久々に主人公が人間の言葉を喋ります
ーーー征服歴1501年4月 獣国軍砦中央棟ーーー
無手のアレクが油断無く拳を構える。
額から血を噴き出すクッゴイ将軍は刃の砕かれた大戦斧を支えに、踏み砕かれた右足を庇いながらも戦意を滾らせる。
ツイーガ将軍は、自身の肩を貫き壁に縫い止める刀の柄を握りながら、朦朧とする思考に喝を入れて逆転の一手を探る。
互いに等距離を保ち、歪な三竦みの状態に陥った三人だが、優位に立っているのが誰なのかは一目で分かる。
獣国最強戦力は満身創痍、獣国の暗部を統括する暗殺兵団の長は最早瀕死、対して
(
チラリとアレクがツイーガ将軍に視線を向ける。そして興味を失ったように視線をクッゴイ将軍に戻す。重心が僅かに下がり、クッゴイ将軍もまた砕かれた足の痛みを無視するように鬼神の如き形相で刃の砕けた大戦斧を構える。
三竦みの破綻まであと僅か。獣国の二大戦力が陥ちれば、例えこの大戦を乗り越えても獣国に未来は無い。帝国と連合王国に挟まれた弱小国など歴史の波に揉まれて消える。
ツイーガ将軍は僅かでも時間を稼ごうと声を張り上げようとした時、アレクに刻まれた扉から援軍が駆け込んでくる。
「ツイーガ将軍!!」
追いついて来たツイーガ将軍の護衛兵達が、砦内の兵士達を纏めて救援に駆けつけた。
「クッゴイ将軍!!」
待望の援軍にツイーガ将軍の顔に希望が浮かぶ。
だが、劣勢に陥った筈のアレクは構えを解くこと無く、クッゴイ将軍もまた厳しい顔でアレクを睨みながら声を張り上げる。
「下がれぃ坊主共!!」
大将軍の一喝にアレクへ斬りかかろうとしていた兵士達の足が止まり困惑した顔をクッゴイ将軍へ向ける。
その様子に、アレクは構えていた拳を下げ皮肉げに鼻を鳴らす。
「なんだ、来ないのか?」
「儂もいい歳じゃが、わざわざ鬼に
忌々しそうに、クッゴイ将軍もまた構えていた大戦斧を下ろし、ドカリと床に座り込む。
「で、傷顔の孺子。こっからどうするつもりじゃ? 儂とハッフィの首を獲ってこの砦から逃げるつもりなら、腕の一本や二本は覚悟してもらうつもりじゃが?」
「見た目よりよく回る舌だな、出来て指一本が関の山だろ?」
獣国兵に囲まれた死地に立ちながら、アレクは懐から取り出した葉巻に火をつけ皮肉げに紫煙を吐く。
「エイブ!!」
「く、クッゴイ将軍!?」
「騒ぐな。儂とハッフィを死なせたくないなら後ろで大人しく立っとれ」
異様過ぎる状況に動揺するツイーガ将軍と兵達を、クッゴイ将軍は面倒くさそうに手を振って落ち着かせる。
とはいえ、部下の手前泰然とした雰囲気を保っているクッゴイ将軍も内心では途方に暮れている。
一見すると、今この状況はアレクを殺す千載一遇に思える。だが、つい先程、必殺を期したはずの奇襲は完全に
歴戦の武人であるクッゴイ将軍の勘が告げる。そもそも
「儂、交渉は得意じゃないんじゃがのう…」
「口に出てるぞ爺さん」
「仕方なかろう。まあ取り敢えず、ハッフィを治療させてくれんか。ただでさえ老い先短いのに寿命の前に死にそうな顔しとるし」
「構わないぞ、刀を返してくれるならな」
「おう、良いぞ」
「な、待ちなさいエイブ!!」
軽い口調でアレクの要求を通そうとするクッゴイ将軍に、ツイーガ将軍が待ったをかける。
「分からないのですか!? 今が千載一遇の好機なんですよ!? このまま武器を奪ったまま数で押し込めば…」
「いや無理じゃろ。この孺子なら素手で今の儂なんぞ縊り殺せるし、武器ならほれ、いくらでもあるしのう」
ツイーガ将軍の叫びに、クッゴイ将軍はつまらなそうに部下達の構える武器を眺める。大半が室内戦用に剣か短槍で、流れ矢が救出対象のツイーガ将軍に飛ばないよう弩弓を持ち出してきた者は殆どいない。
数で押し包むにしても飛び道具が足りなければ、
勝てる可能性はある。だがアレクがそれに付き合ってくれる可能性は低い。
「くっ」
「という訳じゃハッフィ、怪我してるとこ悪いが交渉は頼むぞ」
「本当に無茶を言いますね…」
クッゴイ将軍の部下である屈強な兵士が、アレクを警戒しながらツイーガ将軍を壁に縫い止める黒刀を引き抜き、アレクへと恐る恐る渡す。アレクは鷹揚に差し出された黒刀を受け取ると、刃にこびりついた血を払い鞘へ納めた。
衛生兵がツイーガ将軍に駆け寄り、止血などの応急処置を行う。
「っ…十分だ、下がれ」
化粧が剥げ、皺が浮き血の気の失せた顔でツイーガ将軍はアレクを睨む。
「ウォーカー少佐殿、今更ですが貴官は
「そのつもりだったんだがな…残念な事にこんな悪趣味な仮面を付けてるとは言え、一応宮仕えの身だから上の命令には逆らえん。という事で、改めて第三王女殿下を引き渡して貰えないか?」
「御冗談を。今ここで貴官を殺せれば良いだけなのに、何故そんな事をする必要が?」
「なるほど、死にかけの割に随分強気だな」
煙草を吸うために晒された傷だらけの口元が嘲弄に歪む。
ツイーガ将軍はチラリと、入り口を固める部下達に視線を送る。ハンドサインで、弩弓を用意までまだ時間が必要だと伝えられた。故に時間を稼ぐ為、話題を逸らす。
「…突然の予定変更の割には準備が周到な様子ですね」
「偶然だろう。自分達の無能を俺の部下の優秀さで誤魔化すのはやめろ」
「……まあ良いでしょう。ならば、貴官の
「そうなるな」
アレクの挑発を受け流し、ツイーガ将軍は逆にアレクを脅す。
「本当に良いのですか? それなりにしっかりした陣地の様ですが、あの程度の数、しかも指揮官である貴官がいないのなら全滅まで1時間もいりませんよ? 」
「そうだな、まあ1時間適当に戦ったら引く様に伝えてあるし大丈夫だろう」
「我々はここまでコケにされたんです、徹底的に追撃しますよ? そして貴官の首と共に、連合王国に死体を送りつけてやってもいい」
「ほう、
「何を…」
木で鼻をくくる様なアレクの態度にツイーガ将軍が眉を顰める。
その視界の先で、入り口を固める兵士達をかき分け伝令が部屋へと駆け込む。
「ツイーガ将軍!!」
「っ、どうした!?」
嫌な予感に背筋を粟立たせながらツイーガ将軍が問う。
「だ、第三及び第四兵糧庫で火災発生です!!」
「なっ…」
さらに追加の伝令兵が部屋へ駆け込む。
「第一兵糧庫より火災発生!! 警護兵が殺されています、侵入者です!!」
「っ!」
「おっとそこから動くなよツイーガ将軍、お前は今
慌てて指示を出そうとしたツイーガ将軍に、抜き手を見せること無くアレクが黒刀を突きつける。殺気立つ兵士達はクッゴイ将軍が手を上げて押さえ込む。
「これが目的か、カナンの騎士!!」
「さてな。で、どうする? 兵糧を台無しにされて、まだこの砦に居座るか?」
慎重なツイーガ将軍は、兵糧を砦内に分散して配置していた。場所も偽装を施していたはずだが、報告から侵入者はかなり正確にその位置を把握し手早く兵糧に火を付けたと推測できた。
万の軍勢を養う兵糧のうち、報告された兵糧庫に保管されていたのは全体の半分程度。それが毀損されたとなれば、この地で作戦行動など取れなくなる。ましてや追撃戦など。
「目的は姫君ではなく、我々を後方に追い払う事ですね?」
「
「巫山戯た事を!」
本心なのか諧謔なのか判断のつかないアレクの台詞に、ツイーガ将軍が苛立ちを噛み殺す。
「良いでしょう、貴官はこのまま無事に帰しますし侵入者の捜索も行いません。ついでに貴官の護衛兵との戦闘もやめさせます。ですので消火の指揮を執らせて下さい」
「悪くない話だ。
「……我々は最大限譲歩しましたよ、これが受け入れられないなら泥沼の殺し合いですが?」
「安心しろ、その譲歩は
奇妙な言い回しをするアレクに、ツイーガ将軍は嫌な引っかかりを覚える。
そしてアレクはツイーガ将軍に黒刀を突きつけたまま、左手で懐中時計を取り出し時刻を確認する。
「そろそろかな?」
「……まさか」
ツイーガ将軍が息を呑み、床に座り込んで傍観を決め込んでいたクッゴイ将軍に叫ぶ。
「エイブ!! 地下牢の警護は!?」
「む、安心せい。腕っ節の良い連中はきちんと置いて──」
「く、クッゴイ将軍!!」
まるで先程の焼き直しのように、クッゴイ将軍の開けた穴から
「ち、地下牢が…」
「落ち着けい。何があった」
息も絶え絶えのその伝令は、仲間に支えられながら青褪めた顔でクッゴイ将軍達へ報告する。
「突然現れた連合王国兵に、
「クソッ…」
「むう…」
ツイーガ将軍とクッゴイ将軍の顔が苦悩に歪む。
そこに、更に情報が追加される。
「て、敵兵の指揮官は銀髪の女士官…おそらく、
伝令の報告を聞いたアレクは黒刀を鞘へと納め、二本目の葉巻に火を付ける。
「では改めて、ツイーガ将軍。
ツイーガ将軍は押し黙る。
これから始まるのが
鬼滅の刃無限城編凄かったですね!!
あんな戦闘を文章で書いてみたいですけど作者の実力が悲しいほど足りなくて凹みます…