※この作品はR-18です。

カナンの騎士列伝 −無貌鬼と白銀の戦姫−   作:Recent

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王都編後半開始です
前半がちょっと脱線して文章が予定以上に膨らんだので、巻で行く予定です






65話 危うい日常

ーーー征服歴1500年11月 王都カルネアスーーー

 

 アレクサンダー・ウォーカーの朝は早い。

 

 

 日が開ける前に寮の簡素なベットから降りたアレクは、裏庭で木剣を素振りする。

 冬の早朝に、麻のシャツとズボン姿の傷だらけの男が木剣を振るう様子は一種のホラーだが、早朝にこんな場所に現れるごく少数の士官は慣れたもので、軽く挨拶して同じように鍛錬を行っている。

 1時間ほど鍛錬を行い、空が白みだした頃には、体から湯気が出る程度に体を温めたアレクは部屋に戻り、汗で汚れた体を冷たい井戸水で濡らした布で拭く。

 ついでに髭を整え、軍服を羽織ると寮の食堂へと朝食を摂るために向かう。

 

 

 食堂では相変わらず周囲に避けられたり、時々朝の鍛錬で一緒になる士官に挨拶されたりしながら、食堂の隅で朝食を食べる。

 勝手に隣に座る性格の悪そうな眼鏡の士官と寒々しい会話をこなし、早々に食堂を後にしたアレクは、身支度を整え職場である参謀本部へと向かう。

 

 

 始業時間よりかなり早く到着したアレクは、宿直の兵士に鍵をもらい会議室の扉を開く。

 自分に与えられたデスクの周囲を整頓し、始業時間前だが自分に割り当てられた書類の処理を開始した頃、職場である受勲式典準備評議会のまとめ役であるカマル中佐が現れる。

 

「ご苦労さまです大尉。いつも早いですね」

「残業したくないので、早めに仕事を始めているだけですよ」

 

 出会った当初に比べると、かなり顔色の良くなったカマル中佐はアルクの言葉に苦笑すると、自身のデスクで仕事を始めた。

 

 始業時間が近づくと、会議室に多くの士官や兵卒が仕事を始めるために集まり始める。

 

 

「さあお前ら、期限まであと5日だ。死ぬ気で仕事を終わらせろよ!」

「「……」」

 

 この会議室のボスの訓辞に誰も耳を傾けることなく、全員ひたすら目の前に積み上げられた書類(仕事)の山を崩し終わらせてゆく。

 それでも、彼らの顔色はアレクがエリカと共にこの会議室に足を踏み入れた時よりも遥かに良い。

 アレクの活躍で溜まっていた書類が一掃され、翌日の休養日に保養施設で英気を養うことが出来たためだ。

 

「うぅ…もう書類も数字も見たくないわ…」

「泣き言言ってないでさっさと終わらせろ。もうお前の巻き添えで残業は嫌だぞ」

 

 隣の机で涙目になり自慢の美貌を台無しにしている銀髪の美女を冷たくあしらい、なんだかんだ言いながら彼女の担当の書類を半分ほど代わりに処理しながら、アレクは自分の分の仕事を終業時間までに終わらせる。

 

「おい、この私の戦功が認められないとはどういう事だ!!」

「いえ、ですから精査の結果中佐殿の報告には誇張が多く…」

「ふざけるな! 私はケルビム家の係累だぞ! 担当の者を出せ!!」

「…私ですが、何の御用ですか?」

「ヒッ…だ、だから…い、いやすまない…」

 

 仕事中、自らの戦功が認められず怒鳴り込んできた将校をわざと顔の包帯を外して対応し()便()()お引き取り頂いたりもしたが、いつもの事なので特に問題はなかった。

 

 

「や…やったわ…これで帰れる」

「結局半分は俺が処理したんだが?」

「ミスが多いと准将がお怒りですよ?」

「あう…」

 

 憔悴し机に突っ伏すエリカにカマル中佐と共に追撃を加え、彼女がミスした書類を添削して提出し直させた頃には、すっかり日が暮れていた。

 

「ありがとうアレク。今度お酒を奢るわ!」

「気にするな。あと酒なら蒸留酒を頼む」

 

 迎えの馬車に乗り込むエリカに、しれっと高い酒を要求し、夕食を求めて夜の繁華街へと足を向ける。

 

 官庁街からは少し離れた、雑多な雰囲気の繁華街で夕食と酒を頼んだアレクは、一人で味よりも量を優先させた食事を麦酒で流し込む。

 

 

 店を変え、落ち着いた雰囲気のバーで学生時代から馴染のマスターに蒸留酒とツマミを頼んだアレクは、香りが良く酒精の強い酒をゆっくり味わいながらカウンターで煙草をふかす。

 

「しかし、昔はもっと真面目そうだったのに変わり果てたもんだな…」

「戦争でしたので。何もかも昔のままとはいきませんよ」

「そうかい。ああそれと、()()()()()()()だが一応用意はしてあるぞ」

「…ありがとうございます」

「…気をつけろよ、ボウズ」

 

 会計をすませたアレクは、深夜でひともまばらになった街を明かり無しで歩く。

 夜目が効きくアレクなら星明りと民家から漏れる僅かな明かりで十分であり、酒に異常なほど強いため酔いで足元がふらつくこともない。

 

 

 そんなアレクを、幾人かの男達が尾行している。

 

 

 尾行に感づいたアレクが大通りから、脇道へと入り込む。

 

 

 追手達は、そのアレクの行動にほくそ笑む。

 

 アレクに気付かれるよう、()()()気配を晒した男達は、ターゲットを予定通り狩場へと誘導できたと勝ち誇りながら、脇道へと逃げ込んだアレクを追いかけた。

 

 

 逃げるアレクに後ろからプレッシャーをかけながら、事前に障害物を設置して逃げ道の限定された裏路地で彼らは勝ちの確定した鬼ごっこを開始した。

 

 そしてその鬼ごっこは、僅かな時間で決着がつく。

 

 

 

「前に7人、後は5人か」

「残念だが逃げ場はないぞ、大尉殿」

 

 暗く人気のない路地で、前後を挟まれたアレクは立ち止まる。

 そんなアレクに、追手のリーダー格は嘲るように声をかける。

 

「一応聞くが、降伏は受け付けてるか?」

「残念だが、お前は今晩この場所で物取りに襲われて死ぬことになっている…やれ」

 

 アレクの軽口を無視し、リーダー格の合図に合わせて男達はナイフや小剣を掲げてアレクに襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、主人公死す…?
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