ーーー征服歴1501年4月 スペイサイド州北西部 旧龍哮大隊駐屯地ーーー
龍哮大隊が獣国軍に占拠された砦を攻略するために設営した駐屯地は、龍哮大隊を撃破した獣国軍により徹底的に略奪及び破壊された。
とは言え本来なら駐屯地に集積されているはずの食料や火薬は既に枯渇していた為、金品などは兎も角、3万もの大軍である獣国軍を養うには全く足りなかった。
だが策源地から遠く補給線も細いこの地に大軍を長く留める事は、連合王国と異なり兵站機構が貧弱な獣国軍にとっては大きな負担であり、
なので今、獣国軍は困惑していた。
交渉の前に何故か連合王国軍が砦の近傍までやって来た事に。
そしてその連合王国軍が、僅か500程度しかいないことに。
何よりも、平然と野営地を設営し始めた連合王国軍とそれを十重二十重に包囲する獣国軍の真ん中で折り畳み式の椅子(背もたれ&手動リクライニング機能付き)で寛ぐ
「一応確認なのですがぁ…アレクサンダー・ウォーカー少佐で間違いないのでしょうかぁ?」
「そういう聞かれ方をされると自信が無くなるな。顔は昔の原型をほぼ留めていないし、古馴染みの友曰く声も変わったらしい。俺は本当にアレクサンダー・ウォーカーなのだろうか…?」
「それ私がどう答えても角が立つ話題ですねぇ……」
そんな困惑の極みに立つ獣国軍を代表して、連合王国軍との
因みに、ツイーガ将軍の後ろには護衛の兵士が緊張しながら控えているし、アレクも流石に椅子から立ち上がっている。ついでにルリシアもまた、アレクに一人で対応させるのは体面が悪いからと部下達の制止を無視して慌てて陣地から飛び出してきた。
そしてなんとかアレクの韜晦を受け流したツイーガ将軍が、改めてアレクへ確認する。
「それでぇ、名高き七代目”カナンの騎士“殿がこの様な場所に何の御用でしょうかぁ?」
ツイーガ将軍の後ろで獣国兵が武器を構える。ルリシアもまた、一応は現在の上司であるアレクを護ろうと剣を抜こうとするがアレクに制される。
そして明らかに命の危機であるにも関わらず、アレクは腰に佩いたカタナに手を掛ける事もなくヒラヒラと手を振る。
「なに、大した用じゃない。単なる
「成る程ぉ、バカンスですかぁ……………ばかんす?」
人を喰った態度と言動が剥げ落ちたツイーガ将軍が、ポカンとした顔でアレクの言葉を繰り返す。
そんなツイーガ将軍の姿を見て特に何か感じた風もなく、むしろ困った様な態度でアレクが頷く。
「ああ…ちょっと前に獣国軍を壊滅させたんだが事後処理を頑張りすぎてな」
「……えーっと?」
「本当なら1週間はかかる書類仕事をさっさと終わらせようと丸一日で終わらせたんだが」
「は…はぁ」
「部下達に怒られた」
「……うん?」
「いやまあ俺も少し悪かったと思ってはいるんだ。確かにちょっと徹夜したし、仕事が遅れている部下の仕事も引き受けて何人分が纏めて終わらせたし、それに巻き込まれて他の部下まで徹夜を強要してしまったのは申し訳なかったし反省もしている」
「………何の話でしたっけ?」
「まあそれで部下達に休暇をとってくれと強要されたんだ」
「……………?」
ツイーガ将軍は助けを求めるように
「一応俺の分の仕事は一通り終わったし、せめて部隊の再編や交代部隊との引き継ぎなり何なりが終わるまで休んでいてくれと言われてしまってな?」
「え、この話続くんです?」
「それでまあ、前回の戦闘で戦意が無かった連中の
「あのー…」
「訓練だし多少は緊張感ある場所な方が良いと言う事でこの場所に来た訳だが…迷惑だったか?」
「帰ってください」
「え?」
「いや何で予想外だみたいな顔するんです!?」
完全に素の口調でツイーガ将軍がツッコミを入れる。
「ほら貴方の部下を見てください。”そんな話聞いてない“って顔に書いてありますよ!?」
「言ってないからな」
「「言えよ!?」」
共通の敵は相争う人間同士を団結させる。
「ウォ、ウォーカー少佐…貴殿はアイネ殿下とカイトを救出する為にここに来たんじゃ無いのか!? その為に私達を連れてきたんじゃ無いのか!!?」
「一応方面軍司令部にはそういう名目で行軍した事にはするが、所詮は行軍と陣地設営訓練だぞ。何でわざわざまともな報償も援軍も無いのにそんな事をしなければならないんだ?」
「なっ……!?」
激昂するルリシアの言葉を、”何いってんだこいつ“という顔で(仮面で表情は分からない)アレクが切り捨てる。
「あの…ここ一応貴方達にとっては敵地で危険地帯なのでは? 我々がその気になればこの程度の野営地を殲滅するのは訳ないですよ…?」
「
「………言いますねぇ」
”出来ない“ではなく”やらない“と断言するアレクに、ツイーガ将軍は苦笑する。
『既に
『……貴様、どこまで私の部下から情報を絞った?』
『絞れるだけ。売るほど来たからな』
流暢な
「
「そうですかぁ…
「構わないさ。好きにすると良い」
互いに穏やかな口調で、しかし互いの間で濃密な殺気を交錯させた2人は交渉を終わらせる。
アレクは折り畳み式の椅子に座って従卒からコーヒーを受け取り、ツイーガ将軍は部下に撤収を命じて踵を返す。
そこで何歩か歩みだしてから、ふと疑問を抱いたツイーガ将軍が振り向きアレクに尋ねた。
「ところでウォーカー少佐殿、
「え…?」
「え…………?」
連合王国における有給休暇の消化義務について説明を受けたツイーガ将軍が、自国と比較してあまりにも文明化度合いが違うことの衝撃から膝から崩れ落ちる一幕があったが、ここでは割愛する。
そうしてその日は日が沈み、森からは