※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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21話 理不尽な決闘

ーーー征服歴1498年 王都カルネアスーーー

 

 王宮を守護する任を担う近衛師団の本部は、当然ながら王宮内に存在する。だがかつて近衛騎士団と呼ばれた彼らは、軍制改革で騎士団が師団へと変化する中で、王宮及び要人の護衛を担当する人員を近衛第1師団として王宮内へ、それを除いた実戦部隊の大半は、近衛第2師団として王都郊外の駐屯地に配備されている。

 王都郊外に整備された近衛第2師団の駐屯地には、当然ながら士官や兵達の訓練のための訓練場が存在する。

 

 その中でも主に士官が剣術の鍛錬や試合等を行う練兵場は、その日は常にない喧騒に包まれていた。

 

「け…剣を置いて跪け、少尉」

 

 憲兵に囲まれた()()()()()()()()士官が、血に濡れた剣を地面に置き、両手を頭に乗せ抵抗の意志が無い事を示して跪く。

 

 彼を囲む衛兵たちは、恐る恐る彼に近寄り、申し訳無さそうにしながら彼に手枷を付ける。

 

「……済まない少尉、命令だ。貴官を拘束する」

 

 憲兵たちの指揮官である大尉が、済まなそうに手枷を嵌められた少尉、アレクサンダー・ウォーカーに声をかける。

 彼は特に抵抗する素振りも見せず、素直に憲兵に従う。

 

 練兵場には濃密な血の匂いが立ち籠めている。

 

「何をしている憲兵達!! 殺せ!! その男を殺せぇ!!!」

 

 その練兵場に男の悲痛な叫びが響く。

 

「お、落ち着いてください師団長閣下! 決闘で死者が出ることはお互いに了承したもので…」

「黙れぇ!! ショーンが…息子が殺されたのだぞ!! それに見ろ、刃引きした剣であんな風に首を斬れる筈が無いだろう!!

奴は…奴は真剣で初めから息子を殺す為に…!!」

「で…ですからそれを取り調べる為にまずは拘束を…」

 

 狂乱しアレクを殺せと叫ぶ壮年の男、近衛第2師団の師団長フィニアス・ジルベルト少将は、涙を流しアレクへ斬りかかろうとするのを周囲の部下たちに羽交い締めにされて押し止められていた。

 

 練兵場の中央に男が倒れている。だが、その人物が最早生きていないことは誰の目にも明白だった。何故なら倒れている男は首から上が無く、本来なら胴体に繋がっているはずの頭が、力なく倒れた男の体の横に転がっているからだ。

 首から吹き出した血液が水溜りを作り、その中に転がる首は自らが死んだことが“信じられない”という驚愕の表情で固まっている。

 

 地面に倒れている男の名は“ショーン・ジルベルト”。近衛第2師団に所属する中尉であり、憲兵に囲まれ拘束されているアレクへ決闘を挑んだ男だった。

 

 

 決闘のきっかけは、アレクにとっては半ば理不尽な、そしてショーンにとっては譲れないものだった。

 

 

 スペイサイド州州都アベラワー防衛戦。激戦の末、連合王国軍の敗走という形で終わったこの戦いで、獣国軍の本陣へ斬り込み、本陣にいた裏切り者のソレム伯爵を討ち取り、獣国軍の客将として参戦していた青麟帝国の第7皇子藍劉貭を負傷させて連合王国軍が撤退する時間を稼ぎ出した“英雄”ベル。

 彼と面会したスペイサイド州方面軍の兵站部の中尉からの報告で、彼が獣国軍に滅ぼされたウォーカー男爵家の生き残りだと知った連合王国軍の上層部は彼を王都へ招聘し勲章を授与した。そして王立学園の卒業資格と、正式な連合王国陸軍少尉の地位を与え近衛第2師団へと転属させ、スペイサイド州の最前線からアレクを遠ざけた。

 

 それは戦功を挙げたアレクに対する報酬であり、同時に平民(厳密には元貴族)に過剰な戦功を挙げられる事を嫌った上層部を構成する高位貴族の一部の意向でもあった。

 

 たが、少尉へ任官し近衛師団の駐屯地へと赴いたアレクが直面したのは、上層部が失念していた問題だった。

 

 

 開戦から2年経ち、西方のトランバㇾム公爵軍の侵攻を阻止するため、連合王国軍は王都周辺の師団に加えて北方の第7師団、そして近衛第2師団までも投入した。

 戦力が西に偏った事で東方のスペイサイド州は州都が陥落するほど追い詰められたが、逆に西方ではトランバレム公爵軍とファガリア王国軍を、トランバラム公爵領まで押し返す事に成功した。

 敵軍に大きな損害を与える事に成功した連合王国軍だったが、同時に自軍の被害も大きく、攻勢に参加した各師団は再編を余儀なくされた。 

 

 近衛第2師団も当然ながら再編を行っていたが、近衛師団はその性質上、身元の確かな者、即ち貴族やそこに連なる家系の士官が優先して補充された。補充された若い貴族士官達にとって近衛師団に配属された事は名誉であり、彼らの自尊心をくすぐった。そしてそれは、一部の貴族士官達の増長も招くこととなった。

 そんな貴族士官達にとって、自分たちより低い身分でありながら、家柄ではなく戦功によって近衛師団に迎えられたアレクは羨望と嫉妬の対象となった。

 特に、アレクに決闘を挑むことになったショーン・ジルベルト中尉にとって、アレクの存在は度し難いものだった。

 

 

 ジルベルト子爵家は、“7大貴族”リガール辺境伯家の分家筋の名門であり、代々優秀な軍人を排出し連合王国に貢献し続けてきた。その一族の長男として生まれたショーンは、名門貴族の長子として相応しい優秀さを誇っていた。

 勉学については平均より上程度だったが、幼少期からカルネアス流剣術の達人であり、リガール家の剣術指南も務める叔父に手解きを受けていた剣術の腕は同世代でも抜きん出たものがあった。

 家柄の良さと剣の腕前を見込まれ、ショーンは王立学園に入学と同時期に2歳年下のリガール家の次女、100年振りに銀髪と金眼を兼ね備えて生まれたエリカ・リガールの婚約者候補となった。

 そこからの2年間は、彼にとって人生の絶頂だった。美しい婚約者と、7大貴族リガール辺境伯家と縁戚になったことによる約束された栄達。彼にとって人生最良の2年間だった。

 

 

 

 だが、その夢のような時間は唐突に終わりを告げた。

 

 

『私は自分より弱い男と結婚する気は無い』

 

 学園に入学したエリカ・リガールが宣言した、ショーンを含めた婚約者達に対する宣戦布告。

 そして彼女は学園に入学して一月で8度の決闘を行い、彼女の婚約者候補、そして彼女に勝利すれば彼女を自らの物と出来ると考えた挑戦者達と決闘を行い、その全てに勝利した。

 その中には当然、ショーンも含まれていた。

 

 そして正式に、エリカの婚約者の席は空白となり、彼女が在学中にその席に誰かが座ることは無かった。

 

 エリカの婚約者候補から外されたショーンを待っていたのは、周囲からの失望と嘲りの視線だった。それまで、リガール家の婿候補として傲慢な振る舞いをしていた報いとも言えるが、増長していた彼には耐え難い物だった。だが彼にとっては幸いなことに、彼がエリカに敗北した年に、連合王国は周辺諸国及びトランバレム公爵家との大戦に突入した。

 

 王国の混乱から、既に卒業間近だったショーンの醜聞は学生の口に上らなくなった。

 そして彼は、半ば逃げるように学園を卒業後、少尉として連合王国陸軍に入隊し、小隊長として西方戦線へと派遣された。

 戦場で彼は、名門ジルベルト家の嫡男に恥じない才覚を発揮し部隊を纏め上げ、武功を挙げて同期の中でも早い段階で中尉に昇進し、軍の再編で近衛第2師団へと配属された。

 それはボロボロになった彼の自尊心を慰め、再び彼を増長させるに足る物だった。

 

 

 そうであるが故に、彼の多少の武功が霞むほどの武功を挙げたアレクの存在は許し難い物だった。

 これが彼よりも高位の貴族、例えば西方戦線で圧倒的な武功を挙げた7大貴族の一角、ジャッカード家の次男カイト・ジャッカード大尉ならば、嫉妬こそすれど敵意は抱かなかっただろう。

 

 だがアレクは、生まれは辺境の弱小男爵家であり、しかもその家は既に滅びその身分は平民と変わりない。そのような存在が圧倒的な武功を挙げ、自分と同じ近衛師団に在籍することに、彼は耐えられなかった。

 

 

「アレクサンダー・ウォーカー少尉、貴様に決闘を申し込む!

貴様が負ければ、この師団から出てゆくといい。ここは貴様のような下賤な貴族もどきが我が物顔で所属して良い場所ではない!!」

「……」

 

 いきなり手袋を胸元に投げつけられたアレクは、なんの感情も浮かべていない虚ろな目を、かつて同じ学園で学んだ、だが殆ど面識の無かった同年の中尉に向けた。

 

「これでも一応、同じ学び舎で共に学んだ間柄だ。本来なら父上に頼んで貴様を追い出すところを、決闘という選択肢を与えてやったのだ。感謝するといい!!」

 

 傲慢な表情で、ショーンはアレクを見下すように胸を張る。ショーンの後ろには、彼と同じ考えの貴族士官たちがニヤニヤ笑いながらアレクの反応を眺めている。

 

「自分は参謀本部からの命令で近衛師団に配属されました。私の一存で近衛師団から異動することは出来ないのでは?」

「安心しろ。貴様の要望という形ならば父上、師団長であるジルベルト少将も納得してくれるだろう」

「………そうですか」

 

 アレクは瞑目し、一つ頷くと足元に落ちた手袋を拾った。

 

「決闘を…受諾します」

 

 

 この決闘がショーンと、そしてアレクの運命を大きく狂わせる事になる事を、この場の誰も想像すらしていなかった。

 

 

 

 

 




おかしい…気がついたらジョーン君の細かい設定が生えてきた…?
当初の予定だと名前も無かった子なのに…!
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