※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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なんとか土日に一話ずつ投稿するペースを維持したい…


29話 ラバナキアの会戦①

ーーー征服歴1500年9月 スペイサイド州西部 ラバナキア平原ーーー

 

 後にラバナキアの会戦と名付けられるこの平原での決戦の()()()は、獣国軍第三軍の損害度外視の猛攻から始まった。

 野戦築城とはいえ馬防柵と逆茂木、更には空堀まで備えた連合王国軍の陣地は、例え倍の数の軍勢が相手でも容易には突破できないことは、この3日間の戦いで重国軍も理解していた。

 だからこそ獣国軍の総大将ガッフェル将軍は軍を分割し交代で戦わせることで消耗を抑えつつ、逆に連合王国軍を疲弊させようとしたが、初日に連合王国軍が鬼札であるアレクを投入し第一軍の指揮官を討伐した事でその戦略は既に頓挫している。

 時間のない獣国軍に残された選択肢は数を頼みにした力押しのみであったが、これは数で劣る連合王国側にとっても嫌な戦術でもあった。 

 獣国軍が損害を抑えつつ策を巡らせるならば、その作戦を潰すように動けば犠牲を避けつつ時間を稼ぐことも出来た。事実、初日と2日目はそれが上手く嵌り、獣国軍を翻弄することも出来た。

 だが、策も何も無い力押しではいくら陣地も守りを固めても損害が嵩み、数の少ない連合王国軍は時間が経てば経つほど不利になる。そして限界が連合王国に訪れようとしていた。

 

 

──────

 

「大将軍閣下、第三軍が3重に敷かれた連合王国軍の陣地の防衛線の第一線を突破しました!」

「よし、第二軍のゲールに伝えろ。南北の警戒に配置した兵を除いた部隊を連合王国の陣に叩きつけてやれとな!!」

 

 ゾードは味方が犠牲を払いながらも、期待通りの働きをしていることに機嫌を良くし、獰猛に笑う。

 

「第二軍が動いたらこの軍の予備隊も前に出すぞ。勢いのまま一気に奴等の陣地を押し潰してやる!」

「ハッ!! …しかし宜しいのですか? 未だ“顔無し”が死んだという報告は上がっていませんが…?」

「怖気づくな! 奴等は連合王国軍の陣の中だ、よしんば出撃してきてもここにたどり着く前に第二軍が三軍に捕捉されて殺される」

 

 未だに“顔無し”(アレク)の影に怯える参謀を叱責し、ゾードは馬上で戦場を観察する。

 第三軍は連合王国の防衛線の第一線を突破したが消耗が激しい。代わりに第二軍の増援が第三軍のこじ開けた連合王国軍の防衛線の穴を塞がれないように広げてゆく。そこに更にゾードの送り込んだ増援が加わり、連合王国軍の第二防衛線すらも突破は時間の問題だった。

 

 数と勢いに押された連合王国軍が後手に回っている様子がゾードの位置からはよく見えた。

 

「どうやら連合王国軍の奇策もタネが尽きたようだな…」

 

 勝利を確信したゾードは口元を緩める。だがそんな彼の下に伝令が息を切らせて駆け寄ってくる。

 

「だ、第三軍のアカム将軍より伝令です! か、“顔無し”です! “顔無し”が…奴の率いる部隊がこちらの軍団の入れ替わりの隙をついて突破しました!!」

 

 顔を青ざめさせた伝令が叫ぶ。

 

「数は約300、一直線にこの本陣へ向かっています!!」

 

 獣国軍の本陣がどよめく。

 

「えぇい狼狽えるな!! 相手は高々300程度、こちらの本陣には5000の兵が残っている。それにこちらには帝国から貸与された精鋭部隊もいるのだ、あんな若造など恐れるに足らん!!」

 

 激昂するゾードは、彼の隣で馬に跨っている連合王国人を睨む。

 

「監察官殿、昨日の貴殿の言動に嘘は無いな?」

「ええ、お任せ下さい。必ずや忌々しい“顔無し”を八つ裂きにして、奴の見苦しい傷だらけの首を閣下に献上致しましょう」

 

 獰猛な笑みを浮かべる帝国軍の監察官スバルテイルは、彼の現在の主君である藍劉貭から託された精鋭部隊“黒狗隊”300騎を伴い、本陣目掛けて突撃してくる()()()()()()()()()、“顔無し”アレクサンダー・ウォーカーを仕留めるため出撃した。

 彼らに続いて本陣からも1000の兵が追加で出撃し、更に第三軍からも500程の兵がアレク率いるガラクタ中隊の後ろを突く形で出撃し、逃げられないよう完全に包囲した。

 

 全方向を包囲されたガラクタ中隊は、6倍以上の敵兵相手に奮戦するが、次第に力尽き、一人また一人と包囲網の中で力尽きてゆく。

 

 

「ハハハハハ、口程にもないなぁ“顔無し”ぃ!!!」

 

 “黒狗隊”にアレクの中隊を攻撃させながら、スバルテイルが顔を歪めて笑う。包囲網の中で()()()()()()()()()が必死に薙剣(グレイヴ)を振るっているが、多勢に無勢で、尚且つ兵の質でも劣りる為、次第に彼の体にも傷が増えてゆく。

 そしてついに()()()()()()()()()の騎馬が引き倒され、地面に投げ出される。そしてその男に獣国兵が殺到し、彼の体に槍を、あるいは剣を突き刺す。

 

 血飛沫と共に断末魔が響く。周囲のガラクタ中隊の兵達の助けも間に合わず、()()()()()()()()()は致命傷を負った。

 

「待てお前達、まだ止めは刺すな。生きているうちに奴の無様な顔を見させてくれ」

 

 顔を醜悪な愉悦に歪めながら、スバルテイルは馬を降りて、最早動くことも出来ない()()()()()()()()()に歩み寄り、その男の顔を覆う包帯を剥ぐ。

 

「さぁアレクサンダー・ウォーカー、私に貴様の憎たらしい顔を……?」

「…監察官スバルテイル殿、いかがなされましたか?」

 

 あり得ないものを見た、という表情で固まるスバルテイルに、“黒狗隊”の隊長が訝しそうに声をかける。

 

「…違う」

「違う?」

「違う…こいつは、この男は()()()()()()()()()()()()()ではない!!!」

 

 スバルテイルは目の前に横たわる、最早虫の息で血の気の失せた()()の男を指差す。

 

「貴様ぁー!! 何処だ!? “顔無し”は何処にいる!!!」

 

 最早指の一本すらまともに動かせない、()()9()3()1()()()()()()()は、そんなスバルテイルを嘲笑うかのように不敵に笑う。

 

「ハ…ハハ…お前達の…負け…だ、侵略者と……薄汚い…裏切者…め…っ!」

 

“グシャリ”という音と共に、スバルテイルは戦務参謀の首を踏みつぶし、彼の命を奪う。

 

「我々の負けだと…巫山戯た事を…!?」

 

 その時、彼は周囲がどよめいている事に気づく。

 

「か、監察官殿…あれは!?」

「な…なにい!!?」

 

 “黒狗隊”の隊長が平原の東側、獣国軍の野営地の方向を指差す。連合王国軍の陣を攻略するため、極僅かな守備兵と負傷兵しか残っていないその野営地から、黒煙が立ち昇っていた。

 

 

 

 

 

 




次回、本物の主人公(アレク)登場予定
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