※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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130話 理不尽な評価

 

ーーー征服歴1501年4月 スペイサイド州北西部 森林地帯ーーー

 

 龍哮大隊が獣国に敗北し、敗残兵達がアレク率いる龍驤大隊の騎兵達に救われてから一夜が明けた。

 

 アレクが龍哮大隊の(名目上の)撤退支援に連れてきた騎兵達は、街道からやや離れた偽装された拠点で次の作戦へ向けて短い休養をとっていた。

 

「連中に二斉射、こっちの銃弾をぶち込みましたぜ。被害自体は大したことありやせんでしたが、少佐殿の予想通り夜間の行軍を控え守りを固めたようですな」

「逃げ回ってた連中は片っ端から叱りつけて、イメーム丘陵に向かうよう言っておいたわ。それで迷子になるようならあきらめるしかないわね」

 

 組み立て式のテーブルにこの一帯の()()()()()手書きの地図を広げ、それぞれ騎兵一個小隊を率いて闇夜を駆け巡ったザテレン少尉とエリカがそれぞれの仕事内容をアレクへ報告する。

 

「こちらも先頭の部隊を痛めつけたからな。夜間に不用意な進軍はしないだろう…とすると」

 

 アレクは2人の報告と自身の戦果、そして確認した獣国の配置を照らし合わせ地図上に印を書き込んでゆく。

 

「昼間にこれらの地点を通過する部隊を交代して襲撃する。無理に撃破する必要はない。襲撃が続くと意識させれば進軍速度は低下する」

「一個小隊の中で休息する班と襲撃班を分けるわ。森の中なら少数部隊の方が動きやすいし」

「ですなあ。少佐殿、それに副長殿。うちの銃騎兵をそれぞれの部隊に分散させますんで襲撃時に使ってくだせえ」

「…なるほど、()か」

 

 ザテレン少尉の提案にアレクが感心したように首肯する。

 

「連中、こっちの銃声を聞いただけで面白いくらい慌てふためいてましたぜ。推測ですが、()()()()()()()が思ったより頑張ってくれたみたいですな」

「ちょっと複雑ねー…」

「そこは素直に感謝しておけ」

 

 カイト率いる龍哮大隊との戦闘でマスケット銃の威力を身を以て思い知った兵士達は、()()を聞けば竦み上がる。()()()()()()()()、それを知ってしまった彼らは例え命令があろうと身構えてしまう。ザテレンの提案から、アレクはそこまで予想し更にその先を考察する。

 

「牽制にはもってこいだが…()()()のも早いか?」

「でしょうね。至近距離ならともかく、距離を離せば盾で防げるし、命が懸かってるから必死で遮蔽物を用意するわよ」

「ですがまあ、その分足は遅くなりますぜ」

「そうだな、反応を見ながら適度に銃を使おう。敢えて弓を使って無音でも危険だと思い出させてやるのも良さそうだ」

「そうね…眼の良い兵士に観察させるわ」

「じゃあ編成と襲撃の順番は俺も含めた小隊長で詰めますんで」

 

 そうして方針を確認し、ザテレン少尉とエリカの中隊の小隊長2人が改めて必要な人材の融通について相談を始めた。

 

 

「はい、アレク」

「ああ」

 

 小隊長達が襲撃と休憩、拠点の警備のローテーションを詰めている合間に、アレクは得られた情報から獣国軍の動きを分析し、自作の地図に書き込んでゆく。

 そんなアレク(指揮官)エリカ(脳筋)は白湯を手渡す。

 

「まさかこの森にも貴方の隠れ家があるとは知らなかったわね」

「北西部一帯に作ってあるからな、ここが使えるから多少無理して遅滞戦闘も請け負えた」

 

 アレク達が使用しているこの拠点は、元々アレクが昨年までスペイサイド州でせっせと作っていた(横領した物資で)拠点であり、陥落したスペイサイド州で非正規戦(ゲリラ戦)を行う為の隠れ家だった。本来はスペイサイド州にガラクタ中隊(アレクの部隊)が取り残された場合の備えだったのだが、今回はこうして有効活用されていた。

 水場に100人単位が1週間程度必要とする保存食と燃料、草木で迷彩された最低限雨風を凌げる半地下の偽装兵舎と、アレクと案内役の元ガラクタ中隊の下士官以外はその設備と完成度に称賛の前に呆れるほど整った拠点であった。

 

「やっぱり茶葉はないのね…」

「コーヒー豆もな。煙草はあるぞ?」

「私はいらないんだけど…なんであるのよ?」

「こっちは保存が効きやすいからな…酒と同じで最悪通貨(お金)代わりになる」

「納得だけど、喫煙所は別に用意させるわ」

「……………………………そうか」

「そうよ!」

 

 本気で残念そうにするアレクの抗議の視線を切り捨て、エリカはアレクが隠そうとした煙草(安物)を没収する。

 

 

()()()()のは分かるけど、ここで吸ったら怒るわよ」

「む…この手の仕事は慣れてるから大して苛立っては…」

「でしょうね、()()()()()()()()?」

 

 完全に思考を読み切られている事にアレクは渋面を作り、エリカはそんな恋人を面白そうに眺める。

 

「……少しだけ嫌な想像をしてしまってな」

「それって、ルリシア様に何か言われたとか?」

 

 表情を隠すように仮面の口元を展開したアレクがポツリと呟くと、エリカは自身の予想が正しいかを確認するように疑わしい人物の名前を提示する。

 それに対して、アレクは躊躇いがちに首を振り否定する。

 

「いや……むしろテルネシア大尉に俺が厳しい事を言ってしまったかなと」

「…?」

 

 余程の事がない限りはっきりとした言動をするアレクが言葉を選んでいる様子に、エリカは不思議そうに首を傾げる。

 

「テルネシア大尉が敗残兵を纏めて撤退していたのは言ったよな?」

「ええ、無事な士官で一番上なのがルリシア様なのは有り難いわね。変な奴が余計な事を言い出したらこの遅滞戦闘が成り立たないし」

「ああ…その時にちょっと…あぁ!?」

「自然な動作で煙草を取り出そうとしない!」

 

 回想に入るついでに隠し持っていた煙草を吸おうとしたアレクが今度はライターを没収され悲しそうな顔をする(仮面でエリカ以外にはどんな顔なのかは分からない)。

 だがエリカにジト目で続きを促され、アレクは白湯を飲みながらポツポツと話し出す。

 

「…あの時、テルネシア大尉はジャッカード…じゃなかった、()()()()()()()()()()殿()()を助けてくれと俺に頼んだ」

「それは…」

「まあ本人は()()()()()()()()を助けて欲しかったんだろうな。捕虜になったと報告は上がってきているが、()()()()()()()()()は分からないだろうし」

「相手は獣国(野蛮人)だものねー」

 

 基本的に獣国人は連合王国、というよりも帝国以外を文明的に未開な蛮族と見下しているため、捕虜の扱いも非人道的なそれになる。食糧を与えないのは当たり前。面白半分に拷問や陵辱を行い遊び半分に殺すことも多い。

 

「捕虜交換の交渉すらまともに出来ない連中だ。可能な限り早く救出したいと言うのは理解できる」

「でも力尽くで奪還するのはいくらなんでも無理よ? 少なくとも今は」

「ああ、そうだな」

 

 かつて何度も捕虜奪還作戦に(強制的に)参加したアレクはルリシアの願いが考慮にすら値しない事を身を以て理解している。

 

「可能性があるとすれば、今攻めてきている連中を撃破して()()()()()捕虜を手に入れる事だ」

「将官級を捕まえれば交渉にはなるかしらね?」

「まあ、ジャッカード中佐だけなら何とかなりそうだが…殿下は曲がりなりにも王族だからな」

 

 うんざりした顔でアレクが天を仰ぎ、“チラッチラッ”と目で煙草を催促するがエリカは見惚れるほど綺麗な笑顔で首を横に振る。

 

「…だから俺は彼女の願いをはっきりと拒絶した。そして彼女はそれを肯定して自分の()()()()()()()

「ふうん……」

 

 エリカはまじまじと恋人の眺め、その(仮面で見えない)顔に釈然としないものが混じっている事を察する。

 

()()()アレク、貴方なら出来るかもしれないけど助けには行かせないわ」

「いくら相手が大貴族の子息に王族とは言え、金にも名誉にもならないのに流石にやらないぞ…?」

「でも、ルリシア様が()()()()()()()頼んだら絆されたでしょ?」

「…………まあ、そうかもしれないな」

 

 本心を完全に見透かされたアレクは憮然とした表情で(仮面で顔は見えないが)エリカの視線から逃れるように顔をそらす。

 

「……その判断が合理的な物ではないと分かってはいる。だが、俺はそうして()()()()。ならば、例え間違った判断だったとしても尊重するべきだ」

「真面目ね…ついでに不器用」

「自覚はしてる」

 

 呆れた様な、頑是ない子供の我儘を優しく見守るようなエリカの視線を受けて、アレクは渋々といった体で本心を語る。

 

「だったら、私はきっとそれを止めるわ。私自身がそんな選択をしたからこそ…ね」

「そうか…」

「そうよ。だって私にとって、貴方が誰よりも大事だもの」

 

 かつて全てをなげうって愛する男を救った女は、そうして救った男を後ろから抱きすくめる。

 

「アレク、これから言うことはかつて誰よりも愚かで誰よりも誇らしい選択をした世界で一番いい女が経験に基づいて言う言葉よ。心して聞きなさい」

「自分で言うのか…いや間違ってはいないが」

「でしょ? まあ自慢は兎も角…ルリシア様がカイトを救いたいと言うのなら貴方に頼むんじゃなくて自分で動くべきだったの。部下を救うとか、自分の力じゃ無理だとか言い訳する前に。そもそもカイトを殴ってでも止めるなり、逃げようとする部下のケツを蹴り上げて突撃するなりね。貴方に頼もうとするのがそもそもの間違いなの」

「なるほど…確かにな」

 

 経験者の語る実感のこもった言葉にアレクは苦笑する。

 

「だから思い悩む必要も後ろめたく考える必要もないの。いいわね?」

「了解した」

 

 

 念を押すエリカに、アレクは穏やかな声音で応えた。自身の胸元に回された愛する女の手に、自らの手を重ねて。

 

 

 

 

 因みに─────

 

「なんかこの白湯甘くないか?」

「この保存食のビスケットも甘いような?」

「胸焼けが…」

「あ、これエクトル中尉から支給されたコーヒーです、どうぞ」

「「「助かる」」」

 

 遠間でアレクとエリカの睦み合い(会話)を盗み聞きしていたザテレン少尉やエリカの中隊所属の小隊長達が、タク准尉が隠し持っていたコーヒー豆で淹れた濃い目のコーヒーに救われたのはまた別のお話。

 

 

 

 





そろそろ濡れ場が書きたい…
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