ーーー征服歴1501年4月 スペイサイド州北西部 龍哮大隊駐屯地ーーー
獣国軍の砦を半包囲する形で設営された龍哮大隊の駐屯地は現在、逆に砦から出撃した獣国軍と東から大挙して現れた獣国軍の援軍により包囲されてしまっていた。
「ジャ…テルネシア中佐殿! 砦から出撃した獣国兵により北部の歩兵第三中隊被害甚大!! 援軍を求むと!
「と、東部に布陣していたムージー少佐の大隊が崩壊寸前です!! 至急応援をと伝令が!」
「中佐殿! も、もう大砲の火薬がありません!!」
「中佐!! 南部の第二銃兵中隊の弾薬もあと三斉射分しかありません! また 同じく南部の銃兵第一中隊は既に射耗し敵兵に取り付かれています!!」
「中佐!」
「中佐!!!」
カイトの下に、自身の隷下にある部隊からの悲痛な救援要請がひっきりなしに届く。良い情報など一つもなく、全てが己をじわじわと追い詰める悪報でしかない。
「クソが…未開人の獣国兵如きを何故押し返せない!! これもあの
「カイト! 早く指示を!!」
「煩い、黙ってろルリシア!!」
「ぁう!」
頭を掻きむしり責任転嫁を繰り返すカイトの肩を揺すった
「無能共が…クソっ、お前達、なんで獣国兵がここまで近づいているのを見逃した!!」
「申し訳ありません…騎兵が少なく索敵範囲が狭くなってしまい、しかもこの密林地帯ではまともに機動できず…」
「言い訳をするな!! あの
「っ…我が隊は騎兵の数も質も違います…同じだけの活躍を期待されても…がっ!?」
八つ当たりの様に殴られた情報参謀が、前線を見てくると言って天幕を逃げるように辞していった。
「チッ…なんでここには無能しかいないんだ! おいお前達、早く案を出せ!!」
「し、しかし…」
意見を求められた戦務参謀はしどろもどろになりまともに言葉も発せられない。
基本的にカイトのイエスマンと、銃火器という最新機器に適応し過ぎて応用の利かない技術屋しかいない龍哮大隊幕僚団は、かつてない危機的状況において右往左往して最低限の対策すら打てていなかった。
そこに、さらなる急報がもたらされる。
「伝令、伝令ー!! 敵軍の指揮官が判明しました!! 旗印から獣国八大将軍第三席エイブ・クッゴイ及び同じく第七席ハッフィ・ツイーガの可能性大!!」
先ほどカイトに殴られた情報参謀が血相を変えて駆け込んだ天幕の中で、しかし彼と同じ態度をとった者は皆無だった。
「
激昂したカイトが温くなった紅茶の入ったカップを情報参謀に投げつけ、天幕から叩き出す。名目上の副長であるルリシアが沈黙しているため、それを咎める者はなかった。
気不味い雰囲気で沈黙が続く中、員数外であり本来なら発言権などない士官が口を開く。
「そうですわ! カイトが、そのなんとかという獣国の将軍を討てば獣国軍なんて撤退するのではないかしら?」
場違いに響く甘ったるい声音の主は、本来なら王都郊外の屋敷に軟禁されているはずの王国第三王女アイネ・ヴィーテ。彼女に向けられる幕僚達の視線は半分は苦々しく、もう半分は名案を出した
「
まるで我が事のように自信満々に語るアイネに、彼女がこの大隊に居座る事を肯定している参謀達は賛意を示す。
「確かに、本来なら”カナンの騎士“に襲名されるはずの
「
「こちらには味方が5000もいます!! 偽物は100騎しか味方がいなかったのです、何も難しいことはないですよ!!」
「あ…あ、ああ勿論だとも。僕ならば、あんな未開人どもなど3倍いても余裕だとも」
無邪気で無責任な、
「ま、待てお前達! 相手は多勢だ。それに八大将軍第三席は!」
「お黙りなさい! 貴方、カイト様の第一夫人だからとカイト様への口答えは許しませんわよ!」
「なっ…わ、私は…っ」
唯一カイトを掣肘しうるルリシアはヒステリックなアイネの叫びに口を塞がれる。
「そうだ…そうだよ……
イエスマン達に煽てられて、そしてアレクへの対抗心からカイトは次第にアイネの
「おい、今出せる予備戦力はどの位ある!?」
「ハッ、騎兵
「ヨシ、東部のムージー少佐に伝令しろ! 我に続けとな!!」
曲がりなりにも明確な指示が与えられた幕僚達が生き生きと動き出す。
「カイト様、わたくしも一緒に行きますわ!」
「な、アイネ殿下お止め下さい! 危険です!!」
「煩いですわルリシア。怖いのならそこで震えて、わたくしとカイト様が偉業を成し遂げるのを指をくわえて見ていなさいな!」
そう言ってアイネはカイトと共に天幕を出てゆく。アイネの案に賛同した参謀達と共に。
残されたのはルリシアと、比較的良識のある少数の参謀達のみ。
「副長殿、我々はどうすれば…」
「っ……まだ攻撃を受けていない西側の部隊をこちらへ呼べ………万が一の場合、カイトを…助け…ねば」
自分の言葉に自身が持てない様子で、それでもルリシアは自分のやるべき事を、
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反撃の為に出撃したカイト率いる攻撃隊は、残っているありったけの弾丸を獣国軍に叩き込み、一瞬だけその波濤の如き攻勢を押し留める。そして出来た綻びを抉るように、カイトと騎兵達が獣国軍へと斬り込む。
後に続く歩兵達がその傷口を広げ、所詮は寄せ集めでしかない獣国の雑兵達を蹴散らしてゆく。
そんな
「ガッハッハ、やるのお。あれが噂に聞く”カナンの騎士“もどきかハッフィ!!?」
「ウフフ、そのようですよ。連合王国七大貴族”美“のジャッカード、あの戦下手一族の出だそうですねえ〜」
筋骨隆々の巨漢が、己の身の丈程もある戦斧を担ぎ直しながら豪快に笑い、その隣で濡れた様に光沢のある黒い長髪を弄る優男がニヤニヤと笑う。
巨漢の名は獣国八大将軍第三席エイブ・クッゴイ。厳しい身分制が残る獣国において己の腕っ節一本でのし上がった1代の英雄である。
そして優男の名は八大将軍第七席ハッフィ・ツイーガ。獣国の闇を司る暗殺兵団の団長であり、諜報と暗殺で現在の地位まで上り詰めた傑物である。
一見正反対の2人だが不思議と仲は良くこうして共同戦線を張ることも多い。エイブはハッフィの頭脳を、ハッフィはエイブの武力を信用し、互いに頼りにしていた。
「ふぅーむ、それでどうするのじゃハッフィ? わしがたたっ斬ってくれば良いのか?」
「アハハァ、必要ありませんよぉ。ガッフェル殿は相手の三段階、四段階の策に絡め取られて首を刈られましたがぁ、あれはたぁだぁの力押しですからねぇ。数は力、多勢が無勢を覆すには文字通り
耳障りに思えるハッフィの口調を特に気にすることなく、エイブは頷く。
「なんじゃつまらん。ゾードの小僧みたいにわしも敵の強者と一騎打ちしたかったのじゃがのぉ」
「いやぁ、僕は勘弁して欲しいですよぉ〜? というかガッフェル殿は望んで一騎打ちになったわけじゃないですし〜?」
「それもそうじゃのう、ガハハハ!」
世話話でもするように、2人の将軍は呑気に笑う。
さもありなん、カイト率いる攻撃隊の突撃は次第に勢いを失い、その矛先を逸らされ、足が止まった所で
「酷いことするのぉ」
「あそこの兵はぁ〜、このスペイサイド州で捕まえた奴隷ですからねぇ。それにあんまり人が残ると食糧が足りなくなりますからぁ〜。あの程度の口減らしは許容範囲ですよぉ〜」
味方と言う名の生贄ごとカイトの隊を追い詰めたハッフィがニタニタと嗤う。
「さてぇ…アハァ助けが来たようですがぁ、無ぅ駄ですねぇ〜」
カイト達を助けに来たのであろう少数の部隊は、今迄の雑兵とは練度が違い過ぎるエイブの直属部隊に返り討ちにされ撃退された。
「敵が逃げ始めたのう、さぁて追撃させるとするかの」
「あぁクッゴイ殿、念の為に追撃には参加せず本陣で指揮をお願いしますねぇ?」
「むぅそうじゃったそうじゃった。おうボーノ、連中を徹底的に追い立てろ。そのまま連中のケツに喰らいつけぱ、纏めて後方でぬくぬくしておる敵部隊も討ち倒せるぞう!!」
「頑張って下さいねぇ〜、本物の”カナンの騎士“を討ち取ればぁ私達が新たな八大将軍に推薦してあげますよぉ」
「ハッ!! 全霊を尽くします!!」
エイブ程ではないが逞しい肉体をもつボーノは、一万の兵を分離して、敗走した龍哮大隊の追撃を開始した。それはつまり、後方にじんを構える
「さぁ〜てぇ〜、私も仕事ですねぇ〜。あのいけ好かない帝国の第四皇子を出し抜いたんですからぁ〜、
「ふうむ。難しい事は分からんが、頼むぞ!」
そうして2人は、捕虜にしたカイト達と共に砦へと向かう。
だが流石の2人も、まさかカイトのついでに連合王国の第三王女まで捕らえられるとは思っておらず、報告に目を見開く事となるが、それは少し先の話であった。
気がついたらカイト君がナレ死していた件(まだ死んでない)