和風凌辱エロゲーの主人公兼ヒロインの兄に転生したんですが何か違う 作:ビシオ
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土下座平伏してる両名を呆然とした目で僕は見ていた。看取るだけならまだしも、引導を渡す事になろうとは。どうすればいいのか迷ってフリーズしてる最中に、最愛の妹は動いて抗議する。
「伊予、兄様に引導を渡せとはどういうことだ!?」
立ち上がって怒声を出す。それを向けられた相手は、平伏したまま答える。
「あの子達は既に風前の灯火。男にも恵まれず、呪いの影響で外にも出られず朽ちていく存在でした。しかし、頼君が来てくれたことで、彼女達と触れ合ったことであの子達が望んだのです。死ぬのなら、頼君の腕に抱かれて死にたいと…………」
「なので、頼の旦那にはあの子達に毒を飲ませて欲しいのでヤンス。この通り、どうかどうか、最後の温情をかけてほしいでヤンス…………!!」
二人は必死に頭を畳に擦りつけて懇願する。僕としても、あの子達を看取るという約束をしたから履行はしないといけないが、引導を渡せとは聞いてない。そこを聞こうと思っていたら、波羅は更に激怒した。
「巫山戯るなッッッ!!」
立ち上がって咆哮する。双子と焔も、波羅と連動するかのように立ち上がり、それぞれの表情には怒りが表れていた。
「兄様が約束していたのは看取るまでだ、だというのにここにきて更なる要求をするだと?」
「しかも、兄上にあの妖魔達の惨状を見せて心に傷を負わせて置きながら」
「土下座で頼み込むとは、兄上の優しさに付け込んでいるとしか思えません」
「頼兄さまをこれ以上傷つけさせるわけにはいかないでござる!」
それぞれの怒声を聞けば、大体僕が言いたいことを言っていた。優しさに付けこむ云々はまぁ、言い返しづらい。僕自身押しに弱いのが分かっているからだ。
二人は頭も上げず只管に畳に擦り付けて
「優しさに付けこんでいるのは重々承知、卑怯な手であるのは否定しません。ですが、これまでに沢山の祝福の子達を看取ってきました。どの子も出会いがなく寂しく死ぬ中、頼君だけがここに来た唯一の
何卒……何卒お慈悲を…………。只管にそれだけを繰り返す伊予さんと翠さん。
波羅は怒りの形相で睨みつけながら
「あの肉芋虫は半妖ではなく妖魔ではないか! 妖魔なぞ見敵必殺、男を攫い女子供を殺して喰らう者達! しかも半妖と偽って都に匿っているのも反逆と見做される行為、死んで当然だ!」
非常に苛烈ではあるが、妹の言うことは正論である。少なくとも、朝廷が定めた教育典範ではそのように教わっている。
『妖魔達は、人の形をした悪鬼凶鬼天魔外道。言葉が通じるだけで、常識など通じない存在。
村を焼き、街を壊し、井戸に毒を投げ入れ、女を犯して孕ませ、男は生きたまま頭を開かれて脳味噌を木匙で掬って食べる。生まれたばかりの赤子を放り投げて槍に団子のように突き刺して弄ぶ。
偉大なる中興の祖である天正帝の呪いによって、妖魔達は繁殖が出来なくなったので男を攫うようになり、女は無残に殺すように逆転したが、それでも我等人類の脅威なのには変わりなし。
故に、見かけたら容赦なく殺すこと』
今まで妖魔達がどれほど残虐な行為をして来たかを実例を下に平民に至るまで教育を施し、妖魔は討伐すべし。という感じで、骨の髄まで教えを染み渡らせることが出来た。
天正帝の治世からかなりの時間が経ち、妖魔達の活動も右肩下がりとなって滅ぶのは時間の問題と言われている。そして今では、此方に降った一部の妖魔及び半妖のみは寛大な慈悲によって生かして利用する。と、法で決めるのが珍しいと言われるほどに融和政策を取っているが、それでも尚妖魔の脅威が無くなったわけではないのだ。
大妖以上の存在は引きこもっているが、中妖以下は時たま村や町を襲って男を攫いに来るのである。小妖となると熊から猪くらいの害獣なのでこちらは猟師や木っ端退魔師に任せればいいのだが、襲い掛かってくる以上脅威はしっかりとあるのである。
その、融和政策によってこの孤児院は経営を許されているが、先ほど話した伊予さんの歴史が真実ならば、因子が強いあの子達は半妖ではなく妖魔である。他の孤児達は生かしてもいいが、あの部屋にいた肉芋虫達はそのまま死すべし。
教育典範で、乳母や教師からそのように僕達は──僕自身は暗示を掛けていたことで忘却してたが──教わった。
だから、妹の言うことはこの世界の常識に照らし合わせるなら非の打ち所がない正論である。
波羅は更に言葉を続ける。
「そもそもだ、ここは貧民の半妖のみを受け入れる受け皿なのは理解している。しかし、妖魔の因子が強いあ奴らをどこから引き入れたのだ?」
「都は私達人類の最後の砦」
「そうやすやすと入れられるわけがありません」
「もしかしたら、内通者がいるのでござるか?!」
双子と焔も答えを見出して声を出す。焔の言う通り、内通者がいないと連れてこれないだろう。伊予さんへと視線を戻すが答えは返ってこず平伏するばかり。
その姿勢に苛ついたのか、妹達は更に言葉を出す。
「伊予、先ほどの歴史の講義は見事であった。我等に新しい知見を齎してくれたことにはまず礼を言わせてもらう。だからこそ解せない、何故貴様はそこまで詳しく知っているのだ?」
「まるで、当事者が見て来たかのような講義でした」
「それこそ、経験してからこその説得力がありました」
「伊予さんは何者なのでござるか?」
そういえばそうだ、先ほどの講義はわかりやすいし新たな知識を得ることが出来た。多少の違いはあれど、原作ゲームの設定資料集と似通っていたところがある。だがしかし、波羅が言う様にそこまで詳しく知っているのが不思議だ。
「長く生きた妖魔など、凶妖以外にありえない。何より、天正帝の治世のことまで知ってるのならば、貴様は凶妖の、それもかなりの高い地位にいたのだろう?」
妹達の畳みかけるような言葉と、最後の波羅の締めの言葉に観念したのか、伊予さんは平伏したまま声を絞り出す。
「ご賢察の通りです。私は嘗て凶妖八将の末席に名を連ねておりました…………」
凶妖八将。
鬼、河童、烏天狗、大蛇、狐、狸、犬、猫、鼠、蜘蛛、等々…………身近にいる生物から空想上の生物まで妖怪はおり、取り分け強い凶妖の中でも選ばれた八人が凶妖八将と呼ばれていた。その凶妖八将に対抗して生まれたのが妖魔滅却八勇士である。
伊予さんがそれだとは思わなかった…………いや、薄々感じていたと言うべきだろうか。彼女のポジションに刑部の雄太郎がいたと考えると…………、まさか…………もしや…………
原作ゲームと同じ場所に孤児院兼工房があり、祝福の子もここにいた、そして何よりも初対面の時、雄太郎という名前に彼女の細目は開いて反応した。
辿り着いた答えに僕は体を衝撃で震わせながらも、尋ねてみる
「伊予さん、貴方はもしや…………僕が最初に尋ねた刑部の雄太郎その者なのでは?」
その答えに、彼女は面をハッと上げて此方を見る。そして苦渋の表情をして顔をしたに段々と下げながら
「…………はい、その通りです」
明確に返答したのであった。
「えっ?!」
驚き顔を上げたのは、他ならぬ隣にいた翠さんだった。
「ええと、母ちゃんは父ちゃんだったでヤンスか?」
「ええ、そうよ」
「じゃあ、アッシの母ちゃんは誰でヤンス?」
「貴方の母は私の妻だった人よ、貴方は私が産んだ子じゃない。けれども、貴方は私とあの人の間に生まれた愛する子なのには変わりないわ」
「えっと、いや、その、そんな女性になってる父ちゃんから母ちゃんのことを言われてもこんがらがってしまうでヤンス…………」
そりゃそうだ。
今の伊予さんは大変美人である。そんな人から妻がどうだの、自分が産んだ子じゃないと言われてもわけがわからないだろう。だが、答える伊予さんの表情は苦しそうだった。伊予さん自身も、この秘密は娘には知られたくなかったようだ。
いや、僕自身も非常に、それはもう非常に驚いているのだが。
原作ゲームと違って女体化して別人になってる!! って思ったキャラが、実は原作ゲーム通りでそこから女体化したとは。というか僕は、性転換した伊予さんに抱かれてしまったことになるのかこれってもしかして精神的ボーイズラブになるのかそれともヘテロセクシャルでセーフなのかおっぱいもおまんこもどちらも本物で気持ちよかったし思いっきり中出ししたし妊娠してしまうのかどうなのかetc、etc…………
頭の中に今までの情報を整理しようとするも、スパゲッティコードみたいにこんがらがってフリーズしてしまう。背景に宇宙を背負った猫みたいな感じになった、そんな僕を見て気づいた焔が
「頼兄さま、しっかりするでござる!」
バッチィィィィィイイイイイン!
「いったぁ!!!???!???!??!?!?」
「兄様っ?! 焔! いくら何でも強くはたきすぎだ!?」
「兄上っ、お顔に真っ赤な腫れ痕が!」
「直ぐに冷やします!」
「うあっ?! こ、これでも拙者は十分手加減したでござるぅ!」
焔から目覚ましの平手を貰ったが、物凄いいい音をした。痛い、すごく痛い。たった一撃、されど一撃。ロリ怪力侍は手加減したようだけど、十分手加減してこれだ。
威力が高すぎて頭もシェイクされる。シェイクスピアがノリに乗って話が出来た時の行動は何だと思う? 頭をシェイクスピア。なんて下らない冗句を思いついてしまうほどにはぐわんぐわんと揺らされた。
でも目が覚めた。
鏡を見なくてもわかる、僕の頬には見事な赤い紅葉が咲いているだろう。まるで、どこぞのラブコメのヒロインに主人公がセクハラして一発貰ったようなものを頂いた。
そんな情けない姿を出しながらも、取り合えず聞きたいことを聞く。
「いてて……、伊予さん。貴方が僕を無理やり抱いたのは理由があったのですね」
「はい、そうです。一族復興の為に、
伊予さんの歴史講座を聞いたからこそ納得しかない。そりゃそうだ、一族が滅亡に瀕しているのならばなりふり構ってられないだろう。何しろ、雄太郎さんが伊予さんに性転換するほどだ。原作ゲームだと「女を抱きまくるのは最高だぜ! 自身の撒いた胤で子供が出来ると猶更なぁ!」 ってな感じの竿男優だった。
そんな感じのコテコテ竿男優が、自身の矜持を曲げてまで性転換するのだから余程のことである。それだけ天正帝の呪いが凶悪過ぎたのかもしれないけども。いやでも、この場合矜持を曲げたことになるんだろうか。文字通り逆転して「子供なぞ胎から幾らでも産んでやる!」という気概なんだろうかと思ってしまう。
聞きたかったことの一つを聞けた、次の事を聞こうと思ったら妹達が遮り前に出て話す。
「その点についても断罪しなければならんな」
「ええ、兄上を合意なしに襲った事」
「これは立派な強姦です」
「裁かれる罪でござる!!」
妹達は口々に言い、怒りを露にする。というか、波羅は鯉口を切ってしまった。
「兄様を無理やり犯し、果ては一族復興の為にと言いながら朝廷に無断で数を増やそうとした、更には貴様自身が凶妖であることを隠している。これらのことから万死に値する」
チャキッと音を立て切っ先を伊予さんに向けて、宣言する。伊予さんはというと、その切っ先の先にいる妹を糸目で真っすぐ見つめながら目を離さない。
「ちょっと待って波羅、何もそこまでしなくても──」
「兄様、これは紛うことなき犯罪です。更には賤しい妖魔風情が高貴なる兄様の胤で孕もうとする。その結果どうなるか…………聡明な兄様も気づかないわけではありますまい」
「うっ」
波羅の言う通りだ。
傍から見たら被差別される半妖──実際は妖魔──が貴族の男子を無理やりレイプしたのだから立派な強姦である。
それだけでなく、もし僕の胤で伊予さんが孕んだら非常に厄介なことになる。この場合、お家騒動になるわけではない。人と人同士なら血の継承権でいざこざが起きるが、人と妖魔同士ならば穢れた血として扱われて居ないことになるからだ。
だがしかし、政治的には結構不味いことが起きる。
貴族の男子が妖魔と子を成した、教育典範から思いっきりやってはならぬと記された行為であり、朝廷の定めた法でも裁かれるべきと書かれてある。それだけでなく、風聞的にも手痛いダメージを被る。
あの貴族は妖魔に犯された~なんてことが噂されるだけでも、貴族としての面子が潰れる上に、貞操逆転してるこの世界じゃ男子を守ってる筈である女子は何をしているのか? 男子を妖魔から守れぬどころか子を成してしまったのを許してしまうほどの無能集団なのか?
そんな風に罵詈雑言を浴びせられても仕方なしな汚点である。
そして、そんな罵倒を受けるのは女子だけでなく男子もだ。女子に比べれば少ないものの、それでも妖魔相手に快楽に負けて胤を撒いた愚か者という誹りを受けたりする。
更には教育典範でも
『男が犯されることは妖魔の数を増やす事になる。引いては我等人類へ弓引く行為とも言える恥辱。男子諸君はそれらのことを鑑みて行動するべし』
と教え込まれている。
この文では、鑑みて行動しろというが要は自死しろと言ってるに等しい。遠回しに言ってるのだ。事実として、多くの男子は妖魔に捕まったら自死をするほどだ。貴族なんか真っ先に自爆するほどである。貴族の胤の方が強い子を産んでしまう故しょうがないとはいえ、覚悟が決まり過ぎてる。そのように教え込んだのが、天正帝の作りし教育典範だ。
「最後に何か言い残す事はあるか?」
波羅の宣言に、伊予さんは姿勢を正しながら口を開く。
「この場で私を斬るのは構いません、ですがその後の事を考えての行動ですか?」
「何?」
「私は工房の主だけでなくここの孤児院の院長でもあります、この意味がお分かりか?」
「……ふん、成程な」
伊予さんの言葉に納得したところがあったのか、命拾いしたなと言いながら波羅は刀を納める。双子も理解したのか頷いている、焔は首を傾げているからわかってないのだろう。実は僕もよくわかってない。
なので、妹達に聞いたところ。
「兄様、ここの孤児院は朝廷が建立に関わっています。故に、彼女を殺した後朝廷が行動を起こすのやもしれません」
「それに、朝廷が彼女の存在を知らずに経営を許しているわけがありません」
「伊予さんの事や孤児達の事も、全て把握していながらこうしてここに居るのを許可していると考えて宜しいかと」
「成程…………」
お触れや法律などでこちらに降った妖魔は例外的に存在を認めて生かす事を決めたりした、その中で伊予さんがそれにあたるのだろう。それに、伊予さんは凶妖として名を馳せた存在。原作ゲームでも、雄太郎として朝廷に降って一族を守ることを選んだ裏切り者。そんな風になっており、こちらでは性転換してるが大元は同じだろう。
そう考えると、原作ゲーム通りならば、彼女の背後にいるのは……。
「伊予さん、貴方の背後というか存在を後押ししてるのは、朝廷でも上位の存在が……、単刀直入に言うならば左大臣殿がいるのでは?」
「っ!! …………御明察の通りです、頼君」
驚いたような表情をして伊予さんは頭を下げた。
ここで名前が出てくる左大臣、夜鳥為人殿。彼は千年宰相と言われている。
人の寿命は天正帝の長寿の術のおかげで伸びた、だがそれでも長生きできるのは三百年が限界と言われている。その中で、左大臣殿は千年は生きていると言われている程姿形が変わらずにいる。もしかしたら、代々襲名してるのかもしれない。だがそれを差し引いても彼自身はとても有能な政治家であり、右に出る者無しな手腕であるため左大臣の地位に居る、と言われている。
その左大臣殿が背後にいるのなら、朝廷も一緒にいる可能性が大と言っていいだろう。この孤児院は左大臣のみが経営の援助をしてるわけではなく、朝廷が建立の関わっているのだ。ならば、孤児院という表の事情や、裏の事情である祝福の子達の引き取りを知ってる筈だ。
なので、波羅がここで伊予さんの首を落としたらそれはそれで問題になる、ということだろう。
僕の理解力じゃここまでだが、その旨を言うと身長の高い大きな妹は微笑み
「流石兄様、偉い偉い♡」
と言って、抱きしめて頭を撫でてきた。おっぱいに包まれて気持ちいいし、いい匂いがする。だけど恥ずかしいので引きはがす。
「じゃあ、さっきの刀を向けたのは演技?」
「いいえ、本気で伊予の首を刎ねるつもりでした。それほどの罪を犯しているのは事実ですので」
「ですが、首を斬ることが出来なくても」
「別の方向で罰を、最低でも避妊術は掛けねばこちらの怒りの落としどころがありませんね」
「というわけだ、伊予。兄様との子を成すのは許さん、だから避妊術を掛けるぞ」
「はい、了解しました…………」
抵抗するかと思いきやあっさりと引き受ける。やや苦渋の表情をしているのは、やはり子供を作る行為をしたのにその受精卵を破壊されてしまうからだろうか。術を掛けられて悲しい表情をしてる彼女を見て、僕はそう感じてしまった。
さて、彼女の罪に対する罰を与えて終了に出来た。そして、孤児院の裏には朝廷がいることもそうだが左大臣殿が関わっている。千年宰相であり鵺と呼ばれる凶妖でもある、人類と妖魔双方の肩書を持つ彼相手に僕たちは今の状態で立ち向かえるのかどうか。
その前に、祝福の子達の事を片付けなければならない。
「伊予さん、あの子達の看取りを、引導を渡させてください」
「兄様っ?!」
波羅は驚いた顔をし、双子と焔も同様だった。
「僕は伊予さんの鍛治の腕を見込んで約束したんだ、約束は守らないと」
「ですが、相手は人類側に降ったとはいえ凶妖ですよ?!」
「だとしても、だよ。第一、君自身も気づいているように朝廷や左大臣殿が関わってるなら彼女を殺しても無意味どころか僕らのお家取壊しの可能性が出てしまう。僕らは朝廷の臣である以上、勝手なことはしちゃだめだ」
正直言って看取るだけなら良かったけど、引導を渡せというのは非常に辛い。しかし、約束は約束だ。伊予さんにはビシバシ働いてもらう予定の為、そして妹達の武具作成の為に必要なユニットなので、約束を守って僕ら側に引き入れないといけない。
妹の為ならば、看取ることも引導を渡すことも、僕は頑張れる。
僕の決意を感じ取ったのか、波羅は渋々と言った表情だが引き下がった。
「では伊予さん、僕はあの子達の所に向かいます。毒はありますか?」
「はい、こちらに」
そう言って、僕に毒の入った徳利を渡してくれた。渡す際、その手が微かに震えているのを感じた。
「伊予さん、あの子達は飲むことは出来るんですか?」
「…………どうやって飲ませるかは頼君に任せます」
あの状態を鑑みると、自発的というか自力で飲むことは厳しそうだ。となると…………、僕が口移しで飲ませる他ないのかもしれない。
徳利を受け取り、僕は立ち上がる。
「じゃあ、僕は彼女達の下に向かう」
「では、兄上」
「私達も御供しま──」
「いや、皆はここに居てくれ」
「ええっ! 頼兄さまだけで行くのでござるか?!」
双子が御供するという言葉を遮って断ると、焔が驚いた声を出す。
「僕が頼まれた、僕だけにしか出来ない仕事だ。君達が居てもやることはないからね」
「ですが──」
「それに…………、僕が引導を渡すんだからさ…………、一人にさせてくれ…………頼むよ」
「……わかりました兄様」
「「ううっ、お労しや兄上…………」」
「何もできない自分が悔しいでござるぅ…………」
嘆く妹達をそれぞれ頭を撫でて慰める。伊予さんと翠さんは、僕の顔を見て
「頼君、貴方の決意と行動に──」
「──心の底から御礼申し上げるでヤンス」
そして、再度土下座平伏する。僕は片膝をついて二人の肩にそれぞれ手を置き
「では、行ってきます」
そう言って部屋を退出するが、その間際に
「妹達、伊予さんに思うところがあるかもしれないけど、仲良くしろとは言わないから上手くやってくれ」
そう言って、僕はその場を後にして、祝福の子達の部屋へと向かった。
呻き声と腐臭が充満する部屋、呪われし祝福の子達が横たわっている。其処に僕は三度やって来た。手には伊予さんから貰った毒入り徳利を持つ。そして僕は横たわっている彼女達の頭の方に座り、毒入り徳利を畳の上に置く。
そしてさらに、着物の袖に入れて置いた万太の桐箱を取り出し、そこから万太から頂いた建木の雫の入った徳利を取り出す。
そしてそれを畳の上に置いた。ちょうど、左に毒入り、右に建木の雫入り、という形になる。
それらを見て、僕は唸る。ただ、このまま唸っても仕方がないので、正座から座禅を組み、手で印を結んで瞑想に入った。瞑想に入れば考えも纏まるからだ。
心頭滅却すれば火もまた涼し。という言葉があるように、最初は腐臭悪臭が鼻についていたが、段々と瞑想に入り、浅瀬から深海に入る様にゆっくりと堕ちていくと腐臭などは感じなくなり静かな空気となる。瞑想に入ったからだ。そしてそこから、僕は考えを練る。
奇妙なことに、徳利の外観もそうだが中に入ってる量すら同じだった。万太が用意したからと言えばそれまでだが、何故ここまで一緒なのかという疑問が沸く。
それに、万太がやって来て毒を渡すというのも何かおかしい。というか、彼の目的は何だろうか?
ここに来る前に、僕に建木の雫を渡すときに後悔しない選択を選べと彼は言った。そしてその選択がこうも目の前に現れている。
この子達に建木の雫を使うか、それとも使わず毒を与えて安らかな眠りを与えるか。
二つに一つ、どちらかしか選べない。
前者の場合は、自分の自己満足になるだろう。少なくとも目の前の子達は効能通りならば黄泉帰ることが出来る…………筈だ。だがしかし、それをするということは桃代姉さんの治療方法を失うことになる。
桃代姉さんという強力なユニットを最初から使えるという最大級のメリットを手放すのはとても惜しい。原作ゲーム通りならば、まだ原作は始まってない上に、妖魔達の大攻勢への対策も取っていない。
原作ゲームだと、この前日譚且つチュートリアルな話になってる今の現状では、都へ上京するのは一緒ではあるが、このような看取るイベントなんてなかった。これもそれも、やはり僕という
所々が同じで、所々が微妙に違う。ゲームと現実は違うとはいえ、こうも体験してくると嫌でも理解してしまう。
そして、僕はどちらを選ぶのか、どちらを選べばいいのか、教えてくれ五〇、〇ロは僕に何も言ってはくれない。
これまで妹達がゲーム通りならば犯されるから、それを防ぐために努力してきた。だがしかし、努力の過程で目の前の苦しむこの子達を見捨てていいのか?
妹達の処女と孕み袋を止めるために、見捨てることは正しいことなのか?
目の前の血縁でもない孤児で死にかけのこの子達か、親戚且つ嫁である姉さんか。
散々悩んでいると、魂の奥底に刻んだある名台詞が黄泉帰った。
────男なら幸せになろうと思うな。
幸せになるのは女と子供だけでいい。 男なら死ねい。
毎日を死ぬ覚悟で生き、安逸に人生を消耗させるな。
いかなる困難にも負けず、毎日を熱く苛烈に生きるのだ
────ならば私はあんたらを救う!
どんなにいらぬ世話だと言われようが全力で止める!
だってそうだろう?
世の中のためだとか未来のためだとか……
いくら綺麗事を並べたところで……
目の前で苦しむたった数人を救えぬ者に
この世をまるごと救うことなどできてたまるか──っ!
瞑想から帰って来た。
目から溢れ出るのは涙。
男の、いや、漢の魂の名言。
そうだとも、僕は何の因果かこの世界に転生した。そして、妹に当たる人物が酷い目にあうからそれを防ぐために行動した。
女子供が幸せになればいい。肉親ならば猶更だ。
そしてそれは、目の前のこの子達にも言えることだ。今手元に手段があるのにそれを使わずして、妹達を守ることが出来ようか。
──格好良いとはこういう事さ。
もう一つの名言も黄泉帰る。
欲を言うならば、前世は格好良いとは言えず平凡な人生を送って来た。
誰もが思うことを、転生して人生に二度目があるならば格好良く生きていきたいと思うことを、思い出した。
僕は一度死んだ身、ならばもう一度受けた生はこの時の為にあるのだと今悟った。
決意を胸にした僕は、徳利の一つを取り口に含む。そして、手近な子から順番に、それぞれ口移しで飲ませた。
血と膿の味がする。だが、それがどうした。この子達が今受けてる苦痛に比べれば、僕の不快感なぞ考える必要なし。
飲ませ終えると、祝福の子達は僅かに震え、そして動きが止まった。
──時は数日程前に遡る。
それは、草木も眠る丑三つ時。誰もが寝静まる中、ある場所に集う者達がいた。
場所は御所。皇主が住まうやんごとなき座所。
その中にある禁裏、都の中でも最も高貴なる者達が集う場所。上座には皇主のおわす御帳台が置かれ、下座には多くの重臣達が座って並ぶその御前会議。その御前会議はいつもの御前会議とは違い、重臣達しか入れない最上級のものとして秘匿されている。
何故、何時もの会議と違い秘匿するのか? それには理由があった。
皇主のおわす御帳台。そこから視点を下にすれば、左右に分かれて人物達が座っている。
しかし、その人物達の様相が違っていた。
右手には、朝廷の重臣達が居る。その重臣とは、北方守護を除いた三方守護当主を含めた大臣や公家である。重臣の中には、京極家の京極雅までいる。京極家は、雅が能や歌舞伎などで名を馳せ文化を発展させた功績があるためこの会議に出席していた。他にも、二瓶家や三矢家の者などもいる、ここまでは良い。
だがしかし、左手には人類の敵である妖魔達が居た。
怪力乱神:酒吞童子
激流の
飛翔旋風の天魔
白面金毛九尾の玉藻
冬将軍
眩惑の藤原御殿
千年宰相:鵺
鋼鐵の
天正帝の時代に生きた凶妖八将、その面々が集っていた。
何故、双方敵であるのにこうして面と向かい合って座っているのか?
何故、都の御所に憎き敵である凶妖がいるのか?
何故、左大臣が凶妖側に居て座っているのか?
これらは全てが中興の祖であり人類を妖魔の暗黒時代から救ったと言われる天正帝、それを
表向きでは人類と妖魔は決着が着き、妖魔側は緩やかに衰退し滅ぶだけというのが周知の事実。しかし、妖魔が完全に滅ぶと人類、否、扶桑国も滅ぶ。それを互いに理解しており、二つの勢力は生き延びるために手を結んだ。
それまでの道のりは決して楽ではなかった、だがしかし、滅びの運命から、天正帝が視て予言したこの時代に転換期がある。滅ぶか、生き延びるか、それは二つの勢力がどれほど意思統一できるかになると、偉大でありながらも恐るべき中興の祖が彼らに諭したのだ。
互いに紆余曲折ありながらも、意見交換をし、生き延びる方策の制定のためにこうして過去の遺恨は水に流して相対している。
だが、今回は今までの会議とは違う。何故ならば、双方ともに視線は下座のある場所に集まっていた。
すると、真夜中ではあるが快晴たる星空に雷鳴が轟く。
すわ季節外れの夕立か? 俄雨か? そう思い平民たちは気にせず睡眠をとる。
しかし、御前会議に居る面々は違っていた。妖魔は力があるので戦闘に自信はある、それは
朝廷の重臣達も同じだ。彼らは力、技、知があるので重臣の席に座っている。
雷鳴轟き稲光が白州の石庭に落ちる。白煙漂うその場所に、威を纏う人物が立っていた。
人類と妖魔、双方が勝てぬとさえ思わせる人物が、否、神が其処にいた。
稲光の音と青白い閃電を身に纏いし破壊神。鍛え上げられた鋼鉄の筋肉は何者でも貫くことは出来ぬ。
片手に
そして、下座の丁度双方の真ん中に当たる位置に置いてある用意された座布団、そこにドカリと胡坐をかいて座る。
破壊神は、威を纏わせながら口を開いた。
「意見は纏まったか?」
「はい、
「
人類側は右大臣である一条晴美が代表して言い、妖魔側は鵺である夜鳥為人が言う。双方の答えを聞いて頷く破壊神は再度口を開く。
「では、何を賭けるのかも決まったのだな?」
「はい、双方ともに──────────することにしました」
「ならば良し」
「では、万太様。貴方の言葉を疑うわけではありませんが…………」
「わかっている、ほれ」
そう言うと、破壊神は手に携えた物をその場に置く。
それは、打ち出の小槌と福袋であった。万太は、ここに居る陰と陽の支配者である人と妖に賭け事を持ち込んだのだ。
万太はある人物と出会い、その者と関係を持つ。そして、これからその者がある選択をする、そいつがどちらを選ぶのか賭けよう、と。
その際に万太が
この人妖御前会議に出席してる者達は、万太と出会うのが初めてではない。寧ろ、ある種の協力関係と言っていい。
破壊神であり福の神でもある彼との付き合いは長く、この国を、否、人類と妖魔を生き残らせるために関係を持つようになった。
土地神などとは比べ物にならぬ、まさに天上世界に住まう神が降臨して来たのだから彼らの驚きが如何ばかりかは想像がつくだろう。そして、今日に至るまで助言や援助を貰いながら双方ともに発展すると同時に
だが、その破壊神が出して来た賭け事に、双方ともに半信半疑であった。未来のことを言ってきて、その者がどのような人物かまだはっきりしてないのに、何を選ぶのかを選択し賭け事をするなど狂気の沙汰にも程がある。
しかし、言い出しっぺとして破壊神が差し出した物が打ち出の小槌と福袋だ。
これには双方ともに目を見開き、生唾をゴクリと飲み込んだほどだ。
破壊神が差し出した物は、正真正銘の神の品である。禁足地の黄金桃や、不老不死となる蓬莱の薬といったものとは文字通り格が違うのだ。
片や、金銀財宝が出て全てを消し炭にする槌。片や、あらゆる七宝のみならず神の食べ物などすら出ると言われる大袋。
それらを、惜しげもなく賭けへのブツとして差し出すのだから、それに見合ったものを出さなければならなくなった。
なので、人と妖は意見を調整した。
その調整した、口約束に近いようなものを出し、皇主の許可も下りて破壊神に出した。
空手形に近いが、それでも出すしかなかった。でなければ、神の品に対して釣り合わないからだ。
自分達の命や尊厳に近い物すら差し出すようなことに対して、破壊神は疑問もはさまず了承し、そして約束通り賭け事の品をこうして置いた。
嫌でも理解できる、この神は本気なのだということを。
ここに居る面々も、その者に対しての情報収集を行ってきた。確かに他の男とは違っていた、それこそ異分子と言っていいほどに。
だがしかし、間諜や式神の調査によれば、この男も教育典範による教育を受けていた。だからこそ、会議の面々は信じられずにいたし、破壊神の賭けの選択の反対を取ることに双方ともに異論はなかった。
それほどまでに、
なのに、破壊神は明らかに負けるとわかるような方を取り、更には神の品をも賭けに出した。それが彼らは理解できなかった。
「これで、賭けは成立したな。後はあいつがどちらを選ぶか見守るのみ。だがその前に説明したようにあいつにアレを渡さなければならないし、入手の為に庭に向かわねばならんから俺はこれで失礼する」
徐に立ち上がり、白州の石庭に向かって歩くと空からやって来るのは破壊神のペットであるマンタ。それに乗ろうとしたところ、皇主のおわす御帳台から声が出る。
「待たれよ、万太殿」
御簾に隠れているため姿は確認できぬが、声は鈴のように美しい。
「どうした」
皇主に対してこういう返事が出来るのは、彼が神だからである。無礼と咎めることなど出来よう筈もない。だが、それを言われたこの扶桑国で貴い御方は機嫌を損ねるようなことはなく、言葉を紡ぐ。
「貴殿はその者がそれを選ぶと最初から知ってるようであった、何故だ? 余はそれが信じられぬ。
そう言って、御帳台から御簾を払って放り投げられたのは本であった。
否、本ではあるが万人はそれを直視出来るものではなかった。
その本の紙は決して朽ちぬ霊紙で出来ていた、そこまでは良い。だが、中身と外装は吐き気を催す邪悪が詰まっていた。
外装は、継ぎ接ぎで出来た人皮であった。その表表紙には目と歯がむき出しの口が見え、生きてるように動いており、裏表紙には血文字で書かれた円陣が描かれていた。
それだけでなく、中身も血文字で出来ており、一言一句書かれた血文字は呪われている。そしてその生きた本は、まるで譫言のように表表紙にある口から言葉が出る。
『呪いあれ、呪いあれ、この世界に生きるモノに呪いあれ。余は全てを愛し全てを憎み全てを壊す。この本の呪いを破る者が現れるその日まで、生きとし生けるモノに呪いあれ。願わくば、愛に溢れる世にならんことを』
この生きた本は、教育典範は天正帝の呪われし遺物の一つだ。この本の口から出る言葉は呪言である。そして、この本は朽ちぬ霊紙以外の部分、血文字、人皮、目玉、口などは、何を隠そう
千年経っても未だに尽きぬ呪いをこの扶桑国に掛け続けている。故に、この場にいる人と妖魔は双方ともにこの呪いの悍ましさと恐ろしさを知っている。
だからこそ、今上帝は信じられぬのだ。
果たして、この呪いたる教えを受けて尚打ち破る者がいるのか? と。
破壊神はそれを一瞥すると、
「そんなことか、それならば答えは決まっている」
クルリと翻してペットのマンタへと歩み、その場で止まって言った。振り返らずに背中で破壊神は語る。
「あいつが、漢だからだ」
そう言って、マンタに飛び乗り神の庭へと飛んでいった。
「伊予さん、終わりました」
僕は、居間へと戻って来た。居間には双方静かに座っている、僕のことを待っていてくれたのだろう。
「兄様、大丈夫ですか?」
「うん、僕は平気」
「頼君、あの子達に…………飲ませてくれたの?」
「ええ、全員に飲ませましたよ」
妹と伊予さんにそれぞれ答え、やることはやったので僕達は失礼することにした。
二つに一つの選択を選んだ。万太さんが言ったように、後悔はしていない。後悔しない選択をした。
胸を張って堂々と歩く僕が気がかりだったのか、双子が声を掛ける。
「そういえば兄上」
「万太とやらがくれた建木の雫はどうしたのですか?」
「ああ、あれね。部屋に向かう途中で
そう言って、話は以上とばかりに僕は宿へと歩きだす。背後からは双子が「兄上が気負うことがないことを見ると」「やはり偽物だったのでは」と言ってるからまぁ、誤魔化せてると思う。
慌てて追いついた波羅が僕に語り掛ける。
「そういえば兄様、あの孤児院の背後にいる左大臣について。彼の下に行って、なぜ都に凶妖がいるのかを問いただせねばならないかと」
「うん、そうだね。ちょうど左大臣殿には正門の順番を飛ばしてくれた礼もあるし、それも兼ねて三日後に向かおうか」
直ぐに向かうことは出来ない。相手も迎え入れる準備があるだろうし、こちらもちゃんとした服はもちろん、挨拶の品なども用意しなければならないからだ。連絡も時間がかかることを考えると、三日か数日は必要だろう。
僕は次の日の朝になると、朝一で下人に文を渡して左大臣殿とやり取りをした。そして、数日後に向かうことにした。但し、向かうのは僕と次期当主の波羅だけだ。双子と焔はお留守番である。
明くる日の朝、僕と波羅は身支度を整え、下人を数名引き連れて向かうことにした。左大臣殿の邸宅に向かうイベントは原作ゲームではあったがゲーム中盤から後半である。なので、原作ゲームとは違う展開に若干の恐怖と困惑を覚えつつも、僕は妹達の貞操を守るために彼の下に向かった。
鬼が出るか蛇が出るか、果ては正体をその場で表すのか、倒せるかどうかはわからないものの波羅に関しては大分鍛え上げたのでそこそこ戦えるはずだ。
僕も足手纏いにならないように立ち回る。上手くいかないと、男である左大臣殿に波羅が捕まって孕み袋にされるかもしれないからだ。それを防ぐためにも、見極めるためにも、そして孤児院の事を問いただすためにも、僕と妹は邸宅へと向かった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
色々と過去とか伏線っぽいのとかそういうの出してるつもりですが、浅学の身故に上手くいってるかどうか不安です。でもそれっぽく感じてくれたのならば嬉しいです。
ネクストコナ◯ズヒント、どろろ
エロは、力を溜めている