※この作品はR-18です。

テイマー職は奴隷商!?   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第5話『レベル差』

 

「ボク、どうやって戦えばいいんだ?」

 

 たとえ、ここがボクのよく知るゲーム世界だったとしても、結局ここにいるのは”ボク”でしかない。

 なにもできない、ゴミでクズなニート。

 

「ひっ、ひっ、ひっ」

 

 恐怖でうまく呼吸ができなくなる。

 足がすくんだ。膝が笑った。歯の付け根がカチカチと音を鳴らしていた。

 

「そ、そうだ。逃げないと」

 

 ボクは逃げ出そうと背中を見せる。

 しかし、身体がうまく動かなかった。

 

「あっ」

 

 ボクは見事にすっ転んだ。

 痛い、なんて言っているヒマはなかった。

 

 テオオザルの発見アイコンが黄色から赤色に――”敵対色”へと変化する。

 恐怖で全身の毛が逆立った。

 

「マズ、い!?」

 

 テオオザルのカーソルが移動をはじめた。

 次々と巨大樹を渡り、すさまじい速度でこちらへと近づいてくる。

 

 幹から幹へと跳び移る瞬間、木漏れ日がその全貌を照らし出した。

 そのあまりにもおぞましい姿に、のどが引きつった。

 

「ひっ!?」

 

 その姿はテナガザルをモチーフとしている。

 しかし、本物よりもずっと大きい。

 

 そして一番のちがいとして、その背からは大量の腕が生えていた。

 中でも尻尾代わりに臀部から生えた大きな1本が、枝を掴み身体を固定している。

 

 ゲームでは何度も相対したことがある。

 しかし、画面越しで見ていたそれとはあまりにもちがいすぎた。

 

 存在感が、迫力が、リアリティが。

 そしてなにより恐怖の有無が。

 

「逃げ、なきゃ」

 

 テオオザルはその背と臀部から生えた腕を器用に動かし、こちらへ迫ってくる。

 それに対してボクの身体はあまりにも鈍重だった。

 

 あっという間に距離が詰まる。

 テオオザルが足を止めた。射程距離に入ったのだ。

 

 周囲の枝を背の腕で折って、それを構える。

 投擲の姿勢を取っていた。

 

 その数、全部で6本。

 握られた枝が赤い光をまとった。

 

 ――”スキル”だ!

 

「や、やめっ……」

 

 死。

 そんな文字が脳裏をちらついた。

 

(もしも、”彼”なら)

 

 恐怖の中、ボクの脳内にはディスプレイの向こうで悠然と立つ”彼”の姿が浮かんでいた。

 主人公であり王である彼ならば、こんな状況くらい簡単に解決してしまえるのだろう。

 

 だが――ボクはボクでしかない。

 

 都合よくヒーローが現れたりもしない。

 彼らが助けるのはいつだって外見の優れた若い女で、ボクみたいに三十前の汚い男ではないのだから。

 

「――ぁ」

 

 躱すとかそんなレベルじゃない、一瞬だった。

 エフェクトを纏った6本の枝が殺到し、ボクの身体を貫いた。

 

「グボバグベグギィィィイイイッッッ!?」

 

 衝撃で身体が吹っ飛んだ。

 いくつもの感情が脳内を錯綜していた。

 

 熱い、痛い、痒い、寒い、苦しい、気持ち悪い。

 そして……死にたくない。

 

「あっ……ガッ、グッ、ギッ!?」

 

 地面をバウンドするたびに、身体のどこかが千切れたかのと思うほどの激痛が走った。

 ボクは巨大樹の幹に衝突し、ようやく停止した。

 

「……きひ、ぃ」

 

 朦朧とする意識でボクは思う。

 

(なんだよ、これ)

 

 こんなことなら車に跳ねられたときに、そのまま人生を終わりにして欲しかった。

 ボクを魂ごと消し去って欲しかった。

 

 異世界に来ても――理想であったはずのゲームの世界ですら、ボクはゴミにしかなれないだなんて、変われないだなんて……。

 そんなこと、思い知らされたくなんてなかった。

 

「……あ、ぁ」

 

 なんでこんなに痛いのに、苦しいのに、気絶すらしないんだろう。

 せめて意識がなければ、この恐怖からは逃れられるというのに。

 

(いや……あぁ、そうか)

 

 ボクはその原因に気づく。

 まだ”HP”が残っているからだ。

 

 視界の左上には、いったいいつからだろう? HPゲージが表示されていた。

 真っ赤に染まったそれが、1ドットだけ残っている。

 

(だから、こんな状況でも死ねないのか)

 

 身体から木の枝が生えても死ねないとか、なんて理不尽。

 それとも当たりどころがよかったからか?

 

 吐血もしてないし、内臓が傷つかなかったのかも。

 いや、この場合は”運悪く”か。

 

 テオオザルも決着がついたことを認識したらしい。

 幹を伝って地面へと降りてくる。

 

(いや、急所を外したのはワザとか)

 

 それならば”レベル1”のボクが生き残った理由に納得がいく。

 ははっ。食料を長持ち(・・・)させようって魂胆なわけだ。

 

(クソッ、クソクソクソ!)

 

 どうせ死ぬなら、その前に好き勝手すればよかった。

 たとえば、そこら辺を歩いている若い女でもレイプしてやればよかった!

 

 そうしたら、最高の気分で死ねただろう。

 童貞も捨てられるし、なにより弟や父への最後の嫌がらせにもなる。

 

 けど、今さらあとの祭り。

 こんなレベル差、どうやったって覆らないんだから……うん?

 

(――”レベル差”?)

 

 ボクはハッとした。

 なんで相手のレベルがわかるんだ?

 

 自分よりレベルが高すぎる相手は、ステータスを確認できないはずだ。

 特殊な事情(・・・・・)でもないかぎり。

 

(すくなくともゲーム時代はそうだった)

 

 ボクは改めて、自分のHPゲージへと意識を向ける。

 すると自分のステータスが表示された。

 

 ――――――

 人間(ヒューマン)《テイマ》 Lv.1

 HP : 1/ 42

 SP : 2/ 14

 MP : 37/ 37

 状態: 瀕死

 ――――――

 

 ボクはこれを知っている。

 これはゲーム時代、HPバーにマウスカーソルを合わせたときと同じ現象だ。

 

 と同時に気づく。

 今、表示されている視界の情報……これはデフォルト表示にすぎない、と。

 

(もし、ボクの予想が正しければ)

 

 ボクは意識を集中させる。

 思考という名のマウスカーソルを操作する。

 

 頭の中にある、本来あるべき視界を思い浮かべる。

 フルカスタマイズした自分のゲームUIをイメージする。

 

 ボクの視界に、次々とウィンドウが出現しはじめた――。

 

 




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