※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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久々の投稿なのに登場人物がおっさんばっかりな事を平に謝罪します……






間章11 続・円卓の間

ーーー征服歴1501年5月 王都カルネアス 王宮 円卓の間ーーー

 

 綺麗に磨かれた円卓に、ヴィーテ=ガスク連合王国国王ロジアスと王太子アリウス、そして七大貴族の当主またはその代理達が其々の席次に従い座る。

 席の空きは2つ、1つは既に滅んだトランバレム公爵家の、もう一つは戦地に出征した当代の“カナンの騎士”アレクサンダー・ウォーカーの物である。

 

 席についたロジアスは、目の前に置かれた分厚い報告書にやつれた顔を苦々しく歪める。

 それは現在、スペイサイド州に展開するスペイサイド方面軍司令部から連合王国全軍総司令官である国王ロジアスへ送られた『第三王女奪還作戦』の報告書であった。

 

 それはロジアスが方面軍司令部に提出を厳命した物であり、王女奪還から半月程度で提出されたこと、王女の身柄が既にスペイサイド州から移送されている事も含めて満足すべきではある。

 一つ問題があるとすれば、その報告書の内容自体である。

 

方面軍総司令官(スミラフ大将)は正気か?」

「自分が失脚寸前なのを理解しているが故ですので、正気でない方がおかしいかと」

 

 ロジアスの呟きに、王国宰相コウヤ・ラーズが冷徹に応える。

 

「ほぼ告発文じゃのう、これ」

「8割が()()()()()()()()に対する()()と、それを詳らかにする為の()()の内容だなぁおい」

 

 ロジアスの前に置かれた報告書を既に回し読みして読み込んでいた前リガール辺境伯レオポルドとバランタイン公爵ヴォルスが苦笑する。

 皮肉げに笑っている2人だが、その瞳は冷え切っている。

 さもありなん、スペイサイド方面軍から送られた報告書に書き記されているのは、第三王女が勝手に出奔し英雄道化カイト・テルネシア率いる龍哮大隊に身を寄せていた事を黙認していた方面軍総司令官スミラフ大将の謝罪ではなく徹底的な責任転嫁だった。

 

「官僚の視点として見ると見事な文章ですよ? 自身の責任に言及しないまま作戦を実行した()()()()()()()の作戦の不備や問題行動を重箱の隅をつつく執拗さでこき下ろしています。何も知らずに読むとまるでウォーカー少佐が手柄欲しさに王女を餌に獣国軍を引き寄せた様にすら思えてきます」

スミラフ大将(あいつ)は軍略家じゃなく軍政家だからな。そうやって自分の()を潰してきたんだよ」

 

 無表情に報告書を読み込むコウヤに対し、同世代であり、同じ王党派ではあるが領主貴族筆頭と宮廷貴族の纏め役として常に対立し続けてきたヴォルスは忌々しそうにスミラフ大将を酷評する。

 

「そもそもスミラフのおっさんは革新派寄りっつーかあそこの金に依存してたからな。ただでさえ政治的に追い詰められてるってのに、その革新派の神輿だったカイトとアイネ殿下がやらかしたんだ。何としても責任転嫁しねえと()()に辿り着く前に首吊る羽目になるんじゃねえか?」

「事情が理解できる事と、自らの義務を放棄することは別ですな」

 

 円卓の間で最も若い赤錆色の髪の青年、マーグレム侯爵ドーラスが肩を竦め、恰幅の良い壮年の紳士、ケルビム公爵ヤトライが優雅に紅茶のカップを傾けながら首を振る。

 

 

 スミラフ公爵は王党派の重鎮でありながらも、経済的苦境から大戦勃発前から既に半ば革新派に鞍替えしていた。そして大戦勃発後は革新派の支援を受けて政治的なライバルであるヴォルスを参謀総長から失脚させ自らが後釜に座った。

 もしもカイトが”カナンの騎士“を襲名していれば、彼の権勢は七大貴族すら凌駕していたかもしれない。だが、カイト(英雄道化)アレク(無貌鬼)に敗北し、その過程で革新派に協力していた帝国の密偵が根こそぎ排除された事で逆にスミラフ公爵は政治的苦境に立たされることとなった。

 

 それでも残された政治力を総動員してスペイサイド方面軍総司令官に着任し、カイト(英雄道化)を支援することでアレク(無貌鬼)を追い落とす事に賭けていた。故に、今回のアレクによる第三王女アイネ奪還作戦は最大の危機であると共に降って湧いた大チャンスであった。

 

「いやぁ~、いくらなんでも杜撰に過ぎますね。アイネ殿下がどんな目に遭ったのか書いて、陛下が怒り狂ってウォーカー卿を処罰させるなんて脚本として三流も良いところでしょう」

「おい()()()()、言い過ぎだぞ」

 

 コーヒーカップを片手に愉快そうに資料を読み込む()()()()()にドーラスが苦言を呈する。

 日に焼けた褐色の肌に血のように赤い髪の青年、次期ミスト侯爵にして連合王国海軍旗艦”レムス=タム“艦長ナイゼル・ミスト大佐は母親譲りの整った顔立ちに浮かぶ爽やかで皮肉げな笑みを深める。

 

「久々に(おか)に上がって、()()()()()として王都に来て見ればこんな物を見せられたら皮肉の一つも言いたくなるでしょう」

「気持ちは分かるが慎め。陛下とガスタルのおっさんの心労を考えろってんだよ」

 

 ドーラスは気まずげにカイトの父親、現ジャッカード公爵ガスタルを盗み見る。顔面は蒼白で誰とも目を合わせないよう虚ろな目で俯くガスタルからは大貴族としての威厳は感じられず、憐れみすら覚える程だった。

 

 だが空気を読まない、そもそもカイトが嫌いなので王都に寄り付きもしなかったナイゼルは容赦なく不毛な会議を前に進める。

 

「それで陛下、いかがなさるおつもりです?」

「何…?」

「な、おいナイゼル!?」

 

 ドーラス(常識人)が慌てて止めようとするが、母親譲りの自由人なナイゼルは止まらない。助けを求めるようにドーラスは同輩たる他の七大貴族達を見回すが、彼らは感情の読めない目で主君たるロジアスの反応を観察している。

 

「報告書の内容から、少なくともアイネ殿下が受けた仕打ちについてはそこまで嘘はありません。そしてウォーカー少佐が、自身の部隊よりも龍哮大隊の救援を優先していれば殿下が辱めを受ける前に救出できた、もしくはそもそも虜囚の身にならなかった可能性も否定は出来ないでしょう」

「……何が言いたい、ナイゼル・ミスト?」

()()()()()()()()? スミラフ公に迎合して、武と智を併せ持つ厄介で忠誠心を持ち合わせない英雄を」

 

 ニヤニヤ嗤いながら、ナイゼルは甘く甘美な提案()を囁く。

 制御不能な怪物()を、今なら排除できると。

 安定した治世に於いて、個人で何もかもを覆しうる怪物など不要どころか害悪であると。

 

 そんなナイゼルの顔を、ドーラスはそれこそ怪物を見る目で見詰める。背中に冷や汗を流し、顔面を蒼白にして。

 

「”カナンの騎士“の解任権は陛下のみの専任事項でしょう? だからこそスミラフ公はこうして陛下にその判断材料を渡した。そして今ならば、まだ襲名して1年も経過しておらず、ウォーカー卿の軍部への影響力など皆無に等しく、使える戦力も直属の大隊程度。それも彼個人に忠誠を誓っている訳でもない」

 

 ドーラスを除く七大貴族の代表達は、感情を排した目でロジアス()を観察する。

 

「既に()()()()()()のでしょう? 革新派の切り札だったカイトは敗者として”カナンの騎士“の襲名権を喪失し、今回の敗戦で武名は地に落ちた。ならば”カナンの騎士“などという、国家の秩序の外にある存在などわざわざ置いておく必要はありますか?」

 

 軍人として、そして政治家として、ナイゼルは感情を排して冷徹にアレクの価値を問う。『わざわざ少し強いだけの一軍人に特権を与え続けるのか』と。

 

 

 若き鋭才の問に、心労で疲れ果てた王は応える。

 そのやつれた顔に、紛うことなき王の覇気を宿して。

 

()()()()()()、王とは英雄を束ねる者。将来の危険に怯え、真に才ある者を不当に貶める暗愚を犯すものか」

 

 それは静かな、だが大国ヴィーテ=ガスク連合王国を背負う王としての誇りの込められた言葉だった。

 

「スミラフ大将の参謀総長としての職は解任する。方面軍司令官として職責を果たせぬようならその職も解く故、自身の仕事を全うせよと命令せよ、ヴォルス・バランタイン()()()()()

「はっ」

「アイネについては王都に帰還後は避暑地にて療養させよ。心労もあろう、決して()()()()()()()()。良いな、アリウス」

「承知しました、陛下」

 

 指示を受けたヴォルスと王太子アリウスが恭しく頭を下げる。

 

「はっはっは、流石陛下。ご英断ですな!」

「お前の心臓は鋼で出来てんのかよ」

 

 そんなロジアスに朗らかな笑顔で称賛を贈るナイゼルに、ドーラスがドン引きする。

 

「いやいや、俺も緊張してたって。お袋から『ちょっと陛下の覚悟を試してきなさぁい』と脅されてさぁ」

「迫真の演技じゃったぞ。この場にエリカがおったら斬り掛かっておったのじゃないかのう?」

 

 レオポルドが呆れた顔で禿頭に浮かんだ汗を拭う。

 

「それはそうですよ。だってあれミスト家(うち)のご先祖様が言われた言葉ですし」

「え…?」

「しかもリガール家とバランタイン家に」

「うん…?」

「そっちの家は記録消してるかもですけど、5代目”カナンの騎士“(うちのご先祖様)の奥方がマジギレして日記に残してたそうですよ?」

「「「うへぇ」」」

 

 まさかのカミングアウトにレオポルドだけでなく円卓の間に集う七大貴族の当主達全員が呻く。

 

「ま、実力でそんな戯言は黙らせたそうですが。まあ記録に残らないアレコレがあったみたいですし、今回ウォーカー卿も酷い目に遭ってるみたいですので。陛下もスミラフ公を叱責する前にウォーカー卿をちゃんと労わないと()()()()になりますよ?」

「わかっている。報奨の他に余直々に感状もしたためる。ついでにウォーカー卿を便利使いするカレウス(腹黒)にも釘を刺しておくべきか?」

「それが宜しいかと。少なくともウォーカー卿に忠誠心は期待できませんが、適切な報酬が支払われる限りわざわざ国家と敵対する事は無いでしょう」

 

 王国宰相コウヤが疲れた様に溜息をつきながら、まるで戦場の様な空気に晒された会議を締めくくった。

 

 

 

 後日、半ば軍法会議に等しい尋問を受けていたアレクは解放され、追加で王都から送られてきた莫大な報奨を部下の慰安と憤激するエリカ(恋人)のご機嫌取りに使い切る事となる。

 

 

 

 





ジャンプの某漫画がバズってるの見て思ったんですが、エリカの胸はもっと盛っても良かったのかも…?
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