追記:タイトルを入れ忘れていたので修正しました
ーーー征服歴1500年9月 ラバナキア平原 獣国軍本陣ーーー
敵の指揮官、裏切り者のソレム伯爵のかつての部下であり、今では復讐のために帝国へ鞍替えしたスバルテインへ向けて、アレクと彼の愛馬ベルガが駆ける。
単騎で駆けるアレクに、青麟帝国の誇る最精鋭“黒狗隊”の騎兵達が襲い掛かる。
帝国に従わない大陸北方の草原地帯の強力な騎馬民族達、そしてそれらと祖先を同じくするヴィーテ=ガスク連合王国の騎兵達。それらに対抗するために徹底的に対騎兵戦闘を磨き抜いた彼らは、たった一人で自分達に向かって斬り込んでくるアレクに嘲りと、僅かな哀れみを抱きながら、彼らの主君から“必ず殺せ”と厳命された男に剣を振るう。
アレクの正面、左右、そして左斜め後方。強力な騎馬民族達、その中でも“カナンの騎士”のような単騎で強力な力を有する戦士を確実に殺す為に磨き上げられた、“黒狗隊”の隊員たちの高度な連携による、四方向からの同時時間差斬撃。
騎乗し、高速で騎馬を駆けさせている状態で完璧な連携を行う彼らは、誇張なく“黒狗隊”でも最高峰の精鋭だった。躱すことなど叶わず、防御しても他方向からの斬撃で切り刻まれる。アレクに斬り掛かった四人の騎兵達は過去に幾度も同じ手段で北方の蛮族達の戦士を殺してきた。そして今回も、彼らの功績に一人、西の蛮族の首が加わる、そう確信し彼らは口元を釣り上げ…
「なっ…!?」
「が…っ!?」
「ごハッ…!」
「ギャッ…!」
正面と右側からアレクに斬り掛かった騎兵は同時に首を斬り飛ばされ、左から斬り掛かった騎兵はアレクが逆手に抜いだサーベルで剣を持つ手首を斬り飛ばされ、そして背後から斬り掛かった騎兵は、仲間二人の首を斬り飛ばしたアレクの薙剣の石突を鳩尾に叩き込まれ落馬した。
必殺の布陣を突破したアレクが、未だに混乱の残る獣国兵達の中へ斬り込む。
「ヒッ…くっ来るなぁ!!」
「ぎっ…助け…」
「嫌だぁ!! 殺さないで…ぐぇ」
自分達の仲間を、将軍を、そして恐ろしい強さを誇っていた“黒狗隊”をも屠るアレクの強さに恐慌をきたした獣国兵達はまともに戦うことも出来ず蹴散らされ、アレクの薙剣とサーベルによって首を刈られてゆく。
「舐めるな…ぐぶぉ!!」
「たった一騎で何が…ごべぇ!!」
それでも立ち向かおうとする騎兵を斬り殺し、アレクはその中の一人の体に薙剣を突き刺し持ち上げる。
「ごァァっ…な、何をぉ…」
「黙れ、鬱陶しいから喋るな」
「ギャァァァ!!!」
そして貫かれた騎兵を前方に翳し、放たれた矢の盾にする。
「チッ…流石に重いな」
「ぉ…ぁ…」
背中にハリネズミのように矢を生やした哀れな騎兵の死体を放り捨て、アレクは自分に矢を放った“黒狗隊”の騎兵達へ馬首を向ける。
「来るぞ!!」
「クソ…化け物め!!」
逃げられないと悟った騎兵達が弓を捨て剣を抜く。
「借りるぞ」
「ギャぁぁ、俺の腕ぇぇ!!」
アレクは逃げようとしていた獣国兵から
「利き腕じゃないからな…」
「ぐぅっ…!!」
肩を撃ち抜かれた騎兵は絶命こそ免れたものの落馬する。
そして乱れた陣形をすり抜け、アレクはついに逃げようとしているスバルテインに追いつく。
「おのれぇ“顔無し”ぃ!!!」
「っ…監察官殿、お逃げを!」
逃げ切れないと判断しスバルテインは馬首を返し長剣を構える。彼を護衛していた“黒狗隊”の兵達がアレクに立ち向かうが、1合も打ち合えず瞬殺される。
「ウォォォオ!」
己に迫るアレクにせめて一矢報いようとスバルテインが長剣を振るうが、それは虚しく宙をきる。
「ォォォオ…あれ?」
剣を振り抜き、アレクが彼の横を駆け抜けても、スバルテインの体からは一滴の血も流れない。
そして振り向いたスバルテインに、アレクは一瞬だけ振り返り言葉を投げる。
「お前は殺す価値もない。せいぜい騒いで味方を混乱させていろ」
「なっ…おのれ…うわぉ!!」
駆け去るアレクを追おうと手綱を握ったスバルテインは、
「おのれ…おのれぇ“顔無し”ぃ!!! 追えぇ!! 逃げていった騎兵達に構うな!! やつだ、“顔無し”を全力で殺せぇ!!」
地面に投げ出された痛みと屈辱で顔を醜く歪めながら声を枯らして絶叫するスバルテインの叫び声が、戦場に虚しく響く。
激昂したスバルテインは、部下である“黒狗隊”の隊員に助け起こされながら、目を血走らせて指示を出す。
「リガール家の騎兵の追撃は中止していい!! “顔無し”を絶対に生かして帰すな!!」
「し、しかし奴らはガッフェル将軍の首を…」
「あんな役立たずの首などくれてやれ!! それよりも“顔無し”だ。ここで奴を殺さなければ…殿下の期待にも応えられん!!」
静止する隊員を振り解き、周囲の獣国兵達の冷ややかな視線に気づかないまま、
「何をしている!! 全兵で“顔無し”を追え!! ここから生かして帰すなぁ!!」
本来ならスバルテインに獣国軍の指揮権などない。だが本来指揮を取るべき将軍は死に、参謀達も逃げてしまった今、帝国軍の監察官としての地位を有するスバルテインの言葉は曲がりなりにも命令として機能してしまう。
故に周囲の兵士達は、逃げてゆくアレクの率いた騎兵達よりも、たった一騎だけのアレクを躊躇いながらも狙って動き出す。
「ハァ…ハァ…時間は稼げたか…?」
動きの悪い獣国兵を遮蔽物代わりにして“黒狗隊”の追撃を躱しながら、アレクは一瞬だけ後ろを振り返り、エリカ達が率いているであろう騎兵達の立てる土煙が遠ざかっていく事を確認する。
「さて…どうやら、スバルテインとやらは兎も角、“黒狗隊”の指揮官は優秀みたいだな」
そしてアレクは、周囲の様子の変化に気付く。
混乱していた獣国兵達は下がり、まるで道を開けるかのようにアレクを遠巻きにする。そしてその“道”の先に、“黒狗隊”が扇形に陣形を組んでいる。
「左右は…無理か」
そして獣国兵に紛れるように、五人一組の“黒狗隊”の騎兵達がアレクを牽制するようにアレクを囲んでいる。
矢が無駄と悟ったのか、正面の“黒狗隊”達は剣を構え、アレクが斬り込んでくるのを待ち構えている。
既に疲弊したアレクでは、おそらくその囲みを突破することは敵わない。
「まあ、
アレクは右手に薙剣を、そして左手にサーベルを構え、足のみで騎馬を操りながら、正面から“黒狗隊”の陣形に突入する。
「死ねぇ…ガは!」
「グヘぉ!? 」
斬り掛かってきた相手の剣を左手のサーベルで弾き、右手の薙剣で首を刈る。四方から繰り出される斬撃、己だけではなく騎馬のベルガを潰す為に放たれた攻撃すらも、変則二刀を駆使するアレクは尽く躱し、弾き、反撃で相手の首を飛ばす。
その動きは、彼の二つ名である“鬼”にふさわしい、正しく“鬼気迫る”戦い振りだった。
疲労はあれど、このまま戦い続ければ“黒狗隊”の囲みすら突破出来るのではないか。アレク本人よりむしろ彼と戦っている“黒狗隊”の隊員たちの方が、そんな思考に囚われてしまうほどに、アレクの戦い振りは凄まじかった。
だが、アレクが力尽きるよりも先に、彼の”武器“が限界を迎える。
「ハァ…クソ、結構高かったんだがな…」
幾人もの敵兵の首を狩り続けたアレク愛用の薙剣の刃が”バキリ“という音と共に折れる。流石のアレクも疲労で太刀筋がブレ、首の骨に刃が当り折れてしまったのだ。
「ぐぅ…チィっ!!」
そして反撃の武器を失ったアレクに”黒狗隊“達の斬撃が迫り、捌ききれなかった斬撃がアレクの腕を切り裂き、ようやくアレクはこの戦場でかすり傷以上の傷を負う。
「っ…!」
薙剣の柄を取り落とし、サーベル一本しか持たないアレクに、”黒狗隊“達はとどめを刺そうと剣を振るい…
「……何をしに来た?」
「何度も言ったのにもう忘れたの? 助けに来たのよ、