※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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161話 宿星百人斬り⑥ 物事がマニュアル通りに進む事は珍しい

ーーー征服歴1498年12月 スペイサイド州北部エーギルン郡ーーー

 

「押せ押せ!! ここを突破すればこの砦は陥とせるぞ!!」

 

 最前線で剣を振るい、灯星隊隊長リオルが砦を守る連合王国兵を斬り伏せる。

 

「おい待てリオル!? 前に出過ぎんな囲まれるぞ!!」

「まだだ! ここで下がればむしろ被害が増える!!」

 

 リオルの背後から斬りかかる連合王国兵を愛用の槍で蹴散らしながら、護衛隊長のボルストが自重を促すが、彼の雇い主は逆にどんどん前へと斬り込んでゆく。

 

 

 

 エーギルン郡の西端を守る河上要塞カデント。カデント河の中州に築かれた要塞は河自体を防衛線とする強固な要塞だが欠点も多い。

 一つは立地的にどうしても収容人数が少なく、基地長であるアーメル中佐の指導による最大限の拡張工事をもってきても3000程度しか兵員を収容できないこと。そもう一つは冬季になると河の水量が減り、下流の一部は騎馬であれば船を使わずとも渡河可能である事だった。

 故に、収容人数の分散と渡河点の防備を目的にカデント要塞の東側には無数の急造砦が建築された。

 多くはこの地に無限にある樹木を切り倒しそのまま組み上げた不格好な防壁と中隊規模の部隊を配置した、万を越えるゴーロン軍からすれば吹けば飛ぶような存在だが、地形を巧みに利用したこの簡易砦群は当初の想定以上の防御力を発揮し獣国兵達を食い止めていた。

 

 "灯星隊"が本格的に前線に現れるまでは。

 

 

「クソ、こいつら"灯星隊"か!」

「奴を、"()()"を止めろ! あいつを殺せば奴の隊も崩れる!!」

 

 枝すらまともに払っていない木を組み上げた防壁を乗り越え、愛用の長剣を振るうリオルの姿を確認した連合王国兵達は慄き、そして"灯星隊"の隊長であるリオルを殺さんと殺到する。だが、彼らはそこでリオルの二つ名たる"百星"の由来を己の命を代償に識る事となる。

 

「舐めてんじゃねぇぞ雑兵ども」

「兄さんの命は取らせませんよ!」

 

 ()()()()()を装備した精悍な兵士が、リオルの背後から斬りかかる連合王国兵を打ちのめし、リオルと同じ灰色の髪をしたまだ少女と呼べる年齢の女騎士が細剣で別の兵士の喉元を切り裂く。

 

「おい遅ぇぞボルストのおっさん!」

「おっさんじゃねえ!! あぁクソ、テメェらリオルに続け!! さっさとこいつら蹴散らすぞ」

「ボルストさん、リオル兄さんはもう先に行きましたよ?」

「うおおおい!?」

 

 "虎殺し"ウージョの舎弟にして一番弟子、バズルが本来は護衛隊長のはずのボルストのお株を奪い、リオルの妹であり"灯星隊"の実質的な副長レンシャが冷静に指摘する。

 

「ぐぅ、おのれぇ!!」

「この砦の守備長だな? その首、貰い受ける!!」

「戯れ言を! 多少名のしれた山中の蛮族如きが!!」

 

 混戦状態の防壁内で、リオルはついにこの砦の指揮官を発見する。

 倍以上の兵力を有する灯星隊に攻め込まれ、防壁も突破されながら未だに組織的な抵抗を続ける連合王国の指揮官を危険視したリオルは降伏勧告を省略し単身指揮官に挑みかかる。

 

 リオルの長剣と、連合王国士官のブロードソードが交錯し火花を散らす。

 

「強い!」

「舐めるなと言ったはずだ蛮族がぁ!!」

 

 連合王国士官がブロードソードを上段に構える。連合王国において広く学ばれるカルネアス流剣術第5の型、白兵戦において最大の攻撃力を誇る斬撃がリオルを長剣ごと斬り伏せんと振り下ろされる。その速さと重さは十分に達人と呼べる見事な一撃だった。

 

「そちらこそ、僕を舐めるなぁぁ!!」

「ぬぅ!!?」

 

 だがそれすらも、獣国の若き英傑には届かない。

 斬撃がリオルを叩き斬るよりも疾く、リオルは斬撃を掻い潜り長剣が士官の胴を両断する。

 

「おの…れえぇ…っ」

 

 臓物を零し血反吐を吐きながら、士官は末期の一撃を放たんとリオルへと振り向こうとするが、それすらもリオルの長剣が彼の首を跳ねた事で無駄になる。

 

「指揮官は討ち取ったぞぉ!!」

「「「うおおおお!!!」」」

 

 倒した士官の首を掲げるリオルの姿に、"灯星隊"の兵士達が歓声を挙げる。

 

「クソ、撤退だ!! 撤退するぞ!!」

 

 指揮官が討ち取られ、砦の大半を占拠された連合王国兵達は次席士官の号令に従い砦から脱出する。一部は灯星隊の攻撃で倒れながらも、殿となった次席士官の犠牲にしながら連合王国は砦から整然と退却してゆく。

 

「おいリオル、あいつら追いかけなくていいのかよ! ウージョの兄貴の仇だぞ!!」

「いいや、僕達の仕事はこの砦を制圧する事だ。すぐに負傷兵の回収と治療を始めてくれ」

「でも兄さん、連中がカデント要塞に合流したら結局敵の防備が固くなるのでは」

「…問題ない。ここは、()()()使()()()

 

 物見櫓に上がったリオルは、砦からカデント要塞へ撤退しようとする連合王国兵達を視界に収める。

 

 敗走する連合王国兵はカデント要塞から出撃したが、灯星隊の速攻により救援に間に合わなかった援軍と合流しカデント要塞へと帰還しようとしていた。その背中へと、煌びやかな鎧を纏った騎兵達が容赦無く襲いかかった。

 

 簡易砦からカデント要塞までは、援軍や物資の円滑な輸送の為にこの地域としては例外的に騎兵が自由に動けるほど道が整えられていた。ここ数日は天気も比較的良く地面も乾いているため、勢いに乗った騎兵達は彼らの存在意義の通り脆く抵抗できない歩兵達を蹂躙してゆく。

 

「"蓋星隊"…ブレーテ千人将も気合入ってますなぁ」

「ああ、そうだね」

 

 同じく物見櫓に登り、リオルの隣で感心したようにボルストが無精髭の浮いた顎を撫でる。

 

「ここで一気に援軍まで蹴散らせば、敵軍の士気を挫ける。それこそ跳ね橋と一体化している正門まで攻め込めば要塞を落とせるかもしれないからね。気合も入るさ」

 

 "蓋星隊"はゴーロン軍において、将軍の近衛を務めるコレリア・ゴーロン千人将率いる"輝星隊"以外で唯一、組織的に騎兵を運用出来る部隊だったが、スペイサイド州北部の地形的な問題から最近は活躍を灯星隊に大きく譲っていた。

 そんな現状に不満を抱いていた、リオルをライバル視する千人将ブレーテは、騎兵の利点を最大限活かしうる今回の作戦が大成功しつつある事に歓喜していた。

 

「よぉぉおし一気に蹴散らせぇ!! このままコイツらの首を掲げて連合王国人(西夷)どもの要塞に斬り込むぞぉぉ!!!」

 

 リオルと同じ様に、騎兵達の先頭で槍を振るいながらブレーテが部下達を鼓舞する。

 

「 整備された真っ直ぐな道に逃げ場が一方向しか無い敗残兵!! 騎兵にとってこれほど容易い戦場はないな!!」

 

 ここで功績を挙げれば、目障りなリオル(ライバル)を差をつけコレリア(横恋慕)を奪えるかもしれないと独り善がりな優越感にほくそ笑んだブレーテの視界の先で、敵軍の動きが僅かに変化する。

 

「千人将!! どうやら連合王国の奴ら、殿が盾を構えて我々を待ち構えているようです!!」

「小賢しい!! あの程度の兵など壁にもならん! 蹴散らせぇ!!」

 

 逃げる連合王国兵を守る様に、カデント要塞から駆けつけた兵士達が身の丈程の大盾を構える。だがその数は少なく、兵士同士の隙間が多く一目で心許ないのが素人にも丸わかりだった。

 故にいきり立つブレーテにとってはただのカカシにしか思えず、部下を鼓舞するため最前列に躍り出で情けない敵軍を嘲弄する。

 

「虚仮威しにもならんな!! 貴様らも未来の六大将軍たるこの俺の武功の肥やしとな──ボペ」

「……え、ブレーテ千人将?」

 

 そして情けない擬音と共に、ブレーテの人生は彼の頭部の上半分と共に消し飛んだ。

 

 そして指揮官を失い混乱する"蓋星隊"の騎兵達が連合王国軍の盾兵達に無策のまま激突し、盾にぶつかった騎兵は想像以上に硬い盾兵達に弾き返される。

 

「な、なんでこんな…こいつら三人がかりで盾をあガっ!?」

 

 無様に地面に落馬した獣国兵はスパイク付の大盾を地面に突き立て、複数人がかりで盾を構えていた連合王国兵達に驚愕した顔のまま、頭を手斧で叩き割られる。

 

「おい盾を避けて進メェェ!?」

 

 盾兵の隙間を潜ろうとした騎兵は通り抜ける瞬間、盾兵の後ろに隠れていた兵士達が張った縄に馬の脚を払われ転倒し地面に投げ出され、物のついでの様に後陣に控えていた連合王国兵たちに槍で串刺しにされた。

 

 

「迂回軌道の出来ない直線の道、遮蔽の無い平坦な地形に機動力を削ぐ障害物。ここで騎兵を突っ込ませると回答したら軍学基礎の試験では落第だな」

 

 盾兵とその後ろに隠された兵士達の後ろで、組み立て式の足場に登り、包帯で顔を覆った士官が平坦な声音で淡々と眼前で無様な姿を晒す獣国兵達を論評する。

 

「次」

「へい」

 

 足場の下から、山賊の親分の様に野蛮な顔をした軍曹が上司に短槍を投げ渡す。

 渡された槍を左手で受け取った目に生気の無い陰気な声の士官、アレクサンダー・ウォーカーは槍の柄尻を右手に持った60cm程の棒状の器具に装填し次の()()へ狙いを定める。

 

「止まれお前達!! 不用意に近付かないで一旦距離おべ!?」

 

 混乱する獣国兵達の中で、いち早く冷静さを取り戻した蓋星隊の副長の頭部の上半分がアレクが投擲した短槍により消し飛び、獣国兵の混乱はいよいよ収拾がつかなくなってゆく。

 

「おい止まれ!! 前に進めなっ!!」

「邪魔だどけっ」

「ヒャッハー!! テメエら取り敢えず馬の脚を潰してけ!! 逃げ足のねぇ雑魚どもなんざいつでも殺せるぜぇ!!」

 

 脚の止まった獣国軍騎兵の後ろから、後続の騎兵が事情を理解できないまま突撃し、味方同士で将棋倒しになる混乱の中で世紀末な雄叫びと共に手斧を振るう復讐者が同士達と共に凄惨な殺戮を開始する。

 

「動ける人は負傷兵に手を貸して急いで後ろに下がって下さい。そこの君は元気あるなら盾持ってそこに並んで並んで。あ、そこ騎兵が来るから早く縄張って、落ちた騎兵はさっさとトドメ刺してね」

 

 人の良さそうな兵士がテキパキと寄せ集めの兵士達に指示を出し、隙間を抜けようとする獣国兵を容赦無く殲滅させてゆく。

 

「次」

「へい…てかその骨董品、案外使えますな」

「簡単に壊れないだけ弓より使いやすい」

 

 次の短槍を受け取り、アレクは右手に持った棒状の器具へと流れるように装填する。投槍器(アトラトル)と呼ばれるその器具は後端に槍の柄尻を支える鈎を備え、投槍の射程と威力を引き上げる補助器だが、狩猟用としては兎も角、弩弓の量産と配備の進んだ連合王国軍では100年以上前に制式装備から除外された正しく骨董品だった。

 

「引け、ひバボ」

「投槍だと!? あんな遠くから当たるはベピ」

「投槍ってあんな当たるもんでしたかっけ?」

「弓よりは狙い辛いな」

 

 威力と射程は兎も角、精密性が使用者の練度に大きく左右されるのが投槍器の廃れた大きな理由の一つだった(もう一つは連合王国軍の大看板たる騎兵が使用できないこと)。

 なので的確に指揮官や冷静さを取り戻した兵士から順に狙撃してゆくアレクの技量に、かつて単なる一兵卒だった彼に面白半分で投槍器の使い方を教えたバグラム軍曹は首を傾げたのだった。

 

「しかし今回は楽が出来そうですなぁ、俺はボスに槍渡す係だけですし」

「…そもそも獣国兵が無策に突っ込んで来なければ槍を投げる必要も無かったんだがな」

 

 後方擾乱任務から帰還して早々、砦が陥落した際の火消しとして出撃させられたアレク達ガラクタ中隊は、連合王国軍の()()()()対騎兵用に整備された地点での防衛任務についたのだが、まさか獣国兵が明ら様に騎兵殺しに特化した場所に突っ込んでくるとは思っておらず、多少ガラクタ中隊向けにアレンジしたとはいえ特に工夫もない防衛線をダラダラと続ける羽目になっていた。

 

「まあ丁度いい。獣国軍の騎兵なら大半が貴族かその従者だ、戦利品は高く売れる」

「目に見えてバタバタ死にまくってますが大丈夫なんですかねぇ」

 

 騎兵の強味である機動力は地形と盾兵に潰され、指揮官はアレクに狙撃され、脚の止まった馬をフェーデル兵長が屠殺し、間をすり抜けようとした目端の利く騎兵はエクトル少尉に文字通り脚を掬われる。連合王国の歩兵からすれば簡単な仕事すぎて逆に不安になる状況であり、指揮官であるアレクとバグラム軍曹には相手の心配をする余裕すらあった。

 

「そろそろいいか。バグラム軍曹、フェーデル兵長に戦利品を回収したら適当に切り上げるよう指示を──うん?」

「どうしやした、ボス?」

「いや、想定外の獲物まで釣れてしまったかもな」

 

 感情の起伏が死んでいるアレクには珍しく、その言葉には若干辟易した気分が滲んでいた。

 そしてアレクは無造作に投槍の装填を済ませながら、視界の先に現れた騎士の姿に虚ろな目を面倒くさそうに細めた。

 

 

「卑劣なる連合王国軍の指揮官に告げる!! 我が名は"()()()"千人将()()()()()()()也。貴殿が名誉と誇りを識る勇者であるならば戦意を失った兵達ではなく、僕を狙ってみせるがいい!!」

 

 堂々たる名乗りを挙げるリオルを無視して、アレクは必死に部下の統率を回復しようと努めている蓋星隊の什長へと槍を投擲しその頭部を粉砕した。

 

 





メインウェポンが投槍だとランサーなのかそれともアーチャーなのか…?
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