※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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34話 黒狗隊

ーーー征服歴1500年9月 ラバナキア平原 獣国軍本陣ーーー

 

「助けに来たわよ!!」

 

 戦場に響く銀鈴の美声と共に、アレク達を包囲していた兵達の一部が崩れ、連合王国軍の騎兵隊がその場に雪崩れ込む。

 敵の指揮官に単騎で斬り込もうとしていたアレクは勢いを止められ、騎馬を竿立たせて突撃を中止する。

 

 

「エバンス! 負傷者を直ぐに回収させて!

 さっさと逃げるわよ!」

「ハッ、お嬢さ…リガール中尉殿!」

 

 アレクの率いる騎兵達よりも更に練度の高い騎兵達が、地面に倒れた負傷者や死者を騎乗したまま回収していく。

 予想外の状況に僅かな間だが呆気に取られたアレクの前に、羽飾りのついた兜から輝く銀髪をのぞかせ、宝石のような金色の瞳を悪戯っぽく歪めた美女、エリカ・リガールが現れる。

 

「…何をしに来た?」

「何って、助けに?」

 

 包帯の上からでもわかるほど、苦虫をまとめて噛み潰した様な苦々しい顔で問いかけるアレクに、エリカは何でも無い事のように答える。

 その言葉に一瞬だけ呆けた様に固まったアレクは、舌打ちをしてエリカを怒鳴りつける。

 

「馬鹿かお前は!!!」

「ちょっと、折角助けに来たのに馬鹿とは何よ馬鹿とは!」

 

 流石に感謝されるとは思っていなかったエリカだが、アレクの剣幕に首を竦め抗議する。

 

「馬鹿以外に何がある!! 無駄死にするつもりか!!?」

「何言ってるのよ、あんた達を助けて私達も逃げるに決まってるでしょ?」

 

 エリカは何でも無い事のようにアレクの怒鳴り声に答える。

 

 事実、彼女の率いる騎兵達は連合王国において最精鋭と名高いリガール家直属の騎兵隊だ。国内で彼ら以上の練度と実力を有するのはバランタイン家直属の騎兵隊か、連合王国北方で騎馬民族や神聖帝国と鎬を削る第七騎兵師団のみであり、大陸全体でも屈指の精鋭部隊である。しかも彼らを率いるのは、吉兆である銀髪金眼を有するリガール家の直系であり士気も高い。

 敵軍の殲滅なら兎も角、混乱した軍勢の中から味方を救出して離脱する()()なら、鼻歌交じりにやってのける猛者達である。

 事実、一度は最前線の砦で孤立していたアレク達ガラクタ中隊を救出した実績もあり、エリカも彼女のお目付け役でもあるエバンス・フィデック准尉も、アレクを助けに行くことが困難でこそあれ不可能だとは思っていなかった。

 

 エリカ・リガールはおよそ貴族として求められるあらゆる技能に天賦の才を有していた。リガール家だけでなく連合王国においてすら希少かつ瑞祥とされる、銀髪金眼の女神の如き美貌、同年代どころか現役全てでも上位に入る武芸の冴え、学園へ入学すれば貴族女子の女王として君臨できるほどの政治力と知性、本人が苦手と公言しているが十二分に優秀な令嬢としての教養。それに加えて指揮官としての優れた統率力とカリスマ、そして天性の勘の鋭さによる危機察知能力。

 彼女が自身の才覚に溺れず、自身の才能を謙虚に磨き抜いたのは彼女の三人の兄姉達が、少なくとも1つの分野では彼女よりも優れていたからだった。

 武芸では長兄に、美貌と教養では長姉に、頭脳(腹黒さ)では次兄に及ばないと幼い頃に悟った彼女は、それぞれの兄姉にその得意分野を学びながら、自身の実力を鍛え抜いた。

 彼女がスペイサイド州で挙げた武功は、確かに裏でバーナードやアレクの手助けはあったものの、大凡は彼女が実力で勝ち取ったものであり、部下である騎兵たちとの信頼も本物だった。

 

 だからこそ、エリカ本人だけでなく、彼女の部下達も、本来なら彼女を諌めるべき守役も、それどころか上官であり剣の師でもあったバーナードや、軍団長であるオンタリオ中将ですら、心の底で彼女の行いに“()()()()()()()()()”、そう信じてしまった。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「チッ…ジルベルト大佐(役立たずの石頭)め…こうなることが分かっていたはずだろうに…!」

「ねぇ今結構酷い罵倒が聞こえた気がするんだけど…?」

「気の所為だ」

 

 アレクの舌打ちと独り言を聞き咎めたエリカの詰問を受け流し、戦況を確認しようと首を巡らせ…

 

「死ねぇぇ!! “首無し”ぃ!!!」

「「黙れ(黙りなさい)」」

 

 不意を打とうと斬り掛かってきた獣国軍の騎兵の腕をアレクが斬り飛ばし、エリカの振るう槍が鎧の隙間を突いて喉を貫く。

 アレクに斬り掛かってきた騎兵は瞬殺されたが、それがきっかけとなり、戸惑っていた獣国兵達がアレク達に襲い掛かる。

 

「鬱陶しいわね…! ほら、さっさと逃げるわよ!」

「おかしい…さっきの帝国軍の騎兵は何処に…っ!?」

 

 斬り掛かってくる()()()()兵士達を斬り捨てながら、アレクが異変に気付く。

 

「おいリガール中尉、フィデック准尉、黒装束の騎兵に注意しろ!!」

「…? 何を言って…」

「お嬢さ…リガール中尉!!」

 

 アレクの警告に、彼と肩を並べて獣国兵を屠っていたエリカは怪訝な表情で応じ、アレクの部下達を回収し終え、離脱の為に隊列を整えさせていたエリカの守役、エバンスもまた危険を察知して警告を発する。

 

「総員、警戒しろ!!」

 

 アレクの言葉に、獣国兵達をいなしていた味方の騎兵達が気を引き締めた瞬間、獣国兵達の間を縫うようにして黒装束の騎兵達がリガール家の騎兵達に襲い掛かる。

 

「な…こいつら…っ!」

「ぐぅ…」

「この動き…この装束…まさか!」

 

 先程まで危なげなく獣国兵達を倒していたリガール家の騎兵達が、明確に苦戦し、傷つけられてゆく。

 

「こいつら…強い!」

「チッ…厄介な…!」

 

 アレクは自分に向かってきた黒装束の帝国兵の首を斬り飛ばし、エリカの背後を襲おうとしていた別の騎兵の胴を薙ぐ。

 

「お嬢様、こやつらは“黒狗隊”、帝国の皇族直属の精兵部隊です!!」

 

 両手にサーベルを抜き放ち、同時に三人の騎兵を相手にしながら、歴戦の騎兵であり過去に帝国軍とも交戦経験のあるエバンスが叫ぶ。

 エバンスは叫びながらも相対する“黒狗隊”の一人を斬り捨て、もう一人の斬撃を受け流すとこに成功するが、三人目の騎兵の斬撃を避けきれず負傷する。

 

「ぐぅ…不覚!」

「エバンス!」

 

 追撃しようとした“黒狗隊”の騎兵の喉を槍で貫き、エリカが自身の守役をカバーする。

 

「フハハハハ、いかに名高きリガール家騎兵隊であろうとこいつらには敵わん!!

藍劉貭殿下より授かったこの騎兵達はお前達を戦場で殺すために帝国に飼われているのだからなぁ!!」

 

 エリカ達の奇襲を受けて後退していたスバルテインが、戦況が優位になったと確信して再び嫌らしい笑みを浮かべながら自慢気に叫ぶ。

 

「役立たずの獣国兵共、何をグズグズしている。連合王国兵達の動きを止めろ!! そうすれば“黒狗隊”が奴らを確実に仕留められる!!」

「…クズね」

「偉そうな事を言う割に自分は安全な場所にいる辺り、指揮官としては下の下だな」

 

 襲いかかってくる“黒狗隊”に苦戦を強いられながら、エリカとアレクがスバルテインの言動を批評する。

 

「黙れぇ!! 殺せ“黒狗隊”!! ああ、リガール家の娘だけは殺すなよ? そいつは生け捕りにして殿下へ性奴隷として献上してやる!!」

「…良かったな、生かしてくれる上に玉の輿が狙えそうだぞ?」

「正々堂々と戦わないし、数を頼みにするような情けない男は好みじゃないんだけど!?」

 

 アレクの皮肉に、“黒狗隊”の騎兵を槍で突き殺しながらエリカが反論する。

 

「生意気な口をきけるのは今のうちだけだぞ? 貴様は喉を潰して、手足の腱を切って身動きができないようにして献上してやるとも!!」

「お生憎様、あんたなんかに捕まるほど私は安い女じゃないのよ!」

 

 エリカはスバルテイルの言葉をせせら笑い、斬り掛かってくる“黒狗隊”の攻撃を捌いてゆく。

 

 だが、余裕のありそうなアレクやエリカの言動とは裏腹に、戦況は加速度的にアレク達に不利になってゆく。

 

「お嬢様…!」

「大尉殿!!」

 

 エバンスがエリカに、バグラムがアレクにそれぞれ意思を確認する。エリカはその声を聞き、悔しそうに唇を噛み、アレクは周囲の騎兵をまとめて斬り捨てながら溜息をつく。

 

「ハァ…結局こうなるか」

「っ!?ウォーカー大尉!?」

 

 そしてアレクは、混戦となりつつあるその場から離れ、エリカ達とスバルテイン達敵兵の境目へ移動する。

 殺到する敵兵を無造作に斬り捨てながらその場に進み出たアレクの異様な雰囲気に、両軍はほんの数瞬だけ動きを止める。

 

 

「傾聴!!!」

 

 アレクの低い声が戦場へ響く。敵も味方も、その場で戦っていた兵達全員の目が、顔を包帯で覆った、返り血塗れの男へ向けられる。

 

「フィデック准尉!!」

「は…ハッ!!」

「バグラム曹長!!」

「ヘイ!!」

 

 アレクの声に、二人のベテラン兵が応える。

 

「全力でこの場から離脱しろ! 助からない負傷兵や死体は捨て置け!! お前達が生きて帰ることだけに集中しろ!!」

「な…ウォーカー、貴方っ!!」

「お嬢様!」

 

 アレクの言葉に食ってかかろうとするエリカを、エバンスが抑える。

 一瞬だけ振り向き、その様子を見たアレクは、その普段通りの冷めた瞳に一瞬だけ満足気な光を宿す。

 そして視線を切り、敵側に向き直ると、血に塗れ刃こぼれした愛用の薙剣をスバルテインに向ける。

 

「さぁ、帝国の犬ども、俺の首が欲しいんだろう? 雑魚など無視してかかってこい。お前達如きでも、束になれば勝てるかもしれんぞ?」

 

 アレクの安い挑発に、攻撃を中断していた“黒狗隊”の騎兵達が殺気立つ。同じく挑発されたスバルテインもまた、額に青筋を立てながらも、冷静にアレクへと挑発を返す。

 

「調子に乗るなよ“顔無し”が。だが良いだろう、貴様を嬲り殺しにした後は、貴様の仲間達も血祭りに挙げてやろう」

「やってみろ、主君を見殺しにして逃げた臆病者」

「っ…殺せぇ“黒狗隊”!!」

 

 激昂したスバルテインが、“黒狗隊”へアレクの処刑命令を下す。

 それに呼応するように、アレクもまた殺到する黒狗隊へと斬り込んでゆく。

 

「早く行けぇ!!」

「申し訳ありません…ウォーカー大尉…」

「すまん…ベル!」

 

 そしてアレクを助けに来たリガール家の騎兵達も、そしてアレクと共に獣国軍の本陣へ斬り込んだ部下達も戦場から離脱する。

 

 彼らの()()を、置き去りにして。

 

 

 




ーーー制作裏話ーーー
 この話を書くにあたってモデルにしたのは、スター・ウォーズエピソードⅡのジオノーシスの戦いだったりします。

 マスターウィンドウ、個人としては強いしめちゃくちゃカッコいいけど、あれだけ偉そうに啖呵切っておいて数の暴力で追い詰められるのはどうなの…?
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