※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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R18までの道のりが遠い…


3話 真面目すぎる男

「聞き捨てならないな!!」

 

 士官食堂に怒号が鳴り響いた。

 食堂の隅で戦友を侮辱するような発言をしている、顔に包帯を巻いた男を怒鳴りつけたサレ・クラディール中尉は、“堅物”という言葉を擬人化したような男だった。

 短く刈り上げた金髪、鍛え上げられた大柄な身体に紺色の軍服を隙なく着こなし、四角い顔に神経質そうなつり上がった目をした彼は、冷血漢な包帯の男、アレクサンダー・ウォーカー中尉を糾弾した。

 

「王国を守る為に戦う者たちに何たる言い草か!!

貴様はそれでも陛下から信任を受けた騎士なのか!!?」

 

 食堂どころか基地そのものを震わせるような大音声でサレがまくしたてる。

 だが怒鳴られた男、アレクは堪えた様子もなく、鬱陶しそうにちらりとサレを見た後、何事もなかったかのように食事を再開した。

 

「無視をするな貴様ぁ!!」

 

 食堂に再び怒鳴り声が響く。我関せずと無視していた周囲の士官たちも部屋の隅で怒鳴っている堅物と、最前線で顔を失いながら“鬼”と称されるほどの武功を挙げ敵からも味方からも畏怖される男に注目し始めた。

 

「…だったらまず名を名乗れ。礼儀すら知らん奴に何を言えばいいんだ?」

「む…これは失礼した。私はサレ・クラディール中尉だ。第8師団から本日付でこちらの戦線に転属となった」

 

 根が真面目なのだろう。感情的になったとはいえ自分が無礼なことをしていることを自覚したサレ中尉は素直に謝り、改めて自らの名と所属を名乗りお手本のような敬礼をする。

 戦乱のせいでやさぐれてはいるが同じく根は真面目な気質のアレクもまた、食事を中断し立ち上がり自らの名と所属を名乗る。

 

「スペイサイド方面軍第11師団麾下931独立遊撃大隊所属第二中隊臨時中隊長アレクサンダー・ウォーカーだ。直接関わることはないだろうが、よろしく頼む」

 

 こちらもまた、先程までのやさぐれた態度からは想像できないような綺麗な敬礼をした後、再び席に戻り残っているスープを飲み始めた。

 

「こちらこそよろしく頼…ってまた食事に戻るな! こちらの話は終わってないぞ!!」

「…こちらには話すことは何もない。そっちも食事にしたらどうだ? ここの食堂の飯は悪くないぞ?」

「そうそう。ここの料理長、戦争前は街で食堂開いてたらしいからな。美味いぞ?」

「そうか、では私も…ではなく!!」

 

 明らかに関わりたく無さそうにぞんざいに話題を逸らそうとするアレクとウーサーの誘導に簡単に引っ掛かりそうになりながらも、サレ中尉は無理矢理話題を戻そうとする。

 

「先程の発言を取り消せ!  

 戦友に対してもあのような無礼な物言い、同じ連合王国の軍人として断じて許せん!」

 

 バン!!とサレ中尉はアレクとウーサーの食事の置かれた机にその大きな手を叩きつける。

 アレクもウーサーもその行動を予期していたので、食器の乗ったトレーを持ち上げていたので被害は無いが、流石に面倒臭くなってきたのかウーサーがアレクに“なんとかしろよ”という目線を向ける。

 アレクは溜息をつき、完食した昼食のトレーを持ってさっさと席から離れようとした。少なくともアレクは、自分に言い掛かり同然に食って掛かる堅物にこれ以上関わる気は無いと行動をもって証明しようとしていた。少なくともアレクとしては、食堂でこれ以上無駄な騒ぎを起こせば、最悪で憲兵のお世話になることになるからだ。

 だが、ただでさえ頭が硬い上に、アレク達の態度が自分を嘲笑っていると感じて頭に血の上ったサレは、そんなアレクの気遣いに気付かず、更に言い募ろうと歩き去ろうとするアレクの肩を掴む。

 

「待て、まだお前から謝罪の言葉を…!?」 

「っ…!」

 

 サレ中尉はアレクの肩を掴み引き戻そうとしたが、アレクの鍛え上げられた体幹はサレ中尉の力でもびくともしなかった。だが掴まれ、引き戻されそうになった揺れがアレクの腕から食器を乗せたトレーに伝わり、トレーから食器が落ちる。

 アレクは咄嗟に、サレ中尉の腕を払いのけ、落ちてゆく食器の下にトレーを滑り込ませ、食器が床に落ちる前に危なげなくトレーの上に乗せ直す。

 

「おおぉ〜」

 

 その器用な様子を傍から見ていたウーサーは感心して小さく拍手を送る。遠巻きに二人の様子を眺めていた他の士官たちの幾人かも、アレクの器用な動きに同じように感心して手を叩く者もいた。

 アレク本人はサレ中尉の行動にかなり苛ついた様子で舌打ちし、彼を睨みつける。

 

「チッ、鬱陶しい」

「ぬぅ、食器の事については申し訳なかったが、それとこれとは話が別だ。貴様が謝るまで逃さんぞ!」

 

 堂々と胸を張りアレクを睨みつけるサレ中尉を苛立ちの籠もった目で睨み返しながら、アレクはどうやってこの場をさっさと切り抜けるか悩み始めた。

 段々と緊迫した空気が漂い始める中、その空気を吹き飛ばす涼やかな声が響いた。

 

「そこまで拘るなら、いっそのこと決闘しちゃえばいいじゃない」

 

 

 声の主は、銀色の髪と金色の瞳をした美しい女性士官だった。

 




短いですが、ヒロイン登場までで一区切り。
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