ーーー征服歴1500年11月 王都カルネアス 繁華街 裏路地ーーー
懐から取り出したシガレットケースから煙草を取り出し、高級品のオイルライターで火を付ける。そこそこ値の張る紙巻き煙草の甘みのある香りを肺に送り込み、ゆっくりと味わいながら紫煙を吐き出す。
「やはり王都はいいな。戦場と違って煙草の種類が豊富だし、質もいい」
それなりに広い裏路地で、アレクは以前試しに買ってみた煙草の味を品評する。まるで酒場で寛いでいるかのような雰囲気だが、それを武装した20人以上の兵士達に囲まれている状況で醸し出せるのは、アレクが大物だからか、それともこの手の修羅場に慣れすぎているからなのか、分かる人間は本人くらいだろう。
「おい、ふざけているのか!?」
そんなアレクの態度に業を煮やしたラドロス少尉が叫ぶ。
アレクは鬱陶しそうに目を細め、慌ててラドロス少尉達に合流し、盾を構える兵士達の背に隠れたファラム准尉に問いかける。
「俺をここに誘い込んで、こいつらに俺を殺させるのが貴方の雇い主の計画だった、ということで良いでしょうか?」
「え…ええ。まあ、誰が来るかまでは私は把握していませんでしたが…」
「おい、無視するな!」
ラドロス少尉が激昂して叫ぶが、アレクは反応を返すことすらなく、残りの煙草を味わう。短くなった煙草を踏み消し、面倒くさそうに溜息をつき、ようやく目線をラドロス少尉に合わせる。
「はぁ…一応聞いておくが、実はお前達が襲撃犯を捕縛して、俺を助けに来てくれた、とかじゃないよな?」
「フン、残念だったなウォーカー大尉。貴様には
「逮捕状の申請だけ出して、それを盾に俺の身柄を確保する指令を受ける
「ああ、内務省監察局がよく使う手ですね。下部組織の警邏隊を使って邪魔な相手を消す常套手段ですよ」
「なっ…ファラム准尉、お前誰の味方だ!」
「…私は単なる雇われですので」
アレクの考察をついつい補足してしまったファラム准尉はバツが悪そうに目をそらす。実家と婚家の借金を盾に間諜として働かされている彼からすれば、正直雇い主や隣で喚いているラドロス少尉より、共に仕事で苦労を分かち合ったアレクの方が親しみもあるし、その境遇に同情もしている。
ただし、先程から欠片も慌てることなく煙草を吸うアレクの態度には共感はできなかったが。
アレクは億劫そうに、二本目の煙草に火をつけながら、心底面倒くさそうにラドロス少尉に問を重ねる。
「グランツ大尉の差し金か?」
「フン、貴様の排除に大尉を煩わせる必要などない! 安心しろ、貴様を排除すればグランツ大尉も、それに王党派のお歴々も喜んで下さるだろう」
胸を張って、敬愛する上司の為に汚れ仕事を行っているのだと自己陶酔に浸るラドロス少尉を、アレクは哀れみの込もった目で眺める。
「そのために”革新派“の誘いに乗ったのか?」
「利害の一致だ。確かに今は双方とも対立が目立っているが、ジャッカード少佐が”カナンの騎士“を襲名して
「あぁ…そういう解釈か」
”革新派“の旗印であるカイト・ジャッカードに、”王党派“の有力者であるリガール辺境伯の娘を、しかも100年振りに銀髪と金の瞳を併せ持つ”祝福の御子“を嫁がせるのは、本来なら派閥のパワーバランスを著しく損ねるため、余程の理由がない限り、いかに”革新派“が隆盛を誇り、カイトが功績を重ねようと難しい。だが、”カナンの騎士“にリガール家の娘が嫁ぐのは、連合王国の歴史の中で何度も、それも積極的に行われてきた事だ。
その先例を盾に、”革新派“が今回の大戦によって衰退した”王党派“の上に優越する形で、両者の協調関係が構築されるというのは、情報に疎い者を除いた多くの連合王国人達の見解だった。
”王党派“のエースであるカレウスはこの”革新派“優位の状況をどうにか覆そうと画策していたが、出来たのは現状維持程度でしか無かった。
そしてカレウスの奮戦に心の底から不本意ながら巻き込まれていたアレクは、ゆっくりと紫煙を吐き出し、残った煙草を踏み消す。
「なるほど…
「…なんのことだ?」
「お前、本当にわからないのか?」
アレクは哀れみのこもった目で、困惑するラドロス少尉の顔を観察する。
「俺を殺す下手人になる見返りに、
「ッ!?」
ラドロス少尉が、憎悪で歪んだ顔でアレクを睨む。
自身の
ラドロス少尉は腰の細剣を抜き放ちアレクへと突きつけ、事前に周辺の建物の屋上に潜ませた
「殺れ!」
合図と寸分たがわずアレクの死角、右斜め後方から
長くなりそうなので分割します。