そしてテンションが上がったので思わずストックを無視して投稿してしまった…
ーーー征服歴1500年9月 ラバナキア平原東部 獣国軍野営地ーーー
100騎程度の騎兵で獣国軍の野営地を奇襲し、僅かな守備兵を駆逐し、野営地に集積されていた兵糧や物資に火をかけた連合王国軍の指揮官、アレクサンダー・ウォーカー大尉に、部下が作戦の進捗を報告する。
「大尉殿、獣国の奴等の食料はよく燃えてまさぁ。いやぁ支給されたあの油、よく燃えますなぁ」
「
「へーぇ流石ぁ西の英雄、“神童”の名は伊達じゃあありませんなぁ」
山賊と見紛うような凶暴な顔をしたアレクの部下、バグラム曹長は感心したように頷く。
「水でも簡単に消えませんし、どうやって作ったのやら」
「なんでもセキユ?とか言う地面から湧いてくる燃える水を加工したものだそうだ」
「あー、自分は学が無いんで細かい事はわかりませんが、そんな物からあんな物騒な油ができるんですなぁ」
アレクとバグラムが呑気に会話している内に、野営地内に油をまいて炎を広げてきた騎兵達、アレクが大隊長になるに当たって方面軍から新たに与えられた、スペイサイド方面軍でも指折りの精鋭騎兵達が整列してゆく。
「ウォーカー大尉殿、敵陣全体への放火及び、収容されていた負傷者の移動の手はずは整いました!!」
「ああ、ご苦労」
アレクは改めて、一糸乱れぬ綺麗な整列を行う騎兵達を振り返る。
──────
ラバナキアの会戦初日、獣国軍の第一軍の指揮官を斬り殺したアレクは、元から彼の率いていたガラクタ中隊を戦務参謀とリゼル・エクトル中尉に任せ、バグラム曹長以下少数の兵を率いて戦場を離脱した。
そしてラバナキア平原北部の山を迂回し、先行していた騎兵小隊に合流した。そこから2日かけて、獣国のまだ把握していない間道を通ることで警戒網を回避し獣国軍の背後、戦場の西側に回り込んだ。
そして
この段階で、獣国軍が当初予定していたスペイサイド州の早期完全制圧と、隣州のカユシコワ州への橋頭堡確保は困難となった。
だが、アレク達に与えられた任務はまだ終わっていない。
────────
アレクは、自分の眼前で整列する騎兵達を、普段と変わらない冷めた眼で見据える。
「ご苦労だった。これで獣国軍はこの地で長く戦うことは出来なくなった」
アレクは淡々と、敵軍の現状を説明する。
「だが、まだ俺達の任務は終わっていない。何故なら、今ここにある兵糧を焼いたとしても、獣国の連中には兵糧の当てがあるからだ」
アレクが戦場の先、連合王国軍の本陣の方向を指差す。
「連合王国軍の本隊が敗北すれば、獣国軍に我々の兵糧は奪われるだろう。そうすれば奴等はその勢いのまま、この地から逃げようとしている難民や友軍達に襲かかり、彼らを捕虜に、そして奴隷にするだろう」
それは、大戦が始まってから四年間、この地で繰り返されてきた悲劇。
「故に我々は、友軍を、そして力無き民を護るために、これから獣国軍の本陣へ突入し、奴らの総司令官ゾード・ガッフェルを討ち取る必要がある」
最前線での防衛戦を生還したアレクが、グレングラントへ辿り着いた直後にスペイサイド方面軍司令官アーカイム・オンタリオ中将から直々に与えられた任務。“ラバナキア平原における決戦で、獣国軍総大将ゾード・ガッフェルを殺害せよ”。
自身の大尉への野戦任官及び、エリカ・リガールのスペイサイド州脱出の
“自身の元々率いていたガラクタ中隊を囮とし、敵軍の把握しきれていない間道を利用した背後からの奇襲”
グレングラントで
かつて一兵卒として戦った時期から細々とではあるが培ってきた人脈、そして賄賂や脅迫すらも用いて収集したスペイサイド州西部の詳細な地形図、そして軍にも無断で密かに準備していた
会戦はアレクと、そして方面軍参謀達の思惑通りに推移し、作戦は最終段階まで移行した。
だが、例え作戦が尽く上首尾に進んだとしても、標的であるゾードの周囲には未だ3000程度の兵が残っている。
「逃げたい者は北か南へ逃げろ。森の中へ逃げ込めば、そうそう追っ手はかからん」
アレクは彼の率いる、これから死地へと彼が連れてゆく兵達に最終確認を行う。
アレクの冷めた目に見つめられた部下たちは、穏やかな、そして何処か
「大尉…我々は全員、望んでここに来ています」
騎兵小隊の隊長を務めるベテランの准尉が、代表してアレクに答える。
「我らも共に戦わせて下さい、
彼らの目にはアレクに対する敬意が、羨望があった。そしてそれ以上に、狂おしいほどの敵への、獣国軍への憎悪があった。
「あの時のように、家族の仇を…故郷を焼き滅ぼした侵略者に報いを…」
「大尉、我々だけでは無理でも貴方なら…」
「俺達が辿り着けなくてもアンタがいれば…」
彼らは望んでいる。かつてアレクが成し遂げた偉業の再現を。
絶望的な敗戦の中で、アレクが果たした復讐を、今一度成し遂げて欲しいと彼らは、そしてアレクをここまでたどり着かせるために死んでいった犠牲者達は、そして今、陣地で獣国軍を引き付ける為に戦っている兵達は、望んでいる。
これは“英雄”となったアレクに課された、逃れられない
復讐を果たし、生き続ける目的を失い、そして
アレクは彼らの言葉を受けて、ほんの一呼吸だけ瞑目する。
『
未来の英雄へ向けて、
あの綺麗な、誰よりも輝かしい
そしてアレクは目を開く。常と変わらない冷めた視線で、怨讐に支配された部下たちを睥睨する。
「いいだろう。いつも通りだ。お前達は命ある限り戦い、生き残れ」
それは大きな戦いのたびに繰り返されるアレクの訓示。
「お前達が生きて、戦いを続ける限り、俺が必ず、雑兵共の影に隠れて震えている奴らの指揮官を、このクソッタレな戦争の引き金を引いたクズの首を刈ってやる」
アレクに憎しみは無い。怒りも、嘆きも、それらは全て、かつて果たした復讐の為に燃やし尽くした。
これは己の為ではなく、彼を戦場に縛り付け、そして生き残らせてくれ続けた戦友達の為の言葉。
「我らの戦いに、カナンの騎士の加護があらんことを!」
アレクが天に拳を突き上げる。
燃え盛る野営地に雄叫びが響く。その雄叫びは、死闘を続ける獣国と連合王国の戦場全てに響き渡った。
次回、主人公(アレク)無双