久々の投稿なのに登場人物がおっさんばっかりな事を平に謝罪します……
ーーー征服歴1501年5月 王都カルネアス 王宮 円卓の間ーーー
綺麗に磨かれた円卓に、ヴィーテ=ガスク連合王国国王ロジアスと王太子アリウス、そして七大貴族の当主またはその代理達が其々の席次に従い座る。
席の空きは2つ、1つは既に滅んだトランバレム公爵家の、もう一つは戦地に出征した当代の“カナンの騎士”アレクサンダー・ウォーカーの物である。
席についたロジアスは、目の前に置かれた分厚い報告書にやつれた顔を苦々しく歪める。
それは現在、スペイサイド州に展開するスペイサイド方面軍司令部から連合王国全軍総司令官である国王ロジアスへ送られた『第三王女奪還作戦』の報告書であった。
それはロジアスが方面軍司令部に提出を厳命した物であり、王女奪還から半月程度で提出されたこと、王女の身柄が既にスペイサイド州から移送されている事も含めて満足すべきではある。
一つ問題があるとすれば、その報告書の内容自体である。
「
「自分が失脚寸前なのを理解しているが故ですので、正気でない方がおかしいかと」
ロジアスの呟きに、王国宰相コウヤ・ラーズが冷徹に応える。
「ほぼ告発文じゃのう、これ」
「8割が
ロジアスの前に置かれた報告書を既に回し読みして読み込んでいた前リガール辺境伯レオポルドとバランタイン公爵ヴォルスが苦笑する。
皮肉げに笑っている2人だが、その瞳は冷え切っている。
さもありなん、スペイサイド方面軍から送られた報告書に書き記されているのは、第三王女が勝手に出奔し英雄道化カイト・テルネシア率いる龍哮大隊に身を寄せていた事を黙認していた方面軍総司令官スミラフ大将の謝罪ではなく徹底的な責任転嫁だった。
「官僚の視点として見ると見事な文章ですよ? 自身の責任に言及しないまま作戦を実行した
「
無表情に報告書を読み込むコウヤに対し、同世代であり、同じ王党派ではあるが領主貴族筆頭と宮廷貴族の纏め役として常に対立し続けてきたヴォルスは忌々しそうにスミラフ大将を酷評する。
「そもそもスミラフのおっさんは革新派寄りっつーかあそこの金に依存してたからな。ただでさえ政治的に追い詰められてるってのに、その革新派の神輿だったカイトとアイネ殿下がやらかしたんだ。何としても責任転嫁しねえと
「事情が理解できる事と、自らの義務を放棄することは別ですな」
円卓の間で最も若い赤錆色の髪の青年、マーグレム侯爵ドーラスが肩を竦め、恰幅の良い壮年の紳士、ケルビム公爵ヤトライが優雅に紅茶のカップを傾けながら首を振る。
スミラフ公爵は王党派の重鎮でありながらも、経済的苦境から大戦勃発前から既に半ば革新派に鞍替えしていた。そして大戦勃発後は革新派の支援を受けて政治的なライバルであるヴォルスを参謀総長から失脚させ自らが後釜に座った。
もしもカイトが”カナンの騎士“を襲名していれば、彼の権勢は七大貴族すら凌駕していたかもしれない。だが、
それでも残された政治力を総動員してスペイサイド方面軍総司令官に着任し、
「いやぁ~、いくらなんでも杜撰に過ぎますね。アイネ殿下がどんな目に遭ったのか書いて、陛下が怒り狂ってウォーカー卿を処罰させるなんて脚本として三流も良いところでしょう」
「おい
コーヒーカップを片手に愉快そうに資料を読み込む
日に焼けた褐色の肌に血のように赤い髪の青年、次期ミスト侯爵にして連合王国海軍旗艦”レムス=タム“艦長ナイゼル・ミスト大佐は母親譲りの整った顔立ちに浮かぶ爽やかで皮肉げな笑みを深める。
「久々に
「気持ちは分かるが慎め。陛下とガスタルのおっさんの心労を考えろってんだよ」
ドーラスは気まずげにカイトの父親、現ジャッカード公爵ガスタルを盗み見る。顔面は蒼白で誰とも目を合わせないよう虚ろな目で俯くガスタルからは大貴族としての威厳は感じられず、憐れみすら覚える程だった。
だが空気を読まない、そもそもカイトが嫌いなので王都に寄り付きもしなかったナイゼルは容赦なく不毛な会議を前に進める。
「それで陛下、いかがなさるおつもりです?」
「何…?」
「な、おいナイゼル!?」
「報告書の内容から、少なくともアイネ殿下が受けた仕打ちについてはそこまで嘘はありません。そしてウォーカー少佐が、自身の部隊よりも龍哮大隊の救援を優先していれば殿下が辱めを受ける前に救出できた、もしくはそもそも虜囚の身にならなかった可能性も否定は出来ないでしょう」
「……何が言いたい、ナイゼル・ミスト?」
「
ニヤニヤ嗤いながら、ナイゼルは甘く甘美な
制御不能な
安定した治世に於いて、個人で何もかもを覆しうる怪物など不要どころか害悪であると。
そんなナイゼルの顔を、ドーラスはそれこそ怪物を見る目で見詰める。背中に冷や汗を流し、顔面を蒼白にして。
「”カナンの騎士“の解任権は陛下のみの専任事項でしょう? だからこそスミラフ公はこうして陛下にその判断材料を渡した。そして今ならば、まだ襲名して1年も経過しておらず、ウォーカー卿の軍部への影響力など皆無に等しく、使える戦力も直属の大隊程度。それも彼個人に忠誠を誓っている訳でもない」
ドーラスを除く七大貴族の代表達は、感情を排した目で
「既に
軍人として、そして政治家として、ナイゼルは感情を排して冷徹にアレクの価値を問う。『わざわざ少し強いだけの一軍人に特権を与え続けるのか』と。
若き鋭才の問に、心労で疲れ果てた王は応える。
そのやつれた顔に、紛うことなき王の覇気を宿して。
「
それは静かな、だが大国ヴィーテ=ガスク連合王国を背負う王としての誇りの込められた言葉だった。
「スミラフ大将の参謀総長としての職は解任する。方面軍司令官として職責を果たせぬようならその職も解く故、自身の仕事を全うせよと命令せよ、ヴォルス・バランタイン
「はっ」
「アイネについては王都に帰還後は避暑地にて療養させよ。心労もあろう、決して
「承知しました、陛下」
指示を受けたヴォルスと王太子アリウスが恭しく頭を下げる。
「はっはっは、流石陛下。ご英断ですな!」
「お前の心臓は鋼で出来てんのかよ」
そんなロジアスに朗らかな笑顔で称賛を贈るナイゼルに、ドーラスがドン引きする。
「いやいや、俺も緊張してたって。お袋から『ちょっと陛下の覚悟を試してきなさぁい』と脅されてさぁ」
「迫真の演技じゃったぞ。この場にエリカがおったら斬り掛かっておったのじゃないかのう?」
レオポルドが呆れた顔で禿頭に浮かんだ汗を拭う。
「それはそうですよ。だってあれ
「え…?」
「しかもリガール家とバランタイン家に」
「うん…?」
「そっちの家は記録消してるかもですけど、
「「「うへぇ」」」
まさかのカミングアウトにレオポルドだけでなく円卓の間に集う七大貴族の当主達全員が呻く。
「ま、実力でそんな戯言は黙らせたそうですが。まあ記録に残らないアレコレがあったみたいですし、今回ウォーカー卿も酷い目に遭ってるみたいですので。陛下もスミラフ公を叱責する前にウォーカー卿をちゃんと労わないと
「わかっている。報奨の他に余直々に感状もしたためる。ついでにウォーカー卿を便利使いする
「それが宜しいかと。少なくともウォーカー卿に忠誠心は期待できませんが、適切な報酬が支払われる限りわざわざ国家と敵対する事は無いでしょう」
王国宰相コウヤが疲れた様に溜息をつきながら、まるで戦場の様な空気に晒された会議を締めくくった。
後日、半ば軍法会議に等しい尋問を受けていたアレクは解放され、追加で王都から送られてきた莫大な報奨を部下の慰安と憤激する
ジャンプの某漫画がバズってるの見て思ったんですが、エリカの胸はもっと盛っても良かったのかも…?