ーーー征服歴1501年4月 スペイサイド州北西部 旧龍哮大隊駐屯地ーーー
アレク達を包囲する獣国軍へ、連合王国軍の陣地から銃撃が加えられる。
とはいえ、連合王国軍の陣地と獣国軍の包囲網は200m程度離れている。これは近すぎれば互いに
この距離間であれば弩弓やマスケット銃もまともに当たらないため、日中の獣国軍は警戒しつつも身の危険は感じていなかった。
だが、日没と共に開始された獣国軍砦への擾乱射撃はその余裕を打ち砕いた。
そして連合王国軍の拠点から聞こえ始めた銃声により、
発射された弾丸の殆どは獣国軍に届く前に地面に落ちる。だが偶然質の良い銃から放たれた弾丸が数発だが獣国軍の兵士に当たり、運の悪い兵士が絶叫と共に致命傷を受ける。
そして混乱はさざ波のように中央へ、そして次第に右翼側へと伝わってゆく。その混乱を徐々に増しながら。
「無人の野を往くように…とまではいきませんが拍子抜けですかね?」
「混乱していると軍服も鎧も違う兵士が紛れていても案外バレないものだからな。堂々と軍旗まで掲げてるのに素通りになったこともあるぞ?」
「試したんですか」
「…部下の悪ノリでな」
そんな混沌とする獣国兵の海の中を、アレクとジーバオが呑気に会話しながら駆け抜ける。気合を入れるために刀を抜いたは良いが、そもそも包囲する軍をすり抜けるだけなら相手を殺す必要が無いなと正気に戻ったアレクは刀を鞘に収め、まるで将軍とその従者のように堂々と獣国軍の中央を突っ切ってゆく。
「…この仮面目立つよな?」
「暗くなった直後でまだあんまり明かり点けて無かったみたいですしねえ」
こうなるよう獣国軍の油断と混沌を誘発したアレクだが、ちょっと上手く行き過ぎて逆に心配になりジーバオと顔を見合わせる。
「まあ良いか。流石に砦に入ればのんびりしてはいられないな」
「ですね…そろそろ包囲を抜けますが、本当にやるんですか?」
「ああ、擾乱射撃もあと一斉射で終わる。行くぞ!」
「了解です。うーん、これ後で仲間に言ったら正気疑われそうだなあ」
ジーバオはこれからアレクと、そして自分が行う作戦が端から見ると正気の沙汰では無いことを自覚しながら、アレクに歩調を合わせて乗騎を加速させた。
そして急速に獣国軍の砦が、その砦を囲う城壁が近づく中アレクが苦笑する。
「流石はジャッカード少尉、良い腕だな」
砦を囲む城壁の一部が砲弾の直撃によって崩れていた。とは言え城壁は高く、いくら常人より高い身体能力を持つアレクとジーバオであってもジャンプで飛び越えられる程度ではない。
ただし、
「槍」
「はい」
手を出したアレクに、ジーバオは馬にくくりつけていた鉄製の槍を渡す。
アレクは砦まで全速で馬を駆けさせながら、城壁へ槍を投擲する。騎馬の速度にアレクの膂力が加えられた槍は砲弾の如き速度で飛翔し石造りの城壁に突き刺さる。
「次」
「へい」
それが二本。
「次」
「ほい」
三本。
「次」
「これで最後です」
四本。
突き刺さった槍はまるで階段の如く、斜め等間隔に崩れて少し低くなった城壁の手前に突き刺さる。
「さて、行くか」
「行きますかあ……うわあ綺麗に等間隔だなあ」
逆茂木の埋められた堀を軽々飛び越えた2人は、勢いのまま乗騎から跳躍し鉄製の槍を足場に城壁を駆け上る。
「僕は密偵であって東の島のシノビじゃ無いんですけどねえ?」
「似たようなものでは?」
「違いますよ!?」
流石にジーバオも印を結べば分身したり火や水を操る妖術は使えない。当然アレクも使えない。そしてこの世界のシノビも多分そんな手品は使えない。
「さて、仕事の時間だ」
「戦闘はお任せしますよ。僕は諜報と潜入工作専門なんで」
「お前それなりに戦えるだろ?」
「言い換えます。僕は少佐ほど人間辞めてないんで逃げ隠れしてますね」
「使えねえ」
「ここで一緒に戦いますと言える様な奴は人間辞めてるか頭が幸せな奴だけですからね!?」
2人は言い争いながら城壁の内側へ乗り込む。
そこは擾乱射撃により混乱しながらも、指揮官であるツイーガ将軍の尽力と擾乱射撃の終了により辛うじて秩序を取り戻しつつある獣国兵達が駆け回っている。
その中心に、禍々しい龍の仮面でその悍ましい顔を隠し、緋色のマントを翻す鏖殺者がエントリーする。
「な」
「いっ」
「んが」
「じょへ」
「アバ」
黒い刃が一閃し、5人の兵士の首が一瞬で斬り跳ばされる。
「てっ、敵襲ーー!!」
そして混沌は恐慌へ。
決して広くない砦の中で、地獄の釜が開かれる。
「さて、今のうちに僕は僕の仕事をしましょうか」
そして誰にも注目されないまま、帝国の工作員は己の仕事を果たすために闇の中へと消えた。
アレクはニンジャじゃないのでスゴイ・シツレイには当たらない…かな?