和風凌辱エロゲーの主人公兼ヒロインの兄に転生したんですが何か違う 作:ビシオ
誤字報告やお気に入りに感想、誠にありがとうございます。
「いやぁびっくらこいたで、紙芝居見ていた兄ちゃんが見終わった後急に倒れるからなぁ」
暑苦しい笑顔をして眼前の行商人は話す。こうしてみると、陽気な関西弁商人にしか見えない。その姿は筋骨隆々であるので見るだけでとても暑苦しい。
僕たち一行は、市場から少し離れたところにある高級茶屋に身を寄せていた。そして、中に入り上等な座敷部屋を貸し切りにする。行商人一人に対して相対するように机を挟んで僕らは座る。僕は茶屋の高級茶菓子を注文し、それぞれに渡していた。妹達はもきゅもきゅ食べてるが、相手の行商人はお茶のみで良いと言われたのでそうしている。
まず、僕は頭を下げ感謝を述べることにした。
「その節はどうもご迷惑をおかけしました。あと、
「んー、あの活力剤やったらこれくらいやなぁ」
懐から算盤を取り出し、机の上に置いてパチパチと弾く。
その金額は、薬屋で売られる活力剤より高い、横で見ていた三姉妹は足元を見ていると感じ眉を顰める。焔は懸命に目の前のお茶とお菓子を食べることに夢中で算盤を見てもいない。見てもまだ理解できないだろうが。
波羅が何か口を開く前に僕は懐から巾着袋を出し、中にある砂金を出す。本当は銭を出す予定だったのだが、銭は市場巡りで大体使ってしまって手持ちが少ない。今出した砂金は両替商で両替する予定だったのだが、これを出しても相手は商人故に価値を理解できるだろう。
出した砂金の量を見て、行商人は笑顔を崩さず
「おいおい、兄ちゃん。出してる量が多いで?この代金より多く出すっちゅーことは、釣りが欲しいんか?」
そう言いながら、行商人は銭袋から釣銭を出そうとするが僕はそれを手で制する。
「いえ、これは活力剤の代金と、あの場で助けていただいたことへのお礼です。あの場で、即座に薬を飲ませて対処したその行動に対してお礼が言いたい」
「足元を見てると思わんかったんか?」
「それならば、その提示した代金のみを払ってます。ですが、示した金額はあの活力剤の質を考えれば妥当なものかと。故に、足元を見ていないと判断したので、その誠実な態度にも感謝を込めてこの金額です」
「兄様、あの薬はそれほど上等なのですか?」
「うん、飲んだからわかるけど、あれは並みの薬師が用意できるものじゃない。かなりの上等な奴だよ」
当主代行という立場にいるので、薬方向にも多少は知識をつけねばならない。うちが雇ってる薬師は並の力量でそれで作られる最高の奴の効果は味見したりして理解していた。それと比べるとはるかに質がよかった。
その質の高い奴を、惜しげもなく飲ませ、更には提示した金額は足元を見らず妥当なものだった。故に、僕はそれらの返礼として高めに払った。ただ、あの活力剤。あれはただの活力剤じゃないことを飲んで理解した。だが、それを説明するのも難しいので敢えて活力剤と言っている。相手もどうやらそれを理解しているようだ。
僕がそう言って礼の為に再度頭を下げると、行商人はおどけたように両手を上げて。
「参った、降参や。そこまで見てるんならこっちとしても何も言えへんわ。じゃあ、ありがたく頂くでぇ」
そう言って、砂金を銭袋に入れる。
「さて、自己紹介が遅れたな。ワイは行商人
お互い初顔合わせなのに、自分のことを様とつける尊大な態度。妹達は図々しいなという雰囲気を出しているが、僕は彼の存在を転生する前のゲーム知識で知っている。はっきり言って、こうして出会えたことに神に感謝しているくらいだ。
行商人
『現世の波羅姫』のゲーム会社の出すゲームのほぼ全てに出てくる行商人である。同名のキャラを別作品に出すスターシステムみたいなものだ。その特徴的な外見と、売ってくれる品々のものが有益すぎて、自身が自称しているのもあるがプレイヤーからも開発者からも敬意と畏怖を込めて「行商人万太『様』」と様付けで呼ばれている。
キャラクターデザインはすべての登場作品において一貫しており、一言で表すなら
『常に暑苦しい笑顔をした筋肉モリモリマッチョマンの大黒天』
と言うとわかりやすいだろう。
大黒天の恰好ながらも、2mに匹敵する巨漢であり、その帽子の下は見事なスキンヘッドだ。元のデザインとなった太った姿など全くなく、ボディービルダーのような見事な筋肉の鎧を纏い浅黒い肌が光輝いていてある種の美しさを感じる。それでいて、大黒天様のニコニコ笑顔をしているのだから、見事な筋肉と相まって気温上昇間違いなしな暑苦しい笑顔をしている。実際ゲームキャラが万太と出会うと気温低い筈なのに暑く感じるとか、部屋の温度が急上昇した、みたいなことを言ったりする。屋号までしっかり用意しており、丸の中に万太の万の字を入れたものだ。シンプルだが非常にわかりやすい。
そして、筋肉モリモリマッチョマンとわざわざ付けているが、これはキャラクターをわかりやすく説明するだけだとプレイヤー達は思っていた。だがなんと中の人はハリウッドスターから「今後百年僕の吹き替えを担当してほしい」と公認されたベテラン大物声優なのだから驚嘆するほかない。開発スタッフは
「わざわざこの文言を入れるなら中の人も妥当な人にしないと不作法というもの」
と言って、その声優に直接指名を入れたのだとか。尚、エロゲー声優は大体がエロゲー用の名前を使ってわかりづらくしているものだが、中の人の名演技も相まってバレバレである。尤も、最初は全年齢版として出してその時は表の名義であったため偽名の意味ねーじゃんとプレイヤー達から突っ込まれているが野暮というものだろう。
そして、手にそれぞれ持っている打ち出の小槌と福袋は大黒天の象徴するブツだが、これは単なる飾りなどではなく掛け値なしの伝説のアイテムだ。
「さて、ここで出会ったのも何かの縁や。それに兄ちゃん達は金を沢山持ってる良いところの家の連中と見たで。ワイの商品買っていかんか?お安くするでぇ」
そういうと、持っていた福袋に手を突っ込み、中から様々な物を出して机の上に広げる。どこぞの青タヌキを思い出させるように、見た目通りの袋ながらも中身は明らかに質量保存の法則を無視したブツがたくさん出てくる。
妹達は驚きながら
「なんと面妖な……」
「万太さん、袋の大きさと商品の大きさが合ってないんですが」
「実に不思議な袋ですね。どういう作りなんですか?」
「よくわからないけどすごいでござる!」
「細かいことは言いっこなしや!さぁ、目当ての物があるなら買うたってや」
とツッコミを入れるも軽くいなす。
この四次元ポケットのような福袋の設定を生かした万太の紹介文は
「あらゆるブツを何でも用意してくれる世界最強の商人」
という一文のみの説明だ。これだけ聞くと、フワッフワすぎてよくわからない人がいることだろう。だが、このゲームを生み出した会社の作品をプレイした経験のある人なら、その一文には頷くほかない。
「あらゆるブツ」とは文字通りだ。
万太に話しかけた時に決まった口上がある。それは
「へいらっしゃい!!ワイは行商人万太様や!爪楊枝から〇〇まで、ゼニさえ出せば用意してやるで~!」
である。
この時、爪楊枝までの口上はすべての作品で共通だ。だが、後半の〇〇部分では、作品ごとに内容が違う。
あるファンタジーエロゲーの場合は『大陸焦土魔法』で、あるSFエロゲーの場合は『高密度熱核ナパームミサイル』となっている。大規模破壊ができるという部分が共通しており、非常に物騒だ。
だがその物騒なブツを出す口上を、初見のプレイヤーはまたまた御冗談をと笑って流し、商品一覧を見ると本当にそれが売られているのを見て度肝を抜くのがある種のお約束である。
商品を見ると文字通りの『あらゆるブツ』が売られており、それこそゲーム終盤どころか、極超低確率でゲームクリア後の隠しボス撃破したときにもらえる
だが、全てを出すが、全部揃っているわけではない。出会える確率が低い上に、出会ったとしても目当ての商品がないことなんてザラにある。買い物をやめる時
「目当ての物はあったんか?なかったら堪忍やで。ワイは行商人やからな、仕入れてる時もあれば売り切れの時もあるんや、すまんの」
と一言謝罪を述べているのが憎めない。
そこは都の商店に激レアアイテムを出すのと設定は似通っているが、運が良ければ本当にいいものを用意しているのだ。
そして、机の上に広げられた物を見ていく。刀、数珠、札、具足などなど、四人の妹達を見てそれに見合う物を即座に出すところを見ると、流石は伝説の行商人と頷く他ない。妹達も、出されたブツがいい物だと理解しているのか、顔を明るくしている。
そして、提示された金額を見て、手持ちの財布を開いて四人は同時に肩を落とす。お金が足りないようなので、僕が出すことにする。すると、わかりやすく大喜びしていた。
「兄ちゃん優しいなぁ、妹達の為に代わりに代金払うなんての」
「兄ですから」
「せやけど、ほんまに金持ちやなぁ、それなりの金額だったのに払えるなんて驚きやで」
交易品で滅茶苦茶稼いだからなぁ。
「さて、妹達は買うたけど、肝心の兄ちゃんは買うとらんな。何か欲しい物はあるか?」
そういうと、先ほど妹達向けに出したものとは別の品物を出していく。高級緑茶、紅茶、南蛮食器、葡萄酒、硝子製品等々。どれもこれもが交易品だ、値段もそれほど高くない。仮に、ここにあるものを全て買って、都の交易所に持っていけばプラスになるほどだ。
どうやら、僕が砂糖と清酒で稼いでいることを知っているのだろう。だから妹達と違って、交易品を出した。なるほど、確かに商人だ。欲しい物を理解して即座に出すのは作品の垣根を越えて登場する伝説の行商人だと言えよう。
だが、僕が本当に欲しいのはこれではない。
「残念ですが、ここに出されてあるものに僕が欲しい物はありませんね」
「ほう?兄ちゃんが色々と交易品を作って売ってるからこういうのが欲しいと思ったが違うたんか。そりゃ意外やでぇ」
「いいえ、違ってはいません。万太さんの仰る通り、出された交易品の数々は全て買って交易所に持ち込んで売りたいほどです。ですが、違う。欲しい物ではありますが、『本当に欲しい物』ではありません」
相手が唯の行商人ならば、出されたブツは全部買って転売して利益を出している。だが、目の前の人物はエンカウント率が非常に低いレアキャラだ。そして、なんでも用意する伝説の行商人。ならば、是が非でも頼みたいことが、取り寄せて欲しい商品があった。
「万太さん、僕は貴方のことは多少ながら存じております。神出鬼没の行商人、その手に持ちし福袋はあらゆるものをだし望みの物を売る、と」
「ほほう、ワイの噂か。まぁ間違っておらんな」
「ただし、あらゆる物を売ると言いますが、いつでも商品が手元にあるわけではない」
「まぁな、行商人やから仕入れてる時もあれば売り切れの時もあるんや」
「ですが、そんな貴方に代金を前払いすれば、手に入れるのが困難な物も取り寄せてくれる。とも聞いております」
行商人万太のみ他の商人と違ってゲームシステムで優遇されているものがある。それは、目当ての物がない時、設定された価格より割増料金を払うと取り寄せ依頼ができるのだ。その取り寄せ依頼は全て出来ると言ってもいい。秘境にあるものから、中には妖魔が所持しているものもあってそれも依頼できるほどだ。
取り寄せた品物が入荷したら、どこからともなく彼の騎乗動物に乗ってやってきて渡してくれるのである。
なお、彼の騎乗動物は彼同様に統一されており、「これがワイのペットやでぇ、ワイの名前と同じ動物やから気に入ってるんや」と言いながらオニイトマキエイに乗ってやってくる。それを見たプレイヤー達は「それマンタじゃなくてエイじゃねーか!!」とツッコミを入れるのもある種のお約束だがそれは脇に置いておこう。
ただ、取り寄せ依頼はデメリットがある
これを利用するプレイヤー達の大半はレアアイテムの取り寄せを依頼するのだからそりゃ金額が高くなる。更には、取り寄せ依頼は確実に達成してくれるわけではない。秘境に到達できなかったり、それを持ってる妖魔が倒せなかったり、倒して手に入れても運搬途中で壊れたり保存に失敗し腐ってしまった、と言ったリスクがある。しかもそのリスクは、レア度が高ければ高いほど高めに設定されているのだ。
ちなみに倒すと言っているが、この場合討伐したという意味ではなくボコってアイテムを奪ったという意味なので、彼に依頼したからと言って妖魔討伐を代行してくれるわけではないし、妖魔が弱体化したりもしない。無論、強化もされるわけじゃない。だがその妖魔の持つレアアイテムを万太に依頼して運よく手に入れたら、その妖魔を倒すとレアドロップでもう一つ手に入れることも可能なのである。本来ならば一周一個なのに万太の取り寄せ依頼を利用すれば一周で二個手に入れることができることも可能だ。
高めの金を払う上に、その依頼が達成されない可能性もあるし、その時払った代金は戻ってこないと、かなりの博打となっているわけだ。だが、その博打に勝ったときのリターンは果てしなく大きいので、取り寄せ依頼をするプレイヤーは後を絶たない。
そして、僕もそれを利用する。失敗すると、かなりの額を失うかもしれないが、そもそも僕が稼いだ金だし、この時の為に貯めたと言ってもいいほどだ。
そう、桃代姉さんの為に。
「ほう、ワイのことを良く知ってるな。だが、その依頼は受けるが失敗することもあるで?それでもいいんか?」
「もちろんです」
「代金は全額前払いの上に、失敗してもワイは返金せんで?」
「構いません」
「はっはっはっは!!剛毅な男の子やなぁ!何が欲しいんや?」
「『建木の雫』です」
「はっはっはっは!!『建木の雫』かぁ!!────────―それをどこで知った?」
腰につけている打ち出の小槌がパチパチと放電し始める。その雰囲気の変わりようと強敵のような重圧が目の前の漢から発せられ、妹達は思わず立ち上がり警戒する。
先ほどまでの陽気な関西弁商人の姿はなく、世界最強の商人としての姿がそこにあった。
万太さんはある三角形でエースなゲーム会社のゲーム作品に出てくるキャラのパロです。わかった方は僕と握手。
ちなみに
陽気な商人モード→岩鬼正美
世界最強の商人モード→メイトリックス
という風に声が変わります