「あんた、裸足じゃない?」
「ぶっひぃいいいいいいっ!?」
裸足のクセに、テオに靴を舐めさせようとしていたのかボクは!?
恥ずかしさで、顔から火が出そうだった。
「クソッ! このっ、ゴミ! お前が紛らわしいことするから! お前のせいだ!」
羞恥を誤魔化すように、ボクはテオを蹴り飛ばした。
なお、ステータスの差が大きく、テオのHPは1ドットも減らなかった。
「……」
そんな様子をエルフ少女は、なんとも言えない表情で見ていた。
手につがえられていた矢が、下ろされる。
「どうやら、その魔物は危険じゃないみたいね」
ボクはコクコクと頷いた。
するとエルフ少女は一転、興味全開の表情になる。
「ねぇ、その魔物……テオだっけ? なんで、あなたにきちんと従っているの? あたしが近づいて平気? あたしの命令も聞く?」
「え、と……ぁ、う」
「あっ! もしかして、ペットってやつ!? 聞いたことある! 人間特有の文化ね! 小猿からそこまで育て上げたんでしょ? どう、正解!?」
「ぃや……その、きひっ」
ペットではなくテイムドモンスターだ。
そう訂正しようとするが、うまく声が出ない。
ていうか、近っ!?
それになんだか、すごくいい匂いがする。
「はぁっ、はぁっ」
自然と息が荒くなってしまった。
そんなボクのこともエルフ少女はじぃ~っと観察し、言い放った。
「にしても人間ってはじめて見たけど、ずいぶんと変な顔をしてるのね」
は? ケンカ売ってんのこのクソガキ! 犯すぞ!?
なんて、強気に言い返せるはずもなく……。
「ぃ、うふ……きひっ」
そう誤魔化すように笑った。
ボクだって、選べるならエルフに生まれてたっつーの!
「ふ~ん。まっ、いいや」
エルフ少女はひとしきりボクを観察し終えると、そう腰に手を当て鼻を鳴らした。
なにそのポーズ、めっちゃかわいい。
「『人間には気をつけろ』『1匹いたら10匹はいると思え』なーんてお父さんが言ってたけど、全然そんなことないじゃない! お父さんのウソ吐き!」
エルフ少女は怒った様子で言う。
いやまぁ、お父さんの言葉はあながち間違いではないと思うけど。
すくなくとも人間からすれば、こんなかわいい女の子を見かけたら放っておけないだろう。
いや、ボクはそんなことしないけどね!?
……決して、レベル差に日和ってるわけじゃない。
本当だぞ!?
「あーもうっ、思い出したらますますムカついてきた! ちょっと聞いてよ。お父さんってば――」
それからもエルフ少女は、お父さんとやらのグチを吐きまくった。
「うるさい」だの「キライ」だの「あたしのものに勝手に触った」だの「いつもウソばかり吐く」だの。
世の”お父さん”が聞いたら泣きそうな暴言のオンパレード。
それと彼女の話を聞いていてわかったが、この子の外見と実年齢はほぼ変わらなさそうだ。
もしかしてエルフにも人間と同じような思春期があったりするのだろうか?
だとしたら、それはちょっと興味深い。
「あーもうっ! このあたりにも全然、危険なんてないしっ!」
「け、ど……きひっ。ま、もの……」
「そんなの蹴散らしてやったわよ! なんたって、あたしはエルフだもの!」
なんというか、高種族値の暴力だな。
この世界は現実以上に、生まれでその性能が決まる。
「まぁ、そんなこんなであなたを見つけたってわけ。人間なんて珍しいし、話せる機会なんてもっと貴重だわ!」
って、言われても知らん。
だってボクが、この世界のほかの『人間』に会ったことがないし。
にしても、そろそろボクの体調が限界だ。
ボクは意を決して、エルフ少女の話に割り込んだ。
「あ、の……ちりょ、う……きひっ」
「え? あ~。あんた、怪我してるじゃない。……ん~、よしっ! あたしに協力しなさい! そしたら傷の手当てをしてあげる!」
この状況で交換条件!? 人として、困ってる相手はすぐに助けろよ!
と言いたいが、ほかに選択肢はなかった。
「な、に……を」
「お父さんにあんたを見せてやるの! 人間を捕まえた、あたしのほうが強かった――お父さんは
「な、ぁっ……!?」
「ついて来なさい! あたしの家まで案内してあげる!」
エルフ少女は、ボクを家来にでもしたかのように言った。
いやいやいや、それはマズい!
十中八九、ボクはこの子のお父さんに会ったら殺される!
しかし、このまま放置されてもどのみちボクは死んでしまうだろう。
よし、決めた。
ここは治療が終わったタイミングで、逃げ出して……。
(――いや、待て。なにかがおかしい)
ふと、気づいた。
転生してきて、こんな美少女に出会って、しかも家に呼ばれる。
そんな都合のいい偶然がありえるだろうか?
なにより、ここは――
(もしかしてこれ、イベントか? ということは今、ボクは……この子とのフラグが立っている!?)
だとしたら、選択肢はひとつだ。
そして、やがてボクはこのエルフ少女と……。
「きひっ、きひひっ!」
おっと、いかん。
興奮したら下半身に血液が!
「って、あれ?」
なぜか、めまいまでがボクを襲った。
というか、この気持ち悪さ。もしかして……貧血!?
(え、もしかしてボク――勃起で貧血にトドメ刺したのぉ!?)
そんなカッコ悪い気絶はイヤだぁあああ!?
なんて抵抗もむなしく、視界は暗転した。
ボクが意識を手放したのと、HPバーの横に”気絶”を示すアイコンがついたのは同時だった。
* * *
そして、ボクは目を覚ます。
そこは――。