おっさんが話してるだけで終わるR-18小説とは…?
というほぼ説明会なので読み飛ばしても構わないです
ーーー征服歴1501年 獣国軍砦 ーーー
砦に用意されたエイブ・クッゴイ将軍の執務室は、書類の代わりに大量の酒瓶と食事で埋め尽くされ、そしてその大半が部屋の主の胃の中に消えた。
「ご相伴に預かれて光栄ですがぁ、私は食が細いのでこれ以上は遠慮させて頂きますねぇ」
「おう、では残りは貰うぞ!!」
そして残りの一部を消費していたクッゴイ将軍の同僚にして友人であるハッフィ・ツイーガ将軍は、早々に食事を終えて酒瓶から空のグラスに酒を注ぎ、二人の間に置く。
それを見たクッゴイ将軍は一旦食事を止め、手に持った酒瓶からツイーガ将軍のグラスへ酒を注ぐ。そして自身はまだ半分ほど中身の残った酒瓶を掲げる。
「では、雄々しく散ったボーノに」
「…死んだ訳ではないですがぁ、まあ捕虜交換で戻っても末路は変わりませんかぁ。では、我々の命令を忠実に実行してくれたボーノ将軍へ」
「「献杯を」」
2人は神妙な顔で、敗北し将来の死が確定したボーノ将軍へ献杯を捧げる。必要なら軍人としていくらでも冷酷に、そして他者に対して必要なだけ残酷になれる2人だが、その顔には己の全霊を賭して戦い敗北したボーノ将軍への確かな敬意があった。
イメーム丘陵での戦闘から丸一日、既に獣国軍の完敗は彼らに伝わっている。ボーノ将軍の部隊に配置されたツイーガ将軍の部下により、その詳細も含めて。
酒瓶の中身を全て飲み干したクッゴイ将軍は深く溜息をつき、目をかけていた部下の敗北を哀れむ。
「あやつには無理をさせ過ぎたかのお…無くして惜しくは無いとは言え、十分な戦力は与えたんじゃがな」
「事前に手に入れた情報と比較してぇ、”顔無し“の戦力が多かったみたいですからねぇ」
「お主、
「そのはずだったんですがぁ、その想定の倍はいたのはぁ私の失態ですねぇ」
同僚のミスを咎めると言うよりも、純粋に心配する様なクッゴイ将軍の疑念にツイーガ将軍が苦笑で応える。獣国の諜報を担う暗殺兵団の長とは言え、まさか龍哮大隊に連合王国の第三王女がいるなど想像の外であったし、それを回収する為に丁度良く連隊(非充足であり2個大隊規模)が送り込まれそれがタイミングよくカイトの敗北とバッテイングするなど神ならぬ身では想定など出来はしない。
「それにぃ、あの尋問はぁ”顔無し“の情報を得るのが目的では無いのはご説明したでしょう?」
「あー…そうじゃったかの? そもそも儂は上手いこと
謀略と情報戦を得手とするツイーガ将軍に対して、クッゴイ将軍がその地位にいるのは彼が戦場の勇者だからである。故にこそ、己の不足を補助してくれるツイーガ将軍には恩もあるし、その頼みであれば引き受けてくれる。
ツイーガ将軍もその事は理解しており、クッゴイ将軍が理解できる範囲で今回の敵味方双方にとっての戦略的奇襲の意義を説明する。
「お分かりかと思いますがぁ、
「一応、略奪で大分儲けたはずじゃろう? ゾートの小僧やそれにあやかる連中は大分羽振りが良かった気がするがの?」
「その極一部の為に浪費された資産は目を覆うばかりですよぉ…帝国に対する膨大な借金のカタに、我が国の主だった鉱山や重要な交易路が差し押さえられていますしぃ?」
「儂は国の金勘定なんぞ分からん。少なくとも帝国が味方なら問題なかろ?」
「いいえぇ…帝国は
「…ふむ?」
酒を舐めながら、ツイーガ将軍は忌々しそうに吐き捨てる。
「あの国が我が祖国に望んでいるのは、連合王国への盾ですよ。我が祖国の国土を城壁とし、連合王国の恨みをそらす生贄としてのみ、帝国は我が国の存続を許容しています」
普段の戯けた口調は形を潜め、ツイーガ将軍の目に乾いた侮蔑が浮かぶ。
「帝国も連合王国も、もはや我が国を見ていません。我が国を通して、いかに戦後の秩序を組み立て直すかのみを考えている。賭けても良いですが、わが国が崩壊したとしてもその国土を占領することなく放置しますよ。
諜報機関の長として、他国の情勢に精通するツイーガ将軍は理解している。大国の狭間に生きる国の悲哀を。生殺与奪の権を他人に握られる屈辱を。
そんな友人の姿を、クッゴイ将軍は意外そうな顔で眺める。
「珍しいの。お主は国が滅ぶなら笑って自分だけは助かるよう手を打つ人間だろうに」
「それはそうですがねぇ…まあ私にも意地がありますのでぇ。それに…」
ツイーガ将軍がニヤリと口の端を吊り上げる。
「私、帝国が嫌いなんですよ。連合王国と同じくらい」
「ガハハ、気持ちは分かるがのお!」
「アッハッハァ、そう言って頂けて嬉しいですよぉ…っと、話が逸れましたねぇ。
「ふむ…?」
何故連合王国の士官を捕らえることが帝国への嫌がらせに繋がるのか、理解できないクッゴイ将軍が首を傾げる。
「帝国も連合王国も、表向きは兎も角本心では我が国を見下しています。過去の栄光に縋る衰退した後進国だと」
「業腹じゃが、否定はできんの」
「ええ。腹立たしいですが彼らの分析は非情な程正確です。今我々がこうして連合王国の国土を一時的にでも奪えたのすら、我々の実力ではなく帝国のお膳立てによるものだと看破される程度には…だからこそ、
「その為に、連合王国の
「それが
そう言ってツイーガ将軍は人差し指を立てる。そして次に中指を。
「そして
「……ふむ?」
「帝国と連合王国は、いずれも大陸有数の国力を持ちます。それは単なる国土の広さや人口だけでなく、保有する
国力の基幹となる農業技術からして、獣国のそれは帝国や連合王国と100年近い格差がある。そして土地に比して養える人口が多ければ多いほど、それを元手に様々な産業が芽吹きその格差が広がってゆく。
「かつて我が祖国の偉大なる建国王は、
「…そりゃ伝説じゃろう? 本当に未来が分かるなら、あんなあっさり死にはすまい」
「ええ…ですので正確には
ユスティア獣王国の建国王、カイ・ヤーナゼ・ユスティアの出自ははっきりと分かっていない。歴史の中で突然頭角を表し、時代にそぐわぬ卓越した知見と武力によって群雄割拠のユスティニア地方を統一した稀代の大英雄だったと表向きの歴史は語る。
そして極一部、例えばカイが組織した諜報組織”ヤーナゼ
即ち、建国王カイの生み出したとされる多くの技術は遥か未来において既に実用化されたそれである…と。
「歴史上、カイ陛下と
「最後は随分格が落ちるのう」
「別世界の知識を有するだけで英雄になれるほど世の中は甘くないと言う事です。カイ陛下も最後は連合王国の真なる英雄に討たれましたしね」
建国王カイは、その栄光の只中で連合王国の大英雄、初代”カナンの騎士“に敗れた。一刀の下に首を刎ねられ、その命脈が絶たれた事が獣国の衰退に直結した。
「過去の栄光は所詮はもう終わったことです。取り戻そうとする無様もまた、我々は知っています」
「そうじゃの」
「ですが、今回はその栄光の残滓を利用します」
ツイーガ将軍はグラスに残った酒を飲み干し、クッゴイ将軍は先を促すようにそのグラスに酒を注ぐ。
「我が暗殺兵団に残った資料に記された、戦場を一変させる異界の兵装…英雄道化がかつて英雄と持て囃される端緒となった
「…成る程のお」
「英雄道化の心は折りました。例え連合王国の機密と言えど、今なら喋ります。例え我が国で再現不可能だとしても、その情報を有しているだけで
現在大陸で、
「ボーノ将軍のお陰で時間は稼げました。後はのらりくらり捕虜交換の交渉を長引かせ、出来れば英雄道化殿には我が国に亡命してほしい所ですね」
「そこまで上手くいくかの?」
「王族を捕虜に出来たのは驚きでしたが交渉材料にはもってこいです。あの哀れなお姫様を取り戻すだけで、他の捕虜を取り戻す余裕が無くなりますよ…
含みを持たせたツイーガ将軍の言葉に、クッゴイ将軍が片眉を吊り上げる。
「帝国の間諜がこの軍に探りを入れている様です。それに連合王国への働きかけも」
「ふぅむ、捕虜交換ではなく力尽くで奪還に来るつもりかの?」
「”顔無し“だけならボーノ将軍の軍を撃退したら痛み分けで引いてくれたかもしれませんがぁ…帝国からしても我々がお姫様を捕らえたままだと戦争が長引くから何とか連合王国に取り戻させたいのでしょうねぇ」
「ほぉ…では来るのか、連合王国の新たな英雄が」
「どうやって来るかは分かりませんがねぇ…正面から堂々と軍を率いて来るのか、奇襲を仕掛けて来るかはたまた奇策を打ってくるか」
骨付き肉を骨ごと噛み砕きながらクッゴイ将軍は獰猛に笑い、ツイーガ将軍は皮肉げに笑う。
「言っておきますがぁ、”顔無し“と正面から戦うのは止むを得ない場合以外は控えて下さいねぇ? 貴方を失うとぉ、戦後の我が国は本当に成り立たなく成りますよぉ?」
「分かっておるわい……お主も死ぬなよ?」
「………承知していますよ」
友の言葉に間を置いてからようやく答えると、ツイーガ将軍は席を立つ。
「それではぁ、私は仕事に戻りますよぉ。可能な限り防衛体勢は整えますのでぇ、いつも通り現場の指揮はお任せしますねぇ?」
「うむ。任せておけ」
ツイーガ将軍を送り出し、クッゴイ将軍は英気を養う様に残りの酒と料理を胃に収める作業に戻った。
余談:
クッゴイ将軍のモデル→オフレッサー上級大将