あれは嘘だ!
そもそも作者もどうやったら主人公を殺せるのかそろそろわからなくなってきた…
ーーー征服歴1500年11月 王都カルネアス 裏路地ーーー
連合王国の王都カルネアスは、この時代の大都市の中ではかなり治安の良い都市だ。
大都市の常として多くの流民が王都へ職を求めてやってくるが、彼らは都市の警邏隊の指導のもと日雇労働や開拓地へと送られる。
それからあぶれた一部の者たちが貧民街を形成しているが、その規模は他国と比較して遥かに小さい。
だが、それでも夜間に大通りから外れれば、訓練を受けた軍人であっても安全は保証されない。
運が悪ければ持っている財布だけでなく、命すら失ってしまうだろう。
暗い路地裏で、
つまらなそうな目で、煙草の先端に灯った僅かな明かりに照らされ揺れる紫煙を眺めていたアレクは、煙の奥から現れた人影に声をかけた。
「遅かったな、
「僕はデスクワーク派なので。それに貴方ほど夜目も効きませんしね」
胡散臭い笑顔を顔に貼り付けて、軍服姿の
「良い
「そうでもないさ。臭いし生暖かいし、そのうえうるさい…引き取ってくれないか?」
「うちは粗大ゴミは扱ってないんですよ」
「
アレクは自分の座っている
顎を砕かれ、手足の関節を破壊され身じろぎ以外の行動を出来なくされた男は涙を流しながらうめき声をあげる。
アレクの周囲には、同じような
「そもそもごみ処理業者じゃないです…と言うべきですかね?」
「似たようなものだろ? 燃やせばよく燃えるし、肥料になる」
どうでも良さそうなアレクの言動に、地面に転がる男達が恐怖に震える。
「燃やすのも燃料費が無駄なような…とはいえ生かしておくのも無駄に費用が嵩みそうですね」
「言われた通り、全員殺してはいないぞ?」
「死んでないだけで二度と社会生活おくれそうに無さそうですよ?」
まともに食事を摂ることも、歩くこともできなくなった男達は、涙を流しながらこれから自分達がたどる人生に絶望する。
「というか、まともに話せなければ尋問もできませんよ?」
「どうせ使い捨てでまともな情報持ってないだろ?」
苦言をていするアトラムに、アレクは心底どうでも良さそうに答える。
「それに、逃げた奴らは捕まえたんだろ?」
「ええ。こっちも似たようなものでしょうが」
肩をすくめたアトラムが、ため息と共に手を振ると、後ろに控えた彼の部下たちが地面に転がる
「はぁ…今日も残業ですか」
「大変だな」
短くなった煙草を踏み消し、新しい煙草に火をつけながらアレクは比較的真摯にアトラムに同情する。
残業は全ての労働者にとって敵だからだ。
「代わってくれます? 事務処理は得意ですよね?」
「お前達が俺の代わりにこの手の連中に襲われてくれるのなら代わってやりたいが、出来るか?」
「それなりに鍛えてる方ですが、流石に素手で兵隊上りの貴族の私兵を10人単位で半殺しに出来るほど人間辞めてないんですよね…」
冗談交じりに言ってみた提案に、本気でできるはずもない条件を出されたアトラムは両手を掲げて降参する。
「冗談はともかく、毎日のように命を狙われるのは勘弁ですね」
「俺も好きで襲われてるわけじゃないんだが?」
「そこはまぁ…色々恨みを買ってるからでは?」
「やっぱり止めを刺しておくべきだったかな、あの皇子」
「それやられると講話が遠退きそうですね…というか恨まれてるの帝国の皇子だけではないのでは?」
「あとは
受勲式典準備評議会であえて恨みを買うように、王党派や革新派を問わず不正や虚偽報告を行った士官達の選考評価を担当させられた怨嗟を込めて、アレクは煙草の煙を吐き出す。
「誰かがやらないといけなかった事ですし、ついでに不平分子の炙り出しに使えると思ったんでしょうね、我が尊敬する兄上は」
「はぁ…いつか痛い目に会わないかな」
自分に無駄な労働を押し付ける上司に、割と本気の恨み節を呟きながら、アレクは捨てた吸い殻を踏み潰し踵を返す。
「事後処理は頼んだ」
「ええ。正直この連中を絞っても小物の貴族崩れが釣れるだけですがね…」
「餌の質が悪いからな」
「費用対効果で貴方以上の餌はないんですけどね」
アレクの皮肉に皮肉で返したアトラムは、苦笑しながらアレクを見送った。
路地裏を去ったアレクを見送ったアトラムは、懐から煙草を取り出し火を付ける。
部下の撤収作業を眺めながら、これから作る報告書を頭の中で推敲していると、後ろから声がかかる。
「グランツ大尉、宜しいでしょうか?」
「どうしたんだい、ラドロス少尉?」
「あの男の事です」
「ウォーカー大尉の事かな?」
「はい」
振り向いたアトラムに、目つきの鋭い若い士官が、粘つくような感情を宿しながら己の上官に問う。
「あの男、グランツ大尉にもグランツ准将にも欠片も敬意を抱いていません」
「ま、それはそうだろうさ」
「奴は危険です。貴族に対する敬意も遠慮も何も無いですよ」
ラドロス少尉が、回収された襲撃犯のリーダーを指差す。最早まともな生活など送れないだろう男は、アレクに恨みを持つ”王党派“の士官だった。
「我々は殺すなと指示を出し、ウォーカー大尉はそれを守った。それでいいじゃないか」
「死んだほうがマシでしょう…こんなの」
おそらく”王党派“の非主流派や”革新派“に煽られ、無謀にも私兵と共にアレクを襲撃した彼は、無様に己の人生を棒にふるい、絶望に涙を流しながら放心している。
「早急に奴を排除するべきです。危険すぎます」
「危険でも、有用なうちは使うさ。少なくとも受勲式典が終わるまではね」
「…了解しました」
不服そうに、アレクの危険性を訴えたラドロス少尉は頷く。
「さあ、撤収しますよ。彼らから情報を吸い出してさっさと報告書を作らないと寝る時間がなくなりますからね」
「「「了解、特務大尉殿」」」
内務省監察局のエージェントであり、”王党派“の目である彼らの仕事はまだ終わらない。
翌日、アトラムは詳細な報告書と共に残業手当の申請書を上司に提出した。