※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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135話 第二次イメーム丘陵の虐殺

ーーー征服歴1501年4月 スペイサイド州北西部 イメーム丘陵ーーー

 

 奴隷兵達の反乱により兵力を擦り減らした獣国軍は、連合王国軍の奇襲を警戒しつつも迅速に森林地帯を突破しようと試みた。だがその心理を逆手にとるようにアレクの設置した悪辣な罠により行軍速度が乱れ、結局当初の予定より6日遅れてイメーム丘陵に到達した。

 

 それはアレク率いる龍驤大隊が野戦陣地設営に必要と予定した期間より2日長く、それは即ちより頑強かつ徹底した迎撃準備の完成を意味していた。

 

「…前線の損害は?」

「先鋒を任せたトパ千人将戦死、率いた千人隊も壊滅したためルム千人将率いる第2陣を突撃させましたが既に半壊しています。前線だけでなく後衛も混乱し正確な被害集計は困難です」

「だろうな…」

 

 ボーノ将軍は自分達の軍の()()に降り注ぐ()()に顔を顰め、それでも軍の士気を保とうと平静を装う。

 

「敵軍は街道北側の丘陵を要塞化しています。二重の堀が丘の全周を覆っていますが、一部はおそらく意図的に途切れています。そこを通る場合隊列が細くなり()()の的になります」

「堀の下には尖らせた丸太が刺してあり、落ちると串刺しです」

「また、南方の丘に敷かれた陣地からの砲撃ですがどうやらあの場所から森林地帯の出口まで射程に納められているようです」

「連中の指揮官は間違いなく性格が歪んでいるな。こちらを適度に引きつけてから後列を砲弾で叩き始めるとは…」

 

 森林を突破し、一気呵成に龍驤大隊の陣地を攻撃しようとしたボーノ率いる獣国軍は、一見すると工事が完了していないように見えた堀の途切れ目から攻撃を仕掛け大損害を受けた。

 それならばと堀に丸太や木の板をかけ乗り越えようとすれば、わざと脆く作られた土手の部分が崩れ兵士が落下し、軍全体が前のめりになった事でより後方に設置されていた大砲に痛撃を受けた。

 

 そして本陣を下げようとした矢先に、今度は前衛ではなく後衛に砲弾を叩き込まれ、前にも後ろにも進めなくなった獣国軍は砲弾に怯えながら次の方針を検討するが、現状でまともな手など打てはしない。

 

「南側の陣地は攻撃出来ないか?」

「そちらも一重ですが堀が作られています。北側に切れ目がありますが、そこを通ると言う事は敵本隊に軍の側面を晒すことになります」

「堀を越えるのは?」

「資材が足りません。後方の森から伐り出そうにも…」

「兵が動きたがらないか」

「下手に向かわせると逃散します」

 

 ボーノ率いる本隊が睨みを利かせなければ、前衛は前に進まず後衛は逃げようとする。

 そもそも撤退しようにも戻るだけの兵糧は無く、ボーノとその直属の部下だけが逃げ延びたとしても彼に未来は無い。

 

 文字通り進退窮まった状況で、ボーノは悪手と分かっていながらも唯一の打開策を実行する。

 

「様子見する余裕も敵の陣地に弱点を見いだす余裕もないか…」

 

 ボーノは愛馬に跨り、愛用の矛を掲げ銃声や砲撃音に負けない大音声で宣言する。

 

「全軍突撃せよ!! あの程度の堀、味方の死体で埋めて突き進めぇ!!!」

 

 犠牲を顧みない力押し、それが彼に許された唯一の勝ち筋であるが故に。

 

「見事だ”顔無し“、否、7代目”カナンの騎士“。だが貴様の軍略など、この私が喰い破ってみせよう!!」

 

 敵を称賛し、己を鼓舞してボーノは絶死の戦場へ身を投じた。

 

 

 

 ボーノは決して軍人として無能ではなく、部下の統率も良好で、そして己の足らざる部分を素直に聞く度量も持ち合わせていた。

 だが、彼に足らざる部分があったとすればそれは知識と経験。

 

 彼が相手をした敵が、そもそも単に優れた野戦指揮官に率いられる精鋭部隊という訳では無いと、獣国という狭く閉ざされた国では知ることが無かったという点に尽きる。

 

 

 

 

「ここで総攻撃ですか。どうやら敵の指揮官は勇気と決断力には不足しないようですね」

()()()()、第一陣を下げて引きつけろ。坂を登って勢いが落ちた時点で反転攻勢」

「ハッ」

 

 獣国が行う決死の攻勢に対して、大隊首席参謀であるケルビム大尉は素直にその判断を評価し、アレクは教本や演習で何度と無く繰り返した指示を伝令に伝える。

 

「射角の調整も終わったようですね、敵の最後尾を撃たせましょう」

「ジャッカード少尉は上手くやっているようだな」

「クルト君…ジャッカード少尉は勉強熱心ですし数字に強いので任せましたが、どうやら砲術は性に合ったようですね」

 

 南側の丘で、接収した大砲の指揮を任されたカイトの弟であるクルト・ジャッカード少尉に対して、珍しくアレクが素直に評価しケルビム大尉も感嘆したように笑う。

 

 呑気そうに話しながらも、アレクとケルビム大尉、そしてハワード大佐の連隊に所属する参謀は戦場が見渡せる位置に用意された折りたたみ式の机を囲み、精密に作られた地形図に戦況を投影出来るよう配置された駒を動かしながら、戦場の動きを分析し続けている。

 

「とは言え、大砲を使っている以外はもう教本通りの指示しか出せないか?」

「そうですね。相手は歩兵中心ですし状況をかき回せる騎兵はもうリガール大尉が瞬殺してしまいました。後は前線への弾薬の補給を滞らせず、綻びを適宜予備隊で繕う程度ですね」

「ハワード大佐のお陰で、追加の補給が届いたのは有り難いな」

「感謝しろよ〜…主に俺の土下座交渉を」

 

 連合王国は大陸で最も組織化された軍隊である。

 それは高度な兵站組織や、充分に訓練された下士官による柔軟な部隊運動のような表面的な物に留まらない。

 

 連合王国軍が建軍されてより連綿と積み重ねられた戦訓は、その歩みと同じ時間をかけて研究され尽くし、それはこれから指揮官となる士官達へフィードバックされ続けてきた。

 研究および教育を行う軍大学は、他国であれば抽象的かつ哲学的な文学作品となる兵法書や経験則を完全にマニュアル化させ未来の指揮官達へ教え込んだ。

 特に、野戦築城及びその防衛戦は連合王国北方の草原地帯において騎馬民族と死闘を繰り広げた歴史から戦訓の積み重ねが膨大であり、その恩恵により一度形が出来てしまえばこの時代で最高峰の野戦指揮官であるアレクをしてほぼ手を出す必要が無い程に戦法が確立している。

 

「ハワード大佐に感謝を込めて、特別にウォーカー少佐向けの講義を一緒に受けて頂きましょう」

「なんで!?」

「有り難い、頼む」

 

 野戦昇進を繰り返したアレクは、本来なら軍大学で学ぶ様々な戦術や理論をすっ飛ばし一部独学で学んだ程度なため、教官の資格を有するケルビム大尉に隙間時間(殆ど無いけど)で講義を受けている。状況はハワード大佐も同じなので、彼の意思と関係なく強制的に教育される事となる…が。

 

「あ、おい敵が崩れたぞ!?」

「逃げましたね?」

「逃げたな」

 

 目ざとく、突出した獣国が教科書通り矢と銃弾の十字砲火を受けて潰走したのを見咎めたハワード大佐が戦場を指差す。

 

「もう少し引きつけられたか?」

「マスケット銃を使っているのは元龍哮大隊の兵ですので、命令の伝達に遅れが出ましたね」

「獣国は味方を踏みつけて進んでいるな」

「あれ、動きが鈍りませんか?」

「鈍るぞ。それにああいう連中は頭に血が登っているから良い的だな」

 

 まだ生きている味方を踏みつけ進もうとした獣国兵達は、矢継ぎ早に巻き込まれる矢と鉛玉に死体の山を築いてゆく。

 

「まだ獣国軍の士気が折れていないのでハワード大佐は減点です」

「どうする? 走らせるか?」

「邪魔なので腕立て伏せにしておきましょう」

「俺大佐だよなぁ!?」

 

 適度にハワード大佐を虐めつつ、アレクは武具と鎧を確認し準備を整える。

 

「さて、敵の指揮官が前に出てきたな」

「撃ち殺すと捕虜交換の駒が無くなるので生け捕りでお願いします」

「善処する。銃兵と弓兵を一段下げておけ」

 

 アレクは用意された騎馬に跨ると、死体と半死人の敷き詰められた斜面で足を取られ立ち往生する獣国軍の将軍を捕らえるため、本陣から出撃した。

 

 

 それから1時間足らず、指揮官が首の代わりに両腕を斬り飛ばされ捕虜になった事で完全に士気が折れた獣国軍は降伏した。

 

 その時点で生存者は2000を切り、逃散した分を含めてほぼ全滅しイメーム丘陵のふもとを死体で埋め尽くした。

 

 

 





ネタが分かる人向けのネタ

ハワード大佐「来年は豊作かな?」
ケルビム大尉「ちゃんと処理しないと大量の死体は土壌を傷めるのでむしろ不作です」

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