プロットを練り直す為に作品を読み直していたところ、作中で名前が被っているキャラがいました。
その為、過去に名前だけ登場した連合王国の第3代国王の名前をショーン・ヴィーテ→ジョン・ヴィーテに変更します。
連合王国陸軍情報部。
連合王国陸軍参謀本部直属の諜報機関であり、国内外の情報の分析から時に暴力を用いた“工作”まで、連合王国の利益のために後ろ暗い行為も厭わない悪名高く、そして畏怖され続けた組織だった。
だが、原型となった連合王国騎士団情報部の設立からおよそ250年に渡って彼らが保ち続けてきた権威は、大戦の勃発によって音を立てて崩れ落ちた。
設立以来、国防の名目で強権的な情報収集や工作を行い、大貴族や政府高官から忌み嫌われながらも、確かな実績によって彼らは存続し続けてきた。傲慢や増長こそあれ、彼らの存在は確かに連合王国を護っていたからだ。
だが、獣国軍がスペイサイド州を侵攻するまでその予兆に気づかず、青麟帝国とファガリア王国の連携、そしてトランバレム公爵家の裏切りを見逃した情報部の失態は、危うくその組織そのものの解体に繋がりかけた。
彼らの命脈を繋いだのは、大戦という非常でありそのタイミングで諜報組織が消滅することは敗北に直結すると軍上層部が認識していたからであり、対抗組織である内務省監査局が、どちらかというと防諜専門で外部向けの諜報能力が欠けていたからであった。
組織再編の名目で大粛清が行われ、敵国に買収された者や貴族派としてトランバレム公爵家に協力していた者達が徹底的に排除され弱体化した情報部は、組織防衛のためにも祖国防衛のため献身的に働いた。
そのかいもあり、戦後の情報部存続については問題ないと陸軍上層部及び王国中枢部からお墨付きを得ることは出来たが、その事で余裕が出来たことが、巡り巡ってアレクにとって悲劇に繋がった。
情報部は組織の性質上、近衛師団と同じく信頼のおける人材、即ち貴族子弟を多く登用していた。貴族は当然横のつながりが強く、組織を跨いで繋がりがあることが多かった。
平民と変わらない身分でありながら戦功を挙げたアレクに嫉妬したショーンを筆頭とする近衛師団の若手士官たちは、彼を近衛師団からの排除し、更にアレクの名誉を貶す為、自分達の伝を活用して情報部に密告した。
曰く“アレクサンダー・ウォーカーという人間は2年前の開戦時に既に死亡しており、現在アレクを名乗る人物は獣国の人間がそうとわからないよう顔を傷だらけにすることで成り代わった別人である。彼は武功を挙げるという形で王国軍に紛れ込んだ
そしてショーン達は、アレクと決闘することで注目を集め、決闘に敗北したアレクが情報部に間諜として捕縛される場面を見せつけることで、アレクの名誉を徹底的に貶める算段をつけた。
情報部は、本来ならこのような稚拙な陰謀に協力することなどあり得なかったが、組織が弱体化し目に見える功績を欲した彼らはこの陰謀に飛びついた。
例え冤罪だとしても、まともな後ろ盾も無く、親族も殆ど全滅した元貴族。唯一まともに残っている親族は、王都で役人をしている宮廷貴族のボウモア子爵家のみだが、その子爵家自体も爵位以外は殆ど権益も権力も持っていない。英雄と呼ばれた人間が実際は間諜であり、情報部がそれを看破し捕縛するという彼らの自尊心を満足させるシナリオ。精査すればするほど、アレクの存在は功績に飢えた情報部に都合のいい物だった。
彼らに想定外があったとすれば、陰謀の中心人物だったショーンが決闘で無様に敗北し、挙げ句のはてに首を刎ねられ殺された事だった。
たがその事実すら、彼らは利用して見せた。
“アレクサンダー・ウォーカーを名乗る間諜は、己の正体を見破ったショーン・ジルベルト中尉を殺し、逃亡を図ろうとした”
アレクにとって不幸だったのは、本来ならば彼を守ってくれるはずの近衛師団の師団長は、彼が殺したショーンの父親であり、むしろこの陰謀を積極的に支持してしまった事だった。
アレクを保護しようとした決闘の経緯を知る憲兵達も、師団長の命令では引き下がる他無く、アレクは身柄を陸軍情報部へと移されることとなった。
ーーー征服歴1500年 スペイサイド州 主要街道ーーー
「吐き気がする話ね…」
「……ああ」
青い顔で、湧き上がる怒りを抑えるように震えるエリカに、ジルベルト大佐は無表情で相槌をうつ。
「だが、この陰謀にはまだ続きがある」
「続き…?」
訝しげに尋ねるエリカに、ジルベルトは頷き、後になって彼と、彼の友人である近衛第2師団の師団長が調べた事実をエリカに語った。
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ーーー征服歴1498年 王都カルネアスーーー
「革新派が…? どういうことだ?」
ショーンとアレクの決闘から2日後、アレクが陥れられた陰謀について調査した参謀長は、友人であり事情を知るジルベルト大佐を自室に招き、彼が得た陰謀の全容を語った。
「結論から言うと、ウォーカー少尉は3つの勢力から疎まれたということだ。一つ目は君の甥、ショーン・ジルベルトを中心とする若手の貴族士官達。二つ目は陸軍情報部。そして三つ目が革新派だ」
「一つ目と二つ目は分かる。ウォーカー少尉の武功に嫉妬し、彼に後ろ盾が無く隙があったことで、愚か者共の自尊心と情報部の手柄の為の生贄にされたということだろう?」
「ああ。だが、それを煽っていたのが革新派なんだ」
「それが分からん。革新派の連中がわざわざ潜在的な敵の貴族士官を何故応援する?」
ジルベルト大佐は理解できない情報に首を傾げる。
“革新派”は、現在の連合王国において王国議会で最大派閥である“王党派”、即ち七大貴族を中心とする主流派閥に次ぐ勢力を誇る派閥だ。
彼らの母体は連合王国の発展と共に経済的に成功した大商人や事業に成功した新興貴族達だ。かつては第2派閥であった“貴族派”と敵対し王党派と協調関係にあったが、貴族派が徐々に勢力が衰え、更に貴族派の領袖だったトランバレム公爵家が反乱を起こした事で瓦解した為、その後釜となり、現在は今回の大戦における方針を巡って次第に王党派と敵対し始めている。
今回の陰謀の中心は、大きな括りでは王党派に属する貴族士官達である。わざわざ対立派閥を応援するような真似を何故するのか、王党派に属するジルベルト子爵家の人間であるジルベルト大佐には理解できなかった。
「奴等もまたウォーカー少尉が邪魔なのさ」
「…?」
参謀長は皮肉げに笑う。
王党派に属する歴史ある宮廷貴族家の当主でもある彼は、敵対派閥の動きを元々警戒していた為、今回の陰謀に彼らが関わっていることを早期に察知し、更にその理由まで突き止めた。
「此度の大戦では大小多くの
参謀長はジルベルトへ向けて、三本に立てた指をかざし、一本ずつ折り曲げていった。
「一人目はゴードン・リガール中佐。大隊長として初期のブリュンヒルデ要塞防衛戦で活躍し帝国の将軍を討ち取った」
ゴードン・リガール。ジルベルト大佐にとっては実家の本家筋に当たる七大貴族リガール辺境伯家の嫡男であり、彼の弟子であるエリカ・リガールの長兄にして、彼と同じ師に剣を学んだ弟弟子でもあった。
若くしてその剣才を認められ、王都に存在するカルネアス流剣術最大の道場、“練武館”の
「二人目はカイト・ジャッカード大尉。自らが開発したマスケット銃と大砲を用いてトランバレム公爵軍とファガリア王国軍に大打撃を与えた」
その人物は、リガール辺境伯家と同じ七大貴族の一角“ジャッカード侯爵家”の次男であり、幼少期から神童と呼ばれその才を連合王国中に知られた人物だった。青麟帝国やその前身である紅嶷帝国の秘伝だった火薬の製造と、その原料である硝石の大量生産に僅か10才で成功した彼は、学園入学前までに火薬を用いた効果的な兵器を開発した。
彼の開発したマスケット銃と大砲は、当初はその効果を疑問視されたが、カイトの持ち前のプレゼン力と彼の生家ジャッカード家の影響力から、軍に試験的に導入される事となり、五年後に勃発した大戦でその有用性を証明した。
中隊長としてマスケット銃と大砲を運用する実験部隊を指揮する事となったカイト・ジャッカード中尉(当時)は、開戦初期こそ新兵器の運用に戸惑う兵達の統率に苦慮するが、次第に成果を挙げ始め、開戦ニ年目に行われた西方戦線におけるトランバレム公爵軍とファガリア王国軍に対する攻勢で、一個中隊で敵軍の一個大隊を一方的に撃滅する大戦果を挙げた。彼はその戦功で大尉に昇進し、大隊長に就任している。
「そして三人目がアレクサンダー・ウォーカー少尉。当時一兵卒の立場にありながら、敗走する連合王国軍を追撃する獣国軍の本陣に斬り込み、裏切り者のソレム伯爵を討ち取り、青麟帝国の客将を負傷させ追撃を頓挫させ、スペイサイド方面軍を救った」
本来、アレクの戦功は先の二人と比較しても遜色は無い。だがそれがあまり周知されていないのは、彼が滅んだ小領主家の次男でしか無かった為だ。
「この中で、当然ながらリガール中佐は王党派だ」
「ああ」
ジルベルト大佐が首肯する。
「そしてジャッカード大尉は、出自で言えば王党派と言いたいところだが、彼を支援しているのは革新派だ」
「…? どういうことだ?」
首を傾げるジルベルト大佐に、“そう言えば剣の腕や指揮能力は兎も角、政治には疎かったな”と参謀長は苦笑し、詳細を説明する。
「ジャッカード大尉は火薬の量産以外にも学園入学前にいくつかの発明を行っていてな。それらを製造、販売する事業も立ち上げている。そしてその縁で“革新派”の中心的な存在であるバローズ商会の会長の娘を側室に迎えている」
一夫多妻制が許可されている連合王国では珍しく無いが、カイトは当時、正室の他に二人の側室を娶っていた。
「元々ジャッカード大尉は次男だからな。ジャッカード家は嫡男が継ぐし、大尉自身は独立して別家を建てる予定だった」
「そしてそんなジャッカード大尉を、革新派は自分達の旗頭に選んだ」
「そういう事だ。まあ、ジャッカード大尉自身にどこまで自覚があるのかは知らんがな」
参謀長は肩を竦める。
「革新派からすればこの大戦は好機だ。元々対立していた貴族派は壊滅状態。王党派は図体はでかいが動きは鈍いし、大戦で七大貴族も含めて子弟にかなり被害が出ている」
この時代、どの国でも貴族は戦場で戦う事を義務とする。故に多くの貴族子弟が戦場に赴き、そして命を落した。
「そして自分達の将来の旗頭は華々しい武功を挙げた。それこそ派閥内では“カナンの騎士”に大尉を推薦する動きが出るほどにな」
「何…!?」
ジルベルト大佐が目を見開く。
六代目カナンの騎士“リオン・グラハム”が40年前に死去して以来、長らく候補すら話題に登らなかった連合王国の武の象徴に、カイトが推薦されるかもしれないなど、噂すら耳にしていなかったからだ。
「まだ本人も知らないだろうからな」
「…むしろ何でお前は知っているんだ?」
「何、これでも宮廷貴族の端くれだからな。目と耳は常に鋭くしているのさ」
参謀長はニヤリと口の端を上げ、そして真面目な顔に戻る。
「話を戻すぞ。ジャッカード大尉を
「それは…そうだな」
「ああ。だがリガール中佐は王党派のホープだ。下手に手を出せば火傷ではすまん」
「そんな事をすればリガール家が全力で革新派を叩き潰しに動くだろうな」
ジルベルト大佐は、彼の本家筋が身内を大切にする一族であることをよく理解している為、深く頷き、そしてようやく友人が言いたいことに気付く。
「つまり、ウォーカー少尉はジャッカード大尉のライバルとして目を付けられたということか」
「そうなるな。おそらくジャッカード大尉が何も知らないまま、その将来のライバルは闇に葬られるというわけさ」
参謀長は皮肉げに笑い、懐から取り出した煙草を咥える。
オイルライターで火を点け、紫煙と共に胸に溜まった不快感を吐き出し、同じように煙草を吸う友人に語る。
「ウォーカー少尉は哀れではあるが、まあまともな後ろ盾のない
「…ああ」
「気に入らんが、下手に突付いて派閥間の抗争に火をつける気にもならん」
「…そうだな」
「だが、この状況は利用できる」
「…何だと?」
ジルベルト大佐は、タバコを灰皿に押し付け不敵に嗤う友人お顔をまじまじと見つめる。
参謀長は、その
「何処からも捨てられた札だ。拾って有効活用したとしても文句は言われないだろう?」
「おい、何をするつもりだ?」
ジルベルト大佐は、長年の友人であり、剣よりも知略に、もっと言えば謀略に長けた友の姿に戦慄を覚える。
「何、一応ウォーカー少尉はまだこの近衛第2師団の一員だからな。師団長は文句を言うだろうが、俺が介入しても文句は言われんよ」
「ウォーカー少尉を救うのか?」
「さてな。上手く行けば生き残るが、もしかしたら死んだほうがマシと後悔するかもな?」
参謀長は獰猛に嗤いながら、友人に己の策を明かし、それを聞いたジルベルト大佐は顔を青褪めさせる。
「悪いが巻き込まれてもらうぞ、バーナード」
「…分かった。そもそも私が決闘を止めていればここまで面倒なことにならなかった問題でもある。不肖の甥の尻拭い位はするさ」
ジルベルトは溜息をつき、長年の友人の策に乗ることに同意する。
「さぁて、俺の目の前で稚拙な陰謀を展開してくれたんだ。折角だから利用してやろうじゃあないか」
参謀長、カレウス・
言えない…脇役で名前を考えるのが面倒くさかった参謀長がこんなに目立つとかこの話を書くまで思ってもいなかったなんて…