「あたし、あなたに協力するわ」
「エリィ!?」
アーサルトがエリィの発言に声を上げる。
ボクはもう笑いを堪えるのが大変だ。
ありがとう、アーサルト。
お前がバカなおかげで、より容易くエリィの協力を漕ぎつけることができたよ。
「お父さん、さっきは言うこと聞かなくてごめんなさい。でも、でも今度こそ助けるから! 絶対にあたしが助けてあげるから!」
「エリィ、お前は……」
「お父さん、これ以上は口を開かないほうがいいですよ。お身体に障りますから」
ボクはそう、アーサルトを牽制した。
にっこりとまるで、本当に彼の安全を願っているかのような笑みで。
「エリィ、決めたんだね。お父さんを助けるためにがんばるって」
分かり切っていることを、あえてもう一度問う。
徹底的にエリィの逃げ道を奪う。
「うん、大丈夫。あたしも、あんたのこと信じるって決めたから」
腹を括って、自信に満ちた表情で、目には希望の光を宿して。
ほぉんと、バカだよねぇえええ!
「じゃあ、いくよ。抵抗しないで、心を安らかに、受け入れるんだ」
ボクはエリィを抱きしめた体勢のままに唱える。
彼女の耳元で、まるで囁くかのように。
「――マジック<テイム>」
ボクの手から魔力の
エリィの周囲を渦巻き、徐々に光の牢獄を形成していく。
「ぅ……ぃぎっ……、ぅぅぐ……っ!」
エリィが苦悶の声を漏らした。
もしかすると本能が、他者への隷属に拒絶反応を起こしているのかもしれない。
生物としてはじつに正しい。
だが、それを彼女自身が捻じ曲げる。
「ぅぐ……う、ん! ぎぃ……っ! まけ、る……もんか!」
「エリィ、がんばるんだ! キミなら必ず、お父さんを救えるよ!」
ボクは正直、感心していた。
思春期くらいのバカな子どもってスゴイな。
思い込みだけで、自ら地獄を進むことができるのだから。
よろこんで奴隷になろうとしているのだから。
まったく、ボクにとってありがたすぎる!
やがて、光は急速に収束をはじめた。
「ぅぎいいいいいいいいい!?」
「あいだだだぁあああ!? ちょっ、このクソガキ、手ぇっ!?」
エリィがボクに縋りつくかのように手を握りしめた。
というか、腹の脂肪を掴んでいた。
(ぎゃぁあああ!? 痛い痛い痛い!? けど、途中でやめるわけには!?)
ちぎれそうなほどの激痛。
余裕だと思ったのに、なんでこんなところで!?
ボクがいよいよ耐え切れなくなって、エリィを殴り飛ばそうとした、その瞬間。
ガクンと彼女の身体から力が抜けた。
ボクの腹の肉が解放される。
まばゆい光が弾け散り、そして……エリィの柔肌にはっきりと奴隷紋が刻まれた。
――成功、だ。
「えへへ……。あたしがんばったよ。これでお父さんも、褒めてくれるかな……」
沸々と、ボクも遅れて達成感がやってくる。
一時は奴隷商人たちの殺されかけていた。
けれど、今はもうちがう。
確率の壁を超え、ボクは生き残った。
じつはずっと不安だった。
スキル<交渉術>で押し殺していたが、マジック<テイム>の成功率は100パーセントではないのだから。
しかし、ここは現実だ。
ならば使えると思った……ゲーム時代にはなかった、いわゆるシステム外スキル。
たとえるなら、これまでボクが行っていたテイムは『
そして、今回行ったのは『仲間になりたそうな目で見ている』。
そのハイブリッド。
周囲でざわめきが起こりはじめていた。
やがて、それは悲鳴や喝采に近いものへとなっていく。
「かぁぁぁあああはっはっはっはっはっはぁ!」
団長が大笑いし……。
そして、その顔から表情を消した。
「こいつはぁ、ってくれよったのぅあんちゃんやぁ?」
さっきまでは遊びだった。
しかし、今は明確に敵意を感じる。これまでとは比べものにならない威圧感。
「約束じゃけぇ、あんちゃんにアーサルトをくれてやろう。もちろん、あとから力ずくで奪うようなこともするつもりもないけぇのぅ。<契約>はまだ有効じゃからなぁ」
「じゃあ……」
「とはいえ、このまま帰すんじゃあ、わしらも納得できんのぅ」
凄惨な笑みを浮かべ、なにかの合図化のようにゆっくりと片手を上げた。
ボクはイヤな予感に襲われた。
もしかしてボクは勝つことに意識が行きすぎて、”勝ってしまった”あとを考えられていなかったのでは?
たとえば、もし、周囲の森に……外部協力者がいたとしたら!?
「ま、まだです」
「うぬ? なんの話かのぅ? わしらの勝負はもう、決着がついたと思うがぁ?」
ボクは頭を必死に働かせる。
いつまでこの<交渉術>による思考へのプラス補正が続くかもわからない。
時間はない。
攻撃手段として考えられるのは、やはり魔銃か? それも狙撃のような?
いや、待て。
そもそもゲンブから合図を送ってボクへ危害を加えさせれば、それは契約違反になるのでは?
つまり、攻撃以外の手段?
たとえば契約そのものを無に帰すような……。
(まさか、<契約>を破棄するような……マジックを無効化するような魔導具が存在するのか!?)
ちらりと見れば、職業『調停官』の奴隷商人がひっそりと移動している。
ボクは自分の思考が正しかったことを確信した。
今思えばゲンブは、アーサルトという超高級品を賭けることに対して不用意過ぎた。
もとからリスクがゼロだったのだとすれば、納得がいく。
「さて、ここいらでもう一度だけ聞いておこうか。あんちゃんは……」
どこかわざとらしくゲンブが問うた。
「――あんちゃんは、ウチへ入団するっちゅうことでいいんじゃよなぁ?」