※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

25 / 228
作者のメモ代わりの設定開示回。



幕間 獣国の台所事情

 征服歴1456年、ヴィーテ・ガスク連合王国へ侵攻し大戦の切欠を作ったユスティア獣王国。この国と連合王国の因縁はそれぞれの国の創成期まで遡る。

 

 元々、現在の獣国が支配する地域はユーシア大陸の主要交易路から外れた地域であり、大陸東方の先進地帯である中原から距離もあったことから、中原を支配した歴代の王朝からは化外の地として扱われてきた。

 かつて大陸を二分した大勢力、西方の征服王と東方の始原皇帝の時代、互いの勢力の境界線ではあったが主な戦場は大陸を東西に分断するギールマ山脈で唯一大軍の通行可能なウィルムス盆地や、大陸北方の草原地帯、そして大陸南方の沿岸地帯であったため、後に獣国の建国される地域は殆ど関心を払われることなく、一応は東方の帝国へ従属する存在として認知される程度の扱いだった。

 ユスティアと呼ばれたこの地域が大陸の歴史の中に明確に現れるのは征服歴1100年代末、一人の英雄が小国が群雄割拠するこの地域を統一した時だった。

 

 ユスティア獣王国の建国王、カイ・ヤーナゼ・ユスティアの出自ははっきりと分かっていない。

 彼に最初に服属したイードン公爵家(当時はイードン王家)の記録によれば、彼はイードン家の姫が敵国に攫われそうになった場に偶然居合わせ、その圧倒的な剣技で彼女を助け、その縁でイードン族の客将として迎えられた。それ以前の経歴は不明で、本人は極東の島国から訪れたと語っているが、どうやって東方の秋津島皇国からユーシア大陸の内陸にあるその地まで来たのかは記録されていない。

 イードン族の客将となった後の初代獣国王カイは、武将として際立った働きをするだけでなく、画期的な農法や石鹸などの製法をイードン王国へ齎し、僅か数年でイーデン王国は後に獣国と呼ばれる地域に割拠した小国群の中で抜きん出た国力を有するようになった。

 かつて助けたイードン家の姫を娶った彼は、ユスティア統一を宣言し、僅かに10年足らずで周囲の小国群を服属させ、ユスティア獣王国を成立させた。

 ユスティア地域が統一されたのは征服歴1204年であるが、獣国の歴史書では建国王カイがユスティア地方統一を宣言した征服歴1196年を獣国の建国元年としている。これは単なる見栄だけでなく、征服歴1202年に成立したヴィーテ・ガスク連合王国への対抗意識もあったと言われている。

 

 獣王国が、連合王国を敵視するのは単なる隣国だからではない。

 ユスティア地方を統一した獣国は、当時全盛期を誇った紅嶷帝国ですら一目置くほどの国力と、その国力を背景にした軍事力を有していた。

 そして経済にも優れた知見を有していた初代獣国王カイは、大陸の東西を繋ぐ交易路の要衝であるウィルムス盆地を手に入れるため、既にこの地を制圧していた連合王国へと戦いを挑んだ。

 連合王国もまた、この地が大陸の東西貿易の重要な拠点となると理解していた為、連合王国の初代国王ジョージ・ヴィーテは自らの最も信頼する腹心である初代“カナンの騎士”ロイ・リガールに辺境伯の地位とともにウィルムス盆地と周囲一帯の土地を与えていた。

 

 内政家として有能で武勇にも優れた賢王だった初代獣国王カイは、英雄の常として好色だった。最初の妻であるイードン族の姫だけでなく、臣従させた合計12の王国の王族からもそれぞれ側室を集め、他にも女官や奴隷も含めて100人以上の美女を自らの後宮に集めていたと、歴史書には伝わっている。

 故に彼が、連合王国侵攻の際にウィルムス盆地を守るロイ・リガールへ降伏勧告をしたことも、そして彼の妻であり、その美貌を国内外に知られていたエリーゼの身柄を降伏の証として要求したことも、必然ではあった。

 ウィルムス盆地を守る辺境伯ロイ・リガールの有する戦力は、王都からの援軍を含めて約3万。対して獣国王カイが率いる戦力は10万。いかに初代“カナンの騎士”といえど敗北は必至であり、降伏するか、さもなくば無様に逃げ出すか、獣国王カイはそう思っていた。

 だが、“カナンの騎士”の返答は獣国王カイの送った使者の首と、“愚王に降るほど我が誇りは安くない”という一文のみ。

 激怒した獣国王カイは自ら先頭に立ち、ウィルムス盆地へ侵攻した。“カナンの騎士”ロイ・リガール率いる連合王国軍3万と正面からの決戦を挑んだ獣国軍10万は、当初の予想に反して完膚無きまでに打ちのめされ、連合王国の領土から叩き出された。

 歩兵主体の獣国軍に対して、連合王国3万の内2万が騎兵だった。しかもただの騎兵ではなく、かつて連合王国の建国王ジョージ・ヴィーテと“カナンの騎士”ロイ・リガール率いる連合軍と互角に渡り合ったガスク族の精兵達だった事が、獣国軍の命運を変えた。

 

 ガスク族の戦士たちは、連合王国へ帰属した後、大半は“バランタイン”の姓と公爵位を受けた元ガスク氏族族長ドラグモルトの麾下で連合王国建国の尖兵として戦った。

 そして一部の戦士たちは、族長の弟でありガスク氏族最強の戦士だったバスカードと共に、バスカードの娘婿であり尚且つ彼を打倒した(彼らにとって)最強の戦士であるロイ・リガールへ仕えることとなった。

 騎士としては当代最強ではあったが、出自としては没落した王族の末裔であるヴィーテ家に仕える騎士の家系でしか無く、両親も既に他界していたロイ・リガールは、ウィルムス盆地を領地として国王から賜った際、このガスク氏族の戦士達を家臣として召し抱え重用した。

 ロイからすれば、妻の父親とその部下達であり、数少ない信頼できる親族なので重用は当たり前の事ではあった。だがガスク氏族の戦士達からすれば、かつて敵対した自分達を、歴史に名を残す大英雄が信頼して重用してくれていると考え、よりロイ・リガールへ、更にはリガール辺境伯家への忠誠心を高めることとなった。

 そんな彼らは、自らの敬愛する主君に侮るような降伏勧告をした上に、自分達と家族同然に育った族長家の姫君であり、今では主君の妻となったエリーゼを差し出せと要求するような恥知らずな侵略者に、怒りを爆発させた。

 

 数少ない獣国の騎兵を瞬殺したリガール辺境伯家の騎兵達は、その巧みな機動と騎射の技により、一方的に獣国軍の歩兵を翻弄し、陣形が崩れた端から、歩兵と連携し刈り取って行った。

 自慢の軍勢を一方的に叩きのめされた獣国王は、起死回生の為に“カナンの騎士”へ一騎打ちを挑んだ。自らの武勇に絶対の自信を持っていた彼は、当時既に語り草となっていた“カナンの地の決闘”になぞらえロイ・リガールに打ち勝つことで、崩壊した士気を立て直し、逆に連合王国軍の士気を折ろうとした。

 だが、自信満々でロイ・リガールに挑みかかった獣国の建国王カイ・ヤーナゼ・ユスティアは、“カナンの騎士”ロイ・リガールに一刀のもと首を刎ねられた。

 獣国王のカリスマに支えられていた獣国軍の士気は完全に崩壊し、組織立った抵抗もできないまま一方的に連合王国に打ち負かされた。

 無事に獣国へ帰り着くことができたのは、獣国軍10万のうち僅か2万のみだったと伝えられている。

 

 そして偉大なカリスマを失った獣国では、その後数十年続く血みどろの後継者争いが開始されることとなり、建国王カイが築いた経済基盤は完全に失われ、優れた農法や経済政策は、連合王国へと引き継がれてゆくこととなる。

 

 後継者争いで分裂し、血で血を洗う内戦が終結したのは征服歴1260年代、建国王カイの死から50年の月日が流れていた。

 獣王国を再統一したカイの曾孫であるバム・イードン・ユスティアは、曽祖父の仇を討ち、そして連合王国が独占している大陸東西貿易の利権を奪うため、再びリガール伯爵家の守るウィルムス盆地へ侵攻した。

 だが、獣国の侵攻は再び頓挫する。2代目“カナンの騎士”リシャール・グランツ率いる連合王国軍6万は、連合王国へ進攻した獣国軍8万を撃滅し、獣国王バムと彼の側近を含む多くの幹部たちを捕虜とした。

 捕虜になったにも関わらず、ロイ・リガールの孫である自分に罵詈雑言を吐き続ける獣国王と彼の臣下達の様子に苦笑しながら、当代最強の騎士であり、同時に歴代“カナンの騎士”の中でも抜きん出た策謀家でもあったリシャールは、獣王国がこれから100年以上連合王国へ侵攻できないように痛めつける算段をつけていた。

 リシャールは、獣国王バムと彼の外戚であるイードン家とその派閥の人間のみ解放し、それ以外の捕虜を処刑した。そして獣国各地に“王は我が身可愛さに自分にとって邪魔な派閥の貴族達を生贄に捧げて解放された”“戦争自体が連合王国と行った八百長で、真の目的は敵対派閥を排除すること”などなど、流言飛語を煽った。

 獣国王バムが帰還した直後、大規模な反乱が勃発し獣国は再び地獄の内戦へと突き進むこととなり、以後数十年の間、連合王国どころか他国とまともに交流することすら無くなった。

 最終的に疲弊しきった獣国は、東方の超大国紅嶷帝国に臣従し彼の国の冊封体制に組み込まれることで辛うじて安定した。

 だが、紅嶷帝国の崩壊に伴う混乱で再び国内体制が不安定化し、連合王国に支援を求めるなど、過去の栄光など最早影も形もない程に落ちぶれ、征服歴1400年代後半には、青麟帝国の属国として彼の国の意向に従うことしか出来ない弱小国として他国にすら認識されていた。

 

 

 獣国にとって連合王国は、自分達の国の英雄を殺した憎い相手というだけでなく、本来なら自分達が得るはずだった栄光と繁栄を掠め取った卑怯で卑劣な妬ましい存在であった。

 故に、青麟帝国が持ちかけた今回の大戦における先鋒を迷わず引き受け、容赦なく連合王国の国土を蹂躙した。

 だが、連合王国の粘り強い抵抗と、初動でスペイサイド州の連合王国主力を叩けなかった事で住民やその財産を当初の想定よりも略奪出来ず、連合王国での略奪を目論んでいた獣王国上層部の思惑は外れ、むしろ占領地での抵抗や、貧弱な補給体制による末端兵の反抗に悩まされ、肝心の連合王国侵攻も想定通りに行かず帝国の援助を受けるという屈辱的な状態に陥っていた。

 また長引く戦争で財政が悪化し、早急にスペイサイド州を突破してより豊かな連合王国中央地帯を略奪出来なければ、獣国の財政は破綻してしまうまでに追い詰められてもいた。

 

 獣国軍の総司令官ゾート・ガッフェルは、そのような状況で軍を率いながら、乾坤一擲の作戦として征服歴1500年9月、スペイサイド州完全制圧を目的とする全面攻勢作戦を開始した。




ようやくタグ要素(異世界転生)を回収できました…
知識チートと転生チートがあっても、リアルチートに喧嘩を売ると命に関わる…、この世界はそういう世界観です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。