※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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14話 ガラクタ中隊の意地

ーーースペイサイド州 連合王国防衛拠点 正門ーーー

 

 太陽が中天から外れかれる頃、未だにアレク率いる“ガラクタ中隊”はまだ、砦を守り戦い続けていた。

 

「きりが無い…ですなぁ!!」

「こちらに来るのは雑魚ばかりか…不味いな、思った以上にあっちの指揮官が臆病者だったみたいだ」

 

 完全に崩れた砦の正門の瓦礫の上で、あえて狙われやすいように身を晒しながらアレクがぼやく。今も彼には獣国兵が殺到しているが、彼が持つ薙刀(グレイヴ)が閃く度に獣国兵の首が刎ねられ、周囲に鮮血をばら撒く。

 アレクは忌々しげに、はるか彼方に陣取る獣国の指揮官を睨む。

 

「投槍どころか弓も絶対届かない場所から動く気は無さそうだな」

「それだけ中尉殿が怖いんでしょうよ!!」

 

 バグラムがアレクの背中側から彼を狙おうとする雑兵達を蹴散らしながら答える。

 

 獣国と帝国の合同軍が砦を攻め始めてから既に4時間以上、アレク達はその猛攻を、辛うじて凌ぎ続けている。相手の指揮官がアレクによる斬首作戦を恐れて前に出てこない為、攻勢が及び腰になっている事を差し引いても、彼らの健闘は称賛に値するものだろう。

 

「面倒な…っ!? 矢が来るぞ!! 防げ!!」

 

 獣国の雑兵を蹴散らしていたアレクが、周囲の部下達に指示を出す。

 アレクを仕留められない事に業を煮やした敵軍が、味方ごとアレクを葬ろうとしたのだろう。後方から50人程度の弓兵が味方がいることもお構いなしに曲射でアレクたちに矢の雨を降らせる。

 

「…酷いことするな」

「……向こうさんも中尉殿にだけは言われたくないでしょうな」

 

 矢の雨が降り注ぐ直前、相対していた獣国兵の体を薙刀(グレイヴ)で貫いたアレクは、まだ事切れていない獣国兵の体を傘代わりにして矢の雨を防ぎきった。

 アレクに警告され、咄嗟に瓦礫の影に隠れたり盾を翳した彼の部下はともかく、後ろから矢を射掛けられた獣国兵は突然の事態に混乱している。その目の前に傘代わりにされ苦悶の表情で絶命した兵士を放り込まれ、怯えた彼らは震えながら後退る。

 

「心外だな…まあいい、弓貸せ」

「へい!」

 

 兵士の一人がアレクに弓を渡す。とはいえ量産品で、士官が使うのはあまり好まれない安物だが。

 アレクは落ちている矢を拾い、安物の弓に番える。弓が引き絞られると、ミシミシと嫌な音が聞こえ始める。

 

「お返しだ」

 

 アレクの放った矢は、アレクたちに次の矢の雨を降らせようとしていた獣国の弓兵達の指揮官の顔を貫き一撃で絶命させる。

 そして役目を終えた弓も真っ二つに折れる。

 その様子にバグラムは呆れた様な目をアレクに向ける

 

「相変わらずいい腕ですな」

「弓が壊れるから多用できないがな…そろそろ下がるぞ」

「へい」

 

 敵が怯んでいる隙に、アレクたちは砦の中へ避難する。

 一息つき、水筒から水を飲んだアレクにリゼルが戦況を報告する。

 

「中尉、いよいよ兵が足りません。次に総攻撃が来たら弱いところから食い破られます!」

「分かった。門の防御はもういい。敵を砦内に引き込んで乱戦に持ち込むぞ」

「ハ!…流石に保ちませんか?」

「無理だな。夜まで保てば或いはと思ったが、どうやら向こうは味方の犠牲を無視することにしたらしい」

 

 小声で問いかけるリゼルに、アレクも声を抑えて答える。

 

「…いっそ切り込みますか? まだ辛うじて余力はありますよ?」

「無理だ。獣国の雑魚共は兎も角、帝国兵が厄介だ」

 

 リゼルの提案をアレクは一蹴する。

 

「帝国の連中、騎兵を100騎ほど待機させている。恐らく俺が本陣を強襲しようとしたら横から切り込むつもりだ」

「獣国の指揮官自体が餌だと?」

「さてな。だが俺がここから勝つならそこを狙うしか無いとわかってるんだろうよ」

「結局、チャンスを待って粘るしかないわけですか」

「いつもの事だ。悪いな、面倒をかける」

 

 アレクは肩をすくめ、気弱だが有能な部下を労う。

 

「構いませんよ。敵前逃亡して懲罰部隊に放り込まれた僕が、ここまで生き残れたのは貴方のお陰です。最期まで付き合いますよ」

 

 リゼルは苦笑し、珍しく素直に人に謝る上司に感謝を伝える。

 

「では、ご武運を」

「お前もな」

 

 そして二人は最後の戦いの準備を命令するため、部下の下へと駆け出した。

 

 

ーーー獣国軍砦攻略戦部隊 本陣ーーー

 

「まだか!早くあの“顔無し”を始末しろ!!」

 

 アレク達の守る砦の攻略を任された獣国軍の千人将は、目を血走らせながら部下へ怒鳴る。

 本来なら3日もあれば落とせる拠点に手古摺り、それが獣国の戦略にすら悪影響を与えてしまったのだ。例えこの拠点を落としても彼の未来は暗い。せめて獣国だけでなく帝国からも多額の懸賞金がかけられている忌々しい“顔無し”、アレクサンダー・ウォーカーを討ち取らなければ、たとえこの砦を落としても下手をすれば処刑されてしまうだろう。

 

「し、しかし…兵達が萎縮して前に出たがらず…」

「ええい、御託はいい!!さっさと奴を殺せ!!何のためにわざわざ周りの部隊から援軍まで呼んだと思っている!!兵ならいくらでもいるんだ、怯える兵は斬り捨てろ!!」

 

 

 口角泡を飛ばし絶叫する千人将に、周囲の副官や護衛達は辟易する。そもそもこの千人将がアレクを恐れて後方に下がっているのだ。それなのに配下には死地へ向かえと命令するのだから士気など上がるはずもない。

 激昂し怒鳴り散らかす千人将に、後から声がかけられる。

 

「千人将殿、よろしいだろうか?」

「何だ!!私は忙し…!?」

 

 怒鳴ろうとした千人将は、途中で言葉を飲み込む。彼の目の前に、獣国への援軍として騎兵200騎の指揮官として派遣された、帝国軍の指揮官、スバルテイン・バルバロスがいたからだ。

 

「…戦況を確認したいのだが?」

「っ…おい!!監察官殿に説明申し上げろ!!」

 

 帝国軍特務監察官。巨大な帝国軍において将軍以上の階級の者が任命する、他部隊へ跨る命令権を有する特権を与えられた者達だ。通常の軍の指揮下から外れ自由な裁量で行動でき、任命した将軍の意向を最優先できる。

 立場上、将軍の代理人とも言える存在ではあるが、本来なら獣国軍の千人将がへりくだる必要はない。たが、獣国と帝国の力関係は、そのような建前を許さない程度には隔絶している。

 元連合王国人のスバルテインは、皇族将軍藍劉貭からこの地位に任命され、アレクを殺すためこの砦まで騎兵を率いてやってきた。

 

「お前達の要請で連合王国軍の退路を封鎖してやっているというのに、まだ砦も落とせず、“顔無し”も殺せていないということか?」

「も、もうすぐです!奴らは砦の中まで押し込まれています!」

 

 蔑むようなスバルテインの目線に怒りを覚えながらも、彼の…彼を監察官に任命した劉貭の不興を買う事を恐れて千人将はへりくだる。

 

「油断するな。相手はあの“顔無し”、自分の部隊が壊滅しても単騎で斬り込んでくる狂人だ」

 

 スバルテインはまるで将軍のように、千人将に指令を下す。

 

「獣国兵をさっさと中へ突入させろ。そして出入り口を固めて、一人残らず鏖殺しろ」

「し、しかし兵の被害が…」

「私の命令は畏れ多くも藍劉貭将軍の命令に等しい。この意味を…理解しているな」

 

 言い募ろうとした千人将は口を紡ぐ。

 

 獣国兵の犠牲など欠片も気にしない非情な命令を、帝国に逆らうことなど出来ない獣国軍は、不満を抱えながらも実行に移す。

 

 アレク達の守る砦は出入り口を封鎖され、獣国軍が決死の突入を開始した。

 

 

──────────

 

 獣国軍の突入からおよそ一時間。

 6日間の防衛戦の合間にアレク主導で仕掛けられていた罠に苦しめられ、100人以上の死傷者を出しながらも獣国軍はアレク達を砦の一角へ追い詰めた。

 

「まだ日は沈まないか…」

「…あいつら、負傷者を無視して俺達を追い詰めに来てまさぁ」

 

 アレクが天を睨みながら呟き、バグラムが獣国の損害を無視した攻撃に辟易した様子で溜息をつく。

 背後に動けない負傷者を庇いつつ、アレク率いる中隊は負傷者も含めて武器の取れるものは全員が、自分たちを追い詰めた獣国兵達と対峙している。

 

 獣国兵は槍を並べ、慎重にアレク達との距離を詰めてゆく。

 

「慎重ですね」

「下手に斬り込んだら中尉に殺されるのがオチでしょうからなぁ…」

 

 リゼルのボヤキに、バグラムが軽口を叩く。

 彼らの指揮官、アレクは返り血で頭を覆う包帯から爪先までを赤黒く染め上げた姿で、獣国兵の正面に立つと、血塗れの包帯を解く。

 べシャリと、湿った音をさせて包帯が地面に打ち捨てられる。

 

 味方からは背中しか見えないが、正面から相対している獣国兵には、彼の傷だらけの顔が見えているのだろう。ただでさえ遅かった獣国兵の歩みが、怯えで更に遅くなる。

 

 それでも次第に距離が縮み、いよいよ最後の戦いだとアレク達が武器を構え直した時、獣国兵が左右に割れ、帝国軍の軍服を着た連合王国人の男が進み出てくる。

 

「…?」

 

 その場違いな男に、アレクも彼の部下達も首を傾げる。

 進み出た男は胸を張り、連合王国語で堂々と名乗りをあげる。

 

「我が名はスバルテイン・バルバロス!! 畏れ多くも藍劉貭将軍より帝国特務監察官を拝命している者だ!!」

 

 そしてスバルテインは、彼がこの場へ来た目的を明かす。

 

「連合王国の兵達よ、よく戦い抜いた!! 将軍閣下の代理人として、私はお前達の健闘を讃え、降伏を促すためにここへ来た!!

条件は簡単だ! お前達の指揮官、アレクサンダー・ウォーカーを殺せ!!殺した者には帝国と獣国がその男に懸けている賞金も与えよう!!」

 

 それは追い詰められた連合王国軍にとって救いであり、悪意ある誘惑だった。彼らが畏れる指揮官の首を穫れば、命が助かるだけでなく、賞金まで貰えると。

 アレク達の中隊がざわめく。

 たが、彼らを背にサーベルを抜き放ったアレクは欠片も動揺せず、同じくリゼルもバグラムも苦笑しながら武器を構える。

 そしてアレクやリゼル達が何かを言う前に、中隊の兵達から声が上がる。

 

「ヒャッハー!!侵略者の帝国や獣国の、しかも裏切り野郎なんぞの言うことなんざ聞けるかよー!!」

「俺達はテメェらをぶっ殺す為に戦ってんだ!!」

「お前等を一番ぶっ殺してくれてる中尉殿を殺すわけねーだろぉが!!」

「中尉、早く命令をくれ!! あの偉そうな野郎から斬り刻んでやりましょうぜ!!」

 

 柄の悪い古参の兵達だけでなく、共に戦った期間の短い砦の兵達ですら、口々に拒絶の言葉を口にし、意気軒昂に武器を構える。

 

「あの帝国の指揮官、馬鹿なんですかね?」

「いや、普通に考えれば悪い考えじゃないよ?まあ、僕達には逆効果だけどね」

 

 連合王国軍、特に最前線で戦う兵達の侵略者達、獣国と帝国への敵愾心は高い。士官はともかく、一般兵にとっては侵略者の軍門に下る位なら死んだほうがマシだと思われる程度には、獣国は侵攻したスペイサイド州で暴虐の限りを尽くしていたからだ。

 

「と、言う事らしい。残念だが、俺達は最後まで戦い抜かせてもらう」

「っ…ならば望み通り、皆殺しだ!! 殺せぇ!!」

 

 アレクの返答を聞いたスバルテインは、怒りで顔面を紅潮させながら、獣国兵へ命令を下す。

 獣国兵は戸惑いながらも、スバルテインの命令に従い、アレク達を抹殺するために距離を詰め、彼らが激突する寸前で、ざわめきがおこる。

 スバルテインが駆け込んできた帝国兵の伝令に確認する。

 

「何事だ!!」

「か、監察官殿!? て、敵襲です!!騎兵が…連合王国の騎兵が我々に襲いかかって来ています!!」

「なっ!!?」

 

 伝令が力の限り叫ぶ。

 その情報は、獣国軍と帝国軍だけでなく、当然アレク達にも伝わる。

 

「中尉!」

「エクトル少尉、バグラム曹長、兵を纏めろ。待ちに待ったチャンスだ、斬り込むぞ!!」

「「了解!!!」」

 

 

 アレク達は最後の力を振り絞り、獣国兵達を蹴散らしてゆく。

 混乱する獣国兵達は前からアレク達に、そして後から砦に突入してきた連合王国の騎兵たちに挟撃され壊乱し、這々の体で砦から叩き出された。

 

 アレクは返り血で血塗れになりながら、呆れた様子で味方の騎兵を、その戦闘で槍を振るう銀髪の美女を眺める。

 

「まさか本当に助けに来るとはな…」

 

 

 アレク達の危機に、同じ大隊に所属するエリカ・リガールが、自らの中隊の騎兵200騎と共に颯爽と現れた。

 

 




ヒロインは遅れてやってくる。
ただ、予定だともっと早く来てくれる予定だったんだけどなぁ…。
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