※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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ギャグ回(?)かも……?


間章⑪ 泣きっ面に蜂

 

ーーー征服歴1501年4月 青角城 執務室ーーー

 

 この城とその城下町の主、そしてユーシア大陸最大の超大国青麟帝国の第四皇子藍剴憑は多忙である。

 特に、昨年に敵国たるヴィーテ=ガスク連合王国において新たな”カナンの騎士“が襲名してからはその忙しさはもはや殺人的である。

 

 元々、仕事を溜め込みその持ち前の優秀さで一気に片付けるタイプの彼が、その信念(?)を捨てて真面目に仕事をしないと書類の山脈に押しつぶされてしまうと怯える程、現在彼がこなさねばならない仕事は多いのである。

 

 そんな黄金より貴重な時間を、今日この日は書類仕事以外で使わされる事に剴馮は不機嫌さを隠さず時間泥棒をジト目で睨む。

 相手が見目麗しい美女であればまだ気分も上向く。だが、今彼の目の前で高価な茶葉で淹れたお茶を飲んでいるのは筋骨隆々の偉丈夫である。顔立ちは整っているし、その手の趣味人にはモテモテ間違いなしなのだろうが、そっちの趣味は欠片も無い剴馮にとっては眺めていても苛立ちが募るだけである。

 

「ふむ、流石に良い茶葉ですね」

「そのお茶でお茶漬け作ってあげるからさっさと帰ってくれないかなぁ()()()()!?」

「それは有り難い! 戦場暮らしでコメが手に入らず何年も食べていないのですよ」

「クソ、皮肉が通じない!!」

 

 美味しそうにお茶漬けを食べる目の前の男、かつて剴馮が連合王国に留学していた頃の友人であり、現在帝国軍と対峙している連合王国の東の防衛拠点ブリュンヒルド要塞の司令官アルトリウス・リガール辺境伯(陸軍大将)の嫡男ゴードン・リガール陸軍大佐に頭を抱える。

 春に雪解けが終わった後も、帝国軍と連合王国軍はそれぞれの拠点から軍を動かすことなく静かに睨み合っている。それどころか使節を交わし、()()()に向けた交渉すら積極的に行っている。

 とは言え、交渉自体は剴馮本人ではなく部下の文官が行っているし、その護衛としてついてきた一将校とこうして会合する事はかなり異例である。

 

「なあゴードン、見て分かると思うが僕も暇じゃない。そろそろ用件話してくれないかな? わざわざ軍人ではなく()()として僕と話がしたいなんて、()()()()じゃないだろ?」

「モグモグ…まあ確かに、モグモグ…こうして殿下との会談を所望したのは、モグモグ」

「食うか話すかどっちかにしろ!」

「モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ、おかわり。モグモグモグモグモグモグ」

「さっさと食い終われ!!!」

 

 食べるとこを選択し、ついでにおかわりまで要求し始めたマイペース過ぎるゴードンに剴馮がキレる。

 

「食べろと言ったのは殿下でしょう」

「食いすぎだよ!?」

「大変美味でしたのでつい…ところでデザートは?」

「帰れーー!!!」

 

 堪忍袋の緒が切れた剴馮がゴードンに殴りかかり、家臣達に羽交い締めにされて止められる。

 ゴードンは匙を置き、心配気な顔で剴馮に尋ねる。

 

「大丈夫ですか殿下? 昔より短気になっていますよ?」

「お前のせいだよ!! 普段ここまでキレるわけないだろうが!!!」

 

 ぜぇはぁと乱れた息を整え、辛うじて冷静さを取り戻した剴馮が椅子に座り直す。

 

「うーむ、ダニエル()からこうすれば殿下が怒って交渉が有利に進むと言われてやってみたが、ここまで効くとは」

「ダニエルに暗殺者送っとくよ」

「確か今、最前線にいるので狙い目ですよ。多分ウォーカー少佐(義弟)の下にいますが」

「チッ、厄介な………うん?」

 

 弟の命の危機をさらっと流し、ついでに珍妙な事を言いだしたゴードン(天然)に、剴馮は僅かに嫌な予感を覚える。

 

「あいつアリウス(第一王子)の副官だよね? アリウスは王都にいるよう僕が全霊をかけて工作したはずなのに、何でダニエル(あのモヤシ)だけ前線に? いらなくない?」

「まあ我が愚弟が最前線ではなく後方で策略を巡らすほうが役に立つのは事実ですが、やむを得ない事情があるのです」

「そしてそれと君が今ここに来ている原因にも関わると?」

「いかにも」

 

 そう言ってゴードンは懐から羊皮紙の書簡を取り出す。

 剴馮の侍従がそれを受け取り、剴馮に渡す。

 

「初めから渡せよ!?」

「いや殿下がお茶漬けを出してくださったので」

「あ”あ”あ”ーー!!!」

「大分情緒不安定になっていますな」

「誰のせいだ!!」

 

 当たり前のように出されたデザートを口に運ぶゴードンに剴馮が青筋を浮かべるが、侍従達が必死に剴馮を宥める。

 

「で、殿下。さっさとその手紙を読んで追い返しましょう」

「そうです殿下。まだ本日分の書類が…」

「………分かった」

 

 剴馮は呼吸を整え、封蝋を割り中の文章を読み込む。

 手紙の差出人は以前と同じくアリウスだが、わざわざ正式な使者ではなく顔見知りのゴードンを使って別途で渡したのだから、秘密にせねばならないものなのだろうと、長ったらしい時候の挨拶を読み飛ばす。

 そして時候の挨拶に比べると短い本文に書かれた内容に、剴馮は頭痛を覚えこめかみを抑える。

 

「なあゴードン、お前この手紙の内容しってるのか?」

「モグモグ…、失礼何か仰りましたか?」

「そいつのデザート没収しろ!!」

「ああ!?」

 

 折角食べていた山盛りの胡麻団子を没収されたゴードンが心の底から悲しそうな顔をする。

 

「聞け! 話を!!」

「手紙の内容ですか? それは勿論。第三王女殿下が軟禁先の屋敷を抜け出して勝手に最前線に出るなど一大事ですよね」

 

 お茶を啜りやれやれと肩を竦めるゴードンに、剴馮は大きく息を吸い込んで叫ぶ。

 

「だったらのほほんと茶を飲んでんじゃねーーーーー!!!」

 

 城を震わせる程の大音声で放たれた剴馮の魂の叫びは、ちゃっかりと耳を塞いでいたゴードンには効果がいまひとつのようだ。

 

「殿下、城で働いている方々に迷惑ですよ?」

「おーまーえーがーいーうーなー!!!」

 

 叫び過ぎて肩で息をする剴馮に、ゴードンはハッとした顔でおずおずと胡麻団子の載った皿を差し出す。

 

「甘い物が足りなくてカリカリしていたのですね」

「ちげーよ!!!」

 

 それはそれとして胡麻団子を口に放り込み、明らかに自分へ向けた嫌がらせとして送り込まれたゴードン(旧友)を睨む。

 

「お前ら巫山戯てるのか? 今獣国との最前線に王女を送り込むとか捕まえて犯してくれと言ってるようなものだぞ!?」

「本人が勝手に行ってしまったので…それにその反応からすると殿下の手引きでもなさそうですね?」

 

 

「当たり前だ!! 僕だってそろそろこの戦争を店仕舞したいのにわざわざ火種に爆薬をぶち込む真似なんかするか!!」 

 

 叫びながら剴馮は内心で舌打ちする。性格的に相性が悪いゴードンがここに送り込まれたのは自分を感情的にさせて本音を引き出すためだったのかと。

 

「……で、僕に何をさせたい?」

「可能であればアイネ殿下の安全を保証して頂きたい」

「獣国に捕まった場合は? というかその可能性が高いよ?」

「ハッハッハ、流石に龍哮大隊(カイトの庇護下)にいるのに捕まるほど間抜けでは無いでしょう」

「アッハッハ、それもそうか!」

 

 疲労でテンションがおかしくなってきた剴馮はゴードンにつられて笑う。

 

「それに我が愚弟が義弟の龍驤大隊に合流してアイネ殿下を回収するそうですので。愚弟ならうっかりで失敗もありえますが義弟なら大丈夫でしょう」

「それもそうだね。僕もこれ以上面倒事はごめんだし邪魔しないようにあの辺り担当の間諜に伝えておくとしよう」

 

 そう言って諜報担当の武官を呼ぼうとした所で、目的の武官が向こうから扉を開いてやってくる。

 

「流石殿下の部下、命じる前に来るとはやりますね」

「いや顔が明らかに焦りまくってるだろ!?」

 

 その武官は顔面を蒼白にして、今にも自害しそうな雰囲気のまま剴馮の前に跪く。

 

「で…殿下、急報です」

「落ち着け。そんなに怯えなくても、君の報告内容如何で君を処分するような事はしない」

「はっ…」

 

 剴馮の言葉に、武官は冷静さを取り戻し報告を行おうとして再び言葉を止める。

 

「あ、お気になさらずどうぞ?」

「そいつの手にある紙とペンを取り上げろ!!」

「ああ!?」

 

 しれっとメモの体勢に入っていたゴードンはメモ用紙を没収される。

 

「一応聞くが、どの方面からの報告だ?」

「獣国軍のスペイサイド州北西部戦線の情報です!」

「ぐ…よりによって…分かった、ゴードン取り敢えず聞かせてやる」

「有り難う御座います、殿下」

 

 ゴードンを部屋から追い出し再び呼び戻す手間を惜しみ、剴馮は武官に報告させる。

 

「獣国が新たに3万の軍勢を編成、それをスペイサイド州戦線に投入するとの報告が、彼の地に配置した間諜から上がりました」

「今から追加で3万か。こちらへ支援のお代わりがくるのは面倒だが、大勢に影響は無いか」

「いえ、()()()()()()()()()1()()()()()()()!!」

「………は?」

「軍勢は我々の監視を掻い潜り、既に最前線付近まで到達している可能性大!!」

「……え?」

「さらに指揮官は獣国八大将軍第三席エイブ・クッゴイ及び同じく第七席ハッフィ・ツイーガです!!」

「…………」

 

 剴馮は虚空を見つめ、たっぷり3呼吸分ほどフリーズする。

 

「何故報告が遅れた?」

「れ、連合王国王都方面の間諜が大量喪失した事による再編と混乱の隙を突かれた模様で…」

「暗殺兵団のツイーガ将軍だな…余計な手間を!」

 

 剴馮は苛立をを紛らわせる為に胡麻団子を口に放り込む。

 

「ふーむ、獣国の()()()()()()()“向けの人材ご投入されたとなると、カイトでは無理ですな」

「あんな道化どうなったところ……あぁ!?」

「モグモグ、アイネ殿下の冥福を祈りますか」

「僕の分まで食うなこの筋肉ダルマ!! というか何でお前の方が冷製なの!?」

「まあ今更慌てた所で私にできることなどこの美味なデザートを食べること位ですので」

「あるよな!? 僕をおちょくるより有意義なこと沢山あるよな!!?」

「まあ私が今回アリウス殿下から請け負った任務の8割程はそれですので」

「いい加減張り倒すぞこの呑食脳筋!!」

 

 もはやこの城の主より偉そうなゴードン(筋肉ゴリラ)に、剴馮が机を叩いて抗議するが、ゴードンには効果はない。

 

「モグモグ、ズズ〜…ふぅ、ごちそうさまでした。さて、殿下何を呆けているのですか。今後の対策を話し合いましょう」

「っ〜〜〜〜〜…………良いだろう。お前覚えとけよ」

「ここの甘味は大変美味でしたので、後でお土産を」

「分かった。僕が一方的に喋るからお前は口を開くな」

「……(コクコク)」

 

 目の据わった剴馮を流石にこれ以上はからかえないと悟ったゴードンが無言で頷く。

 

「取り敢えず、今聞いた通り獣国の反撃に僕らは何ら寄与していない。そこで万が一、貴国の王女が捕らえられたとしても関係はない」

「しかし帝国と獣国は同盟関係、もっというと従属関係でしょう?」

「そうだよ! だがこの件が大事になれば戦争は終わらない。困るのは「そちらでしょう?」っ!?」

 

 剴馮の言葉はゴードンによって遮られる。

 その声音は、先程までの親しみと諧謔に富んだ物ではない、この場の者達全ての心胆を凍えさせる冷徹さが籠もっていた。

 

「困るのはそちらでしょう? もしもあと1年、もっというと主戦場であるスペイサイド州が奪還されるまでに戦争が終わらなければ、()はここ青角城です」

「………この城を簡単に落とせると?」

「落とす必要が? ”カナンの騎士”(たった一人)を送り込んで貴方を殺せば良いだけなのに?」

 

 露骨過ぎる、そして非現実な挑発を剴馮もその護衛達も笑わない。

 何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()と知っているから。

 

「………こちらでも第三王女の行方は探そう。情報封鎖も行う」

「有難う御座います。こちらの情報部は()()()あまり役に立たないので」

「そうか、それは大変だな」

 

 2人の間で見えない火花が散り、根負けした剴馮が先に目線を逸らす。

 

「ハァ…これで用は済んだな。さっさと帰ってくれ、僕は忙しい」

「そうですな。これ以上殿下の貴重なお時間を浪費するのは心苦しい」

「………マジで覚えてろよテメェ」

 

 殺気の籠もった剴馮の視線を意に返さず、ゴードンは部屋を去ろうとして振り返る。そのブラウンの瞳にはこの部屋に入ってから最も真剣な色が浮かんでいた。

 

「殿下………所で私にくれるお土産は?」

「さっさと出てけーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

 

 物凄く高そうな壺(人一人はいりそう)をぶん投げた剴馮から逃げるように、ゴードンは部屋から飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 

「ようゴードン、首尾はどうだった?」

「ああ、どうやらアイネ殿下が獣国に捕まった可能性がある」

「へー…なあ!?」

 

 使節を護衛してのブリュンヒルド要塞の帰路、同僚であり義弟でもあるバランタイン侯爵家嫡男、ラルグ・バランタイン陸軍大佐が目を見開く。ついでに彼らが護衛している特使も。

 ラルグはゴードンの肩をつかんで揺さぶりながら叫ぶ。

 

「は や く 言 え や あ ! ! !」

「まあ待て落ち着け。流石にあの城で知ったことを城を出る前に喋るのはマズイだろ」

「そうだが…そうだが!」

「それにあの場でやれる事はやった。取り敢えず、剴馮殿下にアイネ殿下の保護を頼んでおいた」

「出来るのか?」

「ハッハッハ、無理だろ」

「笑ってる場合かぁーー!」

 

 普段からゴードンの天然発言に振り回されているラルグだが、流石に我慢の限界である。

 

「だから落ち着け。現地には“カナンの騎士”(ウォーカー少佐)もエリカもいる。ついでにダニエル(愚弟)もな」

「エリカの嬢ちゃんなら無視して帰りそうだな…」

「俺もそう思うがウォーカー少佐は真面目な男だ。ちゃんと助け出してくれるさ。それにちゃんとここで得た情報も送る」

 

 ゴードンは一度だけ王都で会いその場で意気投合した新しい義弟を信頼して力強く頷く。

 

「とは言え、こっからだと情報届けるのに頑張っても5日はかかるぞ。帝国と獣国の勢力圏を迂回しねーと」

「ああ、それなら問題ない」

 

 そう言うとゴードンは鋭く指笛を吹く。

 それに応えるように─────

 

『アオオーーーン!!』

 

 そびえ立つ山の中から遠吠えが響く。

 

 そしてしばらく使節団が何事も無かったかのように進んでゆくと、再び────

 

 

『アオオーーーン!!』

 

 かなり近くから遠吠えが響き、使節団の使っている騎馬が慌てたように周囲を見渡すが、ゴードンやラルグとその部下の馬は泰然とした雰囲気を崩さない。

 そしてゴードンがひらりと騎馬から降り立ち、再び指笛を吹くと、近くの山肌から全長2mを超える銀色の毛並みの狼犬(ウルフドッグ)が、狼の群れを率いて現れた。

 

「オーディン8号、仕事だ」

『アオン!!』

 

 ゴードンの言葉を理解しているオーディン8号と呼ばれた狼犬は、お座りの姿勢で己の主の支持をまつ。その首には、リガール家の家紋が彫られた首輪がはめられている。

 その首輪に、ゴードンは通信筒を装着してからオーディン8号の頭を撫でる。

 

「こいつをダニエルの所に届けてくれ。出来るな?」

『アオーン!』

 

 ついでにおやつのビーフジャーキー(羊肉)を沢山貰い、オーディン8号と群れの狼達は駆け出した。

 

「これでよし」

「相変わらずおっかねぇ光景だ…」

 

 250年以上前に、2代目“カナンの騎士”が調教した狼を祖とするリガール家の狼犬は、リガール辺境伯領の狼達を従え、家畜を守るだけでなくこうして特殊かつ迅速な伝令に用いられているのだった。

 

 そして同時刻、彼らの心配通りカイト率いる龍哮大隊は敗北し大隊長カイト・テルネシア中佐や第三王女アイネは虜囚の身となった。

 

 

 

 

 






年末のお供に中編をカクヨムにて連載開始しました
本編の約250年前、連合王国の北西に存在した国で繰り広げられますS(すこし)F(不思議な)お話です

https://kakuyomu.jp/works/16818093090501988461
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