どうして今まで気づかなかったのか。
テイマー職が奴隷商、だってことに。
奴隷となったエルフたちに刻まれてい紋様を見て「もしかして」とは思っていた。
しかし、
――ゲーム時代は人族を<テイム>できなかった。
そんな先入観があった。
加えて、彼らはほかにほとんど魔物を連れていなかったし。
せいぜいが近くに止めてある竜車引きの”土竜”くらいだ。
それだって、この人数ならテイマーでなくとも御者くらいいるだろう、と思っていた。
(ボクは
異世界に転生して1日目。
状況こそトラブルに塗れているが、この事実に早く気づけたことは幸運でしかない。
――きひひっ、きひひっ、きひひのひっ!
これは運命だ。
奴隷商人たちと同じように、ボクには好きなように女を支配し凌辱するだけの力がある!
「ぁががががぁあああっ!?」
エレナが苦しみに声を上げた。
視線の先で<テイム>のエフェクトが収束しつつあった。
それでもエルフという希少性からか、あるいは”人族”のテイムは難易度が高いのか。
光の筋は次々と弾け、掻き消えていく。
しかし、それ以上にそもそもの数が膨大だった。
物量作戦だ。
こんな方法、ボクは知らなかった。
というよりそんなゲームシステムは存在しなかった。
なるほど、どうりでテイマーが徒党を組んでいるはずだ。
本来ならエモノが競合して効率が落ちてしまうから、忌避するものなのに。
エフェクトがついに、ひときわ大きな光を放った。
急速に収束していく。
「あがッあがががぁあああッ!?」
エレナの口から、壊れたような音が発せられる。
「エレナぁああああああっ!」
アーサルトが叫んだ。
声が届いたかのように、一瞬だけエレナ身体の震えが止まった。
あるいはそれは、燃え尽きる瞬間のろうそくの炎のようだった。
小さな声が呟かれた。
「おと、うさん……」
静寂の間隙を縫うようにその声は響いた。
父であるアーサルトにも。そして、エリィにも。
エフェクトが完全に収束を終える。
ビクゥウウウッ! と、エレナは大きく身体を痙攣させた。
「……よォし、成功だァ」
リョウが言い、奴隷商人たちから歓声が上がった。
「オイ、テイム者はだれだァ?」
「わたしよ団長」
手慣れた様子でそんなやりとりをしている。
ボクはそれを見て……興奮していた。
エレナやアーサルトに憐れみを覚えるなんてことはない。
ボクにもあれと同じことができるのだ。
――きひひっ、きひひっ、きひひのひっ!
あぁ、これからが楽しみでならない。
まさしく、この世界はボクのために存在している。
「よォし、じゃァさっさと英雄サマのほうもテイムしちまうかァ」
「リョウさ~ん。さすがに先にコレの傷を治しとかねぇと、死んじまいやすぜ~」
隣に居た奴隷商人がリョウにそう助言する。
「いやァ、べつに忘れてるわけじゃねェぞ? それはそのままでいい。アーサルトが大人しくテイムされなきゃ、罰としてそのまま放置するからよォ」
「なるほど。って、ま~だ追い打ち掛けるんですかい。ほんとぉ、えげつないお方だねぇ~」
納得したらしい奴隷商人は、エレナを捨て置いた。
人の群れが掃け、彼女の姿がボクの位置からも見えるようになる。
グチャグチャに崩れた下腹部に、淡く光るピンク色の奴隷紋が刻まれている。
ボロボロで横たわる彼女の姿はじつに”性的”だった。
……え? むごい?
わかってないな。だからこそ興奮するんだ。
「エレナ……。クソがぁ、キサマらぁあああ! 殺してやる……殺してやる殺してやる殺してやるぅううう! 僕はお前らを絶対に許さない! こんなことがまかり通っていいはずがない! お前たちには必ず天罰が下る! 僕が下す! クソ人間どもめぇえええ!」
わめくアーサルトをリョウたちが押さえつけ、先ほどと同じように手を触れさせていく。
まるで集団リンチの、イジメ現場のような光景。
けれどボクはもう、その光景にフラッシュバックを起こしたりなんてしない。
だって、ボクは虐げる側の立場――テイマーなのだから。
ボクはこれからいくつものジャイアントキリングを成し遂げるだろう。
そして、支配者の頂点にまで登り詰めるのだ。
ただ諾々と下される命令を飲み込んでいた、あのころとはちがう。
そんな妄想にふけりすぎていたのが悪かったのだろうか。
予想だにしなかった事態がボクを襲った。
唐突に、それは起きた。
――ドォンッ!
そんな爆破音を鳴らして、ボクたちが隠れていた巨大樹の幹が炸裂した。
飛び散る木片から、テオがとっさにボクを庇う。
――いったいなにごと!?
「なんだ、爆発か!?」
「だれだ!?」
奴隷商人たちの慌てた声も聞こえてくる。
ボクはただ衝撃が収まるのを、テオの背中で待っていた。
しばらくして、シィンと静寂が訪れる。
ズズズと音を鳴らしながら、ゆっくりとテオの身体が傾いていき、ドシィンと地面に横たわった。
テオの全身には爆発の跡と、それから木片が突き刺さっていた。
ボクを庇うために、衝撃のほとんどをひとりで受け止めたらしい。
『状態:気絶』
テオのステータスを確認して「ひっ!?」とボクは声を上げる。
HPも一気に3分の1ほど削られていた。
――ま、マズい!?
なんで、こんなことになったのか。
その原因である人物は「フンっ!」と鼻を鳴らして悠々と立っていた。
「これであたしは、自由よ!」
手から魔力の残光を漂わせるエリィが、そこにはいた。