次々と視界にウィンドウが出現する。
並行して、それらをしかるべき場所へと配置させていく。
ボクはその中のひとつにさらに意識を集中させ、コマンドを
そして、重い腕をなんとか持ち上げ……。
――ぺたり、と。
触れられるほどの距離まで接近していたテオオザルへ、手のひらを押し当てた。
ボクは叫んだ。
「マジック発動――<テイム>ゥウウウウウウッ!!!!」
瞬間、ボクの手のひらから緑色の光がほとばしった。
光は渦を巻くようにテオオザルの周囲を巡る。
テオオザルは光から逃れんとして暴れた。
しかし、光の牢獄は強固だった。
「■■■■■■■■ッ!」
テオオザルが至近距離から、憤怒の形相で威嚇してくる。
しかし、あいにく今のボクは恐怖を感じる余裕すら残っていなかった。
やがて軌跡でしかなかった光の筋が、完全な球体へと至る。
そして……。
――ピコン、と。
そんな電子音が鳴った。
『テオオザルのテイムに成功しました』というメッセージが視界に表示されていた。
「やっ、た?」
本当に?
信じられずにもう一度、じっくりと目の前のテオオザルを見て確かめる。
そしてボクは、その
テオオザルの額にははっきりと、
「きひ、きひひ、きひひひひひひっ!」
腹の底から笑いがあふれ出してくる。
もう、おかしくっておかしくって仕方なかった。
声を上げるたび、木の枝の突き刺さった部分が痛む。
それでも笑いが止まらない。
笑いすぎて、目から涙がこぼれ落ちた。
あぁ、ほんとにおかしい。
「ボクは今――人生ではじめて”生きている”」
吐き出すように、あるいは噛み締めるように言った。
声にすると、その生の実感はより明瞭さを増した。
今までのボクはずっと死んでいた。
ただ奴隷として生かされているだけの日々だった。
しかし今日、ボクははじめて
あぁ、神さまありがとう。
この世界はさらなる絶望を与えるためのものじゃない。
ボクにプレゼントされた最後のチャンスだ。
「きひっ、きひひひっ!」
生きている。
その実感とともに、ボクは涙と笑みをこぼし続けた――。
* * *
その後、ボクは森の中を背負われて移動していた。
「おい、揺らすな! もっと丁寧に運べ!」
ボクはそう”テオ”を怒鳴りつける。
テオ、というのはボクがテイムしたテオオザルに与えた個体名だ。
ゲームとしてこの世界をプレイしていたときは、1から順に番号を割り振るだけだった。
しかし、現実にそっくりなこの世界であまり変な名前をつけると、のちのち浮いてしまうかもしれない。
それにある意味、コイツはボクが生の実感を得られた”記念トロフィー”のようなものだ。
多少は手間をかけてやってもいいだろう。
テオオザルだから、テオ。
安直でわかりやすい名前。
どうせ、ほかに強い魔物を手に入れたら使う頻度は減るのだ。
なら、このくらいシンプルで覚えやすい名前がちょうどいい。
また、テイムに成功したことでボク自身のステータスにも変化が起きていた。
――――――
HP : 1/ 42 → 21/ 62
SP : 2/ 14 → 3/ 15
MP : 1/ 37 → 15/ 51
状態: 瀕死 → 重傷
――――――
レベルが上がっていた。
しかし、まだまだステータスは心もとない。
加えて、状況も悪い。
今はまだ、レベルアップのおかげでなんとか瀕死状態をまぬがれただけの状態にすぎないのだ。
「そしてなにより、ゲームのときと
どうにも、この世界のステータスは”リアル”に寄っているらしいのだ。
たとえば……。
HP《ヒットポイント》。
いわゆる体力。
ゲーム時代にも部位ごとにダメージが異なったりしていた。
しかし、内臓なんていう概念までは存在しなかった。
SP《スキルポイント》。
スキルを発動するのに必要なポイント。
これが、もっとも”リアル”となった影響を受けていた。
なにせ走るだけでも消費されてしまうのだ。
もはや、スキルポイントではなく”スタミナ”とでも呼ぶほうが正しいだろう。
そしてボクはこの値が、やたらと低い。
ちなみにテオが消費したSPはすでに全回復している。
テオオザルはMPが0であるかわりに、SPへの適正が高い魔物なのだ。
対してボクはというと、回復が遅い上に最大値の半分までしかいかなかった。
原因は『状態:重傷』だ。
決して、ボク自身のステータスの低さが理由ではない。
まぁ、多少は? そういった可能性もあるかもしれないが。
そして最後。
MP《マジックポイント》。
これだけが唯一、ゲーム時代と同じ仕様だった。
すくなくとも今のところは。
おそらく、現実にはMPなんて概念がは存在しなかったからだろう。
<テイム>を発動するのにもゲーム時代と同じく、対象のレベルと同じ値のMPが消費されていた。
ほかにもSTRやINT、LUKをはじめとした詳細ステータスがある。
が、いずれの値もリアルのボクの肉体がベースになっているらしかった。
逆にいえば”それ以外”の部分は、ゲーム時代のデータが反映されていた。
それこそが、ボクが<テイム>に成功した理由である……。
――