※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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138話 闇落ち美少年

ーーー征服歴1501年4月 スペイサイド州北西部 森林地帯ーーー

 

 龍驤大隊に方面軍司令部より第三王女救出命令が下されてから3日後、獣国軍2万が展開する砦へと()()()()()()()()を中心とした3個中隊約500(人員損耗により非充足)が進軍していた。

 この集団を先導する様に、禍々しい竜の仮面を纏う()()()()()()()アレクサンダー・ウォーカー少佐が先頭を進んでいる。

 

「ウォーカー少佐、少しよいだろうか?」

「どうした、()()()()()()()?」

 

 アレクの騎乗する白馬に己の乗騎を寄せたのは、龍哮大隊の副長であり大隊長不在の今は実質的な指揮官のルリシアだった。

 

「索敵に出した兵が獣国の斥候と接触したと報告があった。しかし、今の我が隊にはほとんど騎兵がいないため取り逃してしまった…出来れば索敵の兵を増やすか、後方に伝令を出して龍驤大隊から騎兵を融通して欲しいのだが…?」

「騎兵には別の任務を与えているから無理だ。敵の斥候については周辺警戒の兵を増やして対応してくれ」

「だ、だが騎兵がいないと敵の斥候が逃げ帰りこちらの情報が筒抜けになる! こちらの陣容が知られれば…」

()()()()

 

 食い下がるルリシアの嘆願を、アレクは取り付く島もなく切り捨てる。

 

「奇襲に対する備えだけ怠らなければそれで構わん。連中はこの森で散々な目に遭っているから余程こちらが油断しない限りは仕掛けてこない」

「な…だがそれでは森を出た所で待ち構えられるだけだ!! いくら貴殿がいるとは言え二万の敵相手に我々だけでは!!」

「改めて言うが、()()()()。以上だ」

 

 アレクは心底どうでも良さそうに話を打ち切ると、視線を前に向けた。

 ルリシアは逐次たる思いで馬首を返し、部下の元へと戻ろうとして()()()()()()()()()に絶句した。

 

「っ…!?」

 

 兵士達の悲嘆、失意、諦念、絶望。それはルリシアを責める気力すら喪失した、ただ只管状況に流され逃げることすら辞めた屍達の視線だった。

 ルリシアの口から、嘆きが漏れる。

 

「何故だ……どうして、どうしてこんな事に……」

 

 馬上のルリシアはほんの一日前、獣国に捕らえられた第三王女アイネ救出作戦、その先鋒としてアレクと共に獣国軍に占拠された砦へと行軍することを命令された時の事を思い出していた。

 

 

 

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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 敗走した龍哮大隊の残存兵を龍驤大隊まで引率したルリシアは、疲労と安堵から気絶し、引き継ぎもままならないまま野戦病院へと搬送された。

 龍哮大隊の敗残兵はそのまま龍驤大隊の野戦築城へと動員され、銃兵技能を有する者についてはイメーム丘陵での戦闘においても最前線で戦闘を行い慰霊祭でも龍驤大隊大隊長アレクより賞賛も受けた。だが敗残兵達の大半は敗北による失意や恐怖から最前線に立つことは出来なかった。

 

 

 

 そして、後に第二次イメーム丘陵の虐殺と呼ばれる戦いの間、ルリシアは龍驤大隊本陣に設定された野戦病院の簡易ベッドで寝込んでいた。

 そして戦闘が終了し慰霊祭も終わった後、若い士官が彼女の天幕を訪れた。

 

「お加減は如何ですか、ルリシア義姉様?」

「…まだ私を義姉と呼んでくれるのですね、クルト殿」

「義姉様には色々お世話になりましたので。敬語も結構ですよ?」

 

 疲労で青白くなった顔に皮肉げな笑みを浮かべるルリシアに、彼女の夫の弟、ジャッカード公爵家の三男クルトが品の良い笑みを返す。

 そしてクルトは持参した紅茶のカップをルリシアへ渡す。

 

「どうぞ、少し冷めていますが」

「…ありがとう、クルト」

「アルバートさんが茶葉を分けてくれて助かりました。大隊だと紅茶党が僕とアルバートさん位しかいなくて調達が大変なんですよ?」

「アルバート…ケルビム大尉か」

 

 かつてカイトの下で共に戦ったケルビム大尉が、今はカイトを打ち倒したアレクの下で働いている事にルリシアは唇を噛む。

 それでも、香りの良い紅茶を口にすれば口元が綻び安堵のため息が漏れる。

 

「相変わらずアルバート殿の選ぶ物は質が良いな」

「目利きが本職顔負けですからね。軍人を辞めても仕事に困らないと自慢してましたよ」

 

 美味しいお茶と共通の話題に、険しかったルリシアの顔が次第に柔らかくなってゆく。 

 そんな義姉にクルトは頭を下げる。

 

「忙しくて見舞いに来れなくてすみませんでした」

「いや、本来なら私も陣頭で指揮を執らねばならなかったんだ。むしろ私の方が謝るべきだろう。カイトの…龍哮大隊の兵達とこの大隊の橋渡しもクルトとアルバート殿が尽力してくれたと聞いているし」

「僕は大した事はしていませんし、実際のところはウォーカー少佐の名前を使って脅したようなものですよ」

 

 実兄の名を聞いた時だけ、品の良い顔に僅かに陰の差したクルトだが、アレクの名を出した際にはそこに確かな敬意が込められていた。

 

 そうやってしばらく他愛もない雑談を続けた所で、クルトが()()を切り出した。

 

「ところでルリシア義姉様、確か撤退中ウォーカー少佐に()()()()()殿()()()()()()()()()()そうですね?」

 

 穏やかな声音も、品の良い表情も変えることなく、しかし次兄(カイト)と同じ蒼い瞳に深淵の如き闇を宿したクルトが尋ねる。

 

「……っ、ああ」

 

 可愛がっていた義弟の、しかしもはや過去と変わり果てた内面に僅かに怯えながらルリシアは頷く。

 事実、彼女は龍哮大隊の敗残兵を逃がそうとしながら同時に、全く真逆の頼みをアレクに行った。冷静に考えればあの場で斬り捨てられてもおかしくない、恥知らずとすら言える頼みを、己の何よりも優先してしまった。

 

 そんな彼女の心境を察してか、それとも気にしていないのか、クルトは天使の様に整った顔立に常と変わらない品の良く、そして冷たい笑みを浮かべる。

 

「そうですか。()()()()

「何…を?」

「では、ルリシア義姉様も()()に協力頂けますね?」

「え…え?」

 

 蕩ける様な笑みを浮かべながら、目だけは深淵よりなお深き闇が浮かぶ美少年がルリシアの手を取る。

 

()()()()()()()()()()()()()()()殿()()()()()()()ではルリシア義姉様も働いて頂きます」

 

 

 クルトは心底嬉しそうに微笑む。

 

 それは尊敬する大隊長(アレク)戦務参謀(アルバート)から任された仕事を無事達成できた喜びであり、そこにルリシアの苦悩や、助け出されるべきカイトやアイネへの気遣いは欠片も含まれていなかった。

 

 

 







目のハイライトが消えた美少年は好きですか…?


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