ーーー征服歴1500年9月 ラバナキア平原 獣国軍本陣ーーー
エリカが槍を起用に使って、地面に落ちたアレクの薙剣を跳ね上げ、アレクがそれをキャッチする。
「お前の部下達はどうした?」
「あー…うん、エバンスとバグラム曹長がなんとかするわ」
「…勝手にここまで来たのか?」
「ちゃ、ちゃんとアナタを助けに行くって言ったわよ!…反対される前に離脱したから返事聞いてないけど」
「子供かお前は!!」
アレクは包帯で覆われていても分かるほどの怒りの形相でエリカを怒鳴りつけながら、右手の薙剣を振るう。
「子供とは何よ!! そもそもアナタが勝手に殿になって敵に切り込んで行くからこんな事になったんじゃない!!」
「それが一番犠牲が少ないからだろうが!!!」
エリカもまた槍を振るい、お互いに斬り掛かってくる“黒狗隊”の隊員たちを屠ってゆく。
互いの死角をカバーするように背中合わせの体勢になりながら、二人は言い争いを続ける。
「そもそも私達はアナタを助けに来たのよ!? 素直に助けられなさいよ!!」
「頼んでないだろ!? 何故余計な犠牲を増やそうとした!!」
「“黒狗隊”がいるなんて知らなかったのよ!? あんなのがいるならもっと戦力連れてくるわよ!! アナタどれだけ帝国の皇子に恨まれてるのよ!?」
「知らん!! 」
言い争うながらも、二人は手を止めること無く、周囲の“黒狗隊”の攻撃を捌き、反撃で絶命させていく。
「というかお前、ここからどうやって逃げるつもりだ!?」
「え…?えーっと…気合?」
「巫山戯てるのかこの馬鹿女!!」
「あ、アナタが一人でここまで突っ込むからでしょ!? よく一人でここまで斬り進めたわね!?」
「お前達を逃がす為だろうが!! お前みたいな馬鹿がここまで来ると想像できるわけないだろうがこの馬鹿!!」
「人を馬鹿馬鹿言わないでよ!! そもそも絶対生きて帰れないような作戦を自分で立てて本当に実行するアナタの方が馬鹿なんじゃないの!?」
「お前が言うな!!」
アレクは左手のサーベルで斬り掛かってきた“黒狗隊”の首を刎ね、右手の薙剣の石突でエリカを狙う“黒狗隊”の隊員の顎を打ち抜き、エリカがその騎兵の喉を槍で貫く。
「兎に角、ここにいても埒が明かないわ。さっさと逃げましょう?」
「…どうやって?」
「そこはほら、アナタなら何か手はあるでしょ? それに、私を死なせるなって
「チッ…碌な死に方しないぞお前…」
「私は死なないわよ、こんなところでは!」
そう言ってエリカは槍を振るい、“黒狗隊”の隊員の鳩尾を貫く。
「チッ…わかった、ついてこい。……後ろは任せるぞ」
「ええ、任せなさい!!」
そう言うとアレクは、左手のサーベルを鞘に納めると、斬り殺した黒狗隊から剣を奪い、その剣を隊の指揮をとっている隊員へ投擲する。
「くっ…小癪な!!」
「行くぞ、遅れるなよ!?」
「誰に言ってるのよ! 貴方こそ、ベルガを労ってあげなさいよ!」
ほんの一瞬、指揮官が剣を弾いたことで出来た隙を逃さず、アレクとエリカが“黒狗隊”の包囲陣を突破する。
「追え!! 逃がすな!!」
行きがけ駄賃に“黒狗隊”の隊員たちの首を刈りながら、アレクとエリカは
「ちょっと、味方の本陣は西よ!?」
「いくら俺とお前の二人でも、今から獣国軍の本隊をすり抜けるのは無理だ!」
エリカの率いてきたリガール家の騎兵達は、どうやら味方と合流できたようだが、獣国軍の第二軍、第三軍は体勢を整え、攻勢を仕掛けてきた連合王国を押し返し始めている。エリカがアレク達を助けるために利用した敵軍の綻びは既に無く、むしろ下手に突っ込めば一網打尽にされるだろう。
「山を抜けるぞ! 森で奴らを撒いてから本体に合流する!」
「了解、大尉殿!!」
アレクとエリカは馬首を北へ、ラバナキア平原を見下ろす山へと向ける。逃げる為に…否、生きる為に。