『IS学園』
ISと言う兵器を扱う上でその搭乗者及び、整備要員を養育する為に設立された国際機関。そして女尊男卑の根幹を担う存在であり尚且つその象徴たるISの総本山とも呼べる学園。
全ての女性の憧れとも謳われ、年々倍率は青天井の如く吊り上がり続けて居るその学園は火薬庫に等しい火種を多数、抱えて居る。そして、今年……特急の火種を抱え込む事となったのだ……。
昨日の余韻。それがまだ抜けずに居た簪は1年4組の教室でも必死に堪えていた。この様な場所でバレるの訳には行かないのだから。
元々、簪自身は他者と積極的に交流する性格では無い。1人、黙々と専用機の組立理論を構築しては整備室に篭って作業していた。故に友人と呼べる者は限られていた。その為、自分の性癖が第三者にバレると言うリスクは低い。低いと言っても危険性が無い訳では無いが。
「? 騒がしい……」
お昼頃。喧騒が犇く時間帯だが、今日はやけに騒がしさが一割増しにも思える。他の生徒達がある話題に花を咲かせていた。
「聞いた? 1組のクラス代表を決める模擬戦が午後の時間帯を使ってやるんだって⁉︎」
「噂の男性操縦者とイングランドの代表候補生、そして日本の代表候補生が争うんだって‼︎」
「例の男子⁉︎ それに代表候補生って事は専用機持ち⁉︎ 良いなー、私も専用機欲しいなー」
——……。
話題は総括すれば1年1組のクラス代表を決める際にイザコザが起きて世界初の男性操縦者とイングランドの代表候補生、日本の代表候補生の三者がISを用いての模擬戦を持って決定するのだと言う。色々と言いたい事はあるのだが、簪としては気分が沈む単語が混ざっていた。
「……男性操縦者」
——……。織斑 一夏。彼が現れて、開発途中だった私の専用機の製造プランが凍結された。
織斑 一夏。それが男性操縦者の名称。時の人である織斑 千冬の実弟でありネームバリューは抜群。その過程において専用機開発を手掛ける事になったのが倉持技研。奇しくも其処では簪の専用機が開発契約がされていた。そう、いたのだ。
その倉持技研が男性操縦者の専用機体を開発する事になったのだが人員が足りなかった事もあり、先客であった簪の専用機は契約放棄された。倉持技研からすれば日本代表候補生よりも世界初の男性操縦者の機体開発のネームバリューやデータ収集の利権の方が魅力的なだったのだろう。それ故に開発が無期限凍結の憂き目に遭ったのだ。
技術者としてあるまじき行為とも呼べるし、恨むなと言われるのも心情的に限界があるだろう。心中察するに余りある。
以降、そのISコアを引き取り独力で機体完成を目指して居るのだが、遅々として進まないのが実情であった。
「…………」
聞き耳を立てていたが、どうやら午後の時間帯全てを使い模擬戦を行う日程。その間、1学年は模擬戦観戦。見る事も勉学の内と言う事でアリーナの観客席が解放されるのだと言う。時刻的にまもなく開始される頃合の為に興味津々と言った体で、生徒達は模擬戦が行われるアリーナへと次々と向かい、その場に残っているのは簪1人であった。
「……ふふ、随分と考え込んで居られますわね」
「ッ⁉︎」
否、後方から声が聞こえたと思えば口元を手で押さえられると同時にスカートの中、下着の上から細い指が撫でられる。いきなりのセクハラ行為。
——ひ、ひゃ⁉︎
「ふふふ、思った通りですわ。あの時の見間違いでは無かったみたいですね」
思わず声を出しそうになったが、手で押さえられていた為に然程、声量が出なかった。周りに人が居ない事を含めても、だ。
「突然のご無礼。失礼致しますわ」
その言葉の後、口と下の口に添えられていた手が離される。後方に立っている人物に向き直ったが、其処には誰も居ない。
「あ、あれ?」
「此方ですわ」
「ッ⁉︎」
後ろに居たかと思えば正面に居た。長い黒髪を靡かせ如何にも大和撫子と言った風貌の少女が立っていた。カスタム自由なIS学園の制服だが、袖がゆったりと余分にある和装の趣を感じさせる形状の制服を纏っていた。
「こうして直にご挨拶するのは初めてですね。更識 簪さん。私の名前は四十院 神楽と申します。貴方と同じ僭越ながら日本代表候補生です」
神楽はそう名乗り、軽くお辞儀をした。『四十院』、その名前は聞いた事がある。いいや、知らぬ者の方が少ないだろう。今の日本有数の財閥の1つに挙げられるのだから。
「わ、私の名前を知って居るの?」
——さ、流石に日本代表候補生の全員の名前は覚えきれて居ない……。
此処はIS学園。各国の代表候補生が国を挙げて挙って留学して来る。多数の代表候補生を競わせて代表を選出するのであり候補生の入れ替わりは激しい。
「はい、勿論」
「……笑いに来たの? 専用機が無い私を」
代表候補生でありながら専用機の開発を放棄された。それは他の代表候補生から見ればとんだ笑い者だろう。そう億劫な気持ちを抱きながら棘のある言葉を神楽に投げる。
「いいえ、その節は存じておりますわ。倉持技研の対応は些か無礼かと私めも遺憾に思います。その為にご挨拶しに来たのであれば誤解ですわ。同志と考え、ご挨拶に参りました」
「同志……?」
「ええ、昨日。『ストラトス・デザイア』に来ませんでしたか?」
「ど、どうしてそれを⁉︎」
確かに昨日、『医療フロア』で『IS学園の生徒も利用している』と言われた。代表候補生も利用している為に施設内用のネームを使用している。だが、見破られるケースもあり得る。
「声が大きいですわよ? 話を戻して貴方が職員の方に案内されているのを見掛けましたわ。その時、私は『拘束フロア』で、ヒトイヌ調教を受けて居ましたので」
——……あ。
確かに施設の案内の時、ヒトイヌと言う四肢拘束されて展示ケース内に入れられていた女性達が居た。その内の1つに神楽が収監されていたのだろう。その時、簪を見て居た様である。
「つまり、貴方も……」
「はい♡ 私も貴方と同じ、ドMやマゾに該当する娘ですわ。あの場所が如何に政府直下の施設で多数の利用者が居れど、身近や世論的に理解出来る方はそう多くありませんわ」
——だから、同志と言ったんだ。
そう言い、神楽は蕩けた笑みを浮かべる。確かにこう言う性癖を理解する人間は少数派だろう。ましてやこのご時世では女尊男卑が蔓延る風潮。ISの威を借りて女性が強く尊いと嘯く中で、自ら弱者を粧い傅く様な真似をする者の存在も疎ましく思えるだろう。
「ですので、代表候補生云々の関係よりも、私は
「……う、うん。それ、なら……良いよ?」
同国の代表候補生同士はお互い蹴り落とす間柄。何故なら代表の席は1つしか無い。故に自分以外全て敵である為にその関係は酷く殺伐としたモノだ。その栄光は1人しか享受出来ないのだから。
その後、簪と神楽はお互いの性癖がマゾヒズムと言う事もあり打ち解けた。
「このタイミングを狙ったのも流石にこう言う話題は学園内で尚且つ、人前では憚れますわ。故に、偶発的ではありますが貴方に接触を図りました」
「そ、そうなんだ……」
——た、確かにコレは普通、他人に言えない……。
「私とて、1人で拗らせるのも限界がありますわ。あの施設は大変素晴らしいのですが、それ故に裏方に追いやられた方々もいらっしゃいますので予約制ですもの」
神楽も神楽で共有出来る者が欲しかったのだろう。それが簪だった。簪もまた欲しかった。
「さて、そろそろ参りませんと……。私は1組で今回の模擬戦の参加者です」
「そうなの……? あ、日本代表候補生と言っても高校生は……」
「私の知る限り、更識「簪で良い」。私も神楽で良いですわ。……私と簪さんしか居ませんわ。故に消去法ですわね」
「……大丈夫、なの?」
「ご心配なく。四十院家の者として、遅れを取る必要はありませんわ。裏世界の性癖と表世界の仮面の扱いは心得ておりますので」
——強いなぁ……。精神的に。
簪と神楽は一緒に模擬戦が行われるアリーナへ向かい、神楽はピットへ、簪は観客席へ向かう為に途中で別れた。