ご評価、ブックマークありがとう御座います。
大変励みになっています。
ーーー征服歴1500年9月 ラバナキア平原東部 ーーー
燃え盛る獣国軍野営地を背景に、アレク率いる100騎の騎兵達が獣国軍総大将ゾード・ガッフェルを護る彼の直轄兵3000に向けて平原を駆け抜ける。
野営地に煙が挙がった事で動揺した獣国軍の動きは鈍い。
更に、時を同じくして、獣国軍に押し込まれていた連合王国軍が全面攻勢に移り、前線の獣国軍を拘束した。
それでも、獣国軍本陣を護る兵達は務めを果たすため動き出す。各部隊の指揮官達は声を張り上げ怯える兵達を叱咤し、迫りくる復讐鬼の集団を迎撃する手筈を整える。
「狼狽えるな!! 相手は所詮100人程度、落ち着いて戦えば恐れるに足らん!!」
だが、部下達の動揺を抑えるために最前線に身を晒す勇敢な指揮官は、アレクにとっては格好の獲物でもあった。
「槍」
「へい」
隣を並走するバグラムから投槍を受け取ったアレクは、馬上で槍を構え、獣国兵達に指示を出す
「来るぞ、盾を構え…がハァ!!?」
アレクの動きを見切り、部下に盾を構えさせた獣国の指揮官は、
「斬り込め!!」
「「「ウオォォォ!!!!」」」
いきなり指揮官を、しかも人間業とは思えない手段で殺それた獣国兵達は動揺し、容易にアレク達の突撃を許してしまった。
「雑魚は無視しろ!! 」
「了解でさぁ!」
「ヒャッハー、どけどけぇ
投槍から
恐慌に襲われた獣国兵達だが、それでも本陣に配されるだけあり彼らも愚鈍ではない。突き進むアレク達をなんとか妨害しようと決死の覚悟で立ち向かう。
「馬を狙…ぎゃ!?」
「止めろ!なんとして…ぐひっ!?」
兵の混乱を抑えようと声を張り上げるベテラン兵や、勇敢に立ち向かう兵達は、目立つが故にアレクの目に留まり、投槍や場合によっては切り飛ばされた味方の首を投石代わりに投擲され、殺される。
そしてアレク達は殆ど突撃の勢いを失わないまま、獣国軍の防衛戦を突破し…、
「死ねぇ“顔無し”ぃ!!」
「ここから先は通さんぞ!!」
アレク達の突撃の先から、綺羅びやかな鎧を纏った騎兵達が突撃してくる。
「本陣護りの精鋭か」
「どうやら大分怖がられてますなぁ!どうしやす?」
「躱す手間も惜しい、突っ切るぞ!」
「でしょうなぁ…おい野郎共、気合入れろぉ!!」
「「「ウオぉぉぉぉ」」」
重装甲の鎧を纏った騎兵達に、アレクは恐れることもなく斬り込む。
「舐める…ガァ!?」
「な…やめ…ガッ!?」
数を減らし、100にも満たない騎兵など容易くひねり潰せると考えていた獣国軍の騎兵達は、正面から突っ込んできたアレクに容赦なく首を、腕を、胴を切り飛ばされ殺されてゆく。そして後ろに続く騎兵達が、怯み足が竦んだ獣国軍の騎兵達を蹴散らし突き進む。
ゾードが頼りにしていた精鋭達ですら、無貌鬼と彼の率いる復讐鬼達の前では僅かな時間しか稼げない。
「大尉殿、もうすぐ敵の集団を抜けます!!」
「っ!? 矢が来るぞ!!」
だが、僅かに稼いだ時間でゾードは確実にアレクを殺す罠を張った。
アレク達が斬り進む先、自身が陣取る本陣の中心に至る手前になけなしの弓兵と弩兵を集め、先頭を突き進むアレクへ弓の集中砲火を浴びせかける。
もしも、ゾードが連合王国の陣地を攻略するために弓兵の大半を前線に送らず、または費用を惜しまず弩弓をより多く揃えていれば、ここでアレクを仕留めることも出来たかもしれない。
だが、かき集めても100程度、しかも急進撃するアレク達の勢いに気圧され狙いのばらけた矢では、
「馬鹿な…」
「人間じゃ…ない」
自らに向けて放たれた数十の弓を全て薙剣で叩き落したアレクは、勢いを殺さないまま、護衛の兵もいない無防備な弓兵達を蹴散らし駆け抜ける。彼の率いる兵達も、ここまでの道程で半数まで数を減らしながらもアレクに続く。
そして遂に、
「しょ、将軍を守れ!!」
「ガッフェル将軍、お逃げ…ガハ!?」
浮足立ち、逃げようとする参謀やゾードを守ろうとする親衛隊の精鋭の首を容赦なく斬り飛ばしながら、アレクが怒りで顔を紅潮させた敵の総大将、獣国の八大将軍の一人にして自らの故郷を焼いた男へと迫る。
ここまでの間に多くの獣国兵の命を奪った、返り血に塗れた薙剣の刃が、ゾードへと振り下ろされ…
「舐めるなよ若造がぁ!!!」
「っ!!」
ゾードの振るう大剣が、アレクの薙剣を弾き飛ばす。
「たった100騎でここまで辿り着いた事は褒めてやろう。だが、貴様ごときにこのゾード・ガッフェルの首はやらんぞ!」
薙剣を弾き飛ばされ、無手になったアレクに、ゾードの大剣が振り下ろされる。
「大尉!!」
「大尉殿ぉ!!」
ゾードと戦うアレクに他の獣国兵を近づけないように戦っていたバグラムや、騎兵隊を率いる准尉が叫ぶ。
「ハハハハハ、口程にもないな“顔無し”……?」
大剣を振り下ろし、
血塗れになったアレクが落馬しないこと、無手だったアレクの右手にサーベルが握られていること、そして
「あ…ああ…腕、私の腕…」
呆然と、いつの間にかアレクに斬り飛ばされていた両腕をゾードは見つめる。
そして顔を上げると、目の前には
「ま、待て待て待て待て待て!! 殺さないでくれ、金か?それとも女か? 何でもやる、だからどうか殺さな…あ…」
声も出せず、そして視界が何もしていないのに下っていくことにゾードは気づく。
「ぁ…あ…」
獣国八大将軍、対連合王国侵攻軍総大将ゾード・ガッフェル。アレクの故郷を焼き、彼の顔面を斜めに走る傷跡を刻んだ男。そしてアレクだけでなく、多くのスペイサイド州に住まう連合王国人の故郷を奪い、家族を殺した男が最後に見た光景は、馬から崩れ落ちる己の首と両腕を失った体と、サーベルを振り抜き、冷めた眼で己を見下ろす、顔を包帯で覆った男だった。
勝ったッ!
カナンの騎士列伝完!(大嘘)