※この作品はR-18です。

ストラトス・デザイア   作:夢現図書館

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プロローグ

 

 

 

 女性権利団体が生まれIS委員会が生まれそして女尊男卑が生まれたこの時代。平和と呼ぶには陰陽が極めて大きく現れるだろうこの時代。IS……正式名称『インフィニット・ストラトス』が誕生してはや10年。もはや先進国を中心にIS史上主義、女尊男卑と声高々に持て囃される時代。ISの存在故に無関係な女性であってもその恩恵の蜜に酔い知れて自惚れる様な光景が其処彼処で見受けられる様になっていた。政府も女尊男卑の影響か女性に優位な政策ばかりを推し進める始末……。

 

 だからなのか、その状況故に相反する想いが生まれるのは……だが、それは表沙汰になる事は無く裏へ裏へと消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……確かこの辺りの筈」

 

 とある日の夕方頃。誰も彼もが帰宅へと向かっている時間帯。人気の薄い路地裏の中、1人の少女が歩いていた。地味めな雰囲気を持ち、クラス内では浮く事が無いであろう陰気な空気を纏っている。だが、その気配とは裏腹にその髪色は日本人離れしたかの様な爽やかな水色である。贔屓目に見ても美少女だと言える。

 

——流石に学園の制服じゃ怖いし……地味めな服を着て来て良かった。

 

 この様な夜になりかけている時間帯……そんな時にこの様な人目の付き辛い場所を1人で出歩くなど危険である。如何に女尊男卑の社会と化したとは言え、その鬱憤は消える事は無く吹き溜りと言った場所に累積して行く。

 

「…………こっちの筈」

 

 その少女は奥へ奥へと進んでいく。幸いなのか誰ともすれ違う事は無かった。もしガラの悪い男に出会した場合、其の儘、何処かに誘拐された挙句に強姦されても文句は言えまい。

 

「……あった。地図と座標位置も間違っていない」

 

 曲がり角を何回も繰り返して歩いた先、少女はある場所へと辿り着いた。見た目はオンボロなガレージが降りた古臭い商店街だった場所の一角。その片隅に地下へ続く階段があった。その前に少女は立っていた。

 

——…………引き返すなら今しか無い、けど……もう、抑え切れない。

 

 少女、更識 簪には人には言えない秘密があった。しかし、それはこの女尊男卑の世界では実現が難しくなっている内容でもあった。

 きっかけは勧善懲悪モノのアニメで見た悪の組織にヒロインが拘束されて助けを求めるシーン。簪自身、昔からそう言うアニメが好きだった。そして、そのヒロインが拘束されたりしているシーンが最も好きだった。

 

『自分もあんな風にされたい』

 

 幾つものアニメを見て行く内にそんな思いが芽生え、そして興奮した。鎖で、枷で自由を奪われなすがままの状態で強制される。思えば自分はマゾなんじゃないかと思った程。

 簡単な縄で自縛して楽しむ……と言う訳にも行かない事情があった。

 そもそも、現実の環境はそんな思いを受け入れる様な状態では無かった。ISの台頭による女尊男卑、女性が強く男性が卑しいと言う風潮……。それに家系が特殊な上に自分自身が国家代表候補生だ。そんな前提条件では満足に欲求を満たす事が出来そうに無かった。その上に進学した先が全寮制のIS学園。然も相部屋な上に知人と言うオマケ付き。これでは卒業するまでお預け……と、思っていた。

 

 

 そんな時……この場所を偶然知った。此処ならば、自分自身の穢れた欲望を叶える事が出来るのだと。

 気付けば、簪の足は自然と階段を降りていた。立ち止まらず、ゆっくりとそして確実に歩いていた。

 

 階段を降りて行った先、錆びた扉のノブを静かに開いた……。

 

「わぁ……‼︎」

 

 扉を抜けた先、其処に広がって居たのは真っ白な壁と床。綺麗に清掃が行き届いており、埃すら見当たらない。外の雑多で退廃的な街並みとは正反対の最新鋭の世界が広がって居た。

 

——す、凄い。IS企業みたい……。

 

 大手IS企業か研究機関と思わせる程の設備。IS学園の整備室と同等以上だろう。かつて訪れた事のある倉持技研も国家直属の企業であったがそれよりも高度で金の掛かっていると素人目から見ても理解出来る。

 立ち込めている空気も無機質で少し冷たさがあるが簪自身は何かと落ち着ける。ずっと1人で整備室に篭り切りだったからか。

 

——……あ。

 

 入って来た扉から奥へと伸びる真っ白な廊下を歩いた先に少し開けた円形のフロアに出る。エントランスかと思うフロア、その半円の縁の形をした受付カウンターに立つ白い全身を覆い尽くすボディスーツを身に付けた女性が簪の姿を認め、軽く頭を下げた。受付のカウンターで下半身は見えないが上半身は見える。かなりスタイルが良い……嫉妬されるくらいに。

 

——……う、受付の人。ISスーツ見たいな全身をぴっちり覆うボディスーツを身に付けてる……。

 

 普通、IS企業でもその様な服装はしないだろう。此処が如何に普通じゃないか思い知らされる。かく言うIS操縦者もISに搭乗する際にはISスーツと呼ばれるスク水スーツみたいなスーツを着用しているが、その姿で往来を出歩く事は無い。

 

「ようこそ。『ストラトス・デザイア』は初めてですか?」

 

 気付けば、その受付の前にまで来てしまっていた。まぁ、此処まで来たのならば行き着く所まで転がり落ちるモノである。

 

 『ストラトス・デザイア』。簪が密かに抱く欲望の果てに偶然知った世界。其処では女尊男卑の世の中では見る事が出来ない情景が広がっていると言う。

 

「は、はい。実は」

 

「皆まで言わなくて大丈夫ですよ。此処に訪れる方は多かれ少なかれその様な思考の方々ですから」

 

——あ、そうだった……。

 

 自分がどう言う思惑で此処に来たのか、今更ながら思い出した。受付の人は其方側の職員故に、理解して当然だった。

 

「当施設は会員制になっています。まず、規則ですのでお尋ねしますが、満15歳は迎えて居ますか? 中学生以下の方は規則によりご利用出来ません」

 

「16歳です」

 

「はい。高校生の方で……おや?」

 

 受付係の女性は手元のタッチパネルを叩きつつ質問する傍らで疑問符が浮かんだ。何かに気付いたみたいに。

 

「……失礼ですが、貴方は日本代表候補生である更識 簪さんでお間違いないですか?」

 

「は、はい‼︎」

 

 其処で簪はその証拠に各代表候補生に手渡されるIS証明カードを受付カウンターに出した。

 それはIS代表候補生以上の権限を持つ者に配布されるカードであり一種の身分証明書にもなる。

 このIS証明カードの制度が施行されるキッカケはISに乗った事も無い女性が現役か元代表候補生だのなんだの名乗る事例が発生したからである。

 

「ご拝見致します。はい、間違いなくご本人様ですね。あ、お返し致します。ようこそいらっしゃいました、更識様」

 

 受付係の女性は簪のIS証明カードを返却した後、続けて説明に入った。

 

「当施設は日本政府主導の極秘施設となっています。まぁ、内容が内容ですので一般社会(・・・・)の方々には公表されません。

 この施設では貴方様の持つ……マゾヒズム……ドMや被虐願望の方々の欲望を満たす事を目的とした施設となっています。

 尚、代表候補生以上の方々には無料でご提供する事が規則で定められています」

 

「そ、そうなの?」

 

 まさか日本政府が秘密裏に運営していると言う事実が判明する。

 

「はい。政府直属の施設であり、民間利用の方には別の説明をしています。その証拠に此方をご確認下さい」

 

 受付係の女性はそう言い和かに笑みを浮かべ簪の傍に小型の空間投影ウィンドウを開く。其処には政府が発行する証明書や認可証が表示されて居た。この形式は見た事がある……確かに政府が発行する第一種証明書であった。

 

「簡単な説明は此処で終了。ご登録なさいますか?」

 

 此処まで説明されて『はい、そうですか。止めときます』なんて言えない。仮にも……この事実は国家の暗部とも言える。でも、それを差し引いても此処まで来たのだ。

 

「はい。会員登録、します」

 

「有り難う御座います。では、此方の用紙にお名前とご連絡先をご記入下さい」

 

 そう言われてクリップボードに挟まれた記入用紙とボールペンを手渡される。このご時世に紙媒体での登録。普通ならば空間ウィンドウで済むのに態々、この形式とは。

 

「申し訳ありません。空間ウィンドウを介しての記入方法ですと万が一、サイバー攻撃等により情報漏洩が懸念されますので」

 

 理由を聞いて居ないのにそう説明された。情報解析や整備が得意な簪にとってその線はあり得ないとは言わない。そうこうしている間に、記入欄を全て埋めて受付係の女性に返却。

 

「はい。有り難う御座います。あら、此方が抜けていますね?」

 

「え?」

 

 受付係の女性に抜けている箇所を指差される。其処にはまだ空欄の場所があった。

 

「当施設ではご本人様のお名前以外にも仮の名前の使用を推奨しています。理由は代表候補生以上の方は良くも悪くも有名人であり、情報漏洩の危険性があります。それを防止する為にも当施設で行動する際、専用の名前を設定します」

 

 成程、女性の言葉にも一理はある。確かに、利用するのが自分だけじゃないし、代表候補生以上の者も利用出来るとあればまさかの偶然と言う線もあり得る。

 

「基本的に下の名前をカタカナ表記で設定するのが通例ですが更識様の場合、簪と言う名前は珍しいので特定される恐れがあります。ご希望はありませんか?」

 

「…………ドロシー」

 

 簪は『ドロシー』と言う名称で登録する事に決めた。他に色々浮かんだが、他の国での有りふれた名称の方が良いと考えたからだ。

 

「では規則に則り、日本代表候補生である更識様……いえ、ドロシー様は当施設の全てを無料でご利用頂けます。

 では、最後に此方の会員カードをお受け取り下さい。第三者に見られたり紛失したりしない様にお願いしますね」

 

 『ドロシー』と書かれた会員カードを手渡される。機密保持の為か、施設名が書かれていない。

 

「改めて、ようこそ『ストラトス・デザイア』へ。当施設一同、貴方様のご来訪を心より歓迎致します。どうぞ、右手の通路をお進み下さいませ」

 

 そのカードを受け取った後、受付カウンターを見て右手の広い通路の方へ進む様に促される。これで簪はこの施設の利用者の1人となったのだった……そして、自身の中にある高鳴りもまた大きくなって行くのを感じた……。

 

 

 

 

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