◇
「いつまで寝ているつもりだ、凜子。壊れてはいないのだろう? そろそろ目を覚ませ」
まどろみの中で聞こえてきた声に、凜子の意識が覚醒していく。聞いたことのない声だと働かない頭を動かしつつ、重い瞼を開いた。
「ここ……は……? 私……」
ぼやけた視界にまず飛び込んできたのは天井の照明だった。背中に感じる感触はおそらくベッド。どうやら横になっていたらしいと気づく。頭を抑えて目を閉じ、記憶を呼び起こしながらゆっくりと身体を起こした。
(頭と身体が重い……。私は確か……)
思考を巡らせようとした瞬間、触手を持つ化け物とオークに慰み者にされたと思い出した。魔界生物による媚薬成分の入った体液を身体の中にも外にも浴び、それからオーク達に輪姦された。そこまでの記憶が蘇る。
(そうだ……。私の身体は……汚されてしまったのだな……)
今は身体に違和感がないものの、凌辱されたという事実は間違いない。望まぬ破瓜を迎えてしまったということに落胆する。
だが一方、思考が正常に働いていることに若干安堵していた。身体が淫らに堕ちてしまい、心も大きく揺らいだ。あの時は精神までもが壊れてしまったかと思っていたが、それだけは避けることが出来たらしい。とはいえ、全く気にしないことは難しいし、身体も本調子からほど遠い。
「目が覚めたか。ご主人様を待たせるとは、奴隷としての心構えから叩き込む必要がありそうだな」
嫌な記憶をフラッシュバックさせて苦い表情を浮かべたところで再び聞こえてきた声に、凜子は抑えた手をそのままに声の主の方へと目を開いて移した。どうやらここは寝室のようであり、声をかけてきた男は部屋の入り口近くの椅子に悠然と腰掛けていた。
肥満体型な突き出た下腹と、ギョロっとした目が特徴的な中年の男。お世辞にも品が良さそうといえない男の風貌に、反射的に凜子は眉をしかめる。
「……誰だ」
「口の利き方には気をつけろ。俺の名はリーアル。お前の主人だ」
「主人だと……?」
訝しげに返されたその言葉に対してか、主人と名乗った男はいやらしい笑顔を見せる。嫌悪感を覚える凜子だが、その相手の視線が自分の目ではなく、自分の身体を舐め回すように見ていると気づいた。そして視線を逸らして自分の身体を見たところで、何故相手が自分の全身を見ているのかようやく理解した。
「なっ……!?」
今の凜子は下着というのもおこがましい、布地がほとんど無いビキニのようなものを上下に纏っただけの格好だった。かろうじて乳首や性器は隠れているものの、巨乳のほとんどは隠し切れることなく露わとなっている。
「なんだ、この格好は!?」
「似合っているじゃないか。いやらしいお前にぴったりの衣装だろう」
「き……貴様ァ!」
愚弄されたことに怒りを覚え、バネ仕掛けのように凜子は腰掛けていたベッドから声の主へと飛びかかった。手刀を振りかざし、しかし相手に肉薄した瞬間――。
「うあああッ!? あっ、あがあああああああああッ!」
まるで全身に強力な電流を浴びたかのような激痛が走り、膝から崩れ落ちた。行動を阻害され、無様に男の前でへたり込んでしまう。
「主人に対する態度がなっておらんぞ。まったく、話の途中だというのに、対魔忍というのは人の話を聞こうとしない馬鹿ばかりなのか?」
「う……ぐぅ……」
投げかけられた侮蔑の言葉に対して憤りたくとも、あまりの痛みに声を上げることすらできない。痛覚に直接訴えかけられたかのような未体験の苦痛の前に、痛みに対して耐性があるはずの凜子でさえ堪え方がわからずにいた。
「今起こったことを説明してやる。そこに鏡があるだろう。舌を出して見てみるがいい」
ようやく身体を起こせた凜子は、相手に警戒しつつも、言われたとおり鏡に自分の舌を出してみる。そこに映った舌には見たことのないような幾何学模様がくっきりと浮き出ていた。
「なっ……!? なんだこれは!?」
「それがさっきお前の身体に走った激痛の正体だ。そいつは魔界の医療技術を応用して作り出された、キメラ微生体と呼ばれるナノマシンが身体に浸透した証。相手を意のままに操る技術を元に、生産性と実用性を向上させた代物がキメラ微生体だ」
「キメラ微生体……」
「さっきのように主人である俺に明確に反抗したりここから逃げ出そうとすれば、今しがた味わったような激痛をまた受けることになる。ああ、お前に投与したタイプだと忍法を使おうと気を練れば同じことになるな。そして俺がその気になれば生体爆薬へと変換して両手足をを吹き飛ばすことも出来る。抵抗は無駄だと覚えておけ」
すなわち凜子にとって切り札である空遁の術が使えず、逃げ出すことも出来ない。そうわかっただけで、心に絶望感が広がっていくのを感じていた。
「話が前後したな。確かにそれには抵抗、逃走防止の効果もあるが、『奴隷』ということをはっきりとわからせるための刻印だと思ってもらえばいい」
「奴隷……だと……?」
「そうだ。そして俺がお前の主人だ。どこまで知っているか知らんが、お前は我々の技術提供、友好関係と引き換えに米連に売られたのだ。作戦の中身を事前にリークされ、見事にお前は罠に嵌った。そして無事俺の手元に来た、と言うわけだ」
グッと奥歯を噛み締め、米連側と最後に交わした通信を思い出す。あの時言われたことと内容は一致している。やはり自分の正体はとっくに露見しており、都合がよかったためにこの男に差し出された、ということだろう。
加えてその通信の際に「捕縛された」と言われたゆきかぜも気がかりだった。今現在自分の目の届く範囲に彼女はいない。捕縛、と言われた以上命を落としてはいないだろうが、自分と同じような境遇に陥ってしまったと考えると胸が痛んだ。
「そういうわけで俺がお前を買った。だから主人なのだ。わかったか?」
「……リーアルとか言ったな。主人と言う割には、あまり金を持っているようには見えないぞ」
「ほほう! 面白いことを言う。自分で言うのもなんだが、俺はここヨミハラでは結構顔が利く。お前のような女を娼婦として集めているこの娼館、『アンダーエデン』の主だ。金はいくらでもあるぞ」
娼婦という言葉に反射的に凜子は顔をしかめた。が、直後、何かに思い当たったかのように考え込む。
「待て。今ヨミハラと言ったのか? じゃあここは……日本か?」
「ああ、お前は化け物とオーク共に散々犯されたせいでずっと気を失っていたんだったな。眠っている間に祖国へと帰ってきたんだよ」
日本に戻ってきたということは仲間の対魔忍の目に触れる可能性が高まったかもしれない、と思う。が、直後、その考えを捨て去った。ここは東京の地下にある魔界都市。人目になど触れない場所だ。加えて対魔忍といえどここには忍び込むことも難しく、戦闘行為を仕掛けようとしても秘密裏に魔族のバックアップを受ける政治家から、政府の直轄である対魔忍組織へと見えない圧力がかかりまともに動けないのが現状だ。味方の救助の望みは薄い。
しかし米連に潜り込んだ際、対魔忍の本部であり養成機関でもある
「ほう。その顔、自分の立場が少しはわかったようだな」
「ああ。……悔しいが、今私はお前に手を上げることも逃げることも出来ないようだからな。それで、私をわざわざ生け捕りにしてどうするつもりだ? 確か、対魔忍を奴隷娼婦に仕立て上げるのが面白いと言われた、とか私を売った連中が言っていた気がしたが」
「まったくおしゃべりな連中め。……まあいい。その通りだ。お前を調教し、ここで奴隷娼婦として働かせる。元対魔忍の娼婦というのは受けがいいからな」
嫌悪感を隠そうという意思も無く凜子の顔がしかめられる。
「やれるものならやってみるがいい。寄生体か何か知らないが、それで私の行動は支配することが出来たとしても、対魔忍の心までは支配出来ないとわからせてやる」
「強がるのは結構だが、お前こそ甘く見るなよ。俺は数々の女を狂わせ奴隷娼婦へと貶めてきたのだからな」
両者の視線が交錯する。だがしばらく経ってから、リーアルは不敵に小さく笑い、視線を逸らした。
「……とはいえ、お前を心まで支配して完全に屈服させるのはなかなか骨のようだ。無論調教し続けてそうするのも面白そうだが、もっと面白い賭けをするつもりはないか?」
「賭けだと?」
訝しい表情で凜子が問う。対して、館の主は先ほどと変わらない笑みを浮かべるだけだった。
「まずはこいつを見るがいい」
不意に何かが手渡される。小型端末だった。そのディスプレイに映っている映像を見て、凜子の顔色が変わった。
「ゆ、ゆきかぜっ!」
彼女の言葉に相違なく、映像にいたのは先日までの米連スーツではなく本来の対魔忍スーツに似た衣装を纏い、四肢を機械に飲み込まれて磔にされたゆきかぜの姿だった。しかし身に着けたコスチュームの胸と陰部の布地が取り払われて露出しており、そこに何か液体のようなものを塗られている。その度に不明瞭ではあるが、快感を押し殺そうとする喘ぎ声もまた聞こえてきた。
やはり捕縛と言う言葉に違わず捕らえられてしまい、自分同様虜囚の身という境遇となってしまったことにショックを受ける。だが次には、妹代わりの相棒が理不尽に全身を嬲られていることに対する怒りが浮かんできていた。
「当然ながら、お前同様ゆきかぜにもキメラ微生体を投与済みだ。今は奴隷娼婦となるため全身の感度を高める訓練……有り体にいえば調教中だ」
「リーアルゥ……!」
「逆上するんじゃない。……お前の心がけ次第でゆきかぜを助けてやらんでもないぞ」
思いもよらない言葉に、血の上った頭が一瞬で冷えていた。ゆきかぜを助けられる。十中八九罠、あるいは守る保障も無い約束とわかっていても、何も出来ない今の凜子にとってそれはすがりたくなる言葉であった。
「その話……本当か?」
「ああ。しかもメディカルチェックによればあいつはまだ処女だそうじゃないか。女は処女を恋する男に捧げたい、などという思いもあるのだろう? 俺からすれば貞操観念などクソの役にも立たないと思うが、そういうのを守りたいという気持ちもわからんでもない。……凜子、俺との賭けに勝ったら、ゆきかぜのキメラ微生体を除去し、処女のまま解放してやろう」
「な、何だと!?」
ゆきかぜと達郎のことは、姉である凜子はよく知っている。もどかしい2人の関係を時に発破をかけつつ見守ってきた。だが仲は進展しないまま、今回捕らえられてしまった。自分はもう化け物に処女を奪われてしまったが、可能ならゆきかぜのささやかな思いは守り通したい。
「私はどうすればいい!?」
「落ち着け。賭けの内容を説明してやる。まず期間は2週間。これはゆきかぜの奴隷娼婦の訓練プログラムが一通り終わる期間だ。さっき映像で見せた媚薬ローションの塗布が1週間、シミュレーションによる擬似凌辱が4日間、実践訓練に3日間。ちなみに、お前はその訓練のほとんど、最後の実践訓練までスキップする」
「何……?」
「凜子、お前は捕まる際にある魔界生物の体液を大量に浴びたそうだな。そこで処女を喪失したとも聞いた。あの化け物の媚薬成分の強さはよく知っている。男を知らない女なら通常10分と持たずに発狂することすらある異形の体液を浴びて凌辱を受け、さらにその後オーク共に輪姦された。そうなれば、身体は強力な媚毒と苛烈な凌辱を受けて短期間で開発されている。さっき言った媚薬ローションの塗布と擬似凌辱は、何をされても感じるよう身体を開発する訓練になる。よってお前はその段階をとばせる、と判断した」
あの恥辱の記憶が頭の中で呼び起こされる。心は懸命に耐えようとしていても、身体が抗いきれずに幾多もの絶頂を極め、さらになされるがまま亜人共にまで犯された忌まわしい記憶。今はなんともないように思えるが、もしまた身体が快感に晒された場合、同様に乱れてしまうことは既に考えていた。
「話を戻すぞ。今言った2週間という期間の中で、2つの条件を破らなければ、この賭けはお前の勝ちだ。ゆきかぜのキメラ微生体を除去し、処女のまま解放してやる。逆にどちらか1つでも破ってしまった場合、お前もゆきかぜも未来永劫ここで奴隷娼婦として働いてもらう」
「……その条件とは何だ?」
「ひとつ、ゆきかぜが自ら処女を散らす要求をしないこと」
「馬鹿にしているのか? ゆきかぜがそんなことを自ら望むはずがないだろう」
呆れた様子の凜子に対し、リーアルは含んだような笑いを返す。
「わかっていないな。処女のまま解放するということは、当然これからの調教で膣にペニスは受け入れない、ということだ。……激しい凌辱を受けたお前ならわかるだろう。深い快感の大元はどこから来るのか。膣の奥、子宮だ。そこを生殺しの状態で他の部位を開発されていく。なのに、もっとも望む子宮への快楽は与えられない。これは想像を越える苦痛、ともすれば拷問だぞ?」
自分が犯され続けたときはどうだっただろうか、と凜子は考える。わけがわからなくなり、ただひたすらに快感を貪ってしまった。そんな状況で望むべき場所へ望むべきものが与えられない、となったら。
「少しは理解したか」
意図せず顔にその気持ちが出てしまっていたらしい。ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべつつ、リーアルは勝手に納得している。
「しかしそれはお前にはどうすることも出来ない、ゆきかぜの問題だ。そこでふたつめ。今度はお前に関わる条件になる。言ってみれば単純、俺の言うことを忠実に守ること。それだけだ」
「……本当にそれだけでいいのか?」
「ああ。ただ、お前にはゆきかぜより先に奴隷娼婦として働いてもらう。付け焼刃ではあるだろうが、まずは作法やテクニックを身につけ、客も取ってもらおう。そしてそれと並行して、ここヨミハラにある地下アリーナでのショーにも参加してもらう」
「地下アリーナでのショーだと?」
オウム返しの凜子の言葉に肯定する相槌を打ち、その先が続けられる。
「お前も対魔忍なら数年前に存在したカオス・アリーナは知っているな? 勝者は賞金を得られ、敗者は屈辱を受けるショービジネスだ。あれはなかなか金回りがよく、観客の反応もいいものでな。カオス・アリーナほど大掛かりではないし所詮真似事の類とわかっているが、ここヨミハラにも地下闘技場を設けてある」
「……私にそれに出ろというわけか」
「そういうことだ。だが安心しろ。俺は『負けろ』などという興醒めな命令はしない。懸命に戦い、抗おうとした女が恥辱に染まる姿こそが、よりよいスパイスとして働くと考えている。いずれにせよショーだ。お前の戦う姿、そして敗北し犯される姿を楽しみに見せてもらうことにしよう」
「下衆め……!」
憎悪を込めて凜子は呟いたが、選択肢が無いこともわかっていた。拒否をしたところで自分は虜囚の身。キメラ微生体のせいでどうすることも出来ない。提示された内容を反故にされるかもしれないとわかりつつも、斬鬼の対魔忍は心を決めた。
「さあどうする、凜子?」
「……質問がある。この賭けで生じる貴様のメリットは何だ? 提示された内容では一方的に私達だけに利があるように思える。にもかかわらず賭けを持ちかけるというのは、どうも解せない。裏があるのではないかと勘繰ってしまう」
「裏などない。理由ならさっき言っただろう、面白い、と。それから抗おうとした女が恥辱に染まる様も楽しみだとも。後輩の処女を守ろうと自らの身体を汚しながらも必死に抗うお前と、その先輩の温情を無駄にしないよう快楽に耐えるゆきかぜ。そんな互いを思い合うお前達が賭けに負けたときに見せる絶望、堕ちる瞬間こそ、俺は最高に面白いと考えている」
「なるほど、よくわかった。つくづく悪趣味な奴だ。……だが話には乗らせてもらう。どのみち、今の私にはどうすることも出来ないのだからな。確認するが、私が勝ったら、約束は守れよ。その時はゆきかぜを解放してもらうぞ」
「勝つつもりでいるのか、おめでたい奴め。まあいい、これでお前との交渉は成立だ。ついてこい」
言うなりリーアルは立ち上がり、寝室の入り口を開けた。意図がわからないと見上げる凜子を顎で立つように促しつつ口を開く。
「このゲームは2人の許可が必要だ。お前からの許可は得たが、もう1人がまだだ」
「ゆきかぜのところに行くのか?」
「そうだ。お前も別れて捕らわれた相棒に会いたいだろう? 会いたくないのなら無理にとは言わんが」
一方的に話を切り上げて部屋を後にしようとするリーアルに慌てて凜子は続いた。ゆきかぜに会える、それだけでこれからの自分に訪れるであろう責め苦を乗り越えられるかもしれないという予感が、心をよぎっていた。
◇
ゆきかぜが訓練を行われている部屋は、酷く機械的で殺風景だった。その部屋の中心。四肢をすっぽりと機械に包み込まれたゆきかぜは、胸と股間に何かを塗りつけられている。
「うぅああぁ……! ぬるぬる……もういやぁ……! やめ……ひゃうううぅっ!」
その無機質な部屋同様、感情も何もないかのように白衣姿の男達が黙々と作業を続けている。捕らわれた美少女対魔忍に媚薬ローションを塗るという行為。それは彼らからすればまさしく「作業」でしかなく、相手を悦ばせようなどという感情も一切なしに、事務的に行われていた。
「あうぅ……。おっぱいに……ああぁ……」
健康的に日焼けした顔と対照的に白い肌の中で、鮮やかなピンクの頂がツンと上を向く。ボリュームこそ乏しい胸であるものの、やはり乳頭はとりわけて敏感な器官であった。そこに執拗にローションが塗布されるたび、ゆきかぜの口から甘い声がこぼれる。
「ふぅあああぁん! あそこもぉ……。あぁん、ひゃあああぁんッ!」
胸だけでなく陰部に液体を塗りこまれ、拘束されたスマートな身体が跳ねる。股間からはローションと愛液の混じったものが垂れ、床に水溜りを作ってしまっていた。
「やめ……やめてぇ……! あ、だ、ダメ……! い、イッちゃうぅ……!」
拒絶の言葉を口にしながらも、対照的に男達の機械的な手の動きに合わせるように腰は動く。まだ開始初日とはいえ、強力な媚薬ローションは確実にゆきかぜの身体を蝕んでいた。
「あああッ……イク、イックううううッ……! ああっ、ああああああああああああぁッ!」
口から嬌声を上げ、ゆきかぜは絶頂を迎えた。だが男達の手の動きに変わりはない。作業対象が泣こうが喚こうが、全く変わらないペースでただローションを塗っていくだけだった。
「うぅ……。あくッ……はぁっ……」
絶頂後の余韻に身を震わせ、荒く呼吸を繰り返す。達してしまったのはこれが初めてではない。既に数度気をやっており、その度に快感と同時に疲労感に全身が襲われていた。
屈辱だった。それ故、舌を噛んでの自害も考えた。しかし学園で待っているであろう恋人の顔と、彼女が対魔忍になった、まだ果たせていない目的を思い浮かべ、必死に耐え忍ぶと決めていた。
と、永遠に続くとさえ思われたその作業は、突如終わりを迎えた。気づけば身体を這い回っていた手はもうなく、液体を塗っていた男達はいつの間にか撤収の準備の始めている。
「はぁ……はぁ……やっと……終わったの……?」
当然答えはない。だが男達はもう近くにいない。これで休めるとゆきかぜが四肢の力を脱力させた、その時。
「寝るにはまだ早いぞ、ゆきかぜ。お前に客だ」
不意に聞こえてきた声に、一度閉じかけた瞼をどうにか開き、気だるそうに顔を上げた。
「その声……リーアル……? 客って……」
重たそうに瞼が開かれる。だが視界によく知った顔が飛び込んでくると同時、野生の猫を思わせる鋭い瞳が大きく見開かれた。
「り、凜子先輩!?」
米連の策略に嵌り離れ離れとなってしまってから初めての、しかし悲劇的といえる再会。相棒に会うことが出来た喜び半分、一方で移送中にゾクトに言われたとおり捕らえられてしまっていたというショックも半分、ゆきかぜの心には浮かんでいた。
「ゆきかぜ……」
先輩対魔忍はつらそうに目を伏せている。その様子に、今自分が恥ずかしい格好を晒したままだったと気づいた。もしかしたら自分の痴態を見せられ、そのことに心を痛めているのかもしれない。
「感動の再会中悪いが。ゆきかぜ、俺は凜子にある賭けを提案し、凜子はそれを了承した。あとはお前次第になる」
「賭け……? 何の話よ?」
「今説明してやる。お前にとっても悪くない話だと思うぞ」
リーアルは先ほど凜子に話したことと同じ内容を説明し始める。ゆきかぜは終始驚いた様子で、俯き気味の凜子と説明するリーアルの顔を見つめていた。
「……以上だ。質問はあるか?」
「私を解放、って……。凜子先輩は!? 私だけ解放されても、凜子先輩がここに残るままっていうなら……!」
「ゆきかぜ、私は捕まった時、いや、対魔忍となった時からこの身がどうなろうと覚悟は出来ている。ここで2人共倒れとなってしまうぐらいなら、お前だけでも助かる道を選びたい。……それに私の身体はもう汚され、化け物に純潔も奪われてしまった。だがお前は違う。その純潔は、恋する男のためにまだ取っておける。……私の言いたいことは、わかるな?」
優しい言葉だった。が、その語気にそぐわない、鋭い視線が凜子から降り注いでいる。アイコンタクトを交わし、ゆきかぜは相棒対魔忍の言葉の裏に隠された意味を読み解いていた。
(凜子先輩は味方が助けに来てくれるまで耐え抜くつもりなんだ……。でも、それなりの情報が無くちゃ、ううん、あったとしてもこのヨミハラに対魔忍が踏み込むことは困難。だけど私がここから戻ることが出来れば、アサギ先生や他の対魔忍の皆は絶対に仲間を見捨てないで立ち上がってくれるはず。その役割を、私に任せるつもりでいるんだ……! その上でさらに、私の処女も守ろうとしてくれてる……)
米連さえ懐柔させ、自分達を罠に嵌めた目の前の狡猾な中年男が約束を守るかは疑わしい。しかし、先輩対魔忍がその賭けに乗るというのであれば、もはや是非もない。いや、どうせ話を蹴ったとして捕らわれの身の未来は暗いものでしかないとわかっている。おそらくそこまで考えて、加えて自分のことまで慮って、敢えて話に乗ったのだろうとゆきかぜは理解した。
「どうする、ゆきかぜよ。凜子も自分と一緒に解放しろ、という望みは却下だ。折角捕まえた対魔忍の奴隷娼婦候補を一度に2人失いたくは無いからな」
「……わかったわ。その提案に乗ってやろうじゃないの。凜子先輩の覚悟と心遣いを、私は無駄にはしない」
「いいだろう。だが凜子だけでなく、お前にも覚悟が必要なのを忘れるな。これから淫らに身体を開発されたとしても、処女膜を破るほどの深い挿入はない。女体でもっとも感じる部位への快感を得られないという、生殺しの責め苦に苛まれることになるのだ。……もっとも、一言『チンポがほしい』とねだったなら、一生奴隷娼婦という条件と引き換えに極上の快楽を与えてやるが」
「そんなこと言うわけないでしょ! 2週間、必ず耐え抜いてここから抜け出してやるから見てなさい! その時は約束はちゃんと守りなさいよ!」
睨み付けていたリーアルへの視線を凜子へと移す。それは今しがたの怒気がまるで嘘であるかのように感謝と申し訳なさを滲み出していた。
「……凜子先輩、私を気遣ってくれてありがとうございます。先輩の決意、絶対に無駄にはしません」
「その意気だ。さっき言われたとおり、これからの日々はお前にとってもつらいものになるだろう。……既に汚された身だ、女悦への抗いがたさは……悔しいがよくわかっている」
「先輩……」
「さて、お話中申し訳ないが、話はまとまった。そろそろよろしいかな?」
と、ここまで互いに配慮し合う様を見つめていたリーアルが口を挟んできた。
「そうと決まればやることがある。いつまでものんびりしてはいられん。なお、お前達2人が直接顔を合わせることは禁じる。どちらかが賭けに負けた時、あるいは勝った時の2週間後にまた直接会わせてやろう。それまでは録画した映像で互いの無事を確認させてやる。いいな?」
了承の意図を示す代わりに、キッとゆきかぜは娼館の主を睨みつけた。その後で凜子をまっすぐに見つめなおす。
「……じゃあ先輩、2週間後に、また会いましょう」
「ああ。……直接顔を合わせられないが、互いに耐え忍ぶぞ」
賭けに勝って2週間後に会う、ということを確認したうえで2人が部屋を後にする。1人残されたゆきかぜに、先ほどまでの訓練の疲労からか、段々と睡魔が迫ってきた。
(絶対に、2週間耐え切ってみせる……! 凜子先輩の決意を、無駄にはしない! ……待っててね、達郎。私、必ずここから抜け出してみせるから! それに……私はお母さんの行方を捜すために対魔忍になったんだもの、こんなところで終われない……!)
恋人の顔と、自分が対魔忍になったきっかけともいえる、任務中に行方不明になった母の顔を思い浮かべて、強くそう心に誓う。そうしながら意識は次第に闇へと沈んでいき、捕らわれの対魔忍は眠りへと落ちていた。