※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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143話 怪物は言葉を喋ってはならない

ーーー征服歴1501年4月 獣国軍砦 臨時指揮所ーーー

 

 龍驤大隊の騎兵砲による擾乱射撃を受けた獣国軍の指揮官ハッフィ・ツイーガ将軍は、砦内の部隊の混乱と並行して発生した火災に対処するため、普段使用している執務室ではなく中庭に設置した臨時指揮所で陣頭指揮を執り続けていた。

 

「ツイーガ将軍、北部兵舎及び兵糧倉庫で発生した火災は鎮火しました。しかし、倒壊した東部兵舎にて新たな火災が発生しています」

「手隙の兵を西部へ、元々当直業務に割当てられていた兵は城壁の確認を──」

 

 司令官が陣頭で指揮を行ったことで混乱は徐々に収束し、火災もまた怖れていた程には広がらなかった。

 念の為、地下牢のある中央兵舎にクッゴイ将軍と彼直属の精鋭を警備として向かわせたが、砲撃も止まった今なら呼び戻しても大丈夫だろうとツイーガ将軍が緊張を解こうとしたタイミングで、西側、即ち連合王国軍(アレク)と対峙している側の城壁から悲鳴が上がった。

 

「てっ、敵襲ーー!!」

「「「!!!?」」」

 

 そして悲鳴は途切れ、新たな悲鳴達が砦内に響き渡る。

 

「ざっ」

「グフぇ」

「ドォ」

「ギャ」

「ゲレぇ」

 

 中途半端に途切れる断末魔が、中央指揮所へ()()()()近づいてくる。

 それに追い立てられるように、悲壮な顔をした伝令が指揮所へ駆け込み───

 

「お逃げくださいツイーガ将軍、顔な…し?」

 

 だが伝令が命懸けの報告を終える前に、その首が胴体から離れる。

 首を失った胴体は、まだ自分が死んだことに気づかないかのように落ちた首を両手で受け止め膝をつく。首の断面から間欠泉のように血飛沫が舞い、赤い噴水の向こう側から()が現れる。

 

 ()()は悠然と、まるで庭を散歩するかのように自然な足取りで呆然とする臨時指揮所の兵達の間をすり抜けてゆく。

 

 ()()は禍々しき龍を模した仮面で素顔を隠し、緋色のマントと艶消しされた鎧を血で染めながら、闇に溶ける漆黒の刃を携え、当たり前のようにすれ違う兵達の首を落としながら、事態を把握できず呆然とするツイーガ将軍(総指揮官)へと歩み寄る。

 

無貌鬼(フェイスレス)!」

「貴様!!」

「っまて!?」

 

 ツイーガ将軍の脇に控える護衛達、ツイーガ将軍から直接技を叩き込まれた暗殺兵団の精鋭が、己の師の制止を振り切り無貌鬼(アレク)へ挑みかかり、何も出来ずに気がつけば首無し死体と成り果て吹き上げる血で無貌鬼の鎧を彩る。

 残酷で、非現実的で、いっそ幻想的とすら評しうるその光景に、ツイーガ将軍はようやく思考のスイッチを切り替え叫ぶ。

 

「退避ぃぃ!!」

 

 司令官の厳命にその場にいた非戦闘員は弾かれたように逃走し、護衛の兵士達が武器を構え、ツイーガ将軍は書類の積まれた机を無貌鬼(アレク)へ向けて蹴り飛ばす。

 逃走し体勢を立て直すため、己の姿を無貌鬼(アレク)から隠さんと行ったその小細工と共にツイーガ将軍は()()()()()()()()()する。

 

 曲芸か、または戯画じみたその選択を彼が行ったのは、今ここで()()()()()()()()()()()()と、長年の戦闘経験から直感を得たが故に。

 

「冗談でしょう…?」

 

 思わず漏れた愚痴は、己の直感が正しかったという証明。

 ツイーガ将軍の視界の中で、無貌鬼(アレク)は組み立て式の机を十字に切り裂き最短距離で距離を詰める。

 

(シィ)!!」

 

 ツイーガ将軍の袖口から()()の棒手手裏剣が射出される。右手の二本は毒塗り、左手の二本はその先の二本に重なる軌道で艶消しされた陰にして本命。毒塗りの先手を防いでも影撃ちは防げず動きを止められる、そんな理想的な展開など来ないと手裏剣を放ったツイーガ将軍の予測通り、は四本纏めて黒刀で手裏剣を叩き落とし、無貌鬼(アレク)は淀みない動きで敵将の首へ刃を滑らせる。

 

「ぐぅぅ!!」

 

 常人なら、否、鍛え上げられた精鋭ですら何が起きたか分からぬ内に首と胴の泣き別れする無貌鬼(アレク)の斬撃をしかし、ツイーガ将軍は十字にクロスさせた短剣で受け流す。

 牽制の手裏剣で斬撃の軌道を限定したとはいえ、無貌鬼(アレク)の太刀筋に剣を合わせたのは彼の60年に渡る研鑽の賜物である。

 

 鋭く、それでいて戦鎚の一撃よりな重い斬撃に愛用の短剣を圧し折られながらも、腕だけでなく全身の筋肉を連動させ致命の一太刀を受け流したツイーガ将軍は、衝撃に逆らわずそのまま後方へと跳ぶ。

 無様に地面を転がりながら無貌鬼(アレク)と距離をとり、追いついた兵士達が無惨に斬り捨てられる事で稼いだ僅かな隙に、砦の中央に建てられた司令塔の壁に取り付く。

 

 鉤爪を用い、(ましら)の如き動きで垂直な壁を登り、3階の窓を破って建物内へと退避する。

 

「ぜぇ…老人にこんな運動はっ!?」

 

 死地を脱し安堵の息をつこうとした所で、殺気を感じたツイーガ将軍は即座に振り向き両腕で急所を護る。その直後、窓から()()()()()が飛び込みツイーガ将軍に直撃する。

 

「ガバっ、ぐぁ…っ」

 

 盛大に部屋内の家具を破壊しながら吹き飛ばされたツイーガ将軍は、血反吐を吐きながらも次々に叩き込まれる首無し死体(人間ミサイル)を転がりながら回避する。

 

「つぅぅ」

 

 血の匂いが充満する地獄のような部屋で、ようやく新手の死体が飛び込んで来ないのに安堵しようとした所で、ツイーガ将軍は部屋の床に違和感を覚える。

 

「……勘弁してもらえません?」

 

 痛む身体にムチを入れて飛び退いたツイーガ将軍の立っていた床が()()()()()、再び首無し死体が部屋へ投げ込まれる。

 

「人の部下を何だと思ってるんだあの男は!!」

 

 やる方も殺られる方も正気を失いそうな攻撃に思わず叫びながら、ツイーガ将軍は必死の形相で血と臓物で満たされた部屋から逃げ出した。

 

 そして崩れた床の下から現れた血塗れの無貌鬼(アレク)は、少しだけ不機嫌そうにドアを斬り刻んで逃げたツイーガ将軍(獲物)の追跡を再開した。

 

 

 

 

 





ジークアクス最高でした。
だからという訳ではないですが、今話のアレクはジオン兵視点での連邦の白い悪魔をイメージして書いてみました。

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