※この作品はR-18です。

和風凌辱エロゲーの主人公兼ヒロインの兄に転生したんですが何か違う   作:ビシオ

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今月分です

牛車やらいろいろ調べましたが、何分素人の調べものなので間違っているところがあるかもしれません。その場合感想などで指摘していただけると嬉しいです


三十話 領地発展のために輸送効率を上げるのは優先事項

「すいません、あそこからあそこまでの車を全部ください」

 

 思い出すのは、所謂前世の記憶の中にある嘗ての思い出だった。

 僕は金が溜まって親孝行と自分が使うのも兼ねて車屋で新車を見ていた時だった。

 

 パリッとしたスーツを着たイケメン男性。時計も靴も上等な物を身に着けていた青年実業家を思わせる僕と同い年に見えた青年は、ディーラーからの説明を聞いた後、店頭に展示されていた当時最新のスポーツカーを五台、全て買うと言ったのだ。

 

 一台数百万処か数千万くらいはするスポーツカー五台を一気に買う、果たしていくらになることか、庶民の僕にはわからなかった。ただ、その一気に買う姿勢は素直に凄いと内心で称賛していた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、このエロゲー世界に転生した今では──

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそいらっしゃいました。我が牛車屋『絹道』は様々な牛車を扱っております」

 

 所謂この『現世の波羅姫』でのスポーツカーというか実用トラックに値する牛車屋に来ている。

 工業区画と商業区画の丁度間且つ、貴族が住まう上級区画にも近い立地にあるこの場所は、中々雅な屋号をしていた。恐らくは、大陸のシルクロードを扶桑言葉にした感じだろう。

 

 叔父上と妹達に幾人かの物持ちとしての下人を引き連れてぞろぞろとやって来た。相手の方には既にこちらの素性を明かすのと連絡のための下人を向かわせたので、こうして番頭さんが手もみしながら挨拶にやってきた。当然、大人の女性ということであるしおっぱいも身長もでかいし高い。顔は普通であるが、少なくとも不細工ではないので十分美人だと僕は思っている。というか明確な不細工な女性に今まで出会ったことがないとも言えるが。

 

 挨拶は重要だ、最初に軽く会釈して番頭さんに声を掛ける。

 

「ここで売られている牛車が、都の牛車屋の中で一番出来がいいと聞いたので寄らせて頂きました」

「ええ、それは勿論です。手前味噌な話ですが、うちが作る牛車は公家や大臣様方にも納入しており、贔屓にさせていただいております」

 

 ニコニコと言いながら説明をするが、これはジャブだ。

 

 自分の所が作る牛車は一流、そして大臣や公家にも贔屓にさせてもらっている。この発言を読み解けば、揉め事が起きたらこれらの上級貴族が黙っていないという意味だろう。ある意味バックについているという宣言でもある。

 

 だが一方で、それらの上級貴族に納入するほどの品質に保証があるという意味合いでもある。こちらとしても、粗悪品を掴まされるよりかはマシだ。なので、それは当然と受け取りながらも切り返す。

 

「それは良かった、ならば品質に保証があると言うことですね」

「もちろんです、決して損はさせない買い物をして頂けると思っております」

 

 お互いの挨拶は終わった。

 まぁ、こちらとしても相手が品質保証してくれるのなら値段の交渉とかは余りする気はない。何より、相手からしても僕らは北方守護という四方守護の一角であるため、これを通じて販売網拡大出来るという利点もあるから不良品を掴ませるということは起きないはずだ。

 

 番頭さんと店員の引率を受けて、僕らは大店の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 貴族相手に売り出すということだからか、もてなしの茶と茶請けを頂く。一人一つの饅頭とお茶を一杯ずつだ。受け取ったのは綾絶家に連なる者のみで、下人などは当然ない。

 

 妹達はぱくぱくと饅頭と茶を飲み、座敷に座りながら番頭から説明を受けている。下人たちは周囲の警戒や物持ちなどの雑用だ。

 

 僕と叔父上はというと、番頭から女将さんへと代わり、女将さん自らの案内で説明を受けていた。女将さんはというと、黒髪を肩まで結ったよくある玉結びの髪形だが、人妻の色気がある。化粧もしており、赤い口紅が目立つ上に、子供も産んでるからかおっぱいも大きかった。

 

 貞操逆転してるからか、商家の旦那ではなく女将がその役割を担っている。なので女将さんだ。

 

 そんな美人な女将さんから色々と牛車について説明を受けている。歩きがてら、一番最初に目につく牛車、所謂最高級モデルの所へと案内された。

 

「この唐廂車(からびさしのくるま)が、この店で一番高い物です」

「ほほう、実に見事な外見ですね」

「うん、流石は摂政、関白が晴れの舞台で乗る車なだけはあるね」

 

 女将の説明を受け、感嘆の声を漏らす僕と叔父上。叔父上の言う通りこの扶桑国でもトップの位置にいる摂政、関白が晴れの舞台で乗る時の車なだけはある外見だ。

 

 説明によると、禁足地にある霊脈から出来た霊樹霊木とも言うべき代物をふんだんに使っており、それを示すかのようにほの白い青の発光をしている。外観の金属部分はほとんどが金と霊鉄で出来ており、その金一切れだけでも庶民が数年は暮らせるであろう量と術式が盛り込まれている。車輪に至るまで使われたそれは煌びやかな外見をしており見る物を圧巻させる。

 

 内装はというと、『迷い家』の核を使った空間術をふんだんに盛り込んでいるのでこれ一台でお屋敷分の広さを誇っている。青狸もびっくりな広さだ。

 

 だが、退魔師の端くれとしては、外観にも十重二十重に防護呪術や結界が盛り込まれているのにも目を引く。他にも、腐食防止、呪い返し、抗堪性の強化、防音、防火、etc、etc…………。といった様々な術式が内部干渉しないように緻密に盛り込まれており、端くれの僕でも美しいと思えるほどの精密さと正確さで術式が盛り込まれている。

 

 僕と叔父上の退魔師としての視線を理解したのか、女将さんが声を掛ける。

 

「こちらは観賞用と思われるでしょうが、盛り込まれている術式を見るとわかるように実用出来るものです。勿論、お買い上げも可能ですよ」

 

 早速売り込んできた。その強かさに苦笑するも

 

「生憎ですが、これを買うほどの勇気と資金はありませんね」

「同感だね、いくら私達が四方守護の一角とはいえ、摂政関白に並ぶほどの牛車を買うほど自惚れてはいないよ」

「ははは、これは失礼しました。では、ほかの牛車や馬車は如何でしょうか?」

 

 相手も買う気はないことを理解してるのか、会話を切り上げて別の所にあるランクが下の牛車と馬車の案内を始めたので、僕と叔父上はそれについていく。

 

 

 この世界では馬車と牛車の両方がある。

 

 

 前者ならただの輸送用、後者は貴人を乗せる用と考える人がいるが大体その通りである。馬車は人や物を運ぶためであり、外見も中世ヨーロッパのような幌馬車と幌のない馬車だ。幌の骨組みは西部劇なら鉄棒を曲げて作っているのに対して、こちらの幌骨は竹を曲げて鉄消費を抑えてある。という違いがある。

 

 そして牛車は平安時代を思わせるような雅な作りとなっており、こちらは馬車よりも狭いため完全に貴人を運ぶためだけのものになっている。ただし、このゲーム世界での牛車は通常の牛車とは違い一つの平屋のような広さを誇っている。なぜそのような広さがあるのかというと、空間術式を利用しているからだ。

 

 その空間術式とは、北方地方に数多く出現する『迷い家』という妖魔が使う妖術を利用している。我が家や朝廷の理究衆は、遥か昔に迷い家を捕獲し、解体し、研究した結果。核となる物質を利用した空間拡張術を編み出したのだ。

 

 それにより、中身を拡張された牛車は最早昔の人のみ運んでいたものとは違い、貴人が楽々過ごせるような広さの部屋になった。移動中に一つの牛車に数人数十人入って、中で宴会や軍議、茶会などを催したりするほどである。

 

 では、なぜ牛車なのかというと、これはゲーム制作の面が関わっている。

 

『現世の波羅姫』を送り出したゲーム会社は、前作に中世ヨーロッパファンタジーエロゲーを作り、その時もダンジョンの核を利用した空間拡張術を用いた馬車をゲーム内に登場させた。これはこれで高評価であったし、普通の馬車より値が張るが中身が倍かそれ以上の内容を搭載することが出来るため、輸送効率を上げて領地開発に一役買ったりした。

 

 

 但し、欠点があった。

 

 それは、外見が普通の馬車と同じという点である。

 

 

 これにより、輸送する際にいちいち確認しないといけないという手間が生まれ、そこはユーザーからの不満点であり、開発スタッフも反省点として捉えた。ユーザーが作成したMODで色分けして漸く扱いやすくなったくらいである。

 

 なので、前作の反省点を生かした結果、次作である『現世の波羅姫』では和風ファンタジーエロゲー故に馬車だけでなく牛車も登場させた。

 

 唯の馬車は馬車として、内容が拡張された物は牛車として、という風に外見で使い分けをするようにした。結果、牛車という如何にも貴人が乗る代物に、空間術で中身を拡張しゆったりと過ごせるような設定をしたことで、ユーザーからもわかりやすく判別できるようになったと評価されるようになった。

 

 更には、空間術は馬車に使えないの? という疑問点に対しての回答として、牛車の特別製に着目した。馬車は土台を作った後幌を掛けるが、この幌が原因で空間術が使えないのだ。

 

 空間術で圧縮するには、大雑把に言うなら立方体を作る様に四方に印を記す必要がある。この印は木材だと尚効率が上がる。空間圧縮とは文字通りの意味だから、それを圧縮させるための印をしっかりとした土台に記し、その印が崩れないようにしなければならない。幌馬車の幌だと布である故に頑丈ではなく簡単に印が崩れてしまうのである。

 

 結果、幌馬車の幌に掛けると術の反動(リバウンド)として爆発が起きやすくなるという欠点がある。爆発が起きるとどうなるか? それは勿論馬車の中身がぐっちゃぐちゃになるのだ。

 

 馬車の中身が唯の荷物ならば中身が散乱してダメになるだけで済む。だが、馬車とは物と人を同時に運ぶのが多々ある。故に、ある行商人がケチった結果、護衛と荷物が潰れたトマトになってしまったという事件が起きた。

 

 それ以降、空間術は印を記しやすく崩れにくい木に印字するようになるというのが基本となった。更にそこから研究開発を進めると、印字するところのみ鉄にし、そこに血文字で印字して空間術を適用するものも開発される。更に進むと、幌馬車の骨組みを竹ではなく鉄棒に変えて印字しやすくする方法が編み出されたりもするが、それは大分先のことになる。

 

 この世界かつゲーム初期あたりだと、牛車の上部の屋形という部分の上を前後に通る棟という木材に印字するのが基本だ。そしてそこから迷い家の核を利用し空間術を適用する。

 

 そうして作り出された牛車は、貴人が乗るための物と同時に大量の物資を運ぶ輸送車という両面を持つようになった。

 

 但し、現状では牛車は最低ランクのものでも結構高く、商家でも大店を持つくらいの商人しか買えないし、何より貴人が乗るための物という常識が強い。輸送するものというと聞こえはいいが、その輸送物資は貴族の身の回りの物が中心であり、馬車のように雑多な物資を運ぶために牛車を利用するという貴族はいない。見栄を重視する貴族が、自身の牛車にただの物資を乗せるなどのケチ臭い行為をしていると思われたくないからだ。

 

 これにより、商家でもこれを使って物資輸送を上げるという方法を思いついたが外見上の目立ちやすさと、下手にランクの高い奴を買って扱うと貴族から睨まれるかもしれない……という恐怖感もあって、牛車を輸送専用として実行に移す者はある家を除いて現れなかった。

 

 実際に牛車とは、貴族の乗る代物である。裕福な商家でもおいそれと買うことは出来ない。過去に、成金となった商家が金にモノを言わせて買ったものの、貴族からの不興を買い商談がまとまらず没落したという出来事があったほどだ。対処法としては、一番ランクの低い牛車ならば問題ないという所だが、それはそれで性能も宜しくないので微妙である。よって、貴族以外が牛車を購入する場合はそれらの点からハードルが高いのだ。

 

 それに、外観からして目立つので、賊や妖魔から狙われやすいという欠点も生み出している。そこもゲーム上で牛車はわかりやすいがその分狙われやすいという欠点を持つことでゲームバランスを維持させており、それは僕が転生したこの世界でも同じだろうと言うことは安易に推測できる。

 

 なので、今に至るまで牛車は貴人が乗るための物で大量の物資移動はオマケ、という常識が強かった。

 

 だが、今回僕と叔父上がここに来たのはその常識を覆すためにある。

 

 叔父上に僕の計画を話したところ、大層驚かれたが同時にいけると踏んだ。財務を担う叔父上からしたら、輸送効率を上げて経済を加速させるというのは理に適う。何より、金の成る木である砂糖を現状は独占しているが、それがいつまで続くかの保証がない。ならば、保証のある今のうちに色々とやっておくべきだという僕の言を受けて、叔父上も熟考した上で計画に賛成してくれた。

 

 

 

 

 色々と説明を受け、性能比較をしながらランクが最も低い小八葉車と大八車の所までやって来た。ここら辺まで来ると、もはや工房エリアになっている。先ほどの豪華な牛車が店頭販売の高級品だとすれば、こちらの小八葉車と大八車は工場で量産されてる量産品といったところだ。

 

 すでに、少数ながらも出来上がった小八葉車と大量の馬車や大八車が置かれてあり、下人や職人などが慌ただしく動き回って作っている。一部の人間はこちらの存在に気づいて慌てて礼をしたりするが、礼は不要と女将さんに言ってそれを全員に伝えさせたところ、こちらの存在を無視して慌ただしく働き始めた。現代風に言うなら、工場にお偉いさんがやって来たようなものである。半分迷惑かけるようなものだから、礼は不要と言ったがそれが正しかったことを理解した。誰だって、仕事場にお偉いさんがやってきていい気分しないもんね、と前世のサラリーマン時代を思い出す。

 

「むさ苦しい場所で失礼しますね、この小八葉車と馬車に大八車が我が店での主力製品です」

 

 小八葉車は貴族も乗るが、それ以外にも女房や地下人といった中級以下の貴族が乗るようなものだ。この小八葉車が貴族牛車の基本の形と言っていいだろう。半蔀車、網代車と比べれば絢爛さは劣るが質実剛健といったところだ。

 

 そして大八車は人力車でおなじみの奴だ。小八葉車が貴族牛車の基本の形とするなら、大八車は牛車そのものの基本、いわば土台と言っていいだろう。本来の大八車は江戸時代あたりまでじゃないと存在しないそうだが、このエロゲー世界はちょっと違っている。大八車の設計をベースに改良し、術を盛り込み、豪華な修飾を施したのがこの時代の牛車である。なので、牛車の上部分をそっくり取り除けば大八車になるくらいの設計の共通性があるのだ。

 

 馬車は言うまでもない代物なので割愛させていただく。

 

「下級貴族と平民向けが主力製品ですか」

「ええ、上級貴族様向けの牛車は値が高いのもそうですが、耐久性も高いので中々新しいのを買ってくれないというのも理由ですね」

 

 自身の恥を晒すようで恐縮ですが、と女将さんは言う。

 

 これは僕の前世でも起きたような、高耐久性による弊害とも言えるだろう。長年の酷使に耐えられる製品はそれだけで素晴らしいが、逆に言うならそれで満足してしまい新しい製品が購入されないことで利益が減るのだ。

 

 この『現世の波羅姫』の牛車も同様、術式で腐食防止、抗堪性の強化、といった術を盛り込んでいるが、それのせいで故障が起きづらい製品となり、一度売れたらメンテがほぼ不要となってしまう欠点がある。

 

 この世界では年毎の車検の義務なんて存在しない。壊れそうになったら、もしくは壊れたらようやく牛車屋に持っていくというだけだ。術式は流石に込められた霊力が減って効果も減衰する、しかしこれらの特別牛車を買うのは霊力を豊富に持つ貴族である。故に、減った霊力は貴族が補填すればいいだけなので、牛車屋に入る利益は益々減る。

 

 なので、量産しやすくそして壊れやすい平民向けの馬車と大八車や、小八葉車は中級以下の貴族様が使うので耐久性が低く買い替えやすいというのもある。この二種の車が、この牛車屋『絹道』の生産ラインの主力を担っており、同時に稼ぎ頭となっている。

 

 そして、小八葉車にこそ用があるのだ。

 

「頼君、あれを」

「はい」

 

 叔父上から言われた僕は、万太の桐箱から封印術が施された巾着袋を出す。そして、袋の口を開けて、中から淡く輝く紅色の鉱物を取り出した。

 

「これで、いくらほどお安くなりますか?」

「ほほう、『迷い家』の核ですか、拝見しますね」

 

 核を受け取った女将さんは、袖下から虫眼鏡を取り出しじっくりと観察する。

 

 我が北土には『迷い家』が沢山生息している。

 

『迷い家』と聞くと、大多数の人は柳田國男の『遠野物語』にある『マヨヒガ』を連想すると思うが、大体その通りである。訪れた者に富を授ける不思議な家であり、なんでも物品を一つ持ち帰っても良いことになっている。そこから物を持ち帰らず無欲な行いのおかげで、川から流れた雑穀が溢れて消えぬお椀を貰った話や、欲深い行いのせいで富を得ることができなかった話の二種類がある。

 

 この、『現世の波羅姫』は和風ファンタジーとも言える世界観なので、そういうお話からも妖魔を作り出しているが、柳田國男の『遠野物語』のように人に富をもたらすだけでなく、人をその家に取り込んで食らう食虫植物のような妖魔を生み出した。

 

 前者は、北土以外の三方で出没するが、はっきり言って富をもたらす存在なので激レア妖魔である。都で編纂されている妖魔大全集でも、三方に出没する『迷い家』は富をもたらす妖魔とはっきりと書かれてあるほどだ。事実、そこから得た物品は尽きぬ米を出す升や、お酒が消えぬ瓢箪などのものがあり、それらは四方守護の一角が持ってたり、都の宝物庫の中に厳重に収められている。

 

 その一方で、綾絶家の支配する北土で出没する『迷い家』は、危険な妖魔一択でこちらは食虫植物となっている。

 

 なぜ、そのように差があるのかというと、それは北土という寒冷地が原因だ。

 

 賢明な読者諸君ならば、八甲田山雪中行軍遭難事件という近代登山史における世界最大の山岳遭難事故を耳にしたものがいるだろう。

 

 あのような寒さ極まる場所で、暖かい場所が何一つなくただひたすら寒さによって仲間が一人また一人と冷たくなっていく絶望…………。そんな中で、もし『迷い家』が現れたのなら? 

 

 と、開発スタッフが設定資料集で、『迷い家』製作に当たっての心意気を答えたのだ。

 

 ここまで書くとわかるように、後は誘蛾灯のようにフラフラと『迷い家』に集まって暖を取るだろう。そして、『迷い家』は集まってきた人間に暖を与え食事も与え、ゆっくりと捕食するのだ。このゲームで『迷い家』が食虫植物扱いされてる原因は、北土に出没する『迷い家』のせいである。

 

 じゃあ、その家に入らなければいいじゃんと思うそこの貴方、甘い。

 

 人間とは寒さを味わったのちに暖を取ると、そのぬくもりが忘れられない心理的傾向にある。何より、寒冷地でひたすら寒い目に遭い遭難死亡しそうな中で、寒さをしのげる小屋を見つけて果たしてどれだけの人間がそれに抗うことが出来ようか? 

 

 答えは否である。

 

 開発スタッフもそこを考慮して作ったというほどで、実際ゲーム中に北土を探索すると、他の三方にはない温度ゲージというものがあり、これが一定数までどんどん下がるとひたすら感知能力が下がっていき、最終的には問答無用で死亡する。

 

 そして、ゲーム中で一定ラインを越えて凍死しそうになった時に、『迷い家』が出没するのだ。なんとも厭らしい設定を施しており、凍死寸前に出没した『迷い家』に入らない選択肢をしたプレイヤーは皆無である。実に確実なゴキブリホ〇ホイだ。

 

 そして、『迷い家』の捕食方法とは実に巧妙なのだ。

 

 小屋に入ると既に囲炉裏に火が入っており、鍋には温かい料理が用意してある。ここに初めて入る人間は、誰かの所有物だと思い、小屋の中で声を掛ける。だがしかし、誰もいないので反応しない。

 

 そこから、寒さと空腹に抗えなくなった獲物たる人間は我慢が出来ず料理を食べる。その後、敷いてあった布団に入って寝る。ここまでは良い。

 

 だが、一晩過ごしていざ小屋を出ようとしたら、凍死しかかっていた時より酷い猛吹雪に覆われる。当然、外に出られないので小屋の中で過ごす羽目になる。食料は十分にあるし、薪も蓄えられているので人間はそこで吹雪が収まるまでひたすら過ごす。

 

 すると、一晩、また一晩と過ごしていくうちに、段々と力が弱っていく。だが、外に出たいが吹雪が酷くて外に出られない。なので、また一晩一晩と過ごしていくが、それでどんどん衰弱していき、暖かい部屋と布団の中で冷たくなっていく…………。

 

 以上が、『迷い家』の捕食方法だ。

 

 賢明な読者ならお気づきであろうが、食事も布団も全て『迷い家』が用意したもの。そして、外に出ると猛吹雪になっているのも『迷い家』が用意した料理に幻覚作用のある毒が入っているからそう感じてしまうだけで実際は猛吹雪なんて発生しない。流石に天候を操るほどの力は持っていないのだ。

 

 料理に入っている毒ということで身構えるだろうが、その毒が幻覚のみという有害度が低いものなので、それを知らない人間は凍死寸前にまで追い込まれた恐怖もありあっさりと信じてしまうのである。更に言うなら、飢えと寒さを同時に体験して死にかかった以上、例え料理に幻覚作用のある毒が入っていると教わっても、それを我慢できる人間は少なく手を出して食べてしまうのである。

 

 それらの人間が体験した恐怖感をも利用した幻覚並びに、『迷い家』が用意する暖かい食事と寝床で、その小屋から出ようという意識すら奪い、じわじわと人間の生気を奪って捕食するのだ。

 

 仮に食事を食べなくても、金銀財宝の入った箱を用意しておりそれにも幻惑の術が掛かってある。その幻惑に罹ると、『迷い家』が用意した美男美女の幻惑に惑わされ、体を重ねて生気を奪われてしまうという方法も取って来るのだ。

 

 実に厭らしい捕食方法だ。何より怖いのが、最低ランクの『迷い家』で大妖級なのである。それほどまでに人間の捕食方法が巧妙なので、朝廷も危険視しており、それは我が綾絶家も例外ではない。食欲、性欲、睡眠欲、この三つを使って人間を惑わす方法は同胞の妖魔からも一目置かれるほどだ。

 

 もっと恐ろしいのは、大妖級はこの安定した捕食方法だが、これが段々と力が強まり凶妖に近づくとどうなるかというと、『迷い家』の家が豪華になっていくのである。

 

 豪華になるとどうなるか? その家に誘い込まれた人間は、その家で過ごすと二度と出たくないと思わせるほどの快適な暮らしぶりを提供し、その対価として命を貰うようになるのだ。

 

 中でも、北土で認知されてる凶妖「藤原御殿」という『迷い家』は、大臣クラスの豪華絢爛な邸宅を用意してある。その絢爛たる虚飾に覆われた御殿は、まさに酒池肉林とも言うべきぜいたくな暮らしが出来ると言われ、死ぬ前にここに入って贅沢な暮らしをして死にたいという人間は後を絶たない。

 

 勿論、朝廷は疎か、僕を含めた綾絶家も「藤原御殿」の存在を認知し警戒し、近づかぬように言いつけてある。だが、貧民も山賊もフラフラと誘蛾灯のように誘い込まれて行くのだ。そして、贅沢な暮らしをして死ぬ。放置すれば妖力も減って弱体化が見込めるのだが、豪華な食事や快適な暮らしをしたいという平民は後を絶たず、食い詰めた山賊すらも取り込んでしまうので、一向に弱体化した気配がない。要警戒対象である。

 

 

 

 一通り、核を鑑定した女将さんは顔を上げる。

 

「実に質のいい核ですね、これならば幾らかは勉強させて頂きます。流石は『迷い家』の本場とも言える北土ですな」

「ええ、我が領地で出る『迷い家』は厄介ですが対処法を知れば対応できます。なので、質のいい核を取ってくることが出来ますよ」

「成程成程、この量ならば大量の牛車を生産可能です」

 

 二桁に及ぶ結構な量の核は、その数だけ牛車を生産可能となる。それだけの量の『迷い家』を僕と妹達は狩ってきた。なぜ、それだけ大量に狩れるのかというとちゃんと方法があるのだ。

 

 ゲームプレイヤー並びに北土に住まう退魔師ならば、寒冷地にポツンと立つ小屋はマタギの立てた猟師小屋か『迷い家』の二種類のどれかと判別できるので対処できる。

 

 ベテランプレイヤーや老獪な退魔師ならば、敢えて家の中に入り料理を食べず一晩過ごすのだ。そして、暖を取った後に核を見つけ出して退治する。料理の中に幻覚作用の毒が仕込まれているが、逆に言えば食べなければいいだけだ。そして、『迷い家』に対して敵意を持たず自然体にして小屋の中に入れば、『迷い家』も攻撃的な行動をしないという欠点がある。中には、敢えて食事も食べて腹も満たした後に核を狙う剛の者な退魔師もいるほどだ。毒の効果が幻覚のみとわかっているからこそ対処できる方法だ。面構えが違う。

 

『迷い家』も妖魔である以上、自衛的手段を取る。それは、ポルターガイスト宜しく包丁や農具などが空中を舞い襲い掛かってきたり、別の部屋に用意しておいた共生関係にある小妖や中妖を襲わせたりなどだ。小屋と言っても数室はあるので、それらの部屋は『迷い家』の意思一つで繋がりを変えることが出来る。部屋を出たら廊下が基本だが、その廊下を吹っ飛ばして別の部屋と繋げたりなどだ。無論、無条件というわけではない上に『迷い家』にもデメリットが存在するため多様できるわけじゃないのが救いだが、侵入する退魔師からしたらあまり慰めにならない。

 

 敵意を持った状態で近づくと、玄関から妖魔が襲って来る。退けて、核を求めて中に突入しても、『迷い家』も核を奪われたくないため部屋の繋がりをシャッフルして迷路状態にして侵入者を疲れさせる。そして、疲れた所に共生妖魔を襲わせて食わせる。『迷い家』は生気を捕食するので、共生妖魔に侵入者の肉を食わせても問題ないのだ。

 

 

 一方で、敵意を持たずに入るならば、上記のような自衛手段は取らない。どうやって敵意を持たないのか? という方法については、『迷い家』を『迷い家』と思わずただの小屋だと意識しながら入るだけだ。ある意味明鏡止水と言ってもいい。

 

 なので、僕と妹達は狩る際は敵意を持たず唯の小屋や民家だと思って中に入り、用意されてる料理や財宝を無視し、核のある場所をさっさと割り当てて取っている。財宝も食事も事前に知っており触らなければRTAばりに討伐出来るのだ。それで、良質な核を大量にゲットできた。

 

 だが、それは小屋や邸宅といった所謂大妖級の『迷い家』なら可能な方法だ。

 藤原御殿などは、凶妖に相応しい大迷路と言った様子で、様々なトラップが所狭しと用意されており、侵入者を核へ到達させぬような工夫を凝らして撃退する。小屋や邸宅などは狭いので核の範囲を絞り込めるが、藤原御殿などの凶妖級だと広すぎて核までたどり着くのが大変なのだ。

 

 更にはありとあらゆる誘惑をもって侵入者を陥落させようとするために、強靭な精神力が無ければ抗うことなど出来ないのが欠点だ。事実、食事は食べなくても金銀財宝は騙されやすい人が多い。藤原御殿のようなダンジョンにもなる豪邸だと、用意されてる金銀財宝に武器防具や霊具といった様々な物品で誘惑する。恐ろしいのは、全てに幻惑術が掛かっているわけではない、ダンジョンのお宝宜しく、手に入れても何も影響もない本当のお宝が用意されてるので、騙される退魔師は意外といるのだ。

 

 更に言うならば、元はと言えばエロゲーである。故に、敵意を持たずに核を求めても、閉じ込められた部屋が

 

「セックスしないと出られない部屋」「受精しないと出られない部屋」「完堕ちしないと出られない部屋」

 

 等と言った、頭の悪いエロゲートラップ満載の部屋が用意されており、プレイヤー達の精神力をガリガリと削っていく。当然、女主人公である波羅に対してイケメン使用人や執事、果てはうっかり迷い込んだ貧民の子などが用意され、それらとエッチしないと部屋から出られないような設定でガッツリエロへと持っていかれるのである。

 

 勿論、エロに持っていきたいプレイヤー達によってわざとエロへと突入する他、「藤原御殿」を倒すのではなく調伏して再利用するためにエロへと持っていき「藤原御殿」と繋がりを作るという方法の為にエロルートに持っていくプレイヤー達もいる。

 

「藤原御殿」は恐ろしい凶妖ではあるが、調伏して利用できるようにするとそっくりそのままセーフハウスとして利用が可能になる利点がある。しかも、自拠点に必要なものが一式揃ってる他、場合によってはここでしか作れないものなどもあるらしい。セーフハウスとして利用するには、主人公の体を捧げて「藤原御殿」とまぐわうようにする必要があるが、それを差し引いてもおつりが出る拠点が出来るのだ。都へ反逆ルートを通る時、ここを自拠点として立てこもることも可能である。

 

 尚、『迷い家』並びに「藤原御殿」の攻略方法はもう一つある。先ほど挙げた核を求めて突撃するのが、王道攻略方法だとするならば、RTAで専ら使われる外道と言われる方法がある。それは

 

「範囲外からのMAP兵器」

 

 である。

 

 中々に人類側もえげつない攻略方法を思いついたりしているのだ。そりゃあ、相手の土俵に立つ必要はないとはいえ、範囲外から神を宿したオプティックビームを放って周辺を焼け野原にするのはどうかと思うんですよ。と、妖魔滅却八勇士の一人が編み出した戦法を思い出しながら思った。

 

 

 

 話が逸れた。

 

 

 

 今回牛車屋にやって来たのは、大量の牛車を買うためであり、僕の領地発展計画の取っ掛かりでもある。

 

 渡した核の数と質を計算し、算盤を弾いて女将さんが一台当たりの値段を表示してくれた。叔父上と共に見て頷く、この値段なら行けるだろうと。

 

 僕は指を差して

 

「すいません、あそこからあそこまでの牛車を全部ください」

 

 と、大量に並ぶ牛車を示していった。女将さんが引き攣った笑顔をした。

 

 あの時の青年実業家と同じセリフを二度目の人生で吐くことになろうとは、人生分からないものだなと僕は内心独り言ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前の若き当主代行は、置いてある牛車を全て買うと言った。

 

 その台詞に、数多の貴族や公家を相手に営業をしていた百戦錬磨の女将も思わず営業スマイルが引き攣ってしまったほどだ。

 

 それも一瞬で終わらせるのは長年の経験の賜物か、再起動して話しかける。

 

「その、お買い上げ頂けるのはありがたいですが、迷い家の核で割引するとはいえ、相当なお値段になるのですが…………」

 

 そう言いながらも、算盤を弾いて金額を指し示す。そこに表示された金額は、上級貴族の十年かそれ以上に及ぶ大金だ。四方守護の一角とはいえ、北方守護は三方に比べると貧しい土地だ。最近は輸出業で経済が加速しているのは耳に挟んでいるが、それでもその金額を賄うのは難しいのではと思ったほどだ。

 

 その算盤に弾き出された金額を見た両名はお互いに顔を見合わせて頷き、貴公子と呼ばれる美形の少年は桐箱から紙切れを差し出す。

 

 それを受け取った女将は目を見開いた。紙切れは為替手形であり、そこに書いてある金額は両替商が発行する額でも最高額の物だ。これほどの額の為替手形を扱うのは大商人や大貴族といった大金持ちだ、もちろん経済発展している三方守護も扱っている。だが、基本的に貧しい北方守護がこれを扱ったということは今まで聞いたことがない。

 

「足りないようなら、追加であと四枚ほど出しますが」

 

 そう言って、追加の為替手形を出す。その事実に女将は驚きを隠せなかった。

 ここまで出すのなら嫌でも理解できる、それほどまでの大金を北方守護は砂糖と清酒輸出で稼いだのだと。見栄えを大事にする貴族や大商人が一枚だけ最高額の為替手形を買うような格好つけとは違う、五枚も持っているのならば、本当にそれだけの額を持っているということでもある。

 

 内心侮っていたことを反省しつつも、表情は営業スマイルを維持しながら頭を下げる。

 

「大変失礼いたしました、一枚だけでも十分御釣りが来ます。つきましては、御引きの牛馬は如何でしょうか? 唯の牛馬はもちろん、不死の霊馬霊牛も用意しておりますよ」

 

 霊馬霊牛とは読んで字のごとくの存在だ。

 将を射んとする者はまず馬を射よ、という諺がある様に、賊や妖魔から襲われる際、狙われやすいのが牛馬である。

 

 その牛馬を死なぬ霊の存在に作り替えたのが霊馬霊牛だ。特殊な条件を満たさなければ成仏しない、更には既に死んでいるのを使役しているため餌代もかからず世話も不要というまさに便利な存在であった。上級貴族や四方守護は当主の乗る牛車は霊牛で率いるほどである。

 

 女将の売り込みを、貴公子は苦笑しながら手を前に出して拒否した。

 

「牛馬は普通の奴で結構です、世話をしなくていいのは魅力ですが、牛車を買うだけで金が吹き飛びますからね。不死の霊馬霊牛はありがたいけど今回は縁がなかったということにしますよ」

 

 我が家の牛車を率いる奴だけで十分ですと彼は答えて、女将はそれで引き下がった。

 

 不死の霊馬霊牛は便利だが、一頭だけで牛車かそれ以上の金がかかる高級品だ。不死という特性に、様々な術式を掛けて使役するようにしているが、はっきり言って霊術によって魂を無理やり縛っているようなものだ。輪廻転生の理から意図的に外そうとした結果、その術式展開や術の適用にかなりの苦労を要するようになった。

 

 つまるところ、高名な退魔師が連携してやらねばならぬほどのある種の一大事業とも言える。一頭を作るだけでも結構な労力がかかるし、そして退魔師のための報酬もこれまた金がかかる。故に、不死の霊馬霊牛は持つことで貴族としての優位性並びに見栄えとして最高品質の物になるが、それ相応の財を持たねば持つことすらできぬ高級品となった。

 

 四方護家と公家や上級貴族は財を持つため一頭は最低でも持っている。牛車は複数持っていても、不死の霊馬霊牛は数頭のみというのが常識的な所有数だ。それほどまでに高い買い物なのである。その貴族達の中でも、西方守護の世玖芭家は扶桑国一の大商人も兼ねているので十頭以上所持しているほどだ。それだけで世玖芭家の財力の高さが窺い知れる。

 

西方守護は四方護家の中でも牛馬の名産地であり、名馬などの半分以上はここから生まれてきている。それに付随した輸送能力の高さによって財を築き上げ、大商人として名を馳せたのだ。

 

 

「では、他に必要なものはございますか?」

「牛車にも馬車にも必要な数の馬をお願いします」

「馬はわかりますが、牛はいらぬと?」

「ええ、僕は牛車も馬にひかせて輸送用にするので」

「それは…………」

 

 女将は言いかけて、そして一瞬で理解を示した。目の前の美少年がやることは、牛車に物資を載せるために大量購入したのだと。

 

 今までそれを試そうとしたものはいたものの、牛車は貴族が乗る者であり輸送用の為に使うものではないという常識と、そのような型破りな事をすれば他の貴族から睨まれる恐れがあることで、思いつく商家はいたが誰も挑戦しなかった。その、誰も挑戦しなかったことを、この少年はやろうとしてることを。

 

 強いて言うなれば、貴族達の中で世玖芭家のみが牛車輸送をしているが、それは世玖芭家が金持ち且つ牛馬の名産地だから出来ることだ。金にものを言わせて牛車を大量購入して輸送し成功しているが、その元が取れるまでにかなりの期間があり、博打であったと世玖芭家当主の愚痴を聞かされたことがある。

 

 一方、目の前の綾絶家がたくさん買えるのは、牛車を『迷い家化』にするための核を持ってきたから割引が適用されるからと言える。だが、それでも博打に変わりがない。何故なら、それに見合った利益を出さないならば破産直行だからだ。

 

 だがしかし、それをやろうとする理由があるのは口に出さずとも理解した。ごくりと唾をのみながら、その口に出さない理由を尋ねる。はっきりと形にするために。

 

「その…………僭越ですが、何を運ぶので?」

「我が家の特産品ですよ、あと領地開発の物資輸送の為にも使います。我が領地では、楽市楽座を実施しておりそのためにも輸送効率を上げて経済を加速させるのです。だから、その効率を上げるためにも空間術がかかっている牛車が大量に必要だったんです」

 

 当たりだ。

 

 誰もが挑戦しなかったことに挑戦する。北土は辺境且つ寒冷地で特産品も微々たるものしかない有様だったが、この少年の活躍のおかげで行商人や商家が沢山向かって経済に熱が入っているというのを小耳にはさんだことがある。楽市楽座は聞いただけで絵物語だと思っていたが、彼の様子を見る限り画餅ではないようだ。

 

 そして、今都でも熱い特産品である北土の砂糖と清酒。これを彼は大量に持ってきて売りつけようとする。其れは即ち、大金が動くと言うことに他ならない。女将も商人の端くれ、故に大金の動きが始まるということを理解した。目の前の少年のやることに、牛車を売る自分が一枚噛むことになる。ならば、もっと彼と懇意にしてもらい、わが牛車屋を発展させる賭け処だと閃いた。

 

 笑顔を揉み手を繰り出しながら、女将は彼に接近する。

 

「わかりました、我が牛車屋『絹道』は綾絶頼様の事業を手助けしとうございます」

「ほほう、流石は商人だ。私の甥っ子のやることを理解したようだね」

「ええ、ええ、もちろんですとも。その事業に我が牛車が手助けになるというのならば、今から頼様の望む牛車の量産体制に入ります」

 

 幸いにもこれだけの核を頂きましたので、と巾着袋に入った核を見せながら言う。頼も女将の強かさを気に入ると同時に頼りになると理解したので、軽く頭を下げる。

 

「僕の輸送計画のためにも、『絹道』さんの牛車と馬車が大量に必要になると思います。『迷い家』の核も優先的に納入させて頂きますので、量産をお願いします」

「はい、どうか我が商店にお任せあれ」

 

 女将も頭を下げた。そして、今後の為にも予定などを一応聞いておく

 

「頼様、この後は如何なさる予定ですか?」

「僕は清酒を売るためにも、競売会場にこれから向かいます。あそこは様々な珍品も出されるので、それらも見て競り落とすこともしようかと」

「そうですか、ならばあそこを取り仕切る世玖芭様に私が連絡を入れておきましょうか?」

「是非ともお願いします」

 

 競売会場は、大商人であり西方守護の世玖芭家の管轄だ。あそこに北土の特産品を持っていくと言うのならば、大金が動く可能性がある。そして、牛車屋『絹道』は他の守護家ともつながりがあり、中でも世玖芭家との繋がりは強い。ここで、自分から連絡をして彼に多少なりとも恩を売ると同時に小さいことからコツコツと繋がりを強化していくべきだと女将は判断した。

 

 

 

 牛車や馬車を綾絶家の滞在してる蓬莱亭に送る指示を出し、綾絶家一行が牛車屋『絹道』から退出したのを消えるまで見送った。そして、女将はすぐに表情を商人の顔へと切り替える。すぐさま式神で連絡をしなければならない。丁稚少女を捕まえ指示を出す。

 

「お前、我が家の退魔師の元に向かって私からだと言って世玖芭 凛(よくば りん)様に連絡しろ。北土の貴公子がそちらの競売会場に向かう。そして、彼は牛車を使って大金を動かすかもしれないとな」

「わかりました、女将様」

 

 丁稚少女をお抱えの退魔師の元へと走らせた後、女将は表情を緩ませながら歩く。我が牛車屋『絹道』の躍進の可能性があると、そしてあの少年とお近づきになることで更なる利益が望めると。

 

 捕らぬ狸の皮算用など商人にあるまじき発想だが、その皮算用は空想ではなく実現するものだと長年の経験から確信を得ていた女将は、久方ぶりの大金の動きに胸が躍っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「なんや? 北土の貴公子がやってくるって? ほうほう、砂糖と清酒の売り込みに来たか。ならウチが直接出会って交渉せんとなぁ?」

 

 競売会場の主である美女が、赤い舌をペロリと舐めながら式神からの連絡を受け取った。自身の頭ほどもある巨尻爆乳を揺らしながら、北土の貴公子を出迎えるために入り口へと向かう。商人として見定める目と、男に飢えた女の目をした美女は悠然と歩きながら貴公子の姿を想像する。どれほどの美形か、どれほどの価値のある男か、それを見定めるのが商人としての彼女の楽しみであった。今までの男は、大したことのない男ばかりであった。自身の亡くなった夫は及第点だが、他の男は自分の体を、地位を見ると尻込みしてしまうのでつまらない。なので、上流階級でも熱い話題となっている北土の貴公子がどのような少年かを見定めるのは自身の仕事だと思っていた。こればかりは娘に任せられない。

 

「噂じゃあ、かなりの美形やっちゅうし、大金も稼ぐ力もあるならウチの娘と結婚させるのもええなぁ」

 

 親としての顔を見せながらも、彼女はどのような少年なのかを見るために、番頭に任せず自身の目で見ることにした。もし、北土の貴公子がいい男ならば娘に抱かせる前に自分が味見してもいいなと妄想しながらコツコツと歩いて行った。




ゲームも何もやる気が起きず休日ひたすら寝てばかりですが、小説更新は頑張ろうと思っています。

亀のような速度で恐縮ですが、これからも応援よろしくお願いします。
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