エリィの父は警戒していた。
なにせ、たった1発の銃弾で腕を吹き飛ばされたのだ。
次はなにが出てくるのかと恐怖を覚えるのはおかしなことじゃない。
だが、想定すべき危機の種類を今回は間違えていた。
「はっ! こいつァ最低なエルフもいたもんだなァ。保身を真っ先に考えるなんてよォ? 罰を受けるのはもちろん”コイツ”に決まってるのによォ!」
叫び、リョウは足にさらなる力を加えた。
ぐりぐりと、エレナの砕けた下半身を強く踏みにじった。
「ギぃ、アァアアアアアアっ!?」
「や、やめろぉおおおっ!」
罰という言葉の意味をようやく理解し、エリィの父が叫ぶ。
制止の声は、当然のように聞き入れてもらえない。
「くははははははァっ!」
リョウは高笑いを上げ、さらに力を加えていく。
全体重を掛けて性器を押し踏んでいく。
ミシリ、バキッ、グジュッ……。
そして……。
――バシャン、と。
水の詰まったなにかが破裂したような音が、響いた。
エレナの性器はもう、取り返しのつかないところにまで破壊され尽くしていた。
「――――――」
エレナは声にもならない絶叫を上げた。
そして痛みが限界を越えたのか、彼女の身体からガクンと力が抜け、ピクリともしなくなった。
「あ、死んだか?」
とくに気にもしていないような声で、リョウは言う。
まるで遊び飽きて、すでにいらなくなっていた玩具でも見るような目だった。
「え、エレナぁああああああ!」
慟哭とともに、エリィの父は残った腕の手のひらをリョウへと向けた。
彼は英雄気質だな、とボクは思った。
自分だけ逃げればよかったのに、こうして戻ってきて全員を救おうとしている。
そして今も全員を救うため、今すぐ彼女に駆け寄ることではなくマジックの発動を選択した。
彼にもはや躊躇いはない。
最短でマジックを唱える。
「マジック<エア――」
だがそれでも、まだ遅い。
魔法が結実するよりも早く、今度は彼の片足が吹き飛んでいた。
「……あ?」
別方向から飛んできた弾丸に撃ち抜かれていた。
エリィの父がバランスを崩し、地面を転がった。
「は~い、10点~」
幼い声が聞こえた。
視線を向ければ、魔力の残光を漂わせる魔銃を手にした少年が立っていた。
まだ声変わりも済んでいないような、小学生だ。
きゃっきゃと声をあげて笑っていた。
彼の中では的当てと人体破壊がイコールらしかった。
無垢な笑顔が逆に、恐ろしく見えた。
「クソ人間どもめぇっ! 殺してやる、殺してやる殺してやる殺してやるぅううう!」
地を舐めさせられながらも、叫ぶ。
もう一度、手のひらをリョウへと向けて……。
「おォ? よかったよかったァ! コレ、まだ生きてらァ」
リョウがそう笑いながら、エレナの髪を掴んで持ち上げる。
真っ赤な手形の残る薄い胸が、かすかに上下していた。
エリィの父は彼女が生きていることを知る。知ってしまう。
攻撃の手が、とっさに止まった。
「……ぁ、……ぁ」
「いやァ、さすがにやりすぎたかと思ったぜェ。危うく給金から差っ引かれちまうところだった」
エルフの命は金に換算できる。
リョウは暗にそう言っていた。
「キ、キサマぁあああッ!」
エリィの父が魔法を発動させようとし、しかし動けない。
リョウがエレナの身体を盾にしていた。
あからさまに挑発していた。
撃てるものならコイツごと撃ってみろよ、と。
「ちょ、リョウさん趣味悪すぎますってぇ!」
「ぎゃはははっ! ほんとそのとおりですよぉ!」
「ひ、卑怯者がぁあああっ!」
「そいつァ、奴隷商人にとって最高の誉め言葉だァ!」
エリィの父は、怒りと憎しみと悲しみと絶望が入り交じった表情で叫び……。
しかし、なにもできず腕は地面へと落ちた。
「くははッ、いいのかァ? むしろ今、殺してやることこそコイツのためですらあるんじゃねェか?」
「ムリだ。僕にはエレナを殺すことなんてできない」
エリィの父は膝を着き、声を震わせていた。
その発言により奴隷商人たちの空気は弛緩した。
「なんだ、もう終わりかよ」
「ったく根性無しが」
そうぼやき、それぞれの陵辱へと戻ろうとした。
そのときだった。
「ま、待て! 待ってくれ! せめて、エレナだけは助けてくれ!」
エリィの父が懇願した。
もはや高潔たるエルフのプライドはそこになかった。
「僕が代わりに奴隷になる! だから代わりにその子だけは!」
「ハァ?」
リョウはバカにしたような声を返す。
実際、エリィの父の発言はまったく状況がわかっていないように思えた。
「足りねェなァ、全っ然足りねェぞ! お前じゃァ、まったく釣り合わねェ。女と男での相場がどれだけちがうと思ってやがる? 2倍から3倍……この見目ならそれ以上だァ」
その発言にはやや疑問があったが。
だって、エレナはもう使いものにならないゴミになっていたし。
まぁ、それを言えば肉体労働にも使えない、手足を欠損した男ほど金にならないものもないだろう。
あるいは、エリィの父ほど見目に優れていて胴体さえ無事なら、それなりに需要があるのだろうか。
なんにせよ、こんな理由に意味なんてないのだろう。
リョウは言葉を重ねた。
「テメェは全然、態度がなっちゃァいねェ! それが人にものを頼む態度かァ? 誠意を見せるならよォ……」
「――土下座、だろォ?」
リョウはニヤニヤと笑いながら言った。