ーーー征服歴1500年9月 スペイサイド州西部 ステュクス川ーーー
気絶したエリカを乗せた彼女の愛馬を送り出し、最後の戦いに向けた準備も終えたアレクは、自身の愛馬であるベルガに騎乗しながら、のんびりと葉巻を燻らせる。
「良い葉巻だが、五本しか渡さないとかケチだな、
「スバルテイン・バルバロスだ!!」
アレクの目の前に展開した“黒狗隊”約200騎、彼らを背後にしてアレクと対峙するスバルテインは、激昂して叫ぶ。
額に血管を浮き上がらせ、血走った眼でアレクを睨みつけるスバルテインだが、アレクの実力を身をもって知っている彼は決してアレクに不用意に近づこうとはせず、部下の“黒狗隊”と共に、ステュクス川にかかった石橋を背にするアレクを遠巻きに半包囲する。
「なんだ、頭に血が上って突撃してくるかと思ったら、存外冷静だな」
「…貴様の強さはよく分かっている。私もこれ以上、殿下から頂いた貴重な精鋭を失う訳にはいかんからな」
揶揄するようなアレクの言葉に、怒りを押し殺したスバルテインが応える。
だが、アレクの姿をよく観察したスバルテインは、今度は逆にアレクを挑発する。
「”顔無し“、貴様と一緒にいたはずのリガール家の小娘はどこに行った? 大方、貴様をここに置いて逃げ出したか?」
「ああ、お前達如きなら自分が出るまでも無いと言ってさっさと先に行ったぞ? あれでも大貴族のお嬢様だからな。獣臭いお前らの相手は、もう懲り懲りだそうだ」
”ザワリ“と、スバルテインだけでなく”黒狗隊“からも殺気が漏れる。
彼らの殺意のこもった視線を平然と受け止めながら、アレクがスバルテインに尋ねる。
「そっちこそ、悠長に話していて良いのか? 俺と無駄話している内に、リガール中尉は味方と合流してしまうぞ?」
「…安心しろ、すぐに貴様を八つ裂きにして、リガール家の小娘も捕まえてやるとも。喜べ、殿下からリガール家の小娘は捕まえたら我々で好きにして良いと許可も頂いている」
「……ほぅ」
「ククッ、奴を捕まえたら、死んだ貴様の生首の前で散々犯してやるとも!! 」
下卑た笑みを浮かべながら、大仰な仕草で自身を指差すスバルテインに対して、アレクは溜息をつく。
「そうか…残念だな」
「何…?」
想定していなかったアレクの態度に、スバルテインと”黒狗隊“の隊員たちは首をかしげる。
「いやなに、もしもお前達が、俺の首だけで満足してくれるのなら、適当に戦ったところで殺されてやろうと思っていたんだが…」
「…何が言いたい」
「お前たちが、
アレクは咥えていた煙草を自身の後ろ、ステュクス川にかかる石橋の上に投げ捨てる。
煙草の火が、
「これは…野営地を焼いたあの油か!?」
「どうやら見た目よりは脳味噌が詰まっているようだな。御名答、この油はガルアーク聖王国の切り札”メーデイアの火“を、かのジャッカード大尉が再現したものだそうだ。水でも消えず、一度燃えれば数時間は燃焼し続ける優れものだ」
炎を背に、顔の包帯を剥ぎ取り傷だらけの凶相を晒したアレクが不敵に笑う。
「流石に、土でもかければ火は治まるだろうが…出来るかな?」
挑発するように、気絶させたエリカから拝借しておいた槍の穂先を、スバルテインに突きつける。
スバルテインは後退り、冷や汗を流しながらも、アレクに確認する。
「つまりリガール家の小娘を追いたければ、貴様を確実に殺して、その橋を鎮火せねばならないと…?」
「ああそうだとも。お前はともかく、お前の後ろにいる犬もどき共なら、全力で馬をかけさせれば俺の横をすり抜けて行けるかもしれんからな。いくら帝国の精鋭といえど、火の海に準備無しで突っ込める程、人間離れはしていないだろう?」
スバルテインの言葉に、アレクは頷く。
そして腰のサーベルを抜き、右手に槍を、左手にサーベルを構える変則二刀流の構えをとる。
「さて、余計な前置きはもう良いか?」
アレクは傷だらけの顔を獰猛に歪め、己の命を奪うために追ってきた復讐者を、そしてその刃たる精鋭達を睥睨する。
”ステュクス川の戦い“、連合王国陸軍大尉アレクサンダー・ウォーカーVS帝国軍特務監察官スバルテイン・バルバロス及び“黒狗隊”217騎の死闘の幕が、切って落とされた。
次回、主人公無双第三弾(ファイナル)!!