※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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132話 串刺し

ーーー征服歴1501年4月 スペイサイド州北西部 森林地帯ーーー

 

 龍驤大隊へ埋伏の毒として送り出された奴隷兵達を殲滅した銃声は当然ながら獣国軍の本隊へ届いた。

 指揮官であるボーノと参謀達は即座に本陣と兵糧を運ぶ輜重段列の守りを固めると、状況を把握する為にまず奴隷兵の一部隊を派遣した。これはもしも襲撃した部隊がその場に残っていた場合、まず犠牲になる者達として最も惜しくない存在を送り込むという獣国軍としては至極当たり前の判断だった。

 

 そしてそれは、4年間このスペイサイド州で獣国軍と戦い続けたアレクにとって容易く予想できる動きだった。

 

 それ故に、アレクは獣国の策謀等より遥かに悪辣で非道な毒餌をばら撒いた。

 

 

「おい…これ、は」

「うっ、うぇぇっ」

 

 送り込まれた奴隷兵達はそれを見た。

 見てしまった。

 

「こひゅー、こ、こひゅ」

「たす、たす…け」

 

 ()()()にされ、それでもまだ()()()()龍哮大隊の士官(裏切り者達)を。

 

「ヒッ…く、首が…」

「おっおぇぇぇ」

 

 2人が串刺しにされた足元に祭壇のように並べられた生首の山を。

 

 ある者はその悍ましい光景に怯え、ある者は耐えきれず嘔吐した。

 彼らの監督役である獣国の正規兵ですら思わず目を背け、醜態を晒す奴隷兵達を叱りつけるのを控えるほど、それは余りにも惨たらしい光景だった。

 

 だが、わざわざアレクが、この戦場で無貌鬼(フェイスレス)と畏れられた男がこのちょっとした地獄を演出したのは単に見るものを怯えさせる為ではない。

 

「お、おい…あれ」

「木の板に何か…書いて、ある…?」

 

 串刺しにされた裏切り者達の首にかけられた粗末な木の板には、血文字で連合王国公用語のメッセージが書き付けられていた。

 

 一人目には『裏切り者には死すら生温い地獄を』。

 二人目には『汝、その潔白を証明せよ』

 

 単純で抽象的な、だが余りにも悍ましく非現実的な光景の中でそれは、暴力的なまでの説得力を有していた。

 

「これって…」

「あ…あ、ああ…」

 

 連合王国はこの時代の他国と比較して異次元と呼べるほど識字率が高い。奴隷として捕らえられたスペイサイド州の住民でも、簡単な文章なら読める人間の方が多い程に。

 

「おい貴様ら何をやっている! 早くここを片付けろ!!」

 

 そして獣国人は兵士程度では文字は読めない。

 それが、悲劇の発端となった。

 

「な、なあ…俺達も…()()なるのかな?」

「だよ…な」

「聞いたことある…スペイサイド州の戦場には()が出るって…」

 

 それは戦場で語られる血なまぐさい与太話の一つ。

 

 故郷も、家族も、己の貌すら失った復讐鬼は敵を決して許さない。

 己の故郷を滅ぼした獣国人を、唆した帝国人を、そして裏切った連合王国人(仲間)さえも。

 

 その男は最も過酷な戦場に現れる。

 敵も味方も入り乱れ殺し合う戦場で誰よりも多く、誰よりも精確に()の命のみを刈り取る容赦なき鏖殺者である、と。

 

「無貌鬼だ…いたんだ、本当に」

「噂なんかじゃなかった…殺しに来たんだ…俺達を」

「殺される…鬼に、化け物に殺される…!」

 

 奴隷兵達はただ命令に従う事のみを要求され、虐げられ肉盾としての役割のみを押し付けられてきた。

 

 

 それ故に、()()は瞬く間に伝染する。

 

 

「おい、早く片付け…お?」

 

 監督役の獣国兵は己に向ける視線に気付き後退る。

 今まで自分達に怯え、唯々諾々と従ってきた奴隷達から向けられる、()()()()()()に。

 

「な、なあ…()()は、どう証明すれば良いと思う?」

「そりゃあ…なあ」

()()、だよな」

「ああ…()()だ」

 

 奴隷兵達は悍ましい現場から目を逸らすように振り向き、自分達の後ろで理不尽な命令をがなり立てる獣国軍(侵略者)の兵士たちを見る。

 奴隷兵達達の手には粗末な槍のみだが、徴兵された下級兵でしかない監督役の獣国兵達もそこまで上等な武具は有していない。

 

「な、なんだお前達その目は! さっさとっ!?」

「ヒッ、や…っやめ!」

 

 監督役の兵士達の腹に、喉に、粗末な槍が突き刺される。

 

「おい、この首は俺のだ!!」

「身体の一部でいいからよこせ!!」

「くそ、バラバラにしちまえ!!」

 

 まるで地獄の()()の如く奴隷兵達は獣国兵の身体(潔白の証)を奪い合う。

 

「ヒッ、ひぃぃ!?」

「お、おい逃げるぞ!!」

 

 生き残った監督役の兵士達は慌てて本隊へ逃げ出し──

 

「待てぇ!! 逃げるなぁ!!」

「殺せ! 殺して一部でも良いから身体を奪えぇ!!」

 

 出遅れた奴隷兵達が新たな生贄を求めて獣国兵の身体(免罪符)を追いかけ始めた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「なんという事だ…」

「申し訳ありませんボーノ将軍。“顔無し”を…“カナンの騎士”の悪辣さを甘く見ていた私の責任です」

 

 銃声が鳴り響いてから半日足らず、既に日が暮れかけた森の中でボーノ将軍は自軍の惨状に頭を抱える。

 

「およそ1000人いた奴隷兵は全て()()しました。しかしその発端となった反乱及びその後の鎮圧で徴集兵にも同程度の死傷者が発生しています」

「…逃げ延びた奴隷達もいたようだが」

「不思議と…でもありませんね。あの悍ましい首塚を避けようと逃げた奴隷兵は森に入った様です。まあ、ろくな装備も食料もない連中が森の中でどうなったか、把握のしようがありません」

「なるほど…」

 

 余計な手間を増やしてくれた奴隷達に同情は無いが、それでもアレク()が仕掛けた悪辣な罠に嫌悪感を隠すことなく、ボーノは眉をしかめる。

 

「それで、()()は?」

「暴動の始まりと共に“白銀の戦姫”が率いる騎兵による襲撃を受けましたが、襲撃が少数によるものだったことと守りを固めていた事、それに荷車を分散して配置していた事で損害は軽微です」

「また、皮肉な事ですが()()が減ったので作戦行動に必要な量は変化無いかと」

 

 参謀達の顔は疲れ果てているが、それでも最悪の事態は防げた達成感で僅かに口調は軽い。

 

「たが、丸一日足止めを喰らった上に兵数が2割も失われた訳か」

「ボーノ将軍、確かに損害は大きいですが逆に言えば()()()()()を整理する事が出来たとも言えます。来たるべき“顔無し”との戦いでより柔軟な戦闘が可能かと」

「…そう信じるとしよう。少なくとも、勝たねばこの失態は取り戻せぬのだ。たとえどれ程の犠牲を払おうともな」

 

 まともに戦う前に一方的に損害だけが嵩んでいるため、このまま逃げ帰ればボーノは間違いなく失態の咎で降格か、最悪の場合処刑されるだろう。たかだか奴隷や徴収した農民兵の為に死ぬなど御免なボーノは、例え全滅に等しい損害を受けようと“カナンの騎士”(アレク)を討たねばならない。

 

「今日はこのまま陣を張る。明日の早朝までに軍容を整え、慎重かつ可能な限り迅速に森を抜けるぞ」

「「「ハッ」」」

 

 ボーノの指示に、参謀達は恭しく頭を下げた。

 

 

 

 

 





大好きな漫画が打ち切りほぼ確定で執筆の気力が湧きません…
取り敢えず来週までは続きが書けそうにないのでキリの良い所で投稿しました……
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