命されててなあ…」

「ねえ仮にも義兄になる相手をこれ扱いは酷くない!?」

 

 アレクは目の前に置いてある土下座から目を逸らし、護衛連隊の隊長であり元上司でもあるエスタ・ハワード大佐に尋ねるが、ハワード大佐も気不味そうに目を逸らす。

 

 アレクは心底面倒くさそうに、目の前の土下座に事情を問う。

 

「そもそも、なんで単にテルネシア中佐の隊(龍哮大隊)まで行くのに俺が必要なんです? 数合わせとは言えハワード大佐の連隊がいるなら過剰な位では?」

「あー、ウォーカー少佐。俺の隊、定数不足で実質2個大隊しかいねえし、後備役部隊の寄せ集めだぞ…?」

「行って帰ってくる位なら問題ないのでは? 一応、ここから最前線までの敵兵は掃討してありますし」

「だよなぁ…」

 

 土下座、もといダニエルの代わりに答えたハワード大佐だが、アレクに冷たく返され簡単に引き下がる。

 仕方なくダニエルが、頭を上げないまま話し始める。

 

「言ったら君も巻き込まれるよ…?」

「必要なら()()()()の特権使って拒否しますが?」

「うぇ…でも仕方ないか……」

 

 心底嫌そうに、葛藤のもとダニエルは話し始める。

 

「僕が王都の参謀本部、というより実際は陛下とアリウス殿下から受けた指令は要人護送なんだ」

「わざわざ形だけとは言え連隊を連れてこないといけないとなると…まさか」

「うん、そのまさかだ…()()()殿()()謹慎(軟禁)されていた王都郊外の屋敷を脱走して龍哮大隊に合流していたんだよ」

 

 第三王女アイネは、昨年末に行われたアレクとカイトの決闘において、王族の権限を乱用し決闘を汚した咎で国王より謹慎を命令されていた。

 また既にカイトと肉体関係にあった事から、カイトとの婚姻自体は許されたが、その際に王位継承権は放棄される事も決定しておりアイネはそれに大いに反発していた。

 

「監視役は何をやっていたんです?」

「買収されてたみたいでね…侍女を影武者にしてかなり早い段階で脱走していたらくてね」

 

 どっこらせとおっさん臭い仕草で立ち上がったダニエルがうんざりした顔で溜息をつく。

 

「どうにも龍哮大隊が匿っていたせいで発覚が遅れてね…判明した時にはアイネ殿下は最前線というわけさ……はぁ」

 

 アレク達の後ろで話を聞いていたクルト・ジャッカード少尉(アイネとカイトの被害者代表)がこっそりと舌打ちし、アイネにいい印象が欠片も無いエリカが提案する。

 

「放っといてもいいんじゃないかしら。アイネ殿下も別に前線に出るの初めてじゃ無いでしょ?」

「そういう訳にもいかないんだよね…もしアイネ殿下がいる場所でカイトが戦功を挙げ続けたとしたら、アイネ殿下(王族)が彼の戦功にお墨付きを与える事になる。そして言う訳だ。”真にカナンの騎士に相応しいのはカイトだ“とね」

「馬鹿らしいわね。そんな事しても結局決闘でアレクに負けるだけじゃない」

 

 憤懣やる方ない様子でエリカが不機嫌そうに眉をひそめる。

 天幕にいる士官たちも、カイトに近いはずのアルバート・ケルビム大尉ですらエリカの言葉を肯定して頷く。

 

「まあアイネ殿下を龍哮大隊まで送り出した”革新派“も儚い願望だとは思ってるだろうさ。他に手が無いから仕方なくだろうけどね」

 

 ダニエルはやれやれという様に肩を竦める。

 だがアレクは、()()()()の可能性に気付き仮面の下で顔を顰める。

 

「問題は()()()()の事では無いのですね。()()が敵国に捕らえられる事が”革新派“だけでなく王家そのものにとっての失点と成りかねない」

「はぁ…やっぱり分かるか。そうだよ、あんなのでも王族だ。万が一、殿下が敵に捕らえられれば、ただでさえ落ちた王族の権威が更に失墜する」

()()はテルネシア中佐では足りませんか?」

「あはは…君も巻き添えだよ」

「分かりました…流石に大隊は動かせません。俺だけが同行します」

「ちょ、アレク!?」

 

 アレクの返答をエリカが咎める。

 対してアレクは肩を竦めるる。

 

()()された場合の抑止力は必要だろ?」

「だからってわざわざ行かなくてもいいじゃない」

「しばらくここを動く必要は無いからな。それに俺がいなければ、上から面倒な仕事をこれ以上押し付けられないだろ?」

 

 決断すればアレクの行動は早い。

 

「ケルビム大尉、陣地の設営を急げよ」

「はっ!」

「バグラム軍曹、兵の調練は徹底しておけ」

「はっ!」

 

 そうして自分が不在の間の指示をアレクが出し終えたタイミングで、天幕に索敵騎兵小隊の副長が駆け込んで来た。

 

「急報! 急報です!!」

「どうした?」

 

 小隊長のザテレン少尉が、汗と泥まみれの副長に駆け寄る。

 

「まだ龍哮大隊から戻る時間では無いはずだが…」

 

 副長は補給物資の搬送に遅れている事やその調整の為に龍哮大隊へと赴いていたはずで、到着は翌日だったはずだと、アレクは疑問を口にする。

 

「ぜぇ…ウォーカー少佐、()()の急襲です! 龍哮大隊及び周辺部隊に対して、獣国軍3()()が攻撃を開始しました!!」

「何だと…?」

 

 それは束の間の安穏を壊す号砲だった。

 

 

 後に()()()()()と呼称される大戦、その最後にして最大の戦いである征服歴1501年スペイサイド州奪還戦はまだ序盤である。

 

 

 

 

 

 

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