和風凌辱エロゲーの主人公兼ヒロインの兄に転生したんですが何か違う 作:ビシオ
部屋に入ると充満するのは吐く程の腐臭と血溜まりであった。
「ゔっ……?!」
「こ、これは……」
「ひ、酷い……」
「は、鼻が曲がりそうでござるぅ……」
僕らは手拭いをマスク代わりにしてるが、それでも焼け石に水程度でしか防げない。妹達も口々に漏らすほどだ。
そして、視線の先にいるのは複数の半妖
僕が最初に見た時は、まだ人の形をしていた。狐耳の子や、背中に羽の生えた子、下半身が蛇になってる子などがいた。まだ面影もあったし、何なら会話も出来ていた。その血に汚れた手は握ることが出来た。
だが、それらももう出来ない。
頭皮から髪の毛は抜け、目玉もない、鼻もない、両手両足は腐り落ち、狐耳や背中の翼なども萎びて動かない。
地獄にいる餓鬼ですら醜い体とはいえ五体満足でいるというのに、今目の前にいるこの
「え゙ゔっ……! ぐぅっ……」
余りにも現実離れした悍ましい光景を目にし、そしてそれらがまだ生きてることと、前出会った時とは違う変わり果てた姿を思い出し、そのギャップによって脳が理解を拒み胃から液体が逆流しそうになるも、気合と根性で耐え抜く。
「たr:w……」
「hるde……」
「dにqe……」
「b\dて……」
もはや声帯すらやられているのか、声モドキの音しか発しない肉芋虫。包帯でぐるぐる巻きにされても血が流れ落ちて畳一面が血の海になっている。その中の一体は、右手があった。僕は慌てて治療術を掛けようと近寄って、抱きかかえる。すると────
ぶちぶちっ、ぼとり
────抱きかかえた瞬間、右手がちぎれ落ちた。
「あぁ──っ?!! うそぉ──!! ああああ──!!!」
溢れ出す鮮血、ちぎれ落ちた激痛に反応するようにビクビクと悶える肉芋虫となった半妖の子。突然の衝撃的な光景にショックを受け、僕は意味をなさない言葉を出しながらも、ちぎれ落ちた腕を繋げようと僕は努力し治療術を掛ける。
「ごべん! ごべんねぇぇぇ!! い、今繋げるからっ!! 繋がれっ! 繋がれっ!!」
余りの出来事に言葉が涙声になってしまう。そして、混乱した頭で繋げると言っているが腐り落ちて無理であった。なので、最低限の止血をしようと僕が使える最大級の治療術を使って止血を試みる。
衝撃を受けた脳は目から涙を出すのを止めなかった。腕に抱えた痛々しい姿もさることながら、僕がこの子抱きかかえてしまったせいで腕がちぎれてしまったという罪悪感で、必死に術を掛け続ける。
だが、その行動は無意味であった。
何故ならば、黒い斑点のようなものが現れて、術を
周りをよく見ると、他の半妖の子達も黒い斑点に全身を覆われている。その斑点は肉の表面だけかと思いきや血のにじむ包帯にも現れていた。
「兄様っ!! それは呪いです!!」
波羅が僕を抱きかかえてた子から引っぺがし、双子が近寄り浄化の術を僕と半妖の子に掛ける。僕の身体には何の影響もなかったようで、呪いの斑点も現れなかったし半妖の子からも伝染しなかった。だがしかし、半妖の子達は違う。彼女達にかかった呪いは、双子の浄化術を弾いた。
双子は術に特化した後方支援キャラで、兄としてではなく客観的に見ても上位の術師に入る。そして、双子としての
だというのに、それから放たれた術を弾くほどの恐ろしく強力な呪い。いったいどれほどの怨念で呪っているのかと戦慄を覚えるほどだ。恐るべきは天正帝の呪い。伊予さんの話では、千年近く経って解呪方法は少しずつ進んでいるというが、この半妖の子達の有様を見て解呪が本当に進んでいるのか? と疑問に思うほどである。
伊予さんが僕の傍に近づき
「頼君、居間に戻りましょう。これ以上は貴方の心がやられてしまうわ」
そう言ってきた。
今でもこの惨状に心が痛い。その意味では、伊予さんの申し出はありがたかった。伊予さんの後を追うように、僕らは部屋を出る。
居間へ戻る前に風呂場へ行き、血と膿で汚れた衣服を脱いで洗う。衣服についた膿は腐臭を発して鼻に刺激臭が入り涙を誘う、血液に関してはほぼ真っ黒な血で衣服にも呪いの斑点が付いているほどだ。それらを僕は、洗濯板を借りて手洗いで黙々と洗い、呪いの斑点を解呪していく。
「ふっ、ぐぅぅ、うっうっうっ…………」
目から涙が溢れ出るが、これは腐臭による刺激で涙が出たのではない。あの子達を見て、前回見た時とは違う変わり果てた姿が可哀想で涙が出たのだ。
あの時は血が流れ、皮膚は割れ、やせ細っていたものの、まだ人の形をしていた。だが、先ほど見た姿はなんだ?
景色を見るための目玉が腐り落ちてなく、眼窩が覗いている。
髪は女の命というが、頭皮から髪の毛は抜け落ち最初に見た時の綺麗な髪の毛は既に失われた。
周囲の空気や匂いを嗅ぐための鼻もなく、髑髏のような顔になってしまっている。
口の中も呻き声を発した時に見えたが、舌すらもなかった。
歩くための両足は腐り落ちてもう二度と歩けない。
物を掴むための両腕も同じく腐り落ちて、最初に見た時に出来た握手すらも二度と叶わない。
それぞれの種族の子であろう特徴的な狐耳や背中の翼、頭から生えた角、それらも無くなってしまった。
祝福の子達の皆が皆、等しく同様に肉芋虫へと変わり果ててしまった。
その姿と、受けている痛みや苦しみ、そして悲しみは如何許りであろうか。
それを思うと、胸が張り裂けそうになって涙が一向に止まらなかった。
「…………よし、綺麗になった」
手を止めずに動かし続けたおかげで、服に付いた汚れと呪いは落とせた。黙々と作業したおかげで心も平穏をどうにか取り戻して涙を止めることが出来た。呪いに関してはどうも人間には効かないらしく、双子より劣る僕の解呪式で解呪できたのが幸いである。
僕は万太の桐箱から取り出した替えの服を着て居間へと入る、部屋の中には伊予さんと翠さんが並んで座り、それに相対するように妹達が座っていた。綺麗になった服は上等な布であるため伊予さんへと渡した。金子になればいいという意味を込めてだが、伊予さんにはちゃんと伝わったらしく無言で頭を下げる。僕は妹達の先頭に座る。
まず伊予さんが口を開く。
「頼君、娘達の危篤にわざわざ足を運んでくれたこと、誠にお礼申し上げます」
平伏。隣の翠さんも同じ行動をする。
僕はそれに返答する。
「頭を上げてください、僕は貴方達の約束を履行するためにやって来ただけです」
「わかりました、では失礼します」
僕の言葉に礼を言いながら頭を上げる二人。お互い挨拶は終わった、ここからは聞きたいことを聞かねばならない。
「伊予さんにお尋ねします、あの子達がああなってしまったのは呪いのせいですか?」
「ええそうです、そして呪いの最終段階に入ったとも言えます」
それから説明を受けた。その説明は、祝福の子についての説明と、呪いについてだ。僕は最初に来た時にそこそこの説明をしてもらったが、後ろの妹達は伊予さんとは初見なので、妹達への説明も兼ねて、歴史なども深堀して更に詳しく教えてもらった。
扶桑国にはそれぞれ霊脈があり、そこを守りながら生活するのは人も妖魔も同じである。霊脈から溢れ出る力は大地を豊かにし、作物の実りをよくしその地に住まう者達に恩恵を与える。扶桑国のみならず、大陸や南蛮人とも呼ばれる者達が住む外来人……極西からやってくる者達の故郷も同じだ。
それは両者にとっては共通であり、どちらも人口が増えれば生活地域の範囲も広がり、互いに霊脈を奪い奪われるという関係になって争っている。これは大昔から変わらず、争い続けながら互いに一所懸命に霊脈を守っていた。
霊脈の奪い合いは人と妖魔という構図を思い浮かべるが、それは二千年前から始まった。それまでは、人と妖魔の時もあれば、人と人、妖魔と妖魔、それぞれが互いに争い奪い奪われの関係でバラバラになっており、それは大陸や遥か彼方の極西でもそうらしい。
それらが乱雑な争いだったのが、二千百年前に人と人同士の争いに終止符を打ち、バラバラだった部族豪族諸侯を纏め上げて朝廷を建立したのが扶桑国初代皇主である。そこから扶桑国という一つの意識が朝廷によってもたらされ、霊脈や土地も貴族や大名など諸侯に功績に基づき均等に割り振られて、扶桑国には平和がもたらされた。
尚、この時にはまだ四方守護というのは生まれていない。四方守護という概念が生まれ、綾絶家、世玖芭家、鎗麻家、江瑠柁家という四大貴族が生まれたのは千年前の天正帝の治世から生まれた。
時を同じくして、大陸や遥か彼方の極西でも王朝などが生まれて扶桑国のように人類はそれぞれ纏まって動くようになった。
だがしかし、その平和は凡そ百年までしか続かなかった。
人と妖魔という共通項になったのは今から二千年前、初代皇主が延命を続け百年勤めあげた後に薨去し、二代目皇主の治世が始まって暫くした時、妖魔を束ねる魔王が生まれた。時を同じくして、大陸や遥か彼方の極西でも悪魔──大陸や極西での妖魔の呼び方──を束ねる魔王が生まれた。
二千年前に世界のそれぞれの王朝に対して、対抗するかのように悪魔や妖魔を束ねる魔王が誕生したのだ。
魔王は、魔の者達の中でも強く狡猾な者が成り、人類に対して攻勢を仕掛ける。大陸や極西では単に魔王と呼ばれているが、扶桑国では妖魔と呼んでいるためこちらは妖魔王という呼び名が一般的となった。
人類が凡そ五十から百年ほどという時間で代替わりするのに対し、魔王は百年から三百年の間で代替わりする。奇しくも凶妖と呼ばれる妖魔達のそれぞれの長
それからは、人類と魔の者達という争いが始まり、時が二千年経っても変わらず争い続けている。
ここまでの説明は、扶桑国というよりもこの星の成り立ちのようなものだ。それぞれ陰と陽のような存在が、人類と魔の者である。
僕は前世で友人から見せてもらった設定資料集を継ぎ接ぎながらも思い出して、そんなことが書かれてあったっけな、と思い出した。だが、妹達からしたら新しい知見だったようで感心の声が出る。
その中で話を聞いていて、顎に手を当てて思案していた波羅が顔を上げて伊予さんに質問した。
「伊予に尋ねる、あの呪いは『祝福の子』がなる。力を手に入れる反面、呪いで苦痛を味わい短命と化す。ここまでは合ってるか?」
「はい、その通りです」
波羅の質問に伊予さんは肯定の意を返す。続けて質問する。
「貴様ら妖魔は天正帝の呪いを解呪するために奮闘し、全盛期の四分の一は減らすことが出来た。妖魔は全て受けるのに対して半妖は半分しか受けない、ここまではいいか?」
「はい」
「では最後の質問だ。半妖と妖魔、どちらが
「それは…………」
伊予さんが言いよどむ。どういうことなのかと、波羅に聞くと。
「兄様、半妖ならば半分は人間故に呪いの影響は減ります。更に言えば伊予の言うことが真ならば、呪いを全盛期に比べて四分の一は減らしている。半分に減り、そこから更に四分の一。それならば、半妖であれほどの容態になるのはおかしいです」
「い、言われてみれば…………」
伊予さんがここは半妖を引き取る孤児院といって説明していた、だからここに居る子達は全て半妖だと僕は
半妖ならば、確かに波羅の言う通りだ。半分から更に四分の一、それであそこ迄の容態になってるのはおかしい。もっと軽い容態にならないと計算が合わない。
もしかすると、祝福の子とは──
「伊予さん、祝福の子とは半妖がなるものではない。妖魔のそれぞれの一族の中でも、とりわけ力を持つ長に近しい者がなるのでは?」
「………………はい、その通りです」
──たどり着いた僕の答えに対し、伊予さんは悲しい表情をしながら渋々と答えた。だが、顔を上げて、やや焦ったように言葉を繋げる。
「ですが、言い訳をするならば広義の意味では今いる妖魔の大半、否、ほぼ全ては半妖とも言えるんです」
「どういうことですか?」
僕の疑問に伊予さんはこう答えた。
「何故ならば、男の妖魔達は既に一人も存在しないのです。天正帝の呪いが男が、子供を作れることが出来ぬようにする種絶の呪いであること。ならば、子孫を作るための胤はどこから持ってくるか? その答えは、人間の男から持ってくるようになりました」
そして、伊予さんの説明が始まった。
今の妖魔の里長達や重鎮に値するもの…………凶妖級や大妖級の者達は天正帝の呪いを受ける前から存在している長寿の者達だ。その者達はある程度子を設けたが、呪いが発動すると本人たちとその子達の中で男だった場合は種無しとなった。
天正帝の呪いは種絶の呪い、種を撒けねば実がならぬ。というわけで、妖魔の男の胤を断絶することを第一目標とした。その結果、妖魔達の中で男が生まれても何の役にも立たないこととなる。
無論、零というわけではない。戦力や力仕事では使えるし、最初はそうであった。男の妖魔達も、前線に出て戦いを繰り広げ、その力を誇示していく。戦いで昂った身体を鎮める方法は女を抱くことが普通だった。その女とは、一族の妖魔から選んだり、他族の妖魔を娶ったり、果ては捕虜となった退魔師や平民を無理やり犯す、という方法で性欲を発散し、そして子を設けていた。
だが、呪いの効果は強力且つ三大欲求を失わせるものである。特に性欲を失うと、やる気も気力も徐々に無くしそうなるとせっかくの力も徐々に萎んでいく。更には、一族を存続させるには子を作らねばならぬが肝心の男の妖魔が種無しである。
男の妖魔達は、戦闘での昂りを発散できないどころか、子孫を作ることが出来なくなってしまった。目の前の美女を相手に肝心な陰茎が立たぬし、子種を搾ろうにも金玉からは一切出ないのだ。
その高まった昂りを発散するために、暴飲暴食をしたりいらぬいざこざを起こしたり、嫁や子供達に当たったりといった問題行動を起こした。
結果、妖魔達全体での問題となるのは当然であった。問題を起こした男は罰せられたし、酷ければ処刑もした。そして男は自然と隔離されるようになったほか、昂りを高めないためにも戦闘に連れていかないなどの措置をした。男の妖魔達は、自尊心が酷く傷ついた。
人類も妖魔も、天正帝が呪いを発動するまでは男尊女卑であった。男が前に出て女が支える、そして女は胤を受け止めて子を成す。今までこの通りにしてたのが、呪いによって逆となってしまった。
ここで気になるのが女だった場合だ。女の場合は呪いの影響はないと思いきやしっかりとあった、その影響とは性欲の増進及びそれに付随する体型の変化である。体形の変化は男女ともに顕著となっていった。
男が種無しに対して、女は性欲増進。それがどういうことかというと、今まで男の劣情を受け止めていた女の妖魔はそれが出来なくなった。それどころか、悶々としっぱなしになった。だが、子孫を作るためにはどうするかというと、人間の男を攫って行くことになる。
そして、人間の男は射精するものの男の妖魔に比べて量が少ない。その少ない量で孕むために、そして大量の子を産めるようにするために、乳は巨大になって母乳が妊娠しなくても出るようになり、尻は巨尻で一度の妊娠で双子や三つ子は当たり前に産めるようになり、そしてそれらの巨大化した部分を支えるかのように体型も巨大になっていった。その過程でさらに性欲が増進して、攫われた人間の男達は悲鳴を上げた。
(伊予さんや翠さん、そして銀さんも二メートル超えてるしおっぱいは頭みたいに大きく尻もデカいのは呪いが波及して、それで女性の体型が進化、いや、適応するようになったわけか)
と、僕は内心で理解した。
「男を攫って種馬にしてましたが、その目論見は初手から崩れました」
「何故ですか?」
「それは、人間の男が私達妖魔と違って脆いのです」
伊予さんは説明を続けた。
妖魔と人は、生まれた時から肉体の強度が段違いなのである。妖魔は強いが人間は弱く脆い。そして、一人の人間の男に対して連続で女の妖魔が搾り取るのだから、簡単に腹上死してしまう。女の妖魔達はそれを悔いた。
天正帝が教育典範で、貧民に至るまで妖魔の恐ろしさを教えたように。妖魔達も凶妖会議で教育典範を纏め上げ、人間の男は種馬として扱うと同時に貴重な存在故に丁寧に扱うよう教育した。人間の男には優しく丁寧に可愛がるよう徹底的に教育し、女は捕まえたら拷問したりするが、男は決して拷問しなかった。
人間の男を種馬として扱う以上、精力が重要である。最初期辺りは拷問したり、器具に入れたりして無理やり胤を搾っていた。だがしかし、天正帝の教えによって自死を簡単に選ぶようになり、胤は絞れないことが多くなった。そして、呪いは人間の男にも作用するようで、その作用とは感情による精力の変化である。
「天正帝の呪いは人間の男の胤にまで影響したことです。男の感情によって、妊娠するか否かが決まりました」
「ならばどうやって、今に至るまで妖魔の子が産まれるようになったんです?」
「その答えは愛にありました」
人間の男が恐怖、苦痛、絶望を感じてる状態で胤を子袋に受け止めても絶対に妊娠しなかった。今までならば、無理やり絞って胎に受け止めれば相手が嫌だと言っても妊娠したりした。しかし、呪いの発動後だとそれが叶わなくなったのである。
何故出来ないのか? それを解明するために妖魔達はそれぞれ集って研究を続けた。すると、答えは意外なことにすぐ見つかった。
ある妖魔が、平民の夫婦の情事を覗いた。互いに愛し合う行為、それ故に子が出来る。そこは普通であったが、一つ違っていた。それは、その平民の夫婦で妻の方がやたら体型が大きかったことだ。まるで、自分達のように。
そう、天正帝の呪いが発動した波及で女の妖魔の体型は変化した。だが、それは人間の女も同じであった。女の妖魔も、人間の女も、互いに効率よく子を産むために同じような体型に進化したのである。それに伴い、人間の女も性欲が高くなった。
そして、男の方はどうかというと。妖魔のように種無しになったわけでもなく、性欲が無くなったわけでもない。しかし、体型と精力がやや萎んでしまったのだ。
今まで力仕事は男がして女は家を守る、妖魔も同様の事をしていたのでそこはいい。だが、女の体型が
すると、生活様式も変わっていった。
力仕事は大半どころかほとんどを女がするようになった、ならば家庭内は男が守るようになる。戦も同様で女の方が強いので前に出て戦い、男は後方支援に徹する。
そして、男の重要な仕事が種まきである。
しかし、女の性欲が非常に強い為、昔のように男が攻めるということがほとんど無くなった。それどころか、女の性欲が強まるのに反比例するかのように男は精力が萎縮してしまったのだ。これは、男が自分の身を守る防衛本能が働いたからだと言われている。
女は孕むために男を搾るが、胤が出なくなったのならば、そして勃起しないとなったならばそれ以上抱こうとしない。それを本能で理解したためか、男は胤の量が減り、勃起もしにくくなるという風に変化していった。
男の防衛本能が働いたためではあるが、ある種の悲劇でもあった。
だがしかし、孕まねば子孫が残せない。けれども、激しくすると中折れしたり最悪胤が出なかったりする。この話は朝廷にも上がり議題に乗った。そして、朝廷は新たな教育方針を纏めて広めた。
それは、女が男を囲って守ること、である。
男が出来る重要な仕事は種付けである以上それに専念するように、女が大体の仕事をするようにした。上げ膳下げ膳は当然ながら、料理洗濯も全てやり、男の負担を減らすように努力することと決まった。それは、奇しくも妖魔側が作った教育典範と大体似通っていた。
その上で、女は男を愛し、男は女の愛に応える。そして、男の愛は一人だけではなく色んな人に分け与えなさい。と、教育典範に新たに書き加えられたのだ。そして、それは見事に合致し、人類は妖魔との争いで減った数が増えていった。
妖魔側は、朝廷のその書き加えた文面に目を付けた。
愛し合うこと、これが重要であると。
「答えは出ましたが、直ぐに実行というわけには行きませんでした。何故ならば、私達妖魔は人間を見下していたからです」
今まで妖魔側は、人間の事を猿と呼んで見下していた。それは当然とも言える、自分達より劣り数だけは一丁前にある存在。妖魔側から見た人類はそのように映っていたのだ。
なので、試しに大妖の中から志願者を募り、人間の男を愛することが出来るものが選ばれた。言うまでもなく、当時の価値観ではかなりの変人である。当然だ、猿に情が湧くようなものだからだ。
その大妖も、志願をしたもののそれは一族復興のためという意味が強く、猿に頭を下げるのはやや抵抗した。人間の方も、拘束しているものの解放すれば即座に自殺するのは目に見えている。
なので、取った方法は催眠であった。
それを、人間の男だけに掛けるのではなく、妖魔の女にも掛けた。お互いが嫌っているのなら、それを零に戻すためにした。
凶妖達は、土地と家屋を作って実験場として観察した。
催眠で、互いに人間だと思い込み、平民の夫婦のように支えあって、愛し合って行った。その様子は、妖魔達が遠巻きからよく観察する人間の営みと同じであった。
女の妖魔は体格がいいため力仕事や野良仕事を頑張り、人間の男はそれを助けるために料理洗濯裁縫を頑張って互いに支えあう。そして、十分に惹かれあう二人は結ばれ、ついに子が出来たのだ。
呪い以降で、一向に出来なかった妖魔と人間の間に子が漸く出来た。この観察結果に、当時の長である凶妖達は諸手を上げて喜んだほどだ。
更に観察と研究を続けると、男の胤が天正帝の呪いを貫通したのである。負の感情を持っていた場合は女の妖魔に掛けられた呪いを貫通出来なかったが、逆の正の感情を持っていた場合、子宮にある呪いを貫通し卵に受精したのだ。
妖魔達は、この愛こそが重要だというのを認識した。
「その結果、私達妖魔は人語の分かる中妖に至るまで徹底的に教育し、分からない者は容赦なく間引きました。間引いたものの中には、凶妖すら居たほどです」
「そ、そこまでしたんですか?」
「はい、意思統一して一枚岩にならねば一族、いいえ、私達妖魔が滅亡するからです」
間引きまでするとは、当時の凶妖達はどれほどの覚悟を持っていたのだろうか、と戦慄するほどだ。逆に言えば、それほどまでに子が出来なかったから追い詰められていったとも言える。ちなみに、子供レベルほどの知能があるのは中妖までで、小妖ははっきり言って動物程度である。なので、小妖は放置したとのことだ。
「この観察結果は、私達妖魔に慶事を齎すと同時にある問題が発生しました」
「その問題とは?」
「当時いた全ての男の妖魔は、弱体化してしまったのです」
女の妖魔は男の妖魔に対して強く求めるものの、男は肝心の陰茎が立たぬ上に胤も出ない。体型が孕むために大きくなると、力の面でも男の妖魔と同等かそれ以上になってしまった。
ここでさらに変わるのが男の妖魔の心情の変化である。
今まで自身の力を誇示し、戦いの高ぶりを美女を抱いて鎮める。その方法でやって来たが出来なくなった。子孫に至っては、見下していた人間の男の胤で出来る始末。その結果、男の妖魔は自信を喪失し、体型も萎んでいったのである。
人間の男の体型が萎んだのは、種の存続に適応するためであった。なのになぜ、男の妖魔が自信喪失しただけで体型が萎むのか? それを順を追って説明するとこうだ。
性欲は三大欲求の一角を担う存在、そして何よりも子孫を残す意味でも重要な欲求だ。それは人類と妖魔共通であり、そこに優劣は存在しない。だが、この世界に存在するという意味でのありかたでは違っていた。
人は脆く弱い。妖魔のように最初からある程度力があるわけではなく、自身を鍛え、修行しなければ力を得られない。そういうハンデは力ある者同士を掛け合わせることによって、世代を重ねるにつれてある程度は克服出来た。だがしかし、ある程度であって凶妖や大妖が生み出す子には劣るのが欠点である。
だがしかし、人類は妖魔と違って「うつろうもの」つまり、心と体が片方失われても存在することが出来る。陽の存在であり、妖魔のように強くはないが繁殖力で強く数で圧倒できるのが人類の特徴である。
人に対して妖魔は強靭且つ強い。最初からある程度の力は存在し、碌な修行を積まずとも力を振るえる。それだけでも人類にとって脅威ではあったが、妖魔達も一族の中でも有力な士族を掛け合わせて、子に力を受け継がせるといったことをして、ただでさえ最初から強いのにもっと強くなっていった。
妖魔の中にはその力に溺れず人類のように修行し高みを目指すものさえ度々現れる、そういった存在は人類の天敵となり恐怖のどん底に陥れていた。寿命すらも人より長く生きていけるし、その寿命は人のように肉体の限界が近づいてくるのではなく、精神の限界で来るのである。
そう、精神の限界だ。
ここが、人と決定的に違う点である。つまり、妖魔が生きようと思えば百年どころか千年すら生きることさえできる。
これが出来るのも、妖魔は人類と違って「うつろわざるもの」であるからだ。神や精霊といった超常の存在と同じ側に位置するもの、陰の存在なのが妖魔なのである。人類に対して最初から強者でありつづけるのも、生まれた時から強者であるからという精神があるから強い、というのも妖魔が人類と比べて最初から力を持っている理由になっている。
「天正帝はそれらを見越して呪いを掛けました」
「男の性欲無くすだけなのに?」
「それだけに思えますが、それ以上の効果を発揮し私達妖魔を崖っぷちに追い込みました」
僕の疑問に対し返答する。性欲無くすだけでそれ以上の効果とは一体何なのか?
伊予さんの話は昔語りのようで、実に上手く分かりやすい。翠さんが中座して持ってきたお茶で、互いに喉を潤す。僕が渡したお茶なので、実に美味い。
妹達の中でも、伊予さんの話を理解できてるのは僕の妹達だ。焔は理解できてないらしくお茶を呑気に啜っている。
一区切りついて、伊予さんの話が続く。
性欲を無くすことが、弱体化及び体型の変化に及ぶのはなぜなのか?
先に上げたように、男の妖魔は魔羅という男の象徴が機能不全に陥ったことで自信を喪失した。魔羅が無事であったのであれば、自分達男が胤を撒くことで子を成せるという自負があった。
だが、子を成すことが天正帝の呪いによって出来なくなった。すると、胤を持ってくるにはどうすればいいのかという考えになり、その答えは人間の男を捕まえてその胤で孕むという結論に妖魔達は辿り着く。
そして、先ほど説明したように、妖魔と人間が愛し合えば胤も呪いを貫通して子を成すことが出来る。
すると、男の妖魔達は自分自身という存在そのものに疑問を持つようになってしまった。
自分達が、俺たちこそが一族の子を成すという義務と責務がありそれを達成してきた。だというのに呪いの影響で勃たなくなった。その結果、猿と見下す人間共の胤が自分達の嘗ての嫁や生まれた娘達に抱かれて子を作っていく。
自分達が、これから存在する意義はあるのだろうか? と。
そう思ってしまった凶妖や大妖達は、次々と精神に傷を負ってしまう。その結果、体型が萎んでしまったのである。
先ほど挙げたように、妖魔の力とは精神の力。「うつろわざるもの」はその精神が強靭であるからこそ強い力を持っている。しかし、天正帝の呪いで種無しになり、嫁と子は見下していた人間に寝取られて、人間の胤でしか一族を存続できない。
それを見せつけられて、男の妖魔達は嘗てのような筋骨隆々であることは難しくなった。精神に傷を負った結果、風船が萎むように力も失われてしまう。
すると、力仕事といった唯一の砦すらも体型が大きくなった女の妖魔にすら負けて自負も砕かれて、殊更に精神に傷を負い、ある種の鬱病となってしまった。
「そして、男の妖魔達は次々に蒸発していきました」
「蒸発…………ですか?」
「ええ、私達妖魔は精神が強くなければ存在できない。その呪いによる負の連鎖によって、ある者は発狂して自死を、ある者は文字通り蒸発して霧となり、ある者は塩の柱になりました」
「そ、そんなに…………」
「中には、怒りと嫉妬によって人間の男を殺そうとした者もいました。ですが、既に人間の男は大事に種馬として扱うことが決定していたので十分に守られており一人も死にませんでした。それどころか、大事な種馬を傷つける者は不要とのことで、それぞれの一族で男の妖魔を粛清することが決まったほどです」
「しゅ、粛清…………」
妖魔という存在を存続させるためにそこまでするのか、男の妖魔を消すとは…………。余りの衝撃的な内容に思わずゴクリと唾を飲み込む。
「まぁ、それはそうだろうな」
「ですね」
「男の妖魔は邪魔になりましたからね」
だが、それを聞いていた妹達は当然とも言う様に頷いた。妹達の発言に、伊予さんも「はい、その通りです」と肯定したほどだ。
「えっと、どういうことなの?」
「兄様、伊予の説明した通りです。天正帝の呪いによって男の妖魔は種無しになり、力も体格の良くなった女に負けた。はっきり言って無駄飯喰らいになったのです」
「その通りです、更に言えば種馬として大事に囲っていた人間の男を殺そうとした」
「どうやって妖魔という種族を存続させようと研究し、観察し、その答えを見つけて教育を施した上の存在からすれば、男の妖魔は更に不要、いえ、殺そうとしたのだから害悪にしか映らなかったでしょう」
妹達の答えは容赦のない評価であった。その発言に伊予さんが気を悪くしたのではないかと顔を見ると、彼女は真剣な面持ちで肯定の意を返した。
「頼君、妹さん達の言う通りです。なので、妖魔達は会議をし、男の妖魔達に決断を強いたのです」
「その決断とは?」
「誇りある自死か、一族復興の為に性転換し孕み袋になるか、でした」
「じゃ、じゃあ今いる妖魔達に男はいないのですか?」
「はい、一人もいません。男達は、誇りある自死を選ぶものと、一族復興の為に性転換し孕み袋になる者とに別れました。その結果、私達妖魔から男という存在は消えたのです」
まさか、妖魔から男という存在が消えてしまったとは知らなかった。
天正帝の呪いとは、原作ゲームだと種絶の呪いで女の妖魔が卵無しになるから、男の妖魔が女を攫って孕ませる。そして、ゲームの主人公である波羅が最適な存在であったため、次々と犯され孕まされて沢山産まされる。そういうゲームだった。
しかし、この世界だと天正帝の呪いは女ではなく男へと向かってそちらを種無しにした。
その結果、貞操が逆転してしまい、僕みたいな男が狙われることになってしまったのか。
この世界に生を受けて、最初の前日譚に当たる負けイベント。あそこで可愛い妹であり主人公でもある波羅を助けるために向かったが、追ってきた妖魔が波羅ではなく僕を執拗に狙ったのも種の存続の為なのか。
伊予さんに積極的に抱かれたり、桃代姉さんの側仕えの紗和さんにも積極的に抱かれたのもこれが理由なのかと納得する。
すると、僕が自身に暗示を掛けて知らないようにしたのも理解できた。
その当時の僕は、この事実が示すことは、主人公とは波羅ではなく僕なのではないかと。
そして、その事実に恐怖し心が折れてしまうが、それだと妹達を守ることが出来ない為に、わざと暗示を掛けて忘却するようにしたのだと。
僕自身に暗示を掛けていたのは、この事実が怖くて目を背けていたからなのか、と漸く理解できた。
伊予さんの説明を噛み締めて、ゆっくりと僕は言葉を出す。
「…………そういう歴史があったのですね」
「はい」
「最初に言った、広義の意味で全て半妖の子というのも納得しました」
「そうです、その中でも妖魔の因子が強い子に呪いを集中させて龍脈に掛けられた呪いを減らしているのです。因子が強い子は必然的に力を持っており、それが長に近しい親族になります」
「で、長に近しい親族だから娘か孫か、ということになるんでしょうか?」
「はい、その通りです」
では、あそこの祝福の子達は各種族の中でも偉い身分にあるわけか。
「ですが、それを引き取ってここで世話をしているのは何故でしょうか?」
「妖魔達が支配する領域の龍脈は既に呪いで汚染されています、そこに祝福の子を置くと龍脈から流れ出る呪いを受けて寿命が縮まるばかりか、死ぬと祝福の子が受けとめた呪いが広まってしまい、減った呪いが元に戻ってしまうんです」
「成程。では、生まれてある程度成長したら最初は力を振るって領域を開発する。力を振るうと呪いが進行して寿命が近くなる。最後は遠く離れた場所で、つまりここで世話をして看取る。というわけですね」
「仰る通りです」
祝福の子達は呪いを受け止め苦しむが、それと同時に力を得る。その得た力を振るって彼女達の住む領域を開発する。力を振るえば呪いの蝕む速度が速まって寿命が縮む。命尽きるのがわかったら、最後はここに引き取って死ぬまで看取る。
祝福の子という性質を無駄なく利用しているのは、合理的という意味では非常に理にかなっている。その子達が幼く、まだ未来もあっただろうそれを摘まれて早死にする運命に目を瞑れば、だが。
「では、この後のことは──」
「はい、貴方に約束通り看取ってもらいますが…………」
そういうと、とある袋を机の上に置いた。そしてそれを開けると、徳利が出てくる。
「これは、万太と名乗る行商人から貰った毒です。『これを渡しておこう、苦痛に耐えられぬ時飲ませるといい』そう言いました」
何の変哲もない徳利だ。というか、万太がやって来たのか。何故やって来て毒を渡すのか、そう疑問に思った時。ある違和感を思い出した。
僕の脳内の記憶では、万太がやって来た姿が突如浮かび出る。その姿に違和感を感じていたのが今わかったのだ。万太は大抵のものは必ず福袋から出す。だというのに、僕に建木の雫を渡すときは懐から取り出した。というか、福袋と打ち出の小槌を持ってなかったのに今気づいた。
「頼君にお願いします、貴方の手でこれを……あの子達に飲ませて欲しいの……」
悲痛な面持ちで、伊予さんと翠さんはその場で深く平伏した。
僕の手で……、あの子達を看取るばかりか引導を渡せというのか……。
その事実に、僕は彼女達の平伏を呆然として見ることしか出来なかった。
ここまで閲覧して頂きありがとうございました。大変暑くてバテてしまいましたが、どうにか書き上げることが出来ました。祝福の子はどろろの百鬼丸みたいな感じです。
感想評価、どしどし送ってくださるととても嬉しいです、お暇があればよろしくお願いします。
skebで35話のひっくり返った蛙の三人を描いて欲しいと言われたので頑張って描きました。読者の方だと思いますがご依頼、誠にありがとうございます。pixivに大きいサイズを置いております。35話の方にも挿絵として挿入しました。
https://x.com/bishio360/status/1948366527138537910
最近遊戯王マスターデュエルって奴を始めました。僕は遊戯王はアニメは一番最初の闇のゲームしか知らず、漫画も履修してないのでさっぱりわからない状態でしたが、
キースのコラ画像みたいに教えてくれるのでなんとか遊べてます。デュエルしたい方はツイッターの方にユーザーID載せてるので申請送ってください。なお諭吉6人使った模様