※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

221 / 228




156話 宿星百人斬り②

ーーー征服歴1498年12月 スペイサイド州北部エーギルン郡ーーー

 

 常人なら走るどころか歩くことすら苦労する泥濘んだ地面を、ウージョは滑るような歩法で軽やかにアレクとの距離を詰める。

 荒々しい見た目とは裏腹の見惚れる程に流麗な所作で、ウージョは必殺の鉄拳をアレクへ叩き込む。

 

 対するアレクはスラリと抜き放ったサーベルを片手下段に構える。それはカルネアス流剣術第二の(フォーム)、対人において最も秀でるとされる"フルストラ"。

 並の達人では反応すら覚束ないウージョの鉄拳を、アレクのサーベルが斜め下から迎撃する。

 

「ハッ!」

「チッ」

 

 2人の達人の間で拳とサーベルが火花を散らす。

 手首を斬り飛ばすつもりで放たれたアレクの斬撃は、帝国製の最高級鋼鉄で造られた特注手甲に阻まれる。だが、斬撃によりウージョの鉄拳は弾かれ、アレクの身体には届かない。

 ウージョは荒々しく歯をむき出しにして嗤い、アレクは面倒臭そうに舌打ちする。

 

 アレクの間合いに踏み込んだウージョは、その距離をさらに詰めて弾かれた腕と逆の左の拳をアレクへと叩き込む。アレクはサーベルの剣腹でウージョの拳を受け止める。

 サーベルをへし折り、そのままアレクの胴体を殴り潰さんとしたウージョの意図は、アレクがスルリと身を引き鉄拳の威力を柔らかく殺しきった事で外される。

 

「厄介だよなぁ、テメェらの剣術はよぉぉ!!」

「そちらは単純だな。南の大陸には道具を使う猿がいるらしいぞ?」

「防具は使ってるだろうがよぉ!!」

 

 額に青筋を立て激昂したウージョが、アレクへと嵐の如き連撃を叩き込む。

 左右に不規則なステップを刻みながら、岩をも砕く鉄拳が、大木すら蹴り砕く蹴撃が、積み重ねられた功夫の極致たる技巧を以てアレクの急所を尽く破壊し尽くす──はずだった。

 

 一刀一拳の間合いで、アレクのサーベルが閃く。己の人中(こめかみ)を狙う拳を叩き落とし、天突(喉)を穿つ抜き手を受け流す。旗門(肝臓)を狙う崩し打ちを空いた左手でブロックし、大堆(頚椎)を狙う回し蹴りを滑るような歩法で回避する。

 

 白刃と拳、そして蹴りが2人の達人の間で花火の如き火花を散らす。一呼吸の間に、常人であれば十度は絶命する必殺の連撃を叩き込まれながら、アレクはその尽くを叩き落とし、回避し、反撃の刃をウージョの喉元へと突きこむ。

 

「おぉらぁ!!」

 

 蛇の如く己の命を狙うサーベルの切先を手甲で捌き、ウージョはアレクの足三里(膝下)を砕く下段蹴りを放つ。

 油断すれば足を取られる泥濘んだ地面で、アレクは蹴りを躱すために軽く跳躍する。それはアレクの晒した僅かな、それでいて回避不能な致命的な隙。ウージョは大地を震わせる震脚と共に右腕を折り畳み、拳を腰だめに構える。

 

「死にさらせぇぇ!!」

 

 裂帛の気迫とともに、空中で身動きの取れないアレクへ繰り出されたウージョの拳は()()()()()。鍛え上げられた肉体と積み重ねた鍛錬が、大地を踏みしめる膨大な衝撃を全て推進力へと変換し、音の壁を破った拳はウージョ自身の筋繊維すら引き裂きながら無防備なアレクの胴体へと爆進する。

 

 常人なら反応すら不可能。空中では回避も不可、そして重さや頑丈さよりも切れ味に重きを置く騎兵刀(サーベル)での防御など紙に等しい。

 0.001秒後の己の死を察知しながら、数千倍に引き伸ばされた時間の中でアレクは冷徹に拳の軌道を読む。

 

「なぁっっ!!?」

「チッ…っ」

 

 音越の鉄拳が己の胴を貫く直前で、アレクはサーベルの()()を斜め上から叩きつける。目が潰れそうな程の火花と共に静寂な樹海を割るほどの轟音が響き、必殺の剛拳はその軌道を逸らされてアレクの脇腹を掠めるに留まる。

 

 だが、窮地を脱した代償は大きい。

 アレクの右腕からサーベルが弾き飛ばされ、掠めた拳の衝撃波だけでアレクの着地が大きく乱れる。

 対して、必殺の一撃をいなされたウージョは得物を失ったアレクを嘲笑うように歯をむき出しにして嗤う。

 

 着地後の硬直を狙い、ウージョの左拳がアレクの顔面に叩き込まれる。剣を失い、不安定な足場で回避も困難なアレクは拳を防御することも、躱すことも出来ない。

 

 故に、アレクは空いた右手の甲でウージョの拳を受け流し、自ら()()()()()()、ウージョの顔面に掌底を叩き込んだ。

 

「なっ…ぐぅ!!?」

 

 想定外の反撃により鼻を潰され脳を揺らされたウージョは一瞬だけ意識を飛ばしたたらを踏む。

 視界が歪み、意識が混濁する中で、ウージョは本能のみで鍛え上げられた肉体に刻み込まれた反撃を行使する。

 

「がぁぁぁ!!!」

 

 ゼロ距離で繰り出されるは最速の上段回し蹴り。常人離れした体幹と鍛え上げられた背筋による旋回力により、その蹴りは人の首を容易に千切り飛ばす。

 それは不用意に間合いを詰めた襲撃者への迎撃であり、奇襲により乱れた勝負の天秤を均衡に引き戻すための()()()()()一撃。

 

 ()()容易く読まれる。

 

「っっう!!?」

 

 ()()()()上段回し蹴りが、ウージョの回し蹴りを迎撃する。

 後手に周ったウージョに対して、余裕を以てアレクはカウンターを叩き込んむ。交錯し火花を散らした2人の脚だが、勝ったのは当然後者。

 

 ウージョの脚は脚甲ごと脛骨を砕かれる。

 

「クッソがぁぁぁ!!!」

 

 脳髄をかき乱す激痛で朦朧とした意識を無理やり覚醒させたウージョは、バランスを崩して地べたを這う無様を晒すこと無く絶技の反動で血まみれの右腕をアレクへと叩き込む。

 しかし、体勢が崩れ右足の踏み込みも足りない正拳突きに先の如き速度も重さも無く、容易くアレクに受け流されその腕を掴まれる。

 

「しまっ!?」

 

 左腕で掴んだウージョの右腕を捻り上げ、アレクはその肘に右手を当てる。

 

(折られる!?っクソ!!)

 

 利き腕を破壊され更なる追撃を受ける事を避けるために、ウージョはアレクの動きを敢えて逆らわず脱力する。そしてその程度の対策など、アレクには通じない。

 

「なっっ!!?」

 

 重心が()()()のを察したアレクがウージョの無事な左足を払い、ウージョの身体が宙を浮く。そして掴んだままの右腕を軸に、ウージョを()()()()

 

(まずいまずいまずい!!! いやまて、ここの地面はほぼ泥沼だ。叩きつけられても受け身さえ取れば意識は残る。そのまま寝技に持ち込んで──なに!!?)

 

 地面に叩きつけられるのを覚悟して次善の策を即座に組み立てたウージョは、覚悟していた衝撃が来ないことに疑念を感じそして継続する浮遊感に目を見開く。

 

(放り投げられた? 技に失敗したのか!? いや、違う!!)

 

 ウージョの視線の先で、アレクが背を向けて()()()()()()()サーベルの回収に向かっている。

 

(まずい、折られた足じゃあいつに追いつけねえ。間合いを離されたら負ける! クソ、一か八かだが着地したら全力であいつめがけて跳んで──)

 

 アレクが再び武器を手にするのを防げないと悟ったウージョが、脚の負担を度外視して着地した直後の跳躍の為に空中で体勢を整えたところで、野生の獣の如く研ぎ澄まされた勘が警鐘をかき鳴らす。

 

()()!! わざわざ回りくどい事しなくてもあいつの方が有利だった!! 剣をわざわざ拾いに行くなんて()()なことをするわけ──クソが!!!)

 

 そして気づく。着地の体勢に移った自分めがけて三方向から飛翔する弩弓の()に。

 

「うおおぉぉぉ!!!!?」

 

 2本までは空中で叩き落とす事に成功し、後方の死角から放たれた最後の1本を無理やり身体をひねって躱す。

 致命の奇襲を回避したウージョだが、代償に着地が完全に失敗する。受け身の取れない体勢で右肩から地面に落ちたウージョは、口から入ってくる泥濘に溺れそうになりながら全身が砕けそうな激痛で呻く。

 

(肩が外れた、折れたか!? バカ野郎無駄なこと考えんな早く立て急げ急げ急げ!!!)

 

 顔を上げたウージョの眼前には、白刃が迫っていた。

 

 サーベルを回収したアレクが放つ()の如き突き。

 それは音を越える速さも、岩を穿つ鋭さも無い。相手の急所を穿つ最低限の速度と鋭さ、そして意識の隙間をスルリとすり抜ける技巧の極みを以てウージョの()()を貫いた。

 

 頭蓋骨は人体で最も堅い骨の一つである。その構造は複数の骨がパズルの如く組み合わさる事で成り立っている。故に、斬撃すら弾く硬度を有するパーツもあれば、簡単に貫けるほど脆いパーツもある。

 

 例えば、眼窩の最奥を形成し眼球と脳髄を隔てる壁となる()()()のように。

 

(クソ、このままだと目玉ごと脳味噌まで串刺しだ! なんなんだよコイツは!! なんでこんなヤツがこんな所に──いや、今はそんな事()()()()()()()()()()()()。だったら少しでも、()()()()()()()()()()()!!)

 

 眼球を刃が貫く激痛と吐き気を催すほどの恐怖を飲み下し、ウージョは一歩前に進む。

 

「!?」

「ようやく顔色が変わったなぁ(※包帯で見えません)!! 両目で見えねぇのが残念だぜ!!」

 

 眼球を貫き、そのまま脳髄を抉る筈の刺突の軌道を、ウージョは首を捻ることで無理やり変更する。そして向きを変えられた切っ先は眼窩の最奥から逸れ、脳髄を避けて側頭部から突き抜けた。

 

 想定外の展開に、アレクの動きが一瞬硬直する。そしてその隙を、ウージョは見逃さない。

 アレクの胸甲に、ウージョがピタリと掌を添える。

 

「左眼をくれてやったんだ。代金にテメェの心臓寄こせやぁ!!」

「っ!!」

 

 獣の如きウージョの咆哮と共に、静寂な森の空気を落雷の如き()()()が震わせた。

 

 





すみません、思いの外話が膨らんだので4話で終わらないかもです…
悪いのはIMAXで観た鬼滅の刃とKindleで大幅値引きしてたとある漫画です



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。